二章 7話 整うは舞台、近づくは迷宮、彼女に平穏は似合わない
――遂にそこへと辿り着いてしまった、城の中のその部屋へ、私達の目的地へ、迷宮への道へ。
「着いたよクライナちゃん……覚悟はいいかな」
トマスは角部屋であろう、大きなドアの前に立つと、分かってるかい、なんて言いたそうな表情で私をじっと見つめる。
そのドアには法官室と書かれており、中々偉そうな役職に少し緊張してしまうけれど、先程宰相と話したおかげか、余り緊張はしていなかった。
――コンコンコン
私が無言で頷くと、早速トマスはドアを叩く。
「いいわ、入ってきなさい」
そんな厳しそうな女性の声が中から響くと、トマスはやはりと、一瞬だけ私に目線を向け、ゆっくりとドアを開ける。
「……久しぶりね、トマス」
大きな椅子にニッコリと座る、40代半ばの女性、しかしその笑顔には隠す事の無い敵意がにじみ出ていた。
彼女は私には視線すら向けずに何も言わない、きっとそれは聖騎士の顔を覚えていない以前に、結局は人数も何もかもどうでもいいからだろう……彼女は踏破反対派で、私達の敵なのだから。
「……何故貴女がここに? ルーム法官は?」
トマスもそんな彼女を見るや否や、無表情の裏側から刺々しい雰囲気を醸し出す。
「あら、挨拶もできないのね、トマス・エルガー……まぁいいわ、貴方は長らく、王都に寄って無かったから知らないと思うけれど、今は私が法官を兼ねてるのよ、そうね、今頃、彼はもう隠居生活かしら?」
ま、最近法官になったばかりなのだけれどね、とまるで言い聞かせる様に、トマスへと笑顔を向ける女性。
そしてやっと少しだけ、値踏みする様に私へと視線を向けるけれど、そんな彼女に私は無表情を装う。
「何を言っているんですか……貴女は大臣でしょう? いや、先程兼ねていると言っていましたが、まさか大臣と法官を兼ねている、なんて馬鹿な話じゃありませんよね?」
まさかあり得ない、あり得る訳がないと言わんばかりに、トマスは女性へと疑問をぶつける。
「ふふふ、そうよね、信じれるわけがないわよね、けどそれが現実なのよ、分かりやすく教えてあげるわ、王が太陽なら……私は今や月、私は月の様に人々を支配しているのよ」
そんなトマスの疑問を、心底気持ちよさそうに答える女性。
……つまりトマスから聞いていた話ともう状況が変わっていて、彼女が派閥争いに勝利したと言うことだろう。
「っ貴女の立場で、自身をそれも、よりによって月に例えるなんて……貴女はその意味を理解しているのですか?」
女性の言葉を受け入れながらも、トマスは静かな怒りを表す様に彼女を睨みつける。
「えぇ、理解しているからこそ、例えているのじゃない」
ニッコリと悪意に塗れた笑顔を浮かべる女性。
呪いの夜が猛威を振るい、国を支配していると自分で宣言する彼女が、自身を月に例えるなど、民が聞いたら堪った物ではないだろう、実際に国が迷宮を放置しているのだから尚更に……。
「……相変わらず加害者ぶっているのですかメルボー大臣、遂には数年前には残っていた僅かな良識すらも、もう失ってしまっている様に見える」
トマスは哀しそうな、まるで同情する様な声を出す。
彼らの関係を知らない私には、彼らの言葉の意味が分からないけれど、その言葉は女性の何かに触れてしまった様で、見る見ると女性の笑顔が固まっていくのが見える。
「まるで意味が分からないわトマス、それに貴方こそ昔の可愛さは無くなったの? ふんっ、怯えていた貴方を今でも思い出せるわよ、アベルの意志を踏みにじって、逃げ出す様にイルオレーネで暮らしていた癖に、今更私を咎める権利も、今更そんな事をする意味もあるのかしら?」
そして再び貴方はアベルが遺した物を踏みにじった、とトマスを睨みつける女性。
公正に聞こえるその言葉の裏には、確かにトマスの傷口を抉ろうとする意志が見えた。
「……残念です」
トマスはそんな女性の言葉に対し、能面の様に表情を貼り付け、何の感情も込めずに言葉を吐き捨てる。
「……ふん、今日はそんな昔話をしにきたわけじゃないでしょ? それにしても今日来てくれて本当によかったわ、もし今日、貴方達が来なければ、明日にでも私自ら訪ねようと思っていたんですもの」
そんなトマスにやり辛そうに女性は話を変えるけれど、相変わらずその表情は敵意に満ち溢れ、まるでこちらの動きを全部分かっていた、と言いたげな目で私達を睨む。
