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29,ライラとヨグ。

 


 マーヴィンを呼んで、ガリダの丘付近に〈探索迷宮(ダンジョン〉出入り口を作ってもらった。この便利さ、一度やりはじめたら、癖になりそう。


 というわけで、ガリダの丘ー。


 うちの不気味ピエロ、じゃなくてビリーロストが、ここで赤毛の魔導士がいたというわけだ。それもただの〔メイジ〕ではなく、魔導系統の最高兵科〔ウィザード〕であることは間違いない。

 ガリダ丘からは、ガートン市は見えない。ただどこまでも見晴らしはいいので、長距離魔導ならば、着弾するとは思うけども。


「ここから撃って、ガードン市の、それも狙った街区に着弾できるものなの?」


 ユリシアは一考してから、


「おそらく事前に、誘導魔印でも付設しておいたのでしょう。それならばどこから撃っても、遮るものさえなければ着弾するはずです──理論上は」


 アンバーが、別の方角を指さした。


「あそこに住んでいる人が、何か見ていたかもしれないわよ」


 そこには『朽ち果てた』という形容が正しそうな、古い邸宅が建っている。すべての壁にツタが張っていて、あれはどう考えても、誰も住んでいないのだろうなぁ。


「とりあえず、私はあの邸宅に聞き込みというのを行ってくる」


 見ると、ビリーロストが巨大な肉斬り包丁を片手にしていた。


「わっ。なんだ、こら。赤毛の女の人はもう殺さないと約束したばかりでしょうが」


 不気味なピエロ顔を強張らせて言った。


「気をつけてくださいよ、陛下。あの建物からは、濃厚な殺意と血の匂いがします。オイラが言うんで、これは間違いないですぜ」


 そこ、誇らしげに言うところじゃないでしょ。


 とりあえずリスダン、ドラゴ、ユリシアと一緒に、私はその『濃厚な殺意と血の匂い』がする古い建物に向かった。玄関扉は朽ちて倒れていて、中が見える。


「ごめんくださーい…………やっぱり、誰もいないのかな」


 瞬間。


 私の身体が引っ張られて、空間を物凄い勢いで飛んでいった。うーむ、心臓に悪いなぁ。そして自動で開いた扉の向こうまで引っ張られていき、そこの椅子にどしんと座らされた。


 目の前には、烏の濡羽色の髪を三つ編みにした、同年代の子が立っていた。色白というより、これはもう透き通るような肌。いや、本当に透き通っている? 赤く光る血液が、血管を走っているよ。しかし美少女。


「はじめまして、ネクロマンサー」


「はじめまして………どなた?」


「邪神ヨグ」


 と、その少女は、無表情のまま言うわけだ。

 だけど、これは冗談でもなんでもないね。だって少女の周囲の空間は、歪んでいるし。たぶんこの少女は、まばたきするより簡単に、私のことを殺せるのだなぁ。


「あー、邪神ヨグさん。あらためて、はじめまして。もしかして、うちの故郷の都市を破壊した?」


「していない。しかしながら、なぜ赤毛の〔ウィザード〕が、わたしの家の近くで殲滅魔導《竜弾》を撃ったのかは、考えてもらいたい」


「つまり私が、これは邪神の仕業に違いないと思わせ、ここで冥王vs邪神を行わせようとしている? まぁ私は、べつに冥王になったつもりはないんだけど、みんながそう言うから」


 ヨグは無表情のままうなずいた。


「そういうこと」


 最近、こういう陰謀ばかり。私の静かな士官生活はどこにいった? まぁまだ卒業していないから、士官にはなっていないけど。お母さんとお父さんが旅立った黄泉の国が、こういう陰謀とか争いごととは無縁な、静かな場所であることを祈るよ。


「ところで、ひとつ聞いても? 邪神ヨグさん?」


「かまわない、冥王ライラさん」


「どうして、ここで私を殺さないの? なんかよく分からないけど、邪神と冥王って、仲が悪いみたいだよね?」


「あなたを殺すと、〔四つの災厄〕が解き放たれるから。死竜(アンデッドドラゴン)と、そのほかの二つまでまでは対処できる。だけど、最後の災厄である、無と零(アザトース)を召喚されると、さすがのわたしも困る。さらにいうと、この世界の次元が完全終了するので、あなたも困るはず」


「え、世界の次元の完全終了? それは、すっごく困るなぁ。スケールでかすぎて意味不明だけど、困るぞ」


「そう困る。お互いに困る───クッキー、食べる?」


「あ、じゃ、いただきます。あ、これ美味しいよ!」


「ありがと」


 邪神ヨグと別れて、いただいたクッキーを食べながら廊下を歩いていたら、ユリシア、リスダン、ドラゴの三人が向こうから走ってきた。


「お姉さま、大丈夫?」とユリシア。

「わが君、申し訳ございません。油断したつもりはなかったのですが」とリスダン。

「姐さん、攻撃をうけたのか?」とドラゴ。


 私はクッキーを食べながら、玄関扉から外に出た。

 外では、アンバー、ガリーナ、ビリーロスト、チキータ、ローレライが待っていた。ちなみに半巨人のダクは〈探索迷宮(ダンジョン〉の外には出たがらず。引きこもりになっちゃった? 

 また魔鼠族のチキータは、人魚姫のローレライの肩にのっている。ローレライは、とくに迷惑そうではない。


「あのさ。私、邪神ヨグさんと会ってきたんだけども。どうやら《竜弾》──《隕石メテオ》ではなく、《竜弾》という殲滅魔導のようだね──これを撃ったのは、邪神の勢力ではないようで。私は、その言葉を信じるね。

 ところでみんな、唖然としすぎだよ?」


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