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ひたすらダンジョン!  作者: メテオス
《第2章 不死の亡国》
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二章 2話 望まれぬ英雄と2つの神器


(これが旅立ちと言うものなのかな……)


 これで馬車に乗るのは二回目だな、なんて色んな事を思い出しつつ、どんどんと離れて行き、もはや見えなくなってしまったイルオレーネから視線を背け、少しだけ寂しい気持ちを誤魔化す様に、窓から、大きな青空を、初めて見る広く大きな街道の先を見つめる。


(ふふふ、待ってろ、王都っ!)


 因みに私は荷物などは何も持っていっては居ない、基本トマス任せだ、それに元々私自身極端に私物は少なかったし、役に立ちそうな物はなかったから、けれどこの馬車にはパトリクが拾ってくれた、ガレムの剣があり、私の左腕には神器がある。

 ふふふ、2つの神器と、ガレムの剣、それだけで十分じゃないか!


 メルガルドの王都に向かう馬車に揺られながら、この先に待つものを想像して、胸を高鳴らせる私を、目の前の男が、愚痴る様に邪魔をする。

 

「まさか、こんなに直ぐに向かう事になるなんてね……」


 やれやれ、と言わんばかりに私に含みある視線を向けるトマス。


「はー、何回目ですか? それ、だから言いましたよね、すぐに行けますって」


 ……こんな空気すらも新鮮に感じる、旅立ちの朝に、この男は全く、何をそんな辛気臭い顔をしているんだ。


「……君のご両親もご両親で何とも言えないけれど、君は本当にそれでいいのかい?」


 トマスはあの日、あの後に、即座にメルガルドへ向かおうとする私に対し、『用意もあるし、それ以前に自身の口からちゃんとご両親に旅立つ許可を取らないと駄目だよ』、なんて言ったけれど、私はその後直ぐに、母様から許可を貰い、トマスへとそれを突き付けたのだ。


「しつこいですよ先生……それよりもメルガルドとやらにどれほど掛かるんですか? そもそも私って今どんな立場なんですか? 元々聖騎士ですらありませんよ、私は」


「あぁ、そうだね、丁度話しておこうと思っていたよ……君はいま非常に難しい立場だ、元々、聖騎士ですら無いのは、多少はどうとでもなる、今、目立つ問題は君が弱い事と、神器を2つ持っている事だ」


 私は馬車を見渡しながら、そういえば、と云った様子で誤魔化すと、トマスは、その私の言葉に思う所があったようで、即座に話に乗ってくれる。

 ……ふふふ、どうやら上手く云ったみたいだ。


「……もしかして先生は私の存在をまだメルガルドに報告はしていないんですか?」


 私はそれに乗っかる形で、真剣な表情をして、即座に返事をする。


「あぁ、そうだ、ひとまず僕が報告したのは迷宮の踏破と、聖騎士全員の帰還、それだけで、いい意味でも、悪い意味でも国の上層部は騒ぎになっていてね、それである程度の日日は稼げると思って色々工作していたんだけど、なんと驚くべき事に、君はもうメルガルドへと向かっているんだ……まぁそれは悪い事じゃない」


 そんな私に対し、僕の努力や色々な考えを返してくれ、と言わんばかりにトマスは呆れた視線を私に向ける。

 ……聖騎士が全員帰還したのに、悪い意味でも騒がれるなんて、つまり、迷宮踏破に乗り気じゃない人達もいる?


「……聖騎士全員の帰還で、そんな反応なんですか、カイル達の扱いはどうなるんです?」


 私は若干の怒りの感情を込めて、トマスへと問いかける。


 トマスの話を聞いていたら、少しづづ、少しづづだけれど、何となく思い浮かぶのだ、国の腐敗と云うものが。

 もう戦う気を失ってしまった彼らを思い出す、けれど、彼らは神器を持っていなくても、間違い無く迷宮を生き残った聖騎士なのだ。


(せっかく、聖騎士なんて腐った制度から生き残ったのに、まだカイル達を巻き込むつもりなら……)


「あぁ、酷い話さ、でも君のお陰でイルオレーネは救われた、もうあそこには何も心配する事はないよ、けれど君は覚悟しないと行けない」


 その言葉とは裏腹に、トマスの声は険しく、人の心配より、自分の心配をした方が良いと言わんばかりの珍しい表情のトマスが目に入る。


「あの時みたいに、何も考えずに、直ぐに迷宮って訳には行かないって事ですか?」


 自分の心配……迷宮に行けない事もあると言うことだろうか?