「訪ねる?……何故?」
けれどそんな視線にトマスは、何の心当たりも思い浮かばない、と言葉を返す。
「あらあら、私がこの部屋に居たって云うのに、まだとぼけるつもり? 貴方がルーム前法官とパトリク・ミューズベリと共謀して、どんな小細工をしようとしてたかは知らないけれど、この私が見逃すとでも? 城壁に入った時より前に、国境線を超えた時よりも前に、ずっと前から貴方達の動きはバレてたのよ」
残念ねぇ、と女性は全く残念そうに見えない笑みを浮かべる。
……きっとイルオレーネをかなり早く出た事を警戒していたのだろう、まぁそれは私の所為何だけどね。
「貴女が何を仰られているかは分かりませんが、どうやら僕は随分と信用が無いみたいですね」
そんな女性を挑発するかの様に、何が言いたいのですか? なんて意味を込めた笑みを浮かべるトマス。
「呆れた、まだそんな態度を取るの? その踏破者が正に罪の証拠じゃない、どう見ても聖騎士じゃないわ、子供だからって、そんな新品な装備だからって、私が騙されると思った訳? 下らない……全くイルオレーネで大人しく暮らしとけば良い物を、終わりよ貴方は」
何処から連れてきたのかしら? と言わんばかりに私へと視線を向ける女性。
……どうやらこの衣装の効果は確かに出ているようだ。
「ははは、法官殿は随分と冗談がお好きの様で、もし万が一、冗談では無いと仰るのならば、貴女は聖騎士の顔をすら覚えておられないと言うことになりますがね……彼女は間違いなく聖騎士です、神器がそれを証明しますよ」
神器と云う言葉に、僅かに感情を揺さぶられる女性。
……私からすればトマスの言葉こそつまらない冗談にしか聞こえない物だった。
「あら、そうなの? それがもし本当だとしたらごめんなさいね、非常に申し訳ない話だけれど、どうでも良すぎて覚えていないのよ、だからついでに4人じゃなくて、1人なのも許してあげるわ、どうせ4人だろうが、1人だろうが何も変わらないもの」
トマスの挑発に答える為か、私の反応を見る為か、彼女は悪意を以てその言葉を吐き出す。
……我慢、我慢。
「……そうですか、4人でも1人でも変わらない、確かに言質を頂きましたよ、法官殿、これで帰っても宜しいでしょう?」
法官殿、これにて報告は終了です、と頭を下げるトマス。
頭を下げていると云うのに、馬鹿にしてるとしか思えないトマスの器用さに思わず、私までイラッと来てしまう。
「……はぁ、貴方ねそれの何処が報告なのよ、ま、どうせ全部無駄なんだからどうでもいいわ、けれどまだ、どうしても彼女を聖騎士だと言い張るのなら、1つだけ絶対に確認しないといけない事があるの、神器を見せなさい、それで全てが決まるわ」
先程まで言外に匂わしていたソレを遂に彼女は口に出す、その立場で全ては無駄だと口に出してしまう、イルオレーネも、聖騎士の仕組みも、カイル達の想いも、トマスの想いも、これまでの犠牲も、私が証明してみせると言った全てを、平然と彼女は無駄だと決めつけた。
(トマスの言い過ぎだと思っていたけど……ここまで腐りきっていたのかメルガルドは)
こちらの事情を知っている上で、私達の傷口を抉る様に、全てを踏みにじる様に、そんな言葉を吐き出すこの女に凄く、凄く腹が立ってしまう。
……けれどそんな私より、効いている筈なのに必死に我慢するトマスを見て、私も彼女の要求を無視し、何とか無表情を装う、それが私の役割だから。
「それは出来ません、法官殿」
トマスは悔しそうに顔を俯け、手を握りしめ、彼女の要求を断る。
「えぇ……出来ないわよね? 見せれないわよね? だって無いんだもの、それで貴方はどうするの? 私はルーム前法官の様に甘くはないわよ?」
愉悦……トマスを見て、私を見て、そんな言葉とは裏腹に口を歪め、彼女は嗤う
「いえ、違います、法官殿」
顔を上げ、女性をしっかり見つめながら、トマスは否と言い切る。
「……へぇ? どんな言い訳を聞かせてくれるのかしら? 罪人殿」
貴女も罪人よ、と言わんばかりに私にまで視線を向ける女性。
けれどトマスはそんな言葉に、一切躊躇せずに返す様に言葉を吐き出してしまう。
「これはあくまでも本来私が1人で来るの筈の報告です、貴女が月だろうがなんだろうが、所詮大臣と法官に過ぎない貴女に今見せる必要はない、然るべきその時に、まず王の前で見せましょう、理解して貰えますでしょうか? 法官殿」
