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ひたすらダンジョン!  作者: メテオス
《第2章 不死の亡国》
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二章 8話 空っぽでも、そこに決して曲げられない物がある限り


「~~~」


 ふんふん、と機嫌良く歩くメルボーに私とトマスは黙々とついて行く、行きには柔らかく上品に見えた絨毯も、何故か今は赤い血に染まった処刑台の上を歩かされている気分だった。


(……大丈夫、きっと上手く、ここまでもってこれた時点でもう私達の勝ちなんだ)


 さっきまでは笑いそうになるのを我慢していたと云うのに、もう緊張してしまっているのは、私がこれまで空っぽで、こんな経験なんてした事が無いからだろうか?

 王、宰相、騎士団長、様々な人達が様々な思いで私を待っている……そんな謁見の間を思い描いて緊張していると、遂に謁見の間らしき大きな扉の前へと辿り着いてしまう。


「ふふふ、何だか貴方達が可哀想に見えてきたわ、ごめんなさいね」


 メルボーはそんな言葉とは裏腹に、まるで心の準備さえ与えさせない様にすぐに扉を開けてしまう。


――ギィイイイイ


 そんな大きな扉が軋み開く音に、合わせたかの様に、メルボーの微笑みはどんどんと深い物になる。


(……っ)


 謁見の間だと云うのに、余りにも大勢の人が並び、騎士、衛兵、それ以外の人間が入りに入り乱れている様子は、この国の混沌さを在り示している様に見えた。

 しかし誰もがその先へと佇む者達への敬意を表す様に、列を為して並び、玉座まで道が私達への前へと確かに示されていた。


「さぁ、此処からは貴女1人で行ってもらうわよ、トマス・エルガー、貴方はそこで見ていなさい」


 そう微笑むと、メルボーは堂々とその王座への道を進み出す、あんな彼女も彼らからは敬意を表される人間に値しているのだろう。

 メルボーが向かったのを確認すると、トマスは演技でも無く本当に緊張した様に私へ視線をぶつける、けれど私はその視線には答えない、トマスを一瞥すらせずに、私もその道を進む為に部屋へと足を踏み入れる。


――コト、コト、コト。


 私の重い靴の足音が静かな部屋に確かに響く、進む程に幾多の視線が私へと集中する、声はしないけれど場は確かに騒がしくなる。

 呆れ、蔑み、哀れみ、様々な負の視線を受けた先、見えてくるは玉座、その脇に集うはこの国の重鎮達であろう者達。


 大きな椅子に座る王らしき老人、その横に静かに佇む宰相、王を守る様に立つ鎧を来た壮年の男性、そして笑みを浮かべ待ち受けるメルボー。


(ここまでなの……?)


 確かに凄い迫力だった、緊張すらしていた、けれどこの部屋には、恨みも、怒りも、悲しみも、何の緊張感も走っていなかった。

 当然だ、そこに何もないから、誰も期待なんてしていないから、誰も私に期待していなかったから、誰も英雄を期待していなかったから、誰も端から聖騎士に期待なんてしていなかったから。


 私もトマスも想いを以て王都へ来た、死を覚悟して今この場に立っていた、だと言うのに誰もがその少しの可能性も見ようとはせずに、ただ愚か者を裁く断罪式だと思い込んでいた。


(ここまで腐りきっている物なの? ……そこまで希望を抱けない物だったのっ? 本当に一切聖騎士に期待してなかったのッ?)


 本当に不満を逸すだけに? そんな言葉が思わず出そうになってしまうぐらいに、感情の波が私を襲う。


 もはや私の格好の問題じゃなかった、もう私自身の問題にすら出来なかった、期待どころか、こいつらにはメルボーの敵意や悪意さえも無かった。

 彼らはただ本当に無意味に、無作為に、ただ何も考えずに、イルオレーネを犠牲にしてきたのだと感じさせられた、全てが無駄だと改めて否定された気分だった。


(トマス……やっと貴方の気持ちが分かる、狂った国だと言いながらなんでイルオレーネに居たのか、なんで私に期待したのか、“なんで私に神器を託してくれたのか”)


 だからこそ私が彼らに希望を与えないといけない、私が無理矢理にでも全てを無駄じゃなかったと証明してやるから。

 期待されていなかった、無駄だと思われていた聖騎士の制度によって生まれた、あり得ない(イレギュラー)存在である私が迷宮を踏破して、全てを証明すると約束した。


――コト、コト、コト。


 そんな私の想いを知らずに、彼らは罪人だと私を見る、処刑台へと自らの足で歩む愚か者だと嗤う。

 だからこそ私は前に進めた、先に待ちわびる彼らは確かに人の上に立つ者で、空っぽだった私と違い、果てしない経験に溢れていて、確かに凄まじい迫力を放っていた、けれどそれがどうした。


(……私は偽物だ、けど、それでも私はっ! あの時確かに誰かの為に迷宮を踏破した、私は絶対に罪人なんかじゃないっ! この神器に文句なんて絶対につけさせてはやらないッ!)


