第8話 おどる小鳥
指をたたきつけた弦が
悲鳴のような音を
放つ
男はかまわず
さらに強くたたきつける
それは音楽ではない
だから、だれも聞いていない
男の周りの空白が、どんどん広がっていく
まるで望んでいるように
やがて音がやむ
ふぅーっと大きく息を吐き
ギターを体から離す
部屋に戻った男は
ギターをケースにしまい、鍵をかけた。
もう、弾く理由などなかった。
部屋に、重い静寂が降りる。
男は、ゆっくりと息を吸い、深く吐き出した。
――チチッ
見ると、開いた窓の縁に、一羽の小鳥がいる。
あのノイズの中で、唯一逃げなかった影だ。
小鳥は男を見ると、羽をばたつかせ、
小さな足でせわしなく窓枠を叩き始めた。
まるで「もっとあの激しい音を弾け」と
踊りながら要求しているように。
最初うるさそうに見ていた男だが
その小鳥のリズムに
引きずられる自分に気がついた
急いでケースを開ける
ギターを取り出し
窓を開け
指を弦にたたきつけた
小鳥は
踊る
だが、男の音に合わせているのではない
音と小鳥はずれている
男は無意識に小鳥の動きに音を合わせる
かわらず
たたきつける容赦のない音
だが、それがなぜか心地いい
男と音と小鳥
自分が音に、小鳥に、そしてすべてになった感覚
遠くで怒鳴る声が聞こえるようだが
関係ない
気がつくと小鳥は消えていた
次の日、もう来るはずのなかった場所に
男はいた
弦に指をたたきつける
悲鳴のように叫ぶ音
同じように誰も近寄らない
だが、遠くに立ち止まっている者が
何人かいる
かまわず男は続ける
その目には、踊る小鳥が写っていた




