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ひたすらダンジョン!  作者: メテオス
《第2章 不死の亡国》
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二章 5話 王都は夜の爪痕に歪む

(ここが王都か……)


 私の前には石畳の道が続き、煉瓦作りの様な家が立ち並んで、通りにはそれなりに人が溢れ、街の中心には大きく高く、美しい威厳に溢れた城が立っていた。


(意外に早かったなって、イルオレーネから一日しか立ってないよ?)


 あの後は無事に検問所を超えて、そこで意外にあっさりとパトリク先生と分かれ、そのまますぐ代わりの馬車に乗って王都の手前の街で宿を取ったのだ。


(それにしても王都って程には見えないなぁ、建物だけなら立派だけど……)


 私がそう思ってしまうのも仕方ないと言わせてほしい、何故なら一日が始まる時間だって云うのに、誰もが暗く、やるせない顔で歩き、非常に湿っぽい空気が通りに溢れかえっているからだ。


「先生、王都なのに、お城のお膝元だって言うのに、なんか街全体が暗くて、なんだか汚い様な……」


 出来るだけ声を抑えて、隣に歩いているトマスに素直な感想を伝える。


「呪いの夜が近いからね、まぁ僕もここまで酷くなっているとは思わなかったけれど」


――ガタガタガタ!


 大量に荷物を載せて、まるで何処かへ逃げる様に道路を駈けてゆく馬車の音に邪魔されながらも、トマスの言葉は私の耳へとしっかり伝わる。


「呪いの夜……」


 その言葉を口の中で呟きながら、トマスの言葉を思い出す。

 確か……満月の夜に、メルガルドの至る所に、魔物が現れて、人々を襲う、そんな物だった筈だ。


(だから私はこの街が汚く感じたのか……)


 呪いの夜、その存在を頭に入れて、改めて王都を見渡すと色んな物が目に入る。

 ……到る所に取れなかったのか、きっと人の血であろう痕跡が散らばっていて、何かに破壊された様な建物が遠くに見え、怪我をしてる人、武器を持って歩く人が多いのにやっと気が付く。


 ……確かに、鳴き狂いみたいな、あんな化物が街中に出没するんじゃ、武器を持ち歩きたくもなるよね、なんて思いながら、街を見渡しているとそれに気付いてしまう。


「あの、路地裏のあれ……まさか死体じゃありませんよね?」


 まさかだよね、そんな感情を込めてトマスを見つめながら、見渡している途中に気付いてしまったそれを指差す。


「嫌だなぁ、こ(・)こ(・)は(・)王(・)都(・)だ(・)よ(・)、そんな事があり得る訳ないじゃないか、きっとただの酔っ払いだろう」


 冗談なのか、本当なのか分からない悪質な笑みを浮かべ、トマスは先を急ぐ。

 私はそんなトマスを追いかけながら、最後に一度だけ路地裏へと振り向く。


 ……王都以外だったら死体が落ちてるのもあり得るの?



 ◆◆◆◆◆



 ズンズンと進んでいたトマスは、やっと目的地に着いたのか、足を止める。


(なになに? メルタリー工房?)


 看板の先……そこには周囲の建物と同じ、レンガの壁の大きな建物があった。

 周りの建物よりも大きく目立つ二階建てで、最大の違いは需要を分かっている様に展示された武器や防具達だろう、私みたいな人でも、ひと目で装備屋だと分かる優しい建物だ。


「……先生、私の装備を整えるっていっても私お金なんて持ってませんよ?」


 キラキラと煌く剣や、鎧に目が釘付けになってしまう、店の中にはきっと踏破者であろう人達が各々熱心に武器を見ていた。

 武器を扱っていると云うのに、周りのどの建物よりも綺麗に磨かれた目の前のこの建物は、さぞかし儲かっているんだろうな。


「クライナちゃん……よくもまぁ、お店の前に着いてからそんな台詞が言えたもんだね」


 呆れたように私を睨むトマス。


「わ、私は、神器とあの剣だけで十分です! 装備屋さんなんて見るだけで十分ですよっ!」


 宿へと剣は置いてきたけれど、そもそも装備を整えるって言ったのはトマスなのだ、私は悪くない!