これまでの鬱憤を晴らすように、時間さえ稼げれば何とかなる、なんて意志を感じさせるそんな希望に満ちた表情で、トマスはハッキリと言い切る。
「……っ、言ってくれるわね、トマス・エルガー……はぁ、馬鹿ね、せっかくまだそこまで重くない罪で済む所だったのに、吐いた唾は飲み込めないわよ?」
一瞬だけ怒りの表情を見せる物の、途端に余裕たっぷりの、ニヤニヤとした表情へと変わる女性。
「……っく」
そんな女性の余裕に、トマスは不吉な物を感じたのか、言葉に詰まってしまう。
「いいえ、そもそも撤回する理由が無いわよね、ごめんなさいね、トマス・エルガー……だって全くもって貴方の言う通りなんだから、確かに、ここで確かめる必要はない、王の前で、皆の目の前で証明してもらえばいいんだから、そう、貴方の望んだ通りにね」
自身を月へと例えるだけの事はある、そう思えるほどに、口を釣り上げ、三日月の様な悪意満ちた笑顔を浮かべる女性。
「納得頂けた様で何よりです……では失礼します」
私を引き連れ、さっさと帰ろうとドアへ向かうトマス。
……けれど、悪意はそれを許さなかった。
「……待ちなさい、何処へ行こうって云うのかしら、言ったでしょう? 王の前で、皆の目の前で証明して貰うって、帰ったら駄目じゃない」
くつくつ、と背後から聞こえるその声が、私達の足を止める。
「だから謁見の日時まで王都で待機しときますよ……ま、まさか」
やっと気付いた、気付いてしまった、と言わんばかりに、目を見開き女性を見るトマス。
――そして残酷にも、トマスの希望を断ち切る言葉が彼女の口から告げられてしまう。
「存外察しが悪いのね、そのまさかよ、だから言ったでしょ、今日か明日ってね、さて、貴方達が城に入ってからどれ位たったかしら、きっと、もう準備は出来てるわ……王も騎士も、みんなね、さぁもう断る理由は無いでしょう? 丁度、聖騎士もいるしね」
残念ね、さっさと自白しておけば、まだ私の口から彼らへと説明してあげれたのに、と彼女は嗤いながら、椅子から腰を上げる。
「貴方達、何を固まっているの? 神器を持っているのでしょう? なら見せるだけよ、何にも緊張する事はないわ……それともまさか、小細工の時間が欲しいなんて言わないわよね?」
お若いのに可哀想、きっと死刑でしょうね、と私を憐れみの目で見つめる女性、けれどその口はまだ三日月の様に嗤っていた。
「ま、待ってください! そんなのあり得るわけがない、あ、貴女こそ、何の小細工なんだ! 王が、皆が、そんな事! こんな直ぐに謁見なんて……」
冷や汗を掻きながら、待ってくれと、彼女を止めようとするトマス。
「……城も私も貴方が知っていた時代と変わったのよ、言ったでしょう? 私は国を支配する月だって、私はもう昔ほど甘くはないのよ、それに嘘を付いたのも、私の気遣いを踏みにじったのも、唾を吐いたのも貴方でしょう?」
まだ自分の罪を自覚してないのかしら、と女性はウンザリしながら、目は嗤っていた。
「ふざけるなッ! 公表しないつもりかッ! そんな直ぐに謁見をするなんて、国民に知らせずに、貴方達、城の人々で内々で言い掛かりをつけて、罪をでっち上げるつもりだろ! そんな横暴っ、許される訳がないぞッ!」
トマスはこの先に待つ未来を想像して、体を震えさせ、必死に声を上げる。
「――――貴方、馬鹿なの?」
喚くトマスはそんな彼女の一言で、憐れにも言葉を失ってしまう。
それを見てから彼女は言葉を続ける。
「私は至って公正よ、王の前で、宰相の前で、騎士団長の前で、騎士達の前で、流石の私も本物の神器持ちにどうこう出来る訳がないじゃない、それに偽物の国賊に国民を混乱させる訳には行かないから、その前に処理をするのよ……全く哀れね、人って追い詰められるとそこまで馬鹿になるのかしら?」
そんな彼女の一喝する様な正論に、トマスは顔を青くするだけで何の言葉も返せなかった、そして彼女はついにドアの前に立ってしまう。
「大丈夫よトマス、そこまで怯えなくても、だって貴方の言う通り、本物なら何の問題も無いんだから、さぁ、見せてもらいましょうか、貴方達の神器とやらを……」
早く来なさいと、嗤いながら彼女はドアから私達の断罪場へと向かってしまう。
そんな彼女を追う前に、トマスは心配する様にこちらを見るけれど……
(くくく……名演技すぎるよトマス! 全ては計画通りじゃないか!)
