第3話
ーーードンッ!!!
鼓膜を直接引き裂くような、凄まじい爆音。
それと同時に、ガストンの右肩に、狂った馬に蹴られたかのような猛烈な衝撃が走った。
「ぐ、うっ……!」
思わずたじろぎ、足元の泥濘に足を取られそうになる。
銃口からは猛烈な勢いで白煙が噴き出し、視界は一瞬で真っ白に染まった。
鼻を突くのは、喉をかきむしりたくなるほどの、強烈な硫黄の臭い。
周囲からも、間髪入れずに「ドン、ドン、ドン!」と、雷がいくつも落ちたかのような連続音が轟く。
二千人が一斉に放った、最初の斉射。
風が吹き、硝煙がわずかに晴れた。
その向こうの光景を目にした瞬間、ガストンは息をすることさえ忘れた。
「……あ、あ……」
隣の少年が、引きつった声を漏らす。
そこは、地獄だった。
さっきまで神々しいまでの銀光を放ち、大地を圧しながら突き進んできた重装騎兵の先頭集団が、まるで「見えない巨大な壁」に激突したかのように、バラバラに砕け散っていた。
最高級の軍馬たちが、胸から血を噴き出して次々と前のめりに倒れ込む。
時速四十キロメートルで走っていた巨体が泥に突っ込み、慣性のまま激しく回転して、後続の騎兵たちを巻き込んでいく。
ガストンの照準の先にいた、あの白銀の甲冑を纏った騎士はどうなったか。
無敵を誇るはずの鋼鉄の胸当てには、歪な、真っ黒い穴がいくつも開いていた。
そこから溢れ出るのは、貴族の、我々となんら変わらない赤い血だ。
騎士は、糸の切れた人形のように馬から転げ落ち、己の愛馬の下敷きになって、無様に泥水をすすっていた。
個人の武勇?十年の鍛錬?名門の誇り?
そんなものは、平民が指先ひとつで引いた引き金と、一粒の鉛の玉の前に、塵芥ほどの価値も持たなかった。
生涯を戦いに捧げた英雄たちが、昨日まで畑を耕していた農民の、狙いすら定めていない弾丸によって、文字通り「一瞬」で屠られたのだ。
「な……何だ、これは……何が起きた……!?」
混戦のただ中。
後方にいたアルベリックは、血飛沫と泥にまみれながら、絶叫していた。
愛馬の耳は、聞いたこともない轟音に完全に狂い、狂乱して嘶いている。
目の前で行われているのは、戦などではなかった。
ただの、一方的な虐殺だ。
目の前で、幼少期から共に剣技を競い合ってきた従兄弟の騎士が、頭部を撃ち抜かれて即座に落馬した。
自慢の頑強な兜は、まるで熟した果実のように簡単にひび割れていた。
「ひるむな! 突撃せよ! 敵の武器は一発きりだ!!」
アルベリックは、恐怖で硬直する身体を奮い立たせ、剣を振るって叫んだ。
そうだ。ベルナールの報告では、あの武器は装填に時間がかかるはず。
この硝煙が立ち込める隙に肉薄し、あの農民どもの首をハネてやれば、我が軍の勝ちだ。
だが、ルアール軍の指揮官は、それほど甘くはなかった。
「第一列、下がれ! 第二列、前へ!」
ガストンの背後から、隊長の怒声が飛ぶ。
「ガストン、動け! 早く下がれ!!」
隣の少年に怒鳴られ、ガストンはハッと我に返った。
身体に染みついた三週間の記憶が、恐怖を上回って指先を動かす。
ガストンは引き金を引いたばかりの銃を抱え、一歩後ろへと下がった。
入れ替わるようにして、あらかじめ銃を構えていた第二列の平民たちが、一斉に前に出る。
彼らの目は、恐怖を通り越し、自分たちが起こした「奇跡」への狂信にギラギラと輝いていた。
「構えーーッ!」
第二列の銃口が、混乱し、泥濘の中でもがく貴族騎兵たちへと一斉に向けられる。
アルベリックの視界の中で、再び、無数の鉄の筒が黒い穴を広げて並んだ。
「……あ」
アルベリックの口から、掠れた声が漏れた。
神聖なる戦場が、自分たちの誇りが、根底から崩壊していく足音が聞こえた。
「撃てっ!!」
二度目の、世界の終わりを告げる轟音が、盆地に響き渡った。