「何を言っているんだい……全く、さぁ城へ行かないと行けないんだ、ちゃちゃっと買うよ」


 慣れたように、どんどんと店の中へ入っていくトマス。


「ま、待ってください」


 展示された武器に目を奪われながらも、急いで付いていく。


「うーん、どれが良いかな?」


 武器、鎧、よくわからない物、一先ず店内に並んでいる品を見てまわるトマス。

 私も色々と見ようとするけれど、直ぐにトマスが別の場所に行くから全然見れないのだ。


「あの先生! 早すぎません?」


「まぁね、さっさと買って城へ行かないと行けないからね」


 店のランクを見る限り、きっと決して安い買い物じゃ無いだろうに、さっさと買って店を出ようと言い切るトマス。


「えぇっ! 私の装備ですよ!? そもそもそんなすぐ買った物なんて装備できるんですか? 自分で云うのもあれですけど、私って子供ですよ」


 防具にしても剣にしても、サイズ合わせ的な物や、そもそも受注しないと行けないんじゃないだろうか? 展示してある物をそのまま買って、戦おうとする人なんて居ないと思ってしまう。


「言っただろう? ハッタリを効かせる為だって、装備する為の物じゃない、君の戦い方を見た感じ、防具はいらなさそうだし、武器も、もう持っているじゃないか」


「えっ! じゃあなんか、戦闘に使える物は買ってもらえない感じですか……」


 私自身もガレムの剣と、神器だけで十分だと思っていたけれど、こんな高そうなお店に来て、高そうな装備を買って貰っても、それが少しも使えないだなんて何だかモヤっとした気持ちになってしまう。


「なんだい? 何か欲しい物でもあったかい? 心配しなくても大丈夫さ、後でもう一度買いに来ればいいさ」


 買い物は好きなんだと、爽やかに笑うトマス……。


(この金持ちめっ!)


 そう思いながらも、買いたい物を必死に探す私も中々現金な物だった。


「うーん、思ったよりも余り良い物が無いね……」


 そう呟くと、カウンターに座っている店員へと歩いていく。


(……まさかだよね)


 そう思いながら、私もカウンターへと向かうと。


「店員さん、このお店で一番高い物を出してくれませんか?」


 私が着くや否や、そんな事を言い出すトマス。


「すみません、お客様、展示されている物にお目が叶わなければ何もありません、ご存知の通り、最近のメルガルドは人の流れが良く無く、物の流通が悪いのです、その上、ウチほどのランクのお店になりますと、騎士を筆頭にお城の方々が……」


 ペラペラと貼り付けた笑顔で対応する店員、しかしその私達を見る瞳は蔑みと、面倒くさいと云った感情が見えていた。


「あぁ、そうかい、じゃあこれでどうだい?」


 そんな店員の態度に苛ついたのか、急にタメ口になったトマスは、ゴトリ、と店員の言葉を遮り、カウンターの上に何かを乗せる。


「なっ! 紫!? し、失礼しましたっ! お客様っ、まだ出していない、大変お買い得な商品があるのを今思い出しました! 直ぐに持ってきます」


 トマスがソレを、紫色に光る石をカウンターに置いた瞬間、店員の態度が露骨に変わり、直ぐにカウンター裏へと引っ込む。

 ……店員だけじゃない、武器を見ていた踏破者達さえもザワザワと色めき立っていた。


「……先生、一体何ですか? それ、もしかして先生って上級踏破者だったり?」


 カウンター裏へと店員が去った隙に、踏破者達から隠れる様にトマスに近寄り、コソコソと話しかける。


「上級踏破者とやらが何か分からないけれど、違うよ、これは魔含石(まがんせき)さ、君が居たイルオレーネは魔力が無いから硬貨制だけれど、殆どの国で共通してるお金は魔力なんだ」


 紫色に光るその石を私へと見せつけながら、トマスは話を続ける。


「この魔含石には魔力を蓄える事が出来てね、相手の魔含石に移す事によって支払いができる、そして色によってどれ位魔力が蓄えられているのか分かるんだ、まぁつまり、僕はお金持ちって事さ」


 今まで硬貨を使っていた君には分かりにくいかな? と私を見るトマス。


 ……前世で云う、カード払いの様な物なんだろうか? お金を払うだけでもワクワクするなんて流石異世界!


