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69,クッキーを焼く者よ。

 


 邪神を、私の眷属にする? 


 ユリシアちゃんが聞いたら喜びそうな、異常な戦力アップ。だから私は、全力で拒否したい。ここは論理的に、邪神ヨグを説得しよう。


「まった。ここは落ち着いて、考えてみよう。なぜ君が、私の眷属になることが、解決策になるのかな?」


 私がそう問いかけると、邪神ヨグは淡々と説明しだす。


「現状、あなたが使える眷属のなかに、魔神アラカを止められるものはいない。死竜アンデッド・ドラゴンでさえも、最後には倒される。私の眷属の中でも、魔神は二番手だった。私の次の次に強かった。ゆえに現状、あなたの戦力では止められない」


「うんうん。そこまでは、いいよ。分かるよ。ここから大いなる飛躍がくるんだよね。さぁ、こい」


「私ならば、魔神を消滅させることもできる。ちょっと疲れるけども、やってもいい。しかし、いまの状態、ただの邪神として魔神を滅ぼせば、それは邪神派閥の復活を意味してしまう。せっかく解散させた元眷属、それどころか新たな眷属希望者たちまでが、集まってきてしまう。それでは元の木阿弥。私は、悲しい」


「まぁ、いいよ。分かるよ。ここまでも分かるよ」


「だから私は、ここで放置しているつもりだった。魔神がこの世界を滅ぼそうとも、新たな世界が創られるだけ。人間界などは、そうやって何度も作り変えられてきた。私はただ泰然としているのみ。しかし懸念もある。そう、懸念も──新たな人間界に、クッキーが生まれるかは分からない」


「クッキー! いや、クッキーよりも大事なことっていっぱいあると思うけども。だけど、いいよ。クッキーね。はい、クッキー」


「それに、あなたは私の焼いたクッキーを美味しいと言ってくれた。嬉しかった」


 するとヨグは、頬を赤く染めている。

 あ、可愛い。そんなこと言っている場合じゃないぞ。

 ヨグちゃんは続けた。


「私の本当の才能は、邪神ではなく、クッキーを焼くことにあった! ゆえにクッキー職人に転職することにした」


 ここで私は、ついていけなくなった。邪神って、なに、転職できるものなの? それって職業(ジョブ)なの? というかクッキー職人ってなに? パティシエとは違うの?


「………………は?」


「クッキー職人として、是非ともあなたには、私の焼いたクッキーを食べてほしい」


 と無表情キャラにしては、熱っぽく言ってくるヨグちゃん。

 私もドキッとしちゃうよね。百合っちゃうよね。


「え、愛の告白?」


「そのためには、この人間界はまだ継続してもらわねばならない。そのためには魔神を殺さねばならない。しかし、いまの状態で魔神を殺せば、私はクッキー職人になることはできない。

 ゆえに、あなたの眷属となる。

『冥王の眷属であるクッキー職人が、魔神を殺した』ということになれば、それは冥王──すなわち、あなたの手柄となる。眷属の実力は、王の実力ゆえに。眷属の功績は、王の名声ゆえに。

 私が眷属ならば、王たる冥王のあなたの名があがる。そして集まるのは、冥王の眷属となりたい者たち。私は、ひとりのクッキー職人として生きることができる」


「………………………………クッキー職人に、なりたいんだね?」


「そう」


 つまり、邪神ヨグは私の眷属になることで、夢をかなえることができるのだ。私は、ひとりの同世代の少女(見た目だけで、たぶん何万年も生きているけど)の、その夢をかなえてあげることができるのだ。ならば、細かいことは、このさい無視しよう。


「じゃ、なるといいよ! クッキー職人!」


 というわけで、邪神ヨグちゃんが私の眷属になった。


 しばらくは職業(ジョブ)は、邪神兼クッキー職人ということで。


 こうして邪神(そしてクッキー職人)のヨグを連れて、家の外に出る。

 外では、リスダンとヨーナスが、悔しそうに立っていた。結局、ヨグちゃんの結界か何かによって、この二人は家の中には入れなかったらしい。

 リスダンやヨーナスでさえも、ヨグちゃんの前では、赤子のようなものなのだ。そして私個人は、いつまでもモブキャラの戦闘力のまま。それがいい。


「リスダン、ヨーナス。えーーーーー、本日ただいまより、邪神ヨグが私の麾下に入り、冥王の眷属となりました。えーーーーー、みんなで仲良くしてね」


 ヨーナスもそうだけど、普段あれほど冷静沈着なリスダンが、ここまで仰天顔をするなんて。これを見れただけで、ヨグちゃんを眷属に迎えた価値はあったというものだよ。

 そのヨグちゃんが言った。


「あなたのことは、なんと呼べばいい? 冥王陛下と呼べばいい?」


「いやいや、邪神相手にそんなふうに呼ばれると、さすがに畏れ多い。もっと砕けた感じでいいよ」


「では、ライラちゃん」


「じゃ、それで」


「ライラちゃん。あなたの眷属内には、四天王なるものがあると聞いた。私は、四天王に入れる?」


 邪神を四天王に入れなかったら、失礼すぎることだよね。

 しかしサラマンダーも仲間に入ったことだし、どうも四天王では席が足りないような気がしてきた。


「七人衆にしようと思うんだけど、どう思う?」


「どうでもいい」


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