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ひたすらダンジョン!  作者: メテオス
《第2章 不死の亡国》
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二章 1話 彼の答え、彼女の答え合わせ、まだ見ぬ王国

「はいっ、信じます!」


 そんなトマスに問い掛けに、私は食い気味に答える。

 何故なら、それこそが私が望んでいた世界で、迷宮が世界各地にあるかもしれないからだ。


「驚いたな、君はそう言うとは思っていたけれど、少しも驚かないのかい?」


 何で僕の方が驚いてるのさ、と呆れたように私を見つめるトマス。


 ……勿論私だって驚いてる、けれどそれ以上に嬉しさが勝ってるのだ。


「ふふふ……それで先生が私に神器を託したのは何故ですか?」


 話の腰を折る様に、本題へと私は踏み込む、色々と気になることもある、色々と疑問に思っていた事も、何となく考えていた私の答えもある。

 まだ頭も少し混乱しているけれど、何より私はそれを知りたかった。


「何故か……そうだな、少しその前に説明をさせてくれないか」


 一瞬だけ考え悩む様にして、そのままトマスは話を続ける。


「君はアベル・ワグナーを知ってるかい? 彼はその昔にね、メルガルドと云う名の国のある迷宮を踏破し、そして英雄として名を馳せた」


 遠い昔の話さ、と思い出す様に、トマスはゆっくりと口を動かす。


「そして彼は魔物が消えた世界を望んで、続いて迷宮を踏破した、そうして一部だけれど、メルガルドには魔物が消えた平和な土地が出来たのさ……」


 細かい説明はしない、そんなトマスを見て、私は話をしっかりと聞き、頭の中で把握する。


「そこは聖域と呼ばれ、魔物の驚異に晒されていた人達はその土地を求め、様々な諍いが起こってしまった」


 愚かだね、と言わんばかりにトマスは悲しみに包まれた声を出す。


「それを知った彼は、仲間達と共に、人々の為に、争いを止める為に、再び新たな迷宮を目指したんだ」


 一言一言噛み締める様に、トマスは言葉を紡ぐ。


「そして迷宮踏破は失敗してしまい、英雄と仲間達は死んでしまった、そしてそれを悲しんだ人々は、最後に彼の願いを思いを継ぎ、神に願い、聖域を完全な物にしたのさ」


 まるで見てきた様に、恐ろしい程の感情を込めるトマス。


「それが、その聖域がここ、イルオレーネだ、メルガルド王国の聖域、この世界で唯一、誰もが魔物を知らずに、平和に暮らす、歪んだ物さ」


 一旦話を区切る様に、静かに息を吐くトマス


「……英雄を失った人々は後悔し、聖域を協力して管理する事にしたんだ、神によって呪いの様な、祝福が掛かったその土地を」


 いつの間にか、トマスが出していた炎は消えて、暗くなってしまった部屋で、私は黙って話を聞く。


「その祝福は、人々の記憶を操作する魔法の様な物、イルオレーネ全体を包む結界、そして恩寵、魔法、そして魔物を忘れさせ、辻褄を合わせる様に、人の記憶を管理していた」


 君にとっては気持ちいい話ではないだろう、とトマスは少しだけ申し訳なさそうに話を続ける。


 そんなトマスの言葉に驚く、私が過ごして来た人生は下らないような物に見えてしまう。

 親も、妹も、友達も、私以外の誰もがまるで操り人形みたいな物だったのかもしれない、なんて思いそうになってしまう。

 けれどきっとそれは違う、彼らは操り人形なんかじゃなく、色んな思いを持っていて、私は最後に、確かにみんなと分かりあえた、


「人の尊厳を奪う様な冒涜的な事かも知れない、アベル・ワグナーはそんな事を望んでいなかったのかも知れない、けれど、確かにそこには彼が望んでいた、そんな平和な国があったんだ」


 何とも言えないような複雑な表情をするトマス。


「そこまでは良かったんだ、けれど、数年前に……数年前から、メルガルドで災害が起きた、迷宮が活性化したんだ」


 トマスの口から漏れたそれに、迷宮……なんて言葉に、やはり惹かれてしまう。


「満月の夜に、メルガルドの至る所に、魔物が現れ、人々を襲う。……現れる魔物は、国の騎士や、魔物狩りを生業とする踏破者達には余り大した物ではなかったけれど、何度も起こるその夜に、確実に人々は消耗し、恐怖や不満を抱いた」


 満月の夜、魔物は人々を襲う。


「人々は急に起き始めたそんな理不尽に恐怖を抱き、迷宮を踏破しようとしない国に不満を抱き、メルガルドで唯一、魔物が出現しないイルオレーネに嫉妬を抱いた」


 喋り続けた口を潤すかの様に、紅茶を飲むトマス、そして話を続ける。


「……かつての英雄アベル・ワグナーは神器を有していた、神器と云うのは必ずしも手に入る物じゃないんだ、事実、かつて世界に下級迷宮が多く在った時に、人々は信念、名誉、金銭、何かの為に、こぞって踏破したけれど、その殆どが神器を有しては居なかった」