私は笑ってしまいそうになる表情を抑えるのに精一杯だった。
全てはトマスの予想通りで計画通りだった、城はあの女性、【メルボー・ロワーズ】に支配されていると、だから最高級の装備を買って、この展開に持ち込んだのだ。
(トマスは知っていた……)
私達の出発の速さを掴まれている事も知っていた、私達が警戒されている事も知っていた、彼女が妨害してくるのも、ルーム法官が辞め、彼女が法官になっているのもトマスは知っていた、だからそれを利用したのだ。
トマスは信用を置ける以外の理由で、わざと怪しまれる様にパトリクを御者に選び。
足が着くように、目を眩ませる様に、わざと王都の高級な装備屋で買い物をし。
私はそれに身を包み、わざと神器を隠しこの展開を望んで、トマスへと付いて行き。
そしてトマスはわざと、怪しまれる様に、メルボーの神経を逆なでした。
『全ては今日、動かない理由をつけられない為に、突発的に見せかけた絶対に文句のつけようの無い、神器を披露する為の公正な場を作る為に』
そして、私達の計画はこれまた賭けに近いものだったけれど、今度は分の良い賭けだった、トマスの挑発や演技が光っていたけれど、一番はやはり私の存在。
――私の出自の余りにも凄まじい不透明さが、メルボーへと効いていた。
(メルボーが聖騎士の顔を知らないなんて言ったのは、絶対に嘘だ、そんな訳ある訳がない、もし彼女が知らなくても、彼女の部下は絶対に知っている、そしてメルボーは絶対にそれを把握している)
国境線を超える前から彼女は、こちらの動きを把握していたと言っていた、きっとイルオレーネには彼女の部下が潜んでいたのだろう、それに何の驚きも無かった、何故ならさんざんトマスから聞いていたからだ、イルオレーネの利用され具合を。
それに、そもそも私が知っているだけでも、私の身近にパトリク、トマスなんて、外部の記憶を持った例が二人も居たのだ、むしろ、もっとたくさん、メルガルドの人間が居てもなんら可笑しくないのだ。
(そう思えば誰もが怪しく見えて……今更、何か色々と見えてきちゃうな)
今思えばトマスが本来聞かれても問題が無い筈なのに、毎回あの部屋まで行って話していたのも、パトリクが人気の無い廊下で、わざわざすれ違いざまに話しかけたのも、ソレを警戒していたからなのではと、今更ながらに思ってしまう。
(本当に今思えば、色々と見えてくるよ……私の存在の可笑しさが、行動の可笑しさが、不透明さが)
もし把握しているとしたら、いやきっと私の存在も把握しているのだろう、イルオレーネは管理されているから
だからこそきっと……誰も私の正体へと辿り着けない。
戸籍上はイルオレーネのクルア学院の唯の女学生。
そう……私は聖騎士以外は記憶が操作された、魔物を認識する事が出来ない聖域出身で、トマス・エルガーとの目に見えた接点は、迷宮踏破の当日から、そしてその当日にトマスは、突発的に私を馬車へと連れて行き、そしてその次の日に迷宮は踏破された。
その後、私は踏破した事を隠し気付かれない様に逃げ出し、家に帰っており、そしてその後に聖騎士達とサイン交換で平然と目立ち、その近日、直ぐにイルオレーネをパトリクとトマスと共に出発した。
(自分で言ってても異常だと思うけど、そんな出来事が全て現実で、だからこそ私は訳のわからない要注意人物にしか見えない)
上辺しか知らないから彼らは真実へと辿り着けない、トマスの神器の存在も、信じられない程の分の悪い賭けも、私の特異性も、迷宮への執着心も、メルボーは何一つ知らない。
