46,ダードン要塞、襲撃。
ゴ国の統治者みずからが、自爆を行うとは。しかも初めから、私を巻き添えにすることを狙いとして。どうにも信じられないなぁ。
しかしユリシアの指示のもと、ほかのゴ国軍の捕虜から情報を収集したところ、やはりいまの自爆者が統治者で間違いがないようだ。
「お姉さま。どうやらゴ国の統治者は、何者かに約束されていたようですのよ。『ゴ国の約束の地を提供する。そのかわりに、ダードン要塞に配属されたライラ・オブリビオン少尉を殺せ』と。どうやらゴ国の統治者は、その約束を果たすため、自らの命をささげる爆破魔導をかけていたようですわね」
「ふーむ。国民のために身体を張ったんだねぇ。偉い」
「いえ愚かの極まりでしょう。統治者というのは、死んではなりません。少なくとも国民による革命などで殺されるならばともかく。統治者が空位になれば国民は混乱しますし、最悪、その座を争って内戦となりかねませんわよ」
「ところで、さっきの自爆で、うちの者に誰か負傷者は? 作戦:命は大切に、は実行されている?」
「ダクが爆風をまともに受けて、だいぶ肉をもっていかれましたが、お姉さまを守護することができ名誉の勲章と、喜んでいましたわ。それに我々は〔不死者〕ですので、即死するほどのダメージでない限りは、破損した肉体は時間とともに完全再生しますので」
「それは良かったよ」
ドラゴが足早にやってきて、鬱蒼たる樹木の上を指さした。
「姐さん。見てください!」
森の向こうで黒煙が上がっているね。まった。あれはダードン要塞のあるあたりじゃないの? 〈深森〉を出ると、いやぁ、ダードン要塞が燃えている。いまも現在進行中で、どこかの勢力の攻撃を受けているようだよ。
「ねぇ、ユリシアちゃん。もしやゴ国の勢力全てが、私たちに対する陽動だったんじゃないの?」
「もしやしなくても、そのようですわね、お姉さま」
「さては、この展開を読めていたね。それなのに〈深森〉に向かわせたのは、なぜなの? ダードン要塞のごはんが不味かったの? そんな理由で?」
「いえそんな理由ではありません。だいたい、〔不死者〕は食事などしませんので。お姉さま、これはシンプルなプランですのよ。敵の策略にのって、ダードン要塞をがらあきにすることで、そこで敵勢力はやって来る。
そもそもお姉さま、敵──まず〈古き者たち〉でしょうが──の狙いは、明々白々です。〈深森〉でゴ国の勢力を集めることで、われわれをおびき出す。ここでお姉さまが出ることは、お姉さまの人物評を精確にとっていれば、読めたことです。
このさい敵は、ゴ国の統治者と取引し、お姉さまを狙わせた。運がよければここで、お姉さまの命を取れますし、たとえ失敗しても陽動の役にはなります。
そして、われわれが抜けたことで防御力がガクンと落ちたダードン要塞を襲撃し、まずはあの拠点を取ろうとしているのです」
「えーーー。なんで、またダードン要塞? 私への嫌がらせ?」
「それもあるでしょうが、ダードン要塞は、〈深森〉防衛方面軍の中でも最重要拠点ですので、そこを取ろうとするのは戦略的に間違いありません。
お姉さまの故郷であるガートン市を殲滅することで、冥王と邪神を争わせようとしたりと、ここのところ〈古き者たち〉の動きが活発ですわね。本気でこの国を取ろうとしているのかもしれません」
「それはいいけどさ。のんきに解説している場合かなぁ。私は、はじめの配属先の要塞が取られると、困るんだけど? 別に出世とか望んでないけど、不名誉除隊とかならないかなぁ?」
「敵に通じていたわけではないので、不名誉除隊などにはならないでしょう。ですがお姉さま、なにもわたくしは、みすみすダードン要塞を取られるつもりはありませんことよ。敵の策略に乗っかったのは、ダードン要塞を餌にして、おびき出すためです。いま要塞攻撃しているのは、間違いなく〈古き者たち〉でしょう。もしかすると指揮を執っているのは、〈天路歴程〉の一人かもしれません。こういう『四天王みたいな』者は、各個撃破しておくのが安心です」
「じゃ、私たちはダードン要塞に急ぐ?」
「はい。しかし地上を行くことはありませんのよ」
というわけでユリシアが向かったのは、〈深森〉と平原の境にある、いまは使われていない井戸。
「こんなところに井戸があるというのも、違和感があるではありませんか、お姉さま?」
「うーん、そう? 水がないと困るから」
「この古井戸は──」
「おばけが出る?」
「いえ、ダードン要塞内部と通じています。すなわち、敵に占拠されたときのための、抜け道ですのよ。今回はこれを逆ルートで進み、要塞内に入ります。すでに敵戦力も要塞内に入っている頃合いですので、そこで直接対決し、潰すといたしましょう」
「じゃ、おばけは出ないんだね。良かったー。自慢じゃないけど、おばけは嫌いです」
「……お姉さま、ご自身が死霊使いという事実、お忘れではありません?」
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