44,死霊魔導《リビングデッド》。
「《埋葬》という死霊魔導があるはずなのです、お姉さま。それは『死体』または『歩く屍』を、異空間に収納することのできる魔導のはずです。試してみてください。あぁ、その前に、まずはこの憲兵たちの死体を、ゾンビ化してみてくださいませ」
「………………ゾンビ化するの、この気の毒な残骸たちを? 死体蹴りなの?」
「有効活用ですわよ、お姉さま。まず、この憲兵たちの死体の気持ちになってみてください。どう考えると思いますの?」
「えーと、殺されたくなかったなぁ」
「違いますわ」
「え、違うの??」
「このまま土葬され腐敗していくのは嫌だ、と言っているのですわ。死んでしまったものは仕方ない、しかし死んだからには、ゾンビとなって、冥王陛下に仕えたい。そう望んでいるのですわよ、お姉さま」
「えーーーーーーー」
いや、それは都合よく解釈しすぎでしょ。だけどまぁ、このまま土に埋めるのも忍びない(のかなぁ?)
そこで死霊魔導、《リビングデッド》を発動。
とたん死体たちが起き上がる。
しかしながら、これはユリシアたちのように、新たな身体を与えられての〔不死者〕ではない。死体がそのまま、これという自我ももたず蘇るわけだ。もとの破損した肉体のままで。
というわけで胴体切断されたものは、上半身だけで這いまわっているし。胴体に穴があいている者も、そのまま彷徨っているし。頭部破損で死亡した者だけは蘇らなかったのは、ゾンビは頭部破壊で死ぬからかな。まぁ死んでいる者を『死ぬ』というのも、変な話だけども。
ところで彷徨っていたゾンビが、近くで不気味そうに眺めていた兵士たちを襲いだした。人肉をむさぼりだして、阿鼻叫喚の度合が一段とすさまじくなってきた。
「あー、こらこら、やめなさい! 人肉を食べちゃだめ!!」
「お姉さま。ゾンビは自我を持ちませんので、命令も聞かないのではないかと思いますのよ。ひとまず《埋葬》してください。ゾンビにはゾンビの使い道というものがあります。あぁ、見てください、お姉さま。あの一心不乱に人肉をむさぼる、ゾンビたちの一途さを」
《埋葬》したことで、ゾンビたちが一気に消滅する。
その後、元の地位に戻ったクック少将によって、かん口令が敷かれた。憲兵隊の末路、そしてそこからのゾンビ化。それら全てを、口外せぬようにと釘を刺したのだ。さらにクック少将は、ダードン要塞の全将兵に向かって言った。
「ここにいらっしゃるのは、ネクロマンサー。冥王陛下となられるお方だ。この要塞内においては、この方への絶対の忠誠を誓うことを命じる」
「………………は?」
また余計なことをするものだから、その夜には、ごっそりと脱走兵が出た。気持ちは分かるよ。冥王に忠誠なんか誓ったら、ようは闇の眷属と同じこと。そんなものになるために王国軍に入ったんじゃない、というわけだよね。
気持ちは分かる。
ところがさらに、ドラゴが余計なことをした。脱走兵狩りである。さすがに命まではとらなかったけども、ボコボコにして、一山にして戻ってきた。
この脱走兵たちは大きな網にまとめられ、それを頭陀袋のように抱えてきたのは、ダクである。
「ちょっとドラゴ。暴力反対」
「だが姐さん、こいつらは姐さんに忠誠を誓っておきながら、逃げ出したんですぜ。それはつまり、姐さんの軍からの脱走兵です。ならばとっ捕まえるのが当然じゃないですか」
「去る者は追わず、だよ」
ところが今度は、ユリシアが言うわけだ。
「いえお姉さま、それは困るかもしれません。お姉さまがネクロマンサーである事実は、王国軍の上層部内には知られていることでしょう。その上で、お姉さまをどうするべきかは、議論が重ねられているはず。つまりネクロマンサーは恐ろしい存在だが、同時に飼いならせるのならば、それは王国軍最強の手駒となると。
もちろんお姉さまが、王国軍ごときの手駒で終わるはずがありません。王国軍を、お姉さまの手駒にするべきなのです。
とはいえ、お姉さまはそこまでの革命は、まだ望んではいられない。ならば、ここは穏便に済ませねばなりません。すなわち、クック少将がかん口令を敷いた『例の件』です」
「『憲兵隊皆殺し→ゾンビ化』コースのこと?」
「そうですわ。脱走兵に密告されると、何かと面倒かと思いますのよ」
「うーーーむ」
脱走兵の問題もあるけど、もうひとつ、大きな問題があった。
〈深森〉内で見かけた、謎の閃光のことだ。
この調査に、ドラゴとヨーナスを行かせたわけだよね。ところがその直後、憲兵隊の登場(からの皆殺し)で、後回しになっていたけども。
「姐さん。どうやら、敵勢力が〈深森〉内で、兵を集めているようなんですよ。それも、これが大軍なんですぜ、姐さん」
そんな嬉しそうに言わなくても。
というか、もっと早く言いなさいよ。