だからこそ彼らには私が下級迷宮を踏破して神器を手に入れられる、無知で無力な少女には見えず、トマスが聖騎士を終わらせる為に、メルガルドで何かを仕出かす為に雇った踏破者にしか、きっと見えていない。
けれどそれは仕方ないことだったのかも知れない、何しろトマスは凄まじくお金持ちで、その上、国自体も同じ事をしていたから……騎士では無く、一般の踏破者達を雇って迷宮へと送り込んで居たのだから。
(もし生き残った踏破者が居て報告されていたらって不安要素もあったけど、彼らは私の神器を知らないし、よく考えたら報告されて居たとしても絶対に私達の計画のプラスにしかならないんだよね)
彼らから見れば、私と云う聖騎士は、唯一蜘蛛の糸を見破り聖騎士を助けて生還し、ガレムの演説で注目を集め、そしてガレムが消え崩壊した中で、1人だけ姿を消して、その後迷宮が踏破されたのだ。
もしそんな報告をあった後に、メルガルドにトマスが私を連れて現れたとすれば、メルボーが私を凄腕と思うことはあっても、何も知らない弱者だなんて、ますます思うわけが無い
(ふふふ、聖騎士達の時と一緒だな、むしろ本当の事の方が信憑性が無い)
彼らの事を思い出す、彼らの言葉を思い出す、私はあの時よりもあり得ないになっていた。
(信じてたよ、カイル、ルミナ、ルイン、クリル……)
この賭けの不安要素だった彼らを思い出す、トマスとパトリク以外に、私の神器を知っていてしまった彼らを思い出す……それでも信じた私を思い出す。
メルガルド王国が見くびった聖騎士達と友好を深めていたのもメルボーには効いていた。
……メルボーが知らなかったと言うことは、きっと彼らは本当に私の事を秘密にしてくれていた、と云うことだから。
(……それにしても、心底トマスの言う通りで、私は本当に国にとって望まれていない英雄だったんだな)
メルボーの様子を思い出す、馬車でのトマスの言葉を思い出す。
『動かなければならなくなった理由ができたなら、理由に文句を付けるしかないだろう?』
馬車でのトマスの話は流石に大袈裟過ぎない、わざわざこんな演技をする必要があるのか? なんて実はずっと思っていたけれど、実際にメルボーの敵意と悪意を浴びて、トマスの計画は正しかったと恐ろしい程に感じた。
何故ならもし私が本当の神器持ちだとバレていたら、もっと酷い目に有っていた、そんな思いが浮かぶほどに、彼女から凄まじい敵愾心を感じたのだ。
……訳が分からなかった、私を偽物だと思っているから、最初はまだ甘い対応だったと感じさせられた、けれどそうだとしたら、彼女が何をしたいのか、何故それ程に迷宮踏破を拒むのか、全く理解できなかった。
(ううん、まぁ何はともあれ舞台は整った! これでメルボーは強硬手段には出れない! 後はトマスの言葉通り、迷宮に行けるかどうかは私次第……王、騎士、色んな人の前で、何処までやれるか、この2つの神器を何処まで活かせるか!)
メルボーが集めた者達の前で、どれだけ彼女の鼻を明かせるか、どれだけ自分をアピールできるか、どれだけ反メルボー派閥を釣れるか、そして、どれだけ彼らに勇気を与えれるか、それがこの計画の肝で私の役割だ。
(ふふふふ、緊張もするけれど、きっと王も騎士もメルボーも、誰も聖騎士を侮って、イルオレーネを侮って、私を侮っているんだろうな、ならメルボーだけじゃない、全員の鼻を明かしてやる!)
全てはこの先に待つ迷宮の為に……高鳴る心臓を感じながら、私を待つトマスへ、ハッキリと頷く。