「でも魔力がお金ってどういう事です? それがあれば魔法打ち放題だったり?」


「人の魔力とこの魔力は違うんだ、こっちは資源だね、まず硬貨として使うのが可笑しい程の使い道があるんだ、恩寵の様な、素晴らしい神の恩恵だね」


 この魔含石と良い、色々と利便性がありすぎてお金として使われてしまってるんだけどね、とトマスは語る。


「も、もしかしてその魔力って、魔物を倒すと貰えたり?」


 蟲の迷宮や、昨日倒した鳴き狂いを思い出すけれど、何かを落とすと云った様子は無かったけれど、それは私が魔含石を所持してなかったからと思いたい。


「あぁそうだ、魔晶石って物を落してね、それを売る事によってお金として魔力を貰えるんだけど、売られた魔晶石を加工する事によって、いやそもそも迷宮の成り立ちを話した方がいいかな、魔力と魔物って云うのはそもそも」


「たっ大変お待たせしましたっ!」


――ガラガラガラ


 店員がガラガラと、急いだ様子でカートの様な物を持ってきて、カウンターに次々と箱の様な物を置くと、ごめんね、とトマスは話しを中断してしまう。


(気になる話だったけど、まぁ、何時でも聞けるし、いいか)


 そう思い、私もカウンター上に並べられた箱を凝視する。


「はぁ、はぁ、お客様、大変お待たせしました! お客様は一番お高い物を所望しておりましたが、見た所、そこのお嬢様の装備を探していたご様子、なので色々と持って参上させて頂きました」


 店員は媚びる様に両手をスリ合わせながらも、しっかりと目に力を入れ私を見つめる。


(……す、鋭い)


「御託はいいよ、それで今直ぐに使えそうな商品を教えてくれないかい? いくらでもその場で買おうじゃないか」


 値札さえも、何も着いていなさそうな商品を見て、期待した様に頬を上げ、トマスは言い切る。

 そんなトマスの言葉に店員は急いで箱を並べ替える。


「ははは、なんと無茶なご要望! けれどお客様は運がいいっ! まず、このメルガルド王国の中でこれ以上の物はない、最高品質のマジックリングでございます、なんと! 全て! 二等級でございます!」


 マジックリング、そんな言葉に私はつい惹かれてしまう、その瞬間に、店員は突如、大袈裟に私に見せつける様に箱を開ける。


「……おぉ」


 思わずそんな声が漏れてしまう。

 私の無骨なデザインの神器とは違い、キラキラと美しい宝飾品、意匠が凝った美しいデザインに、真ん中に小ぶりな宝石の様な物が付いた指輪が、4つ収められていた。


「へぇ、二等級のリングか、こんな物があったんだ、クライナちゃん、これは実用性も兼ねてるよ」


 私に優しい笑顔を向けてから、早くしてくれませんか? と店員を急かすトマス。


「は、はいっ! まず緑の宝石が美しいこちらっ、隠密の指輪でございます! なんと、なんとこの指輪、魔力を消費する事によって、数分間ならば、コウモリにさえ気付かれずに、くしゃみが届く距離まで近づける程に、身を隠す事が出来るのです!」


 凄まじい隠密の効果でしょう? と店員は此方へ顔を向けてくるけれど……


(影ノ偽装の超劣化だよね……)


 そう思ってしまい、トマスへと首を振る!


「ならば次は! 透き通る水の様に美しい宝石が目立つこちらっ、身軽の指輪でございます! なんと、なんと、この指輪、付けているだけでっ! ずっとずっと、装着者様の重量を軽減するのですっ! ……ただその代わり常にほんの少し魔力を消費し、効果も従来の物より低めになっております」


 大きくなったり、小さくなったり、声の調節が滅茶苦茶な店員の説明を聞きながら、考える。


(悪くは無さそうだけど、私自身、これ以上軽くなっても意味が無さそうだし……)


 またまた首を横に振る!


