第3話:【エラー:世界線消滅のカウントダウン】 〜ストーカーの狂気と、第三の介入〜
俺が再びその世界にダイブした時、すべては手遅れだった。
都会の片隅、深夜二時の路地裏。自販機の緑色の光は不気味に明滅し、コンクリートの床には、主を失った煙草の吸い殻が冷たく転がっている。
定食屋の裏口の扉は、乱暴にこじ開けられたように半開きになっていた。
敷島さんの身体と同調している俺の胸に、かつてない絶望と、敷島さん自身の激しい動揺が押し寄せる。
「ほのかさん……? どこにいるんだ、ほのかさん……っ!」
彼女のストーカーが現れる……。そして、彼女が行方不明っ……。
原作のタイムラインには、そんな残酷なイベントはどこにも存在しなかった。
俺がハッピーエンドへと無理やり導いたせいで、物語をひとり歩きさせてしまった結果がこれだ。原作者のプロットという『見えない保護』を失った世界。防壁の壊れた世界線に、歪んだ現実の悪意が牙を剥いた。
(俺のせいだ……。俺が余計な干渉をしたせいで、二人の運命をめちゃくちゃに、この優しい物語を俺が台無しに……っ!)
激しい罪悪感が、敷島さんの心を、 shadowのように俺の精神を押し潰そうとする。
敷島さんの42歳の身体は、恐怖と混乱でガタガタと震え、一歩も動けなくなっていた。このままでは、敷島さんまでストーカーの刃に倒れ、世界が完全にロストしてしまう。
【システム警告:世界線の崩壊度92%――干渉者、および敷島の精神崩壊の危険性を検知。強制帰還シーケンスを開始――】
「ふざけるな、帰れるかよ……っ!!」
俺は脳内で、システムを怒鳴りつけた。
敷島さんの心は優しすぎて、あまりの恐怖に怯えている。だったら――。
「システム……俺を、物語内で【具現化】してくれ……! 2人を守りたい!」
【システム:重大なレギュレーション違反です。干渉者が『自身の肉体』でダイブした場合、死亡時の現実世界へのフィードバック(脳死)は100%に固定されます】
「構わない! 敷島さんの身体を借りるんじゃダメだ。俺自身のこの手で、二人の未来を、ほのかさんを守りたいんだ!!」
俺の『原作愛』を超えた、命がけの『祈り』がシステムを凌駕する。
その瞬間、バキバキと世界が割れるような凄まじい電子音が鳴り響いた。
【――判定。干渉者の最高純度の『意思』を承認。バグを利用した【第三の登場人物】としての実体化を執行します】
視界が真っ白な光に包まれる。
敷島さんの内側から俺の精神が切り離され、路地裏のコンクリートの上に「俺自身の肉体」がドサリと崩れ落ちた。
目の前には、呆然と立ち尽くす、くたびれた中年の敷島さん。
...そしてその横には、自分の身体で立ち上がった、現実世界の俺。
「あ……君は、誰、だ……?」
怯える敷島さんに、俺は自分の口で、不敵に笑ってみせた。
「あんたのファンだよ、敷島さん。……ここは俺に任せて、あんたは警察を。ほのかさんは、俺が絶対に連れ戻す」
手元を見ると、なぜか現実の俺がいつも愛用しているライターが、物語の武器のように鈍く光を放っていた。
原作者も知らない、システムも予測できない。
物語に存在しなかった【第三の男(読者)】が、ストーカーの闇に染まった世界線をぶち壊すために、今、走り出す。
(つづく)




