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ひたすらダンジョン!  作者: メテオス
《第2章 不死の亡国》
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二章 12話 日が墜ちる前に

「予想通りって言ったら予想通りなのかなぁ……?」


 リコリスの家がある街、バロンにて私達は雲一つ無い鮮やかな午の時だと云うのに、陰鬱な雰囲気を纏い立ち尽くしていた。


「ミスったであります……本当に恐縮至極でありますッ」


 しっかりと施錠され、辛うじて窓から伺える小さな酒場の様な建物の中を覗き込みながらリコリスは唸る。


「仕方ないよ……まさか組合にも誰も居ないなんてね」


 誰も居ない踏破者組合を尻目に入れながら、回りを見渡すけれど、何度見渡しても、やはり誰も居ないのは組合だけで無く街全体だった。


「うぅぅ……何となくわかっていたであります! 家から此処まで人っ子一人居なかったでありますから……」


 見渡す程に不思議に感じる、見渡す程に不気味に感じる、まるで何かが起きてしまったかの様に、この街には私達二人しか居なかった。


(これから起こるって言った方が正しいか、呪われた夜が……)


 爛々と街を照らす太陽から目を背け、そう思う……あの太陽が墜ちれば満月の夜なのだから。


「まぁ、そうだよね……今日の夜に国を包むほどの大災害が起こるんだから、みんな何処かに避難してるに決まってるか、じゃあ踏破者達もそこを守る準備をしているのかな?」


 どうしようか、と考えながらも考えを纏める、今日、呪いの夜を逃してしまったら不味いし、かと言って考え無しに私達二人でこのまま夜を迎えるのも危険かもしれないのだ。


「あ゛ー 絶対そうであります! なんで自分はそんな事に気付かずにぃ! 本当に申し訳ないであります、せめて前日に、なんで当日なんかにぃ……自分は迷惑野郎でありますっ! 塵芥以下の蛆虫野郎であります!」


 頭を抱えながらグッタリとするリコリス、そんな慌てた様子に頬が緩み、返って私は冷静になる、どうやら私の性格はあまり宜しい物ではなかったみたいだ。


「ううん、私だって何も知らないし仕方ないよ、えっとそれでリコリスさん、他の組合施設は無い? なんだかここの組合施設は小さく見えるし、バロン区域とか書いてあるから多分、支部なんじゃないのかな? 遠いかも知れないけど本部があるなら、夜までまだ時間があるし行ってみようよ!」


 出来るだけ元気付ける様にリコリスに声をかけてみるけれど、そんな思いとは反対にリコリスは私の言葉にどんどんと顔を青ざめてゆく。


「うぅぅ……こ、ここ以外知らないであります、長らく城暮らしでありましたから……」


 あと数時間程で呪いの夜だと云うのに、私のそんな言葉で露骨に大ダメージを食らうリコリス。


「じゃ、じゃあ、他に人が集まってそうな場所とか知らない? 避難場所になりそうな大きな建物とか!」


 さっきから街を見渡すけれど、王都と違って露骨に目印になりそうな建物は見当たらないのだ、魔物が居る世界だからか、国魔石とやらの何らかの制限があるのか、イルオレーネより大きな建物が多い気がする。


「あぅぁ……それも分からないでありますっ、呪いの夜の前にクライナ殿の足をこんなに引っ張ってしまうなんてぇ、腑抜け、腰抜け、役立たずの自分を見捨てないで欲しいでありますぅう!」


 最早涙目になり、恥も外聞も無く、多分年下であろう私に縋り付くその姿は、逆に街に人が居なくてよかったと思える代物だった。


「うーん、どうしよっか……そうだっ! 別に勝手に動いても良いんじゃないかな? 至る所に魔物が湧くのなら、勝手に暴れまくれば目に着くだろうし!」


 我ながらナイスアイデアじゃないだろうか、2つの神器を持ち呪いの夜に暗躍する謎の少女、そしてそれに従える元騎士、それなら組合とやらに所属せずとも話題性バッチリの筈……!


