68,邪神の解決策。
ガリダの丘の、古い建物。そこに邪神ヨグは住んでいる──今も、たぶんねー。
私はこの建物の前に立つ。そばにはリスダンとヨーナスが控えている。
「わが君、邪神ヨグとの接触については、危険が大きいのではないでしょうか。魔神アラカを動かしているのが邪神ならば、これは邪神との直接対決。それは今は考え直すべきではと愚考します」
するとヨーナスが言うわけだ。
「リスダン殿は、陛下をお守りする自信がないのかな? そのような自信喪失、武の力で四天王の座についた者として、ふさわしくないのではないかな?」
私はちらっとヨーナスを見やった。この銀髪美男子くん。ところで人狼の年齢って、見た目どおりなのかな。
とにかくユリシアじゃないけども、ここは分析してみよう。ヨーナスは、ちょっと張り切りすぎだよね。いまも解釈のしようによっては、リスダンへの挑発ともとれる。つまるところ、四天王の一人であり、私の護衛を最も務めるリスダンの地位を、虎視眈々と狙っているわけだ。
ユリシアならば、『競争心があるのは良いことですわ』とか言いそうだけども。うーむ、ユリシアちゃん、無事かなぁ。
リスダンは呆れた様子で言った。
「わが君の安全を考えているだけのことだ。ヨーナス、戦功をあげたいからと早まったことはするな。それはわが君のためにはならんぞ」
「余計なお世話だ、剣聖殿」
最後の『剣聖殿』の嫌味のこめかたが、なかなかどうして。
ふむ。この二人、相性がよろしくないな。というより、ヨーナスはどうも『若い』なぁ。ドラゴとはどうなんだろ。今回の件が解決したら、パーティ編成のさいの参考にしよう。
瞬間。
私の身体が引っ張られて、空間を物凄い勢いで飛んでいく。まさしく前回と同じ流れ。リスダンとヨーナスがついてきていないことから、二人は何らかの方法で、動きを封じられているのだろうね。
自動で開いた扉の向こうまで引っ張られていき、そこの椅子にどしんと座らされる。これも前回と同じ流れだ。そして目の前には、邪神ヨグがいた。
烏の濡羽色の髪を三つ編みにした、同年代の子。色白というより、これはもう透き通るような肌。いや、本当に透き通っている? 赤く光る血液が、血管を走っている。しかし、ちょっと疲れている?
「ヨグ、久しぶり。前のときご馳走としもらったクッキーは、美味しかったよ」
ヨグは淡々と応える。
「良かった。だけど残念ながら、今回は焼いてない」
「そうなんだ、それは残念」
「うん」
「ところで─。魔神が暴れているのだけど、あれはどういうこと?」
邪神ヨグは立ち上がり、近くの書棚まで歩いていく。そして一冊の本をとり、窓辺にいくと、その本を枕にして眠りだした。本当に、ぐっすりと眠りだすので、私はハッとして起こしたほどで。
「ちょっと寝ないでよ」
ヨグは眠たそうに目をこすってから、なぜか世界に宣言するように言うわけだ。
「私は、日がな一日のんびりしているのが、好き」
「わかる。それは凄くわかるのだけども。それと、魔神が暴れている件になんの関係性が?」
「邪神として、長く生きてきた。そしてある朝、私は思った。邪神として眷属を従えるのに、大いに嫌になった。そして私は眷属たちを集め、こう言った──解散!と」
「……解散したの? それはいつのこと?」
「あなたにクッキーを渡した日の、翌日。私は、あなたに感化された。あなたのその、『テキトー』さに」
いや、それはおかしいでしょ。私は『テキトー』ではないでしょ。こんなに責任感のかたまりでしょ。責任感が服を着て歩けば、それがこのライラ・オブリビオンでしょ。
「まった。すると魔神はいまや解き放たれているの? それが、どうしてラン要塞で暴れだしたの?」
「ラン要塞? そこは知らないけど、場所は関係ない。重要なのは、そこにいた者。すなわち、あなた。魔神アラカは、長らく私の眷属であったため、自らが眷属を率いる王となるためには、『信用度』が足りない。ゆえに、冥王を殺すことで、名をあげようとしている」
「はた迷惑だなぁ。もうはた迷惑だよ。そもそも名をあげるならば、邪神の君を殺せばいいものを」
邪神ヨグは、微妙に微笑んだ。または表情筋が痙攣した。たぶん微笑んだ。
「私は、あの程度では殺せない」
「自慢か!」
「冥王、ひとつだけ解決策がある。それは唯一の解決策となるのに違いない。私も満足、あなたも満足」
「うん、そういうのを待っていたんだよ。聞かせてよ、その解決策というものをさ」
邪神が、私を指さして、
「私が、あなたの眷属になる」
いや私が待っていた解決策、こーいうのじゃない。
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