45,国家離反者。
血なまぐさいことは、血なまぐさいものを呼ぶものだ。
〈深森〉には、もともと反政府組織がある。
というか彼らは、国家を名乗っているけども。というのもかつて──何百年も前に、ロゴス王国から離反した貴族が、〈深森〉内でゴ国なるものの建国を宣言。その後も、王国から追放された犯罪者などが、このゴ国へと『亡命』。
そのころはまだ、〈深森〉は敵国との国境線がわりでもあり、当時の王政府もゴ国については無視していた。だが隣国を併呑し、結果的に〈深森〉もロゴス王国の国土となった今、このゴ国というのは王政府からしてみたら、『国土を不法に占拠する悪党集団』でしかない。
私としては、ゴ国にも同情の余地はあると思うんだけども。まぁ国家運営というのは、血も涙もないから。
問題は、このゴ国が武力行使に出るため戦力を増強しているようだ、という話。狙いは、このダードン要塞だろうと、それがユリシアの推論。
「推論というよりは、ただの位置関係の問題ですが。偵察にいったドラゴたちが、この付近の〈深森〉内で戦力を集めているのを目撃しましたので。まぁ陽動の可能性もありますが、ここは素直に解釈してよろしいかと思いますわ」
「もうー、どうしてー、このダードン要塞の近くでー、そんなことするのー。もっと遠くでー、やればいいじゃないのー」
「お姉さま、どうされますの? これは、なにも冥王みずからが対処せねばならないことではありません。ただ何か感じませんか? この裏で糸を引いている、何者かの存在を?」
「〈古き者たち〉? あのひとたち、私に恨みでもあるのかな? ところで、どうしてこの要塞が欲しいの? つまりゴ国の人たちは」
「〈深森〉内での暮らしは厳しいということでしょう。ゴ国が、このダードン要塞を中心として、自らの領土をものにしたいと、そういう無謀なことを考えたとしても、おかしくはありませんこと。裏で、煽った者がいるのならば猶更」
うーん、それが〈古き者たち〉? だとすると、私がこのダードン要塞に配属になったせい? もう、責任とか感じちゃうなあ。
「仕方ない。私たちで出向いて、その戦力集め中のところ悪いけど、ゴ国の人たちを強制解散させるとしよう。それでいいかな、ユリシアちゃん? それで問題ない?」
「はい。または──」
「または?」
ユリシアは、くすりと笑った。
「いえいえ、お姉さま。これで問題ありませんことよ」
「ふぅむ」
ユリシアが味方なのは間違いないけども、同時に油断できない子だからね。私が、ユリシアより頭が切れる人だったら良かったんだけども。正直、ユリシアと頭脳戦とかしても勝てる気がしないよね。私がその手の対決で勝てるのは──うん、アンバーには勝てるぞ。というかアンバーに負けたら、もうおしまいだよっっ!
というわけで、私はクック少将に事情を話す。念のため、この要塞の守りを固めるように言ってから、私たち死霊軍は出陣した。
ドラゴたちの偵察通りの位置に、まだゴ国の軍は野営していた。だいたい5千くらい。この規模で、要塞を落とせたのかなぁ? とりあえず無駄な犠牲は出したくないよね。憲兵隊を皆殺しにしたばかりだし。
「敵指揮官を拘束する流れで、適当に圧倒的な力を見せつけてさ。それで、投降を呼びかけてよ。私は、そこの小川で、釣りしているから」
30分後。護衛役となったローレライと、参謀ユリシアとともに釣りをしていたら、リスダンが報告に来た。
「わが君、ゴ国勢力を降伏させました。敵勢力の被害は最小限に納めたことができた、と報告できます」
「敵指揮官は?」
「捕虜にとりました」
「ちょっと話を聞いてみよう。〈古き者たち〉がそそのかしたのなら、私も責任を感じちゃうからね」
リスダンの案内で、ゴの指揮官(現在のゴ国の統治者という話だ。まぁゴ国といっても、国家ではないんだけどね)のもとへ。その者は、40代の男で、後ろ手で拘束されながらも、誇らしげに立っていた。なかなか、統治者として立派な人だね。
「はじめまして、私はライラ・オブリビオン。それで──」
「ゴ国に栄光あれっっっっ!」
「は?」
珍しくユリシアが取り乱し、近くにいた半巨人のダクへ命じた。
「ダク、お姉さまの盾になりなさい!!」
ダクが、私の前に立つ。これでゴ国の統治者が、視界から隠れた。次の瞬間、とんでもない爆音が轟く。周囲へと放たれた爆発による衝撃波と熱波は、だが私には届かなかった。ダクの大きな身体が、盾がわりになってくれたので。私のそばにいたユリシアが舌打ちする。
「人体爆発するとは。はじめから、お姉さまが狙いだったようですね。お姉さまを巻き込んで、爆死するつもりだったのです」
「……うーむ。命は大切に、だよ」




