第三話 読んではいけない折り鶴
カリカリ、と乾いた音が、夜を削っていた。
紙に触れる指先は冷たい。
部屋の隅には、折り鶴が重なっている。
内側には、書いたものが閉じ込められている。
声にすれば壊れる気がして、
少女は、それを折った。
折って、閉じ込めた。
カサ、と音がした。
顔を上げる。
折り鶴が、わずかに揺れている。
気のせいだと思った。
また、紙に向かう。
カリカリ。
カサ。
音が、重なる。
手を止める。
ひとつが、動いた。
次の瞬間。
ふわりと、浮かぶ。
「やめて」
折り鶴は止まらない。
文字がにじみ、
紙の白を食い破るように黒くなる。
そして。
「――どうして、あのとき言わなかったの」
耳をふさぐ。
止まらない。
ひとつ、またひとつ。
浮かぶ。
「ほんとは、ずっと嫌だったのよ」
「笑ってしまうわ」
「文句なんていくらでも言えるわ」
言葉が、落ちてくる。
逃げ場はない。
それは全部、
言わなかったものだった。
「やめて……!」
声は、届かない。
折り鶴たちは、旋回しながら、
吐き出し続ける。
やがて。
静かになる。
最後の一羽だけが、残る。
目の前に、浮かぶ。
動けない。
それだけは、
聞かずにいられなかった。
折り鶴が、口をひらく。
それは、ひどく静かな声だった。
「――ほんとうは、わたしは、たすけてほしかった」
その言葉に、
少女は、すぐには意味を与えられなかった。
視界が、揺れる。
それだけは、書けなかった。
書けば、
壊れる気がしていた。
涙が落ちる。
折り鶴は、ぽとりと落ちた。
なにもなくなった部屋は、静まり返る。
もう、カリカリという音はしない。
胸の奥で、
なにかだけが、まだ鳴っていた。




