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短編集 小鳥  作者: 水翔
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第六話 さえずる小鳥と鳴かない小鳥

男は、二羽の小鳥を飼っていた。


一羽は、うるさいほどにさえずる小鳥。

もう一羽は、一度も鳴いたことのない小鳥だった。


朝になると、

鳥かごの錆びた鉄の匂いの中

さえずる小鳥が鳴き始める。

部屋は音で満たされる。


男は、その音を聞きながら、

何も考えずにいられた。


夜になると、小鳥は眠った。

音が消える。

それが、耐えられなかった。


男は、外に出る。


冷たいネオンの色へ。

光に集まる羽虫のように、ただ、声のする方へ。


誰かと肩を並べ、

どうでもいい話をし笑った。

何を話したのかは、覚えていない。

気がつくと、朝になっている。


男は部屋に戻る。

小鳥が、また鳴き始める。


その繰り返し。



職場では、男はほとんど話さない。


必要なことだけを言い、

それ以外は口を閉ざしていた。


同僚たちは、男を静かな人間だと思っていた。



ある日。

男は、声を荒げた。

ほんの些細なことだった。


だが、その瞬間、

何かが切れた。


帰宅すると、

部屋は、いつも通りだった。


小鳥が鳴いている。

その音が、

ひどくうるさく感じられた。


男は、鳥かごに手をかけた。

勢いのまま、扉を開けた。


さえずる小鳥は、

ためらいもなく飛び出した。


鳴きながら、そのまま、外へ。


その声は、

誰かの声に似ていた。


遠ざかり、やがて、聞こえなくなり

部屋は、静かになった。

 


男は、もう一羽の小鳥を見た。


鳥かごの中で、

じっとしている。


逃げようともしない。


男は、扉を開けたままにした。

それでも、小鳥は動かなかった。


しばらくして。

小鳥が、鳴いた。


それは、はじめての声だった。


「――もう、いい」


男は、息を止めた。


その言葉は、

どこから聞こえたのか、わからなかった。


男の視界が、にじむ。


小鳥は、それ以上鳴かなかった。


部屋は、静かだった。

だが、その静けさは、

もう恐ろしくはなかった。


男は、鳥かごの前に座り込んだ。


開いたままの扉の向こうで、

小鳥は動かずにいる。


男は、はじめて、

何もない時間の中にいた。


そして、ゆっくりと目を閉じた。


もう、

どこにも行かなくてもいい気がした。


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