 迷宮に行きたい……確かにそんな気持ちで私は始まった、けれど今は決してそれだけじゃなかった。

 進まなければきっと無駄になってしまう物があるから、決して無駄にしたくない物があったから、私は表情を崩さず、英雄の様に前に進めた。


(メルボーは王を太陽だと例えた、自身を月だと例えた、ならあの時と一緒だ……してやる、英雄の証明を!)


 そう確かに心に刻み、玉座に座る王を見上げる。


「王よ、ついに来ましたわ、聖騎士が、1人しかいない上に、聖騎士には全く見えないけれど、彼女が間違い無く、迷宮を踏破してしまった、トマス……トマス・エルガーが連れてきた聖騎士ですわ」


 本当に嬉しそうに王へと顔を向け、私を指を指すメルボー、けれどその笑顔はやはり、聖騎士生還を祝っている物では決して無かった。 


「成る程……して、そなたが本当に聖騎士であるのだな?」


 王はメルボーの言葉に考える様に目を閉じてから、まるで助け舟を出すように、ハッキリと私に問う。


「はい、その通りです、私は……聖騎士です」


 だからこそ私もハッキリと声を返すと、私の言葉にザワザワと場が騒がしくなる。

 流石のメルボーも驚いた様に目を見開き、まさかと、今更何かを察した様にこちらを見る。


「……ならば、見せてみよ、神器を」


 その厳しい表情には、少しだけ落胆の色が見えた。結局ここまで来ても、王の前で名乗っても、誰も私に期待しておらず、やはり誰も聖騎士に期待していなかった。

 そしてそんな中、唯一メルボーだけがまさかよね、なんて私が神器を所持している可能性に思い当たる、そんな事実に笑いそうになってしまう。


「……はい、此処に」


 バサリと、隠していた左腕を露わにする、その腕には確かに銀色の無骨な腕輪がしっかりと2(・)つ(・)嵌っていた。


――まるで耳が壊れてしまったかの様に、時が止まってしまったかのように、人が満ちた謁見の間がありえないほど静まり返る。

 誰もが期待していなかった、誰もが愚かだと思っていた、誰もが声を出せなかった、誰もが目の前の現実を飲み込めていなかった、そんな中で彼女は英雄の証明をする。


「これで宜しいのでしょうか? 4人だろうが1人だろうが気にしないように、1つだろうが2つだろうが気にしないで頂ければ幸いですが」


 メルボーを見つめながら英雄は不敵に微笑み、その声に人々はやっと現実を見る。


〔な、何が起きておる!? ひ、1つどころかっ、ふ、2つ!?〕


〔め、メルボー大臣! 聞いていた話と違いますぞッ! 一体なにが!?〕


〔あれが神器だと言うのか……?〕


〔わ、わけが分からんっ……あの子供は本当に聖騎士なのか? しかし何故2つもっ!?〕


〔な、なぜ、わざわざ隠しておったのだ、くっ、何が狙いなんじゃッ!〕


〔や、やはり儂の期待通りじゃったわ、わはは……〕


 誰も彼もが意味のない言葉を好き勝手吐き出す中、甲高い絶叫の様な声が謁見の間に響く。


「嘘よッ! あり得ないっ偽物よ! だから2つ在るんだわっ! 2つなんてあり得る訳がないっ! トマス・エルガーァアアッ! 王へのッ、アベルへの冒涜よッ! 誰かっ! 騎士団長ッ! その国賊共を捕らえなさいッ!」


 響き渡るメルボーの絶叫に近い怒りの声によって、その姿によって、誰もが冷静さを取り戻し、私の腕へと視線を向ける。


「ねっ!? 偽物でしょっ? あいつは、ルーム前法官とっ、何かを企んでたのよッ! もう小細工は終わってたのねッ! だからこの場に来たのねっ、けど残念、私の目は誤魔化せないわよ! どうしたの!? 早くそいつらを捕まえてっ!」


 必死に叫ぶメルボー、けれど誰もその命令に従う者は居なかった。


「……流石にいちゃもんが過ぎるぞメルボー大臣、信じ難いのは分かるが、魔石が嵌っていないと云うのに、あれ程の魔力を放つなど神器以外にありえなかろう」


 鎧を着込んだ、物々しい雰囲気を纏う壮年の男性、恐らく騎士団長であろう男がメルボーを静止し、チラリと私の方を見る。


「騎士団長の言う通りだ、2つなのはいずれにせよ、余の目から見ても違いなく本物の神器であろう、うむ、成る程、本物であったか、それは申し訳が立たない事をした……聖騎士の任、ご苦労であった」


