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争乱の姫は千年魔王と恋をする  作者: 汐の音


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15/18

王女救出(3)


「うぐるるぅ……!」

「でかした、ザグラフ」


 魔王ユーグラシル――ユウェンは、ぽんぽんと竜の首を叩いてねぎらった。

 竜体のザグラフは、内在する魔力を炎に換えて自在に吐き出せる。超高温の火炎放射ではなく威力が劣る火球としたのは、これが牽制だからだ。まちがっても火の粉ひとつ被せてはにいけない。()()王女に。


 ユウェンの後ろ側。

 同じ竜の背に乗るサジェスは、これでもかと声を張る。


「ユウェン殿! いくらなんでも……っ!! 危険では」

「心配いらない。いざとなれば俺が火球を逸らせる。墜落していいのはあの男だけだ」

「それに関しては同意見だが」


 こうして話す間も、びゅうびゅうと風の音がうるさい。

 キキョウの障壁魔法(バリア)であっても風圧の凄まじさは窺えた。それほどの高度と速度。イーサンの騎竜もなかなかに優秀だが、本気を出した炎竜将軍には遠く及ばなかった。少しずつ距離が縮まる。


 ――とはいえ、決定打は。


 サジェスはぐるりと周囲を見渡した。

 隣では集中して魔法を維持するキキョウが。斜め後ろでは祈る面持ちで手を組むベティが。前方には竜の首と魔王が。……これではロザリンドとイーサンが見えない。地味に〝転移魔法(ギフト)〟が使えない。


 サジェスは、ぐっと肚に力を込めた。


「ユウェン殿。ザグラフ殿に、もう少し下降してもらえないだろうか」


 どうやらふつうの声量でも届いたようで、ユウェンはぴくりと長い耳をひくつかせる。


「ああ……そうか。〝転移〟のギフトは対象を視界に収めなければ発動できないんだな」

「その通り」

「わかった」


「ぐるるぅっ!」


 会話を聞いていたザグラフがコースを若干横に逸れ、下降を始めた。背中に乗った人間たちを(おもんぱか)ってか、その傾斜角度はゆるやかだ。

 ユウェンは振り返り、サジェスが頷く。それが『準備完了』の合図。サジェスは科人(とがにん)の少女に淡々と告げた。


「ベティ、頼む」

「はい」


 ベティは、目尻が上がった大きな黒瞳を兄に向けた。

 左斜め前方を見上げれば、騎竜の腹とかすかに人影が見える。

 この先にある黒っぽい森めがけて竜を操っているらしいイーサンに、ベティは思い切り声を絞った。


「兄さま!! お願いです、もうやめて!!」

「……」


 妹の呼びかけには動じない。騎竜は真っすぐ森へと向かう。

 ――イーサンの判断は、逃亡者としてあながち間違いでもない。森の木々は鬱蒼と繁り、ひとめでザグラフのような巨大な竜に不向きとわかる。

 どころか、ぶつかったとたん森ごとロザリンドを焼いてしまうだろう。そんな結末にさせるわけにはいかなかった。


 が、このままでは()かれる可能性がある――!


(少しでいい。角度を変えろ。こちらを振り向きさえすれば)

 サジェスが眉間を険しくして一点、ただ一瞬のチャンスに狙いを定めた。魔力を練って。


 追いすがるようにベティが叫ぶ。


「あたし! 見たんです! 狩り小屋で……魔王の魔法を。ねえ、兄さまも嗅がされたんです! ちいさいときにあの香を……っ、おじい様から!!」

「!!?」


 遠目にも驚愕が伝わる瞬間だった。

 騎竜そのものがまるでイーサン自身のようにビクリと跳ねて、束の間バランスを崩す。わずかに竜首を傾け、とうとう主の姿を露わにしたのだ。

 なお、イーサンより細身のロザリンドは白いドレスの裾しか映らない。


 であればこそ。


「――ぎっ、ぎゃああ!!!!」


「よし! キキョウ、今だ! やれ!」

「はあああッ!?!? なんて無茶をっ、貴方というひとは!!」


 サジェスは遠慮なく能力(ギフト)をふるった。

 すると、パッと何もない空中に転移させられたイーサンが単身落下してゆく。

 将来仕えるべき王太子の、事前打ち合わせ皆無の急な命令に、キキョウは持ち前の機転で応えた。

 すなわちイーサンを〝障壁(バリア)〟で包み込み、地上に叩きつけられる前に完璧に保護。同時に、決して逃げられないように。


 顔面蒼白になったベティには、そつなくキキョウが自身の魔法について説明をする。――その間に。


「ロザリンド……、ローズ! くそっ、竜が進路を変えない。あれじゃあ翔ばせない!」


 サジェスは焦った。

 竜の谷で、ユウェンと立てた計画では()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()


 最善は、イーサンではなくロザリンドのみザグラフの背まで〝転移〟させること。それが適わなかったからこそのイーサン引き剥がし作戦だった。


「まずい。このままでは……森に」

「サジェス殿。いい。俺をあそこへ翔ばせ」

「ハァ? ユウェン殿、いやしかし」

「――二度、言わせるな。俺には翼がある。ザグラフよりは小回りが利くだろう。急げ!」

「わ、わかった」


 サジェスは頷いた。

 竜首に跨っていたユウェンが忽然と消え、代わりにバサリと黒翼の羽ばたく音。

 まさしく森を丸焼きにするところだったザグラフは、炎をまとう巨体をひねって強引に軌道を上に逸らせた。

 かかる重力の負荷に、さしものキキョウも「ぐっ」と呻く。


 そのまま森の上空でゆっくりと旋回をはじめたザグラフの背で、一行は目を凝らした。


「なんだあれは」

「……光……いえ、闇?」


 森の木々にぶつかる直前。

 イーサンの騎竜の背に、ぽうと灯る明かり。それはロザリンド自身が発光していたにもかかわらず、彼女らしさからは縁遠い、しずかで清廉なかがやきだった。


 対比するように、魔王からは黒銀の稲妻がほとばしる。黒銀に光る茨に捕らえられ、イーサンの竜は哀れな鳴き声をあげた。

 やがて光は弱まり……


「あ!?」


 収束する光芒のかたちが薄れるころ、ぽろりと紅髪の王女の身が傾ぐ。



 ――――騎竜の背を滑り落ちた王女は。






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― 新着の感想 ―
ルピたんがいないから、今回の振り回され役はキキョウなんですね( ˘ω˘ )哀れ イーサンが捕縛されてしまった……彼には彼の幸せを掴んでほしいですけどね、罪深いからなぁ……
あわわわわ……!?
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