拘束
宮廷の日常は、まず拘束から始まるのが日課となった。
「……ぐっ、苦しい」
「締めて」
エリザベートの口を借りて、イルマが勝手にコルセットの締め上げを要求した。
「もっと」
生涯ウエスト51㎝をキープするなんて狂気の沙汰であるが、エリザベート自身がストイックに要求しているように見えるのが業腹だった。
「……いや、無理。マジでもう無理。内臓潰れる」
エリザベートが潰れたヒキガエルのように喘ぐが、泣き言を封殺するようにイルマが言った。侍女がコルセットをきつく締め、極端に細いウエストに絞られていく。
「もっとよ。さあ、もっと締めて」
ぎりぎりと情け容赦なくコルセットを絞められ、窮屈というよりも、いっそ絞め殺す気かと思ったぐらいだった。紛れもない拷問に泣き声をあげても無駄だった。
「ちょっ……、マジで無理……」
「エリザベートといえばコルセット。コルセットといえばエリザベート。至上の拘束体験を経ずして真の皇妃と言えますか」
「くそっ、容赦なしか。皇妃オタクめ」
「お褒めにあずかり恐縮です」
「褒めてない」
エリザベートが悪態をついても、イルマは拘束を緩めることなかった。
侍女たちにイルマの姿は見えない。
だから、エリザベート自身が拘束を望んでいるように見える。
イルマが他人事のように微笑んだ。
「美の象徴も大変ですね」
「こんなに絞められて、澄ました顔でいられるのが信じられない」
肖像画家がエリザベートを描きに来たが、引き攣った笑みしか浮かべられない。
「ダル着ないの?」
「ありません」
「マジで苦しいんですけど。吐きそう」
「我慢してください」
「見た目が良いと、人生チョロいなって言ったじゃん。あれ、撤回する」
絶賛皇妃体験中のエリザベート・佐藤が反省したように言った。
「ガワが良すぎると、キツいわ。マジでキツい……。だから、もう許して」
「ようやく分かってきたようですね」
「理解した、した。だから、ちょい緩めて」
きつ過ぎるコルセットを緩めるよう懇願したが、イルマが容赦なく言った。
「さあ、もっと締めて」
究極の細身を追及する美の暴力。
骨が軋ろうと、内臓が潰れようと、美の前に肉体はひれ伏すのみ。
「……鬼」
必殺の気絶を繰り出そうとしたが、無理だった。
四方八方を侍女に取り囲まれ、どの方向にも倒れられない。
ぎりぎりと締め上げられる拘束体験をして、身をもって思い知った。
絶世過ぎる美女は誰よりも生きづらい。
まともに息もできやしない。