(……まぁ暗躍じゃ駄目なんだけどね! けど確か魔物って魔晶石だっけ? そんな感じの物を落とすんだよね、だったら倒した証明にもなるし、本当にいいアイデアじゃない? んー、でも私が倒した鳴き狂いはそんな物落とさなかった様な……あれは雑魚モンスター的な感じだったのかな?)


 思考の海に沈み込む私、けれどリコリスの声によって意識が引き戻される。


「ぐすん、それは駄目でありますよ、当日に勝手に街中で戦うなんて……絶対に迷惑であります」


 ぐずぐずと涙を拭きながらも、即座に私のアイデアを否定するリコリス、そんな様子に少しムカッと来てしまう。


「へぇ……自分だって今、当日に組合に来たくせに」


 なら代わりの意見をお願い、とそんな想いを視線に載せて責める様にリコリスをじっくりと見つめる。


 ……別に私が当日いきなり聖騎士の馬車に乗った時の事を思い出したわけじゃない、決して。


「うぁあああん、ごめんなさいであります! 代案なんて思い浮かばないであります! そんな目で見ないで欲しいであります! 自分が至らない所為でこんな事になってるのに自分は一体なんて口を……」


 私のそんな視線に声を震わせて、膝を着くリコリス。


「あはは、ごめんごめん、冗談だよ、うん、そうだね、勝手に戦うのは良くないかも、本当に人一人の気配もしないって事はこの街全員の意思で協力してるって事だから、何も知らない私達が迂闊な事はしないほうが良さそうだし」


 リコリスに手を伸ばしながら彼女の意見に同意する、彼女の方が私より知識がある、彼女が駄目だと言ったら初めからある程度は従うつもりなのだ。


「うぅ、面目ないであります、では人を探すでありますか……?」


 そう私に疑問をぶつけながらも、ガッチリと私の手を握り立ち上がるリコリス。


「そうだね、取り敢えず夜まではまだ時間があるし、歩き回って見ようよ、王都に戻ってもいいかも……」


――ガサッ!


 けれどそんな私の言葉は、誰も居ないはずの街に現れた人影によって、そして呑気な声によって遮られる。


「おいディッキー! 俺達二人しかいない、我らが寂れたバロン組合の前に、可憐な嬢さんが二人居る様に見えるんだが、お前の言う通り、やっぱり俺はボケてるのか……?」


「いーや安心しろキリイ、僕にもハッキリ見えるぜ……成る程、おい顔も知らない魔術師! なんて精度の幻覚魔法だ! 呪いの夜だけとは言わない! その魔法、毎日、僕に掛けてくれないか!」


 そんな声を上げながらも、どんどんと此方へ近づいてくる二人組みの男達、けれど男達はそんな印象に似合わない物を身に付けていた。


(剣と鎧……! それにこの軽口! ふふふ、絶対に踏破者だ!)


 男達が身に纏う、騎士とは違うその統一感の無い装備は、まるで蟲の迷宮の踏破者達を思い出し、少し懐かしい気分へと誘われる。


〈クライナ殿……なんだか不安そうな二人組でありますが、ふふふ、結果オーライでありますな!〉


 少しだけ顔を寄せ、こっそりと私に囁くリコリスの言葉を聞きながらも、久々の異世界感を私はしっかりと噛み締めていた。



 ◆◆◆◆◆



(ここが組合……もっと賑やかで酔っ払った人が居れば、私が想像していたギルドの酒場に近いんだけどね)


 歩く度にギィギィと床が軋む音がする、息をする度にカビと木の様な匂いが微かにする、建物の中はだいぶ年季が入っており、私達4人しか居ないことも相まって場末の酒場の様に感じた。


「なんてこったいこれは失礼した……まさか本物の人間なんてな、俺達もこんな日にあんた達見たいな人間が出歩いているとは思わなくてな」


 お互いの名乗りを済ませると、組合の扉を開き、座れる場所へと案内した年長の男、【キリイ・ベルド】がそう語る……鍵を開けた辺り彼はギルドマスター的な感じなのだろうか!