「あぁ、そうだ、それどころか、君の立場は弱く、きっと歓迎されない……辛いこともあるだろうし、協力どころか、邪魔だってされるかもしれない」


 そんなトマスの言葉に流石に疑問を覚えてしまう。


「……何でです? 人々は英雄を望んでいたんじゃないんですか?」


「あぁ、望んでいたさ、人々は英雄を望んていた、それは呪いの夜を解決してほしいからだ、けれど国は動かなかった、聖騎士を言い訳にしてね、けれどそこへ君が現れた、唯一の下級迷宮を踏破し、神器を手に入れた君が現れてしまったんだ、それは国の望む事ではない、君は国にとっては望まれない英雄なんだ」


 動かなければならなくなった理由ができたなら、理由に文句を付けるしかないだろう? なんてトマスは吐き捨てる様に、言葉を放つ。


 成る程、トマスの言葉、今までの話を聞いて考えが纏まる。


 結局の所、英雄なんて国にとってはいらなかったのだろう、事なかれ主義の現状維持を望み、民衆の不満を避ける為に、聖騎士を作り、イルオレーネでただ死を繰り返させて居た。

 全員が全員そうだとは思わないけれど、そんな停滞を破ってしまった私は、メルガルドの偉い人にとっては私の立場は余りよろしい物じゃないみたいだ。


「でも先生、そのお偉いさんの中で、私の印象が悪かったとしても何か問題がありますか? まさか迷宮踏破って、軍隊規模の物だったり!?」


 私は勝手にあの迷宮を基準にしていたけれど、下級じゃない迷宮を踏破するには、一国の軍隊ほどの兵士がいるのかもしれない……。


「……君は迷宮に行ったんだろ? 迷宮と云うのは数十人規模で踏破を目指す物だよ、だから国の協力がなければ迷宮を踏破するのは絶対に無理だ」


 君は一人で迷宮を踏破する気かい? と困惑する様に私を見つめるトマス、けれどそれに負けじと私も困惑した顔をする。


「なんで一人で踏破なんて話になるんです? 国が望んでなくても、人々は英雄を求めているんでしょ、先生? なら私が、人々から、踏破者を募えばいいじゃないですか!」


 べオルグ達を思い出す、とてもじゃないけれど、あの集団が国の騎士なんかに思えない、きっと普通の人達にも彼ら並、或いはそれ以上に戦える人は居るだろう。

 ふふふ、これなら多少の邪魔は入ろうがいける筈だ、私ってば、ナイスアイデアじゃないか!


「クライナちゃん、迷宮を踏破するとしたら、まず一般の踏破者はあり得ない、普通、国の踏破者が、例えば騎士なんかが、候補に上がるんだ、強さ、忠誠心、国からの支援、名目、あらゆる面でね」


 そんな私に対して、知らないんだから無理はないさ、と言わんばかりに、まるで幼児に物事を教えるかの様にゆっくりとトマスは説明をする。


 ……流石にそんなトマスに腹が立ってしまう。


「成る程~、そういう仕組みなんですね~、……先生がずっと回りくどく、何も知らない私もったえぶる様に話すせいで、私ったら恥かいちゃいました」


 もっと簡単に喋れないんですかね、とたっぷり溜め息を吐きながら、じっとトマスを睨みつける。


「……失礼だな、君(・)が(・)僕の話を忙しなく先取りしてるんじゃないか」


 全く、と呆れた様に、ゴソゴソと何かを探す様に、自分の荷物を漁り出すトマス。


「それは申し訳ないですけど、もっと簡単に話しましょうよ、先生は、今の所、メルガルド唯一の私の味方で、これは云うならば、呪いの夜を解決する為の作戦会議でしょう?」


 きっと呪いの夜を解決しない限り、イルオレーネに真の平穏は訪れない、きっとそれも先生は分かっている筈だ。


「……あぁ、そうだ、僕は君の味方だ、イルオレーネの為じゃない、これは君を死なせない為の作戦会議だ」


 間違いじゃなかったって証明してくれるのだろう、と珍しく前向きな笑顔を浮かべるトマス。


 そんなトマスをみて私も少し、頬が緩んでしまう。

 

「……中々言ってくれますね、それで一般の踏破者が駄目で、騎士とやらが駄目だとすれば、結局どうしようも無くないですか?」


 今度は簡単に分かりやすく、お願いしますよ、とトマスへ圧力を掛ける。


「分かったよ、それでその騎士は、国の軍だからこそ派閥がある、余り口に出したい事ではないけれど、純粋に協力してくれる騎士等は殆ど居ない、そして迷宮踏破は大きな利権をもたらす、つまり、それが僕達の狙い目だよ」


「あっ! 成る程、先程いい意味で騒がれたって事は、迷宮踏破を歓迎してくれるそんな派閥もあったって事ですか」


 なんだ、問題解決じゃないか……なんて訳にはいかないんだろうな。


「うん、けれど、それは君の強さに期待しているからだ、だからこそ、最初に言った問題点、君が弱いと言うことが問題になる、それだけで彼らは協力してくれないだろうね」


 神器を持っていると言っても、恩寵で判断する人間は多いよ、と付け足すトマス。


 ……やっぱりね。


「そりゃ、私が弱いのは事実ですから、何とも言えませんけど、そもそも、それ以前に、その迷宮は私が行った迷宮と比べてどのぐらいの物なんですか? 流石の私でも他人を自殺に巻き込む程、墜ちてませんからね?」


