第7話 声をなくした小鳥
少女は、朝のベランダで小鳥を見つけた。
羽は傷ついていない。
口を開く。
だが、声は出ない。
空気が、かすかに震えるだけだった。
少女は、その小鳥を部屋に入れた。
「ミュート」
そう呼ぶことにした。
ミュートは、よく少女の肩に乗った。
軽い重みが、そこにある。
声の代わりに、体温だけが伝わる。
それが心地よかった。
少女も、声を出さなかった。
学校でも、家でも。
言葉は、うまく届かず
言っても、ずれる。
声を出さなければ
何も起こらない。
何も求めない。
そこにいるだけでいい。
わずかな温かみは
そう告げているようだった
はじめは、それが楽だった。
ある日
教室で、先生から生徒たちに
2つの選択のどちらかを選び
その理由を述べるという
課題が与えられた
次々と
自分の選択を
意見を述べていく
クラスメート
少女の番が来た
だが、声が出ない
時間だけが過ぎていく
静かな教室が
少女を追い詰めていく
最後まで
少女は、声が出せなかった
誰もないも言わない
けれど、少女には聞こえていた
家に帰ると、ミュートが
肩に乗ってきた
そっと少女の頬に触れた。
その温かさが、
かえって苛立ちを強くした。
胸の奥で、何かがほどけた。
少女は、口を開いた。
「どうして、言えないの!」
無言で浴びせかけられた言葉だった
声は、震えていた。
「……わたしは」
言葉が、続かない。
けれど。
自分の声が、そこにあった。
翌朝。
ベランダに出ると、ミュートはいなかった。
そこには、
小さな羽根が一枚、落ちていた。
少女は、それを拾った。
軽かった。
ほとんど重さがない。
風が吹く。
手の中の羽根が、かすかに揺れる。
それは、どこにも飛ばなかった。
ただ、そこにあった。
涙が、止まらなかった
それでも、声は途切れなかった