「いや、凄まじい幻覚魔法の使い手よりは現実感があると思うでありますが?」


 呆れたように半目で彼等を睨むリコリス。


「そうだな! リコリスさんの言う通りだぜ! 魔術師なんかよりもずっといいさ、何にせよ、幻覚より本物のべっぴんさんだからな!」


 組合に入るや否や、組合の奥へと引っ込んだ若い男、【ディック・バードヤード】が楽しそうに戻ってくる。


「そんな話はしてないでありますよ……それよりも自分達は呪いの夜の依頼的な? ……あー呪いの夜の手伝いに来たであります、踏破者として!」


 冷たく流しさっさと本題に入ろうとするリコリス、今まで私と接してきたイメージと余りにも違うので少し驚いてしまう。


「……成る程な、まぁ武器を持っていたから何となく分かっていた、それで呪いの夜の受注依頼か? 何故バロンへ来た? なんて色々と聞きたいことがあるが、まずはあんた達の組合切符を見せてもらおうか」


 俺をそいつ(ディック)一緒にするなよ、と口では笑いながらも、ハッキリとしないリコリスの言葉に対してか、キリイの目に隠しきれない怪しみの色が宿る。


「……」


 言葉に詰まるリコリス、組合切符と言うのはギルドカード的な物なのかな?


「おいおいキリイ、そんな疑い掛からなくても良いだろ? 彼女達の武器を見てくれ、相当の使い手の様に見えるぜ! 僕達にとってはまさに天使の助けだろ! 是非呪いの夜に参加してもらえばいいじゃないか!」


 けれどまだ少しは隠そうとしようと努力していたキリイの怪しみの感情を、茶化す様にディックは私達に明らかにしてしまう。


「容姿に惑わされるなディッキー、偶然とは思えない、どう考えても怪しいだろうが、呪いの夜の当日に、相当な使い手とやらの二人組が、わざわざ二人しか踏破者の居ない、メルガルド屈指の寂れた組合施設に来たんだぜ、それにリコリス嬢……あんた軍の人間だろ」


 そんなディックにため息を付いてから、キリイは顔の皺を歪め、もはや隠す事無くハッキリとリコリスへと嫌悪の感情を向ける。

 当日に来た事、それに軍の人間と云う事、そんなキリイの言葉にリコリスは少しだけ冷や汗をかく。


「おいおい、これから魔物と戦うってのに何どうでもいい事で人を疑ってんだよぉキリイ、それに偶然とは思えないだぁ? ったく、あんたが耄碌した爺みたいに此処に鍵を掛けたか確認しに行くって言ったから彼女達と偶然会ったんだぜ? ま、まさかそれすらも忘れちまったてか?」


 出来るだけ場の雰囲気を和ませる様に軽口を叩くディック、けれどその瞳は真剣にキリイを見つめており、彼はどうしても私達に協力して欲しい様に見えた。


「……何を言おうが駄目だ、余りにも怪しすぎる、ディッキー、俺達はこのバロンの皆の命を預かってんだ――待て、そこのずっと喋らなかったクライナ嬢は、何でそんなキラキラした目で俺達の事を見てるんだ……?」


 恐ろしいことに気付いてしまったかの様に、キリイは私を見つめて顔を歪める。

 けれど私がそんな目で彼らを見つめるのは当然だ……何故なら。


「お、お願いします、どうか私も踏破者に!」


 彼らも、私が想像していた冒険者に近いからだった、軽口を叩き合う踏破者……素晴らしいじゃないか!


「げっ! そもそも、おたくら踏破者じゃないの? おったまげた、ますますこの頑固親父は反対しやがるぜ? それにクライナさん? そんなキラキラした目で見つめられる程、尊敬される様な言動は僕達してないように思えるんだけどね……? お兄さんこれから呪いの夜だって言うのにお腹痛くなっちゃうよ?」


「間違い無く1ミリもしてないでありますね! くそ、羨ましいでありますっ!」


 お腹を抑えるディックと、腕を握りしめるリコリス、今日は呪いの夜だって言うのに緊張感を少しも感じられない。


「それで私は踏破者になれますか、キリイさん」


 そんな二人を私とキリイはお互いに無視して、真っ直ぐと視線をぶつけ合う。


「真っ直ぐだなあんた……っ分かった、踏破者じゃなかった事には俺は何も言わない、他も見逃そう、だがなんでバロンへ来た? 他にも組合施設はあったはずだろ、何故よりによってバロンを?」