 私はやれると思っている、踏破者さえいれば迷宮を踏破できると思っているし、そのためには死人が出るのも仕方ないと思ってしまっている、あくまでも最初の迷宮が基準ならば。


 けれど、国に被害が出ていると言うのに、メルガルドと云う国が、そこまで頑なに迷宮攻略を拒むと云う事は、それ程、厳しく、そもそも全く踏破できる可能性が無いなんて物だとしたら、彼らをそんな迷宮へと誘うのは流石に私でも抵抗があるのだ。


(そう考えると、現状維持と不満を避ける為に聖騎士を考案したメルガルドって酷い……)

 

「……その迷宮は、君が行った下級迷宮と比べると、位が一つ上がった中級迷宮に分類されている、でも僕は騎士達が協力してくれれば、その迷宮を踏破できると思っている」


 活性化してるとは言え、本来は踏破できる筈の迷宮なんだ、とトマスは自身の考えを語る。


「……本当ですか? ならなんで騎士達で、迷宮を踏破しないんです? 迷宮を踏破したら大きな利権が手に入るんですよね?」


 迷宮踏破を簡単に言い切ってしまうトマスに、つい、そんな反論をぶつけてしまう。

 ……まさか、派閥争いで協力出来ませんとかあり得ないよね。


「皆、必要以上に恐れているんだ、アベル・ワグナーが死んだあの日から、メルガルドの全ての騎士達は、踏破者達は、止まってしまった、彼が生きていた時代とは見違えるほどに……」


 アベル・ワグナーは、迷宮で亡くなった、イルオレーネだけじゃない、迷宮を踏破し続けた英雄の死の影響はきっと凄く大きい物だったのだろう。


「……だからこそ、私の存在ですか、先生の目論見通り、私は2つの神器持ちになった」


 自身の左腕を見ながら、そう呟く。


「目論見通りなんて賢い物じゃない、自暴自棄さ、僕にとっては聖騎士が無くなった事でさえ奇跡で、君と云う存在が、こんな日を僕に迎えさせてくれたからね」


 まさか聖騎士どころか、呪いの夜を解決しようと、そんな日がくるなんてね、とトマスは静かに笑う。


「でも……それでどうなるって言うんですか? 神器を2つ持っていようが、私の弱さは変わりませんよ? 神器を持っていると言っても、恩寵で判断する人間は多いって言いましたよね、先生」


 さっさと話を進める様に、私はトマスへと、答えを急かす。


「ふふふふ、僕はね、その神器の事を誰にも言ってないんだ、国にも誰にも教えていない、知っているのはまさしく、君と僕だけだ」


 珍しく自信満々に、笑みを浮かべるトマスに、何故か親近感を覚えてしまう。


「それがさっき言ってた問題点ですか、けれど神器って凄く便利ですけれど、決して強い物ではありませんよ」


 トマスの考えを何となく察した、つまりこの神器を秘密にして、神器を一つしか持ってないフリをする。

 そして神器の能力を私の能力と偽って、実力を誤魔化すのだろう、けどそんな事してもあまり意味が無さそうだけど……。


「それは知ってるさ、神器持ちの戦いを見たことがある、強さなら魔法の方が強いかも知れない」


 トマスは私の左腕を見ながらハッキリと言い切ってしまう。


 ……どうやら私の考えは間違っていたみたいで、


「……じゃあどうするんですか、早く教えてくださいよ」


 珍しく機嫌の良いトマスを、睨みつけてやる。


「神器は強くない……けれど神器を入手するのは迷宮踏破しなければならない、その上、かの英雄が残した様に、困難を乗り超えてね、だからこそ神器持ちは尊敬され、敬意を払われる」


 君はきっと死線を乗り越えたのだろう? とトマスは嬉しそうに笑う。


「けれど、君は……聖騎士は別だ、神器を獲得したとしても、それは下級迷宮の仕組まれた物で、聖域出身の無知なる物、そこが蔑まれる点で、彼らの文句の付け所だろう、その上、君は恩寵も大した物ではない」


 言葉とは裏腹に、トマスはそのまま、頬を緩め、言葉を続ける。


「けれど、神器が2つあればきっと違う筈だ、ふふふふ、何故ならあのアベル・ワグナーでさえ、一つしか神器を持っていなかったんだ! それどころか神器を2つ持っている人間なんて聞いた事が無い、君はきっと人類初めての2つ持ちだっ!」


――きっと上手く行く筈さっ!


 珍しく、ハキハキとした自信満々のトマスの声が馬車に響いた。




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