 頭を下げないながらも謝罪する王、それはその立場からしたら精一杯の謝罪だと私にも理解できた物だった。

 けれど……。


「……それだけなのですか?」


 敢えて無礼だと知りながら、わずかに騒がしくなる声を聞き流しながら、本音を込めて私は言葉を吐き出す。

 まだ2つの神器を見せても彼らには、ほんの僅かの勇気も宿っていなかったから。


「そなたはもっと謝罪が欲しいと申すのか? それとも褒美が欲しいと申すのか? 或いはその両方か?」


 2つの神器持ちだろうが関係ないと言わんばかりに、王はそんな私を厳しく睨み、何かから目を逸す様に王は語る。

 まだ、まだそんな態度を取るのか、まだ目を逸すのか、


「謝罪などその様な、私が望むのは褒美でございます」


 そこまで腐っていない筈だと、今此処に2つ持ちが現れた意味を分かっている筈だと、そう願いながら私は言葉を続ける。


「ほぅ? いいだろう、そなたは成し遂げたのだ、何を望む?」


 平穏、金、或いは地位、何を望むか、王は私は見つめる、

 けれどそこには、私が求めている物は、求めて止まない物は無かった。


「――王よ、私が望むは迷宮踏破のみ」


 貴様らはその為に、聖騎士を作り、神器を求めたのだろう? そんな意思を込めて、私は堂々と王を睨みつける。

 誰もが、メルボーさえも言葉を出せずに、王と英雄の会話に耳を惹かれる。


「っ……そなたは分かっているのか、冗談では済まないぞ?」


 その目にやっと宿るは少しの希望、その言葉に宿るは大きな恐怖、それでも勇気を振り絞り王は少しだけ、目を逸すのを止める。


「……王よ、冗談にしたいのですか? 冗談で済ませるですか?」


 そんな言葉を私は許さない、そんな言葉じゃ絶対に動かない、それで良いのかと王よと睨む。

 私は命を懸けて此処まで来たのだ、覚悟を持って喋っていたのだ、決して冗談なんて言わない、言わせない。


「その目、その意思、そなたは分かっているのだろう? 全てを知っているのだろう? なのに何故メルガルドを、何故また迷宮を……」


 何故、どうして、後悔する様に王は……目の前の男は、弱りきった表情で私を見つめる。


「終わらせる為、故に」


 けれど容赦なく、何の遠慮も無く、何をとは語らずに、けれど決して貴方達の為では無いと、大義を以て私は言葉の刃を王へと向ける。


〔なんだとッ! 貴様にメルガルドの何が分かるッ! 貴様に王の何が分かる!〕


〔そうだっ! 正論で王ができるかッ! さっきから聞いておればッ! いくら神器持ちだと言っても、無礼であるぞッ!〕


〔そうだッ! 我らが王に対し、なんて口を!〕


〔くっ! 俺達も戦っているッ! 命ぐらいは懸けているッ! 呪いの夜の魔物を知らないくせに貴様はッ!〕


 語らずとも責め立てる様な私の言葉は、謁見の間の半数の者には届き、そして彼らは怒りの声を上げる。


 そんな怒りの声に私をしっかりと耳を傾ける、これだけの人に私の言葉は伝わったのだと、よかった、もう見えなくなってしまった訳ではなく、彼は目を逸らしていただけだと。


「沈まれッ! 貴様らッ!」


 王の怒鳴る様な声によって……王の希望に縋る様な表情によって、そんな怒りの声は消える。


「お、王よ! まさかっ、そんなっ、駄目です! 考え直しを!」


 そんな王の顔を見て、伝染する様に広がるそんな表情を見て、メルボーは顔を青ざめる、けれど明けた月の言葉は、もはや昇る太陽には届かない。


「余は逃げ続けた、余りにも目を逸らしすぎた、何時かは来る終わりを分かっていながら、けれど、それでも、そなたはまだ間に合うと、そう云うのか……云ってくれるのか?」


 力なき声で、希望に満ちた声で、王は私へと問う。


「はい、証明してみせましょう、決して遅くなかったと、その為に今、ここに私は立っていると」


 英雄は死に、月に呪われ、恐怖と云う病に侵されてしまった、けれどこの国はまだ助かると、私が救ってみせると、迷宮を踏破してみせると、私は声を高らかに宣言する。


「ならば聖騎士よ……お主の名を聞かせてくれ、そして迷宮を……」


 ふふふ、後は迷宮だけだ、なんて思い浮かべながら王の話を聞くに徹しようとしたその時。


(──ッ!)


 3度目か、4度目か、何度も味わった感覚が背中に走る。


「王よッ! お待ち下さいッ!」


 何処かで聞いた事のある声が、謁見の間に響く。


(……恩寵を見られたッ!?)


 それだけなら多少の問題ですんだだろう、今(・)の(・)恩(・)寵(・)を(・)見(・)ら(・)れ(・)た(・)の(・)な(・)ら(・)ば(・)。


「その者の名はクライナ・アナベル、王よ、無礼は承知、けれどその者について、どうしても報告しないとならない事があるのです」


 この声、この感覚、トマス以外に居たのだ、迷宮に行く前の私の恩寵を知っている物が、聖騎士よりも騎士らしかったその男が、今この場に現れる。


――まるで私に平穏は似合わないと。




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