 キリイは真意を問う様に私を見つめて答えを待つ、きっとそれこそが彼にとっては大事な事で確かめたい事なのだろう、けれど……。


(そんな真剣に見られても申し訳ないんだけどバロンを選んだ理由なんて無いんだよね、でも……彼らの話を聞く限りバロンとやらは私達からすれば都合が良い)


「……此処には二人しか踏破者が居ないから」


 二人しか踏破者が居ないバロン組合、先程のキリイの言葉を思い出しながら堂々とそんな言葉を吐く、きっと踏破者が少ないほうが相対的に活躍が出来る筈だと脳裏に確信しながら。


(……死ぬ確率は上がるけれども)


「そうか……分かった、ディッキー、俺も彼女達の責任を持つ、あんなに推したんだ、お前にも責任を持ってもらおうか、彼女達を義勇兵として戦わせるか、踏破者として戦わせるか、それはお前が決めてくれ」


 緊張と疑いを解くように、フッと笑い、表情を緩めるキリイ、どうやら私の答えは信用に値する理由だったみたいだ。


 ……義勇兵、こんなに大規模な災いなのだ、絶対に踏破者だけの問題じゃない、恐らく踏破者では無い一般人の中から腕に自身がある者を、協力者を募っているんだろう。


「あー、ま、別に踏破者でいいんじゃね? だって僕達より強そうじゃん? おいおっさん、こんな年下の女の子に負けて恥ずかしくねーのかぁ、おぉん?」


「お前もなディッキー、おい、ミハル! 喜べ新しい踏破者が来たぞ、登録用紙を頼む! …………む、今日は事務員が居なかったな、ちょっと待っててくれ」


 避難して誰も居ない筈のカウンター奥へと声を荒げるキリイ、もしかしたら誰か居るのかと思ってしまったけれど、シンと静まり返る組合に何とも微妙な空気になってしまう。


 ディックさえ黙ってしまった微妙な空気を誤魔化す様に、「俺って本当に耄碌してるのかもな」とキリイはボヤきながら席を立つと、カウンターの奥へと引っ込んでいく。


「あはは……あー、ディックさん? 私が言うのもあれだけど、渋った割には、なんかやけにあっさり決まりませんでした?」


 そんな空気を誤魔化す様に私はディックへと笑いかけるけれど、空気を変えるだけで無くこれは結構聞きたい疑問でもあったのだ。


(リコリス相手には渋った割には、随分とあっさり決まった様に感じた、まぁリコリスが言い淀んだり、正直に言おうとしなかったのもあるんだろうけど)


「そうであります! 釈然としないであります! 怪しいでありますなぁ! ディック!」


 リコリスも私に同調する様にディックへと問い詰める。


 ……さっきから思っていたけれど踏破者を敬う様な発言をしたと思えないリコリスの態度に疑問を持つけれど、そう言えば彼女って上司を殴ってるんだったな、なんて嫌な納得の仕方をしてしまう。


「はっ、美少女二人に問い詰められるなんてここは天国か? ……僕の事はディッキーでいいぜ、そうだな、あの人子供に弱いからなぁ、あぁ勘違いしちゃ駄目だぜ? いくらそう見えるからって少女趣味って訳じゃないから安心してくれ、まぁ、戦わせる辺りクライナさんの事はただの子供じゃないって評価しているみたいだけどな」


 戦わせてもらえるのはありがたい話だけれど、15歳の私でも踏破者になれる辺り、きっとこの世界では聖騎士達の様な厳しい現実が当たり前にありそうだなと思ってしまう。


「そんな事分かってるでありますよ、それより見た目で判断するならお前の方が疑わしいであります」


「ふっ、大丈夫さ、クライナさんもいいけど、僕はリコリスさんの方がタイプだぜぇ……おいっ傷つくな! 随分嫌な顔をするじゃないか! ま、そんな感じでリコリスさんが僕を嫌っている様に、キリイは軍人嫌いだからってのもあるだろうなー、ま、勘弁してやってくれよ」


 協力するって言った以上は私情は持ち込まないだろうからよ、とディックは私達へとウィンクを仕掛ける……うーん、冒険者の鏡!


