28,赤毛の女。
「ではこれから、作戦会議をはじめます。はい、アンバー。挙手するだけでなく、ぴょんぴょん跳ねて、どうしたのー?」
「殺人ピエロが、あたしをじっと見ているのだけど!!」
そういえばアンバーの髪って、赤銅色だね。すなわち、赤毛。
すると殺人ピエロのビリーロストが、とんでもないというように片手を振る。
「まさかまさか、オイラが殺した赤毛はみんな、23歳でしたんで。こちらのお嬢さんは、まだ十代のようですし。いや、まさかまさか、オイラがそんなことするはずがないですって」
「だってさアンバー、あと数年は、大丈夫」
「ありえないんだけど!!!」
「では本題に戻るよ」
卒業試験を受けるにあたって、副校長は最低限の捜査情報の記された書類をよこした。まぁ最低限の応援ということかな。または、どうせ失敗して退学処分となるのだから、はやめの餞別とか。
「私の両親が暮らし、私の故郷でもあった中規模都市、ガートン市。
まずまとめると、ここには1万5千人ほどの住人がいたのだけど、今回の《隕石》か、またはそれに匹敵する殲滅魔導によって、死者は現在推定で1万2543。治療中の負傷者の中には重傷者も多いことからして、死者はまだ増えるとされている。
そして……クレーターの位置が、ちょうど私の実家のあった街区。どうも、私の実家を狙ったんじゃないか、という疑惑が濃厚なんだよね。ただ副校長は、そこまでは考えていないようだったけども。さて、意見は? 発言者は、ちゃんと挙手するように」
ユリシアが挙手して、
「ここは考えどころですのよ。この殲滅魔導が、お姉さまのご実家を狙った攻撃だとしたら、それはネクロマンサーの敵による仕業です。邪神などが、そこに該当します。その方面へ追跡することになるでしょう。ですが万が一、お姉さまの実家が殲滅魔導の中心にあったのが偶然だった場合、それはネクロマンサーとも無関係となってきます。すると追跡の初手で、大きな方向間違いをすることになってしまいますのよ」
ここでドラゴが挙手した。しかしみんなちゃんと挙手しているあたり、偉いぞ。
「んな偶然があるか? 殲滅魔導によるクレーターからして、姐さんの実家の街区が攻撃の中心だったたんだろ? それで姐さんは無関係って、ありえるのか?」
「ガートン市自体を狙った攻撃でしたら、ありえます。というのもお姉さまのご実家があった街区は、ガートン市の中心街区でもあるからです」
つづいてガリーナが発言(途中で思い出したように挙手した)。
「ふん、ふん。つまりガートン市を殲滅したかったら、都市の中心へ攻撃するのが効率的と。で、冥王ちゃんの実家がそこにあったのは、最悪の偶然だったというわけ? だけど、そんな偶然が発生する確率って、どれくらいよぉ?」
むむむむむ。まてよ、何か忘れているような。私の両親のことだぞ。何か見落としがあるわけにはいかないんだけどなぁ。
ここで魔鼠族のチキータが、芸をしはじめた。あ、違った。あれは挙手しているのか。
「はいチキータ」
「冥王陛下。このチキータの情報網は、ガートン市まで拡張していたんですが。残念ながら、今回の殲滅魔導は下水道までにも到達し、ほとんどのドブネズミが死滅しました。ですが生き残りはいるはずなので、なんらかの有益な情報をもたらせるのもすぐかと。
なんだそこのイカレ修道女?」
と、最後にチキータがにらみつけたのは、さっきからチキータを凝視しているアンジェラだった。
アンジェラはガムを噛みながら、
「知ってるぅ~? 台所の嫌われもの、一位と二位はゴキとドブネズミが争っているけどさ。黒死病とかやばい疾病を蔓延させるのは、ネズミだかんね~」
「くっ、貴様! なんという鼠差別な! そもそもかつて黒死病を蔓延させたのは、われわれネズミたちではなく、ノミやシラミだったのだ! われわれは冤罪だ! 信じてください冥王陛下!!」
「はいはい信じるから、話を脱線させないように」
ここで、アンバーをビビらせるだけビビらせた不気味ピエロ、ではなくビリーロストが挙手した。
「オイラの見てきたことは、もしかすると重要な情報かもしれないんですが」
ドラゴがにらむ。
「なんだ新入り? 姐さんにいいところを見せたいからと、でたらめを抜かすんじゃねぇぞ」
「いえ、デタラメなんて。オイラは、運命論者でして。あれも運命だったんだなぁ、きっと。赤毛の女を見たんですよ。ガリダの町で。そしてオイラは、ガリダの丘まで追いかけていきまして。いえいえ、オイラはせっかく〔不死者〕の肉体をもらった身なんで。まさかそんな、その赤毛の女を手にかけようとか、そんな魔がさしたわけじゃありません」
うー、怪しいぞ。
「で、ビリーロスト。その赤毛の女を、ガリダの丘まで追いかけたら、どうしたの?」
「へぇ。撃ちました、その女が」
「撃ったって、何を?」
「あれはまさしく、殲滅魔導です。方角は、ガートン市のあったほうでした」
これじゃ、赤毛の女を追いかけたこと、叱れないじゃないかぁ。
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