「ははは、いやはやっお客様っ手厳しいっ! けれど今度こそお気に召すと思いますよ! ずっと見ていられる程、美しいまるで炎の様なこの指輪、その名も暗視の指輪でございます、なんと、なんと、この指輪、驚く事に、発動すると数分間、暗闇を完璧に見通すことが出来るのです! 流石はメルガルド王国内で最高品質のマジックリング、そこらへんのゴミとは違うんですよ!? 分かってますっ!?」


 自身の店にも関わらず、マジックリングらしき物が展示されているショーケースを指差し、ゴミ呼ばわりする店員。


(うぅん、無くはないけど、迷宮は明るいし、頭痛はするけど蟲の神器があるし……)


 あまりの形相の店員に遠慮しながらも、ゆっくりと首を横に振る。


「そ、そんなっ! うぅ、今度こそ必ず! ぜったいに! 気に入る筈でございます! 他の物より、より一層に高級感漂うこの指輪、加速の指輪でございます! なんとなんと、この指輪! 発動した瞬間に重量軽減と筋力強化が同時に発動する、世にも珍しい複合マジックリングでございます! 匠の技でございます! どうですかお客様!?」


 今までより必死に、頼むようにこちらを見る店員。


(うぅぅ、無くもない、ぶっちゃけありだ、ていうか1個ぐらい欲しいよ、マジックリング!)


 相談する様に、縋る様にトマスを見るけれど、好きにすればいいさと言わんばかりに口を開かない。

 そんな先程とは違う反応を見せる私に、店員はすかさず追い打ちを掛ける。


「ようやく気に入ってくれましたか!? 大丈夫ですっ! お客様の心配は分かります、けれど大丈夫! 2つ分の魔法を発動しても消費魔力は二等級、1個分! 値段も二等級、1個分! つまりお客様が使える魔法が一気に2つ増える様な物! 実質1個で2つ分でございます!」


「買った!」


 店員の説明を聞き終わった瞬間、私の口からつい、そんな言葉が出てしまう。


「ありがとうございますっ! ありがとうございますっ! 二等級マジックリングお買い上げでございますっ!」

 

 安堵した様にカウンターへと腰を下ろす店員を尻目に、少しウンザリとした表情をしているトマスへと話しかける。


「……先生、表情が良くないみたいですけど、不味かったですかね」


 好きにすればいいさ、と云っている様に見えたのはあくまでも私の妄想で、トマスから見たら困る物だったのかもしれない。


「いいや、大丈夫だよ、それよりせっかく二等級のマジックリングが4つもあって、1つだけしか買わないのかい? それに時間を掛け過ぎだ、店員さん、休んでる暇はないですよ、他の物も早く説明してくれないですか」


 まるで全部買ってもよかったのに、なんて表情をするトマスを見て、微妙な顔になる私。


(腕輪2つに、指輪4つは流石にキツイよ……ってなんで私全部左腕につける前提なんだろ)


「お、お客様っ! その前に本当に申し訳ないのですが、その前にこのマジックリングを今購入して頂けませんか!」


 キャンセルされるか、気が気でないのか、緊張した様に汗を垂らす店員。


「……まぁいいですよ、はいどうぞ」


 トマスから魔含石を受け取った店員は、カウンターからお店の物あろう魔含石を取り出す。

 

(おぉ綺麗……どんな仕組みなんだろ)


 トマスの魔含石が魔力の光の様な物を出し、そして消えてその残滓の様な物が、お店の魔含石へと入り込む様にぶつかり、そして今度はお店の魔含石が光出す。


「お買い上げありがとうございますッ!」


 店員の最初の態度は何処へ云ったのやら、頭を下げながら、私へとマジックリングをケースに入れて渡す。

 トマスの紫の魔含石をもう一度見たからか、更に怯えている様に見える。


(うわぁ……あの店員がうるさい所為で、注目がぁ)


 唯でさえ注目を集めていたのに、マジックリングを買った瞬間、更に踏破者であろう、店内の客は私達を見てザワザワと好き勝手に喋りだす。


〔おいおい、あいつ二等級のリングをその場で買いやがったぞ?〕


〔あの男何者だ? まだ魔含石が紫だなんて、どんだけの魔力を……〕


〔あ~、何なんすかあの餓鬼、ブルジョワのお嬢様っすか? ……ちっ、気に入らないっす〕


 色んな声が私に耳に入り、ふと思う。


「あ、あのー先生……さっき買ったマジックリングって奴、イルオレーネで例えたら、一体どのぐらいのお値段なんですか?」


 そこまで、そこまでじゃないよね、なんて思いながら恐る恐る聞いてみる。


「大体、僕の教師生活の給料三十年分ぐらいかな? まぁ気にする必要はないよ」


「えぇー! 馬鹿なんですか! 返品しましょう! 返品!」


「お、お客様っ! それは困ります!」


お城に行く前に、もう胃が溶けそうだ……。



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