「それでディッキーさん、余裕はどれぐらいに?」


 長くなりそうな予感のするディックの話し方に、誤魔化しを覚えたので、少しだけ踏み込む。

 先程のディックの瞳、そして義勇兵、二人しか居ないバロンの組合、そして何より……血の匂いがしたから。


「ひゅ~、賢いなクライナさん、僕が君ぐらいの年齢の時はバターとマーガリンの違いだって分からなかったって言うのにな、だけーど人の話を先取りしちゃあ……モテないぞ? 例え本題でなかろうが、間違った話だろうが、気持ちよく相手に話させる事が、僕流のモテる秘訣だぜ?」


 そんな私の言葉に少しだけ表情が固まったディック、だが即座に笑顔を浮かべて喋り出すけれど。


「はっ、無駄話もモテないでありますよ?」


 そんな怪しいディックをまるで捕虜を尋問するかの様な冷たい瞳で射抜くリコリス、その視線には凄まじい威圧感と説得力があった。


「くっ、輝いた視線と凍りついた視線の同時攻撃は流石の僕でもきついぜ……あー、クライナさん、きっとあんたの思ってる通りだろうな、マジな話、ほんっとうにありがたい、今更減員はともかく増員なんて想像すらしてなかった、先月()()()あと一人いたんだぜ……それに僕もキリイもまだ先月の怪我すら治ってねえ、正直どうなる事やらと思ってた所におたくらが来たからな! ……だからこんな酷え現状でも、どうか此処で戦ってくれないか?」


 ディックは人を和ませる笑顔を浮かべながら語るけれど、言葉を紡ぐ度にその笑顔に影が濃くなる、それ程までに追い詰められた現状なのだろう、やがては笑顔を消し、頼み込む様にディックは頭を下げる。


「ディッキーさん、頭を上げてください……それに言いましたよね、此処に二人しか居ないから私達はバロンに来たと」


 そんな軽口さえ無くなってしまったディックに、私は自信満々にあの笑顔を浮かべる、彼を勇気づかせる様にガレム受け売りの不敵な笑顔を、もっと軽口が聞きたいからね!


「あ、そっか……だからキリイの奴は納得しやがったのか、だからクライナさんはそう答えたのか」


 そんな私の声に、ディックは一人で納得した様に呟いてから、まるで俺を安心させる為に聞いたのか、と言わんばかりの感心と尊敬混じりの目で私を見つめるけれど、別に私の発言に全くそんな意図は無かった……あはは。


「なんだ? 俺の話か……?」


 束ねた書類を片手にカウンターの奥から戻ってきたキリイは、怪し気にディックを睨む。


「あはは、キリイ、やっぱりこの二人天使だよ! 運命の出会いだぜ! 今回の呪いの夜は絶対に! かつてない程余裕で楽勝でぜっっったいに! 順調に行く気がする! なぁお二人方! どれ位バロンに滞在するんだ!? 美味いもん食わせるぜぇ!」


 永住してくれと言わんばかりに、キラキラとした目で私達を見つめるディック。


「はぁ、ディッキー、あんまりこっちの事情を押し付けるな、今回だけでもありがたいんだ、まぁ俺も出来れば滞在して欲しいがな……冗談でも無くメルガリダスで永住してくれる様な踏破者でも探すか?」


 他愛のない会話を繰り広げながらも、書類を並べていくキリイを尻目にふと考え込む。


(あと此処にどれ位滞在するんだ、か……私はメルガルドに滞在して何週間が経った? やっとだ、私にとってはやっと進める日、この呪いの夜に活躍できるか、生き残れるか……私は今から踏破者になる、トマスと別れても、私はちゃんと迷宮に近づいている)


 ぐるぐると思考が渦巻く、ただ迷宮が恋しい……けれどそんな私の思考は中断される。


「あー、説明義務があるし、説明するぞ? ……と言いたい所だが、悪いが踏破者登録は後回しにさしてもらう、なんてったって今日は呪いの夜だ、それより説明すべき事があると思わないか?」


 書類を並べていく最中に、組合に飾ってある時計に視線を向けたキリイは露骨に顔を歪める。

 そんなキリイにつられる様に時計を見ると、確かにだいぶ時間が経っている様で、私もリコリスも静かに頷く、ディックも軽口を叩く事無く静かに背に体重を預ける。


(出来れば踏破者になりたかったけど仕方ない……)


「何を説明すべきか……そうだな、先に聞こう、魔法を使えたりするか? それによっては、こっちの作戦がだいぶ変えれるからな」


 もしかしてと期待する様に私達……特に私を見るキリイ、露骨に大きな剣を背負っていると云うのに此処まで期待されるのは、やはり非力そうだからだろうか?


(魔法か、一応私って全て装備品……? のお陰だけど、神器の偽装に人形、感覚強化、そして加速の指輪、合計4種類の魔法が使えるけれど、きっとキリイが求めてるのはクリルの様な魔法だろうしねぇ)


 言うべきか、言わないべきか、いやむしろ私も我、神の前で望む口上を述べるって言えば魔法を使えるかも! なんて下らない事を考えている間にリコリスが声を上げる。


「あー、キリイ殿……自分は治癒魔法が使えるであります、さっきのディッキーの話が本当なら二人共怪我をしてるでありますね? 軽い怪我くらいなら此処で治すでありますよ?」


 治癒魔法を使えると言い切るリコリス、治癒魔法と言うのはきっと回復魔法だろう、元衛生騎士なんて言ってたから、使えるとは何となく思ってたけれど言葉にされるとやはり心強く感じる。


「はっ? マジ? リコリスさん、治癒魔術師なの? 嘘でしょ? マジで女神じゃん! 本当に凄いんだけど……!? ディッキー、ほんとにビックリなんだけど……?」


 そんなリコリスに声を荒げるのはディック、その反応は私から見たら過剰に驚いている様に見える。


 ……けれどディックのその取り乱した様子はかつての神器を見た聖騎士達を思い出す物で、きっと治癒魔法使い手は凄く珍しい物なのだろう。


(ルムド外交官だったかな、あいつも使ってたから貴重とは思わなかったんだけど、改めてリコリスが居て良かったって思うのこれで何度目なんだろ、それに羨ましい!)


 脳裏に浮かぶのはメルボーの意識を魔法で起こしたルムド。

 治癒魔法……一体どれほどの効果なのだろうか、腕が生えたりとかは流石にしないかな? というか、私が左手に付けているマジックリング、こんな物があるのならこの世界ポーション的な物とかあるんじゃ?


「それは助かる、言葉に甘えて後で掛けてもらうとして、だとしたら二手で分かれるより、4人で固まった方がいいのか……?」


 考え込む様に腕を組むキリイ……二手に分かれるか、集団で戦うか、ふふふ、遂に魔物との戦いらしくなってきた!


「あー、そんなに期待しないで欲しいでありますな、治癒魔法自体が噂ほど凄いものでも無いでありますし、元より使い手である自分が未熟でありますから……」


 謙遜と云うよりは事実を伝えるかの様に、険しげな顔をするリコリス。


 ……呪いの夜は魔力障害により魔力機関が使えなくなり死亡率が上がるとリコリスは言っていた、魔力機関が何かは分からないけれど、その言葉通りなら個人の魔法じゃそこまで効果が無いのかも知れない、そもそもキリイとディックが怪我を完治出来ていない時点でポーションなどそう云った存在はあまり期待しない方が良さそうだ。


(うーん、私は迷宮も控えてるし、取り敢えず無茶や怪我なんかは気を付けた方が良さげだね……)


 ……私は迷宮以外で無茶をするつもりは無いから。


「いや、リコリス嬢は見た所、手練の剣士だろ? 俺から見たらマジックユーザーじゃないのに魔法が使えるだけ凄まじい物だよ」


 頼りになると感心する様にキリイは喉を鳴らす。


(いや、それよりもマジックユーザーって何それ、格好良すぎない? そんなのあるの!?)


 マジックユーザーなんて言葉に私は度肝を抜かれながらも、バロン組合の踏破者達との会議は順調に進んでいった。


 ……活性化した迷宮に依ってもたらされた、全ての元凶の夜に向けて。




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