 凄く貴重で、本当に凄い物なんだよ、とトマスは私の左腕を見ながら語る。


 ……そんな、私が居ない時期に迷宮が踏破されてしまっていたなんて。


「そんな中、アベル・ワグナーは神器の授かる方法を見つけたんだ、困難を乗り越える事だと、きっと知識なく迷宮へ挑んでしまった自身の体験談なんだろうね……」


 きっとそれは正解なのだろう、私自身が、それをよく理解できた。


「だから、アベル・ワグナーは世界で下級迷宮が殆ど踏破されてしまった中、メルガルドに一つだけ踏破せずに管理する様に残して置いたんだ、そしてメルガルドもそれを了承した」


 ……きっとそれが私が踏破したあの迷宮なのだろう。


「そして呪いの夜から半年後、国は民の不満を逸すように聖域を利用し、下級迷宮を思い出したかの様に聖騎士が誕生したのさ、聖域の人々は何も知らない、英雄をなぞる為に、実に都合が良いだろ?」

 

 含みある視線で、トマスは私を見る。


 ……だいたい話は見えてきた。


「君が初めに僕に聞いた、冒険者学校はその為にあるのさ、才能ある物を育て、技能を教え込み、そして結界の効果を緩和する、自分達に都合の良いようにね」


 それも君のお陰でもう終わりだ、とトマスは僅かに頬を緩ませる。


「それが君が聞きたがっていた冒険者学校の真実でもあり、聖騎士の真実さ、全ては予定調和の様に繰り返され、人々の不満の矛先をずらす様に利用され、僕はそれが嫌になり、カイル君に神器を渡して、情報を伝えようと思ってたんだ」


 最初は踏破者は居なくて、聖騎士達だけで踏破させようとしていたんだよ、とトマスは呆れた冷笑を放つ。


「そして……君が現れた、こんな狂った国に、誰もがアベル・ワグナーを知りその名を汚す、何もかもが歪んでしまった土地に、あの日、君が現れたんだ」


「アベル・ワグナー、イルオレーネ王国じゃ……誰もが知っているアベル・ワグナー」


 私も知っている、なんてそんな声がつい溢れる、空っぽだった記憶が戻る前の私でも知っていた英雄。


「あぁそうさ、誰もが知っている、結界で人々に聖騎士として刻まれたのさ、聖域にこそ英雄の名を残すべきだとね、そして今、それは利用され、アベル・ワグナーの名に、喜んで彼らは迷宮へと向かうのさ」


 トマスは静かな怒りを表すように、少しだけ声を震わせる。


 あぁ……きっと私も、記憶が戻る前の私は、その結界とやらの影響をきっと受けていたのだろう、だから知識があまり無かったのかも知れない。


「……話を戻そうか、あの日、君が現れたんだ、冒険者学校について尋ねる君がね、そんな君に僕は驚いたんだ、そんな疑問を聞きにくるなんて、まさかってね」


 だいぶ僕も追い詰められていたから、とトマスは悲しく笑う。


「だけど、地獄の穴なんて言葉に驚いてしまった君に、僕は凄く落胆して、凄く腹が立ってしまった、冒険者や色々に……あの時は本当にごめんね」


「成る程、そういう事だったんですね、いいですよ、さっ続きを」


 まぁかなり頭にきたけれど、驚くフリをしたのは私だしね。


「……ありがとう、そして君は魔物を知っていた、聖騎士と踏破者を結びつけられた、その上迷宮へと行きたがっていた、だからあの日に、現れた君に神器託したんだ」


 話が長くなったね、これが理由さ、とトマスは一旦話を止める。


 ……けれど私はそんなトマスの言葉には納得できなかった。


「わぁ、先生、随分とロマンチストなんですね……それが本当に理由ですか?」


 私は呆れた様にトマスをじっと見つめる、まだ嘘を付く気なのかと、まだ隠し事をする気なのかとそんな思いを視線に込めて。


「……クライナちゃん、何が言いたいんだい? それに結局僕の判断は間違いじゃなかっただろ、お互いにとってもね」


 やれやれ、とトマスは肩をすくめるけれど、そんな答えに納得できないよ!


「先生、私の恩寵を見たって言ってましたよね? 私はカイルの恩寵を知ってます、だから自分の弱さを知ってます、元々カイルに渡す気だった神器をそれだけで、そんな私に渡すなんて絶対に嘘ですよね?」


 納得できないと、机に身を乗り出し、答えてください、とトマスへと問い詰める。


「……」


 そんな私にトマスは珍しく黙り込んでしまう。


「……帰ってきたら、全て話してくれるって言いましたよね?」


 トマスに何があったのか知らない、けれど、分かるのだ。

 トマスの表情を見ていたら、トマスの話を聞いていたら、聖域なんて呼ばれた、このおかしな土地で、彼が聖騎士なんて仕組みをどう思っていたのか、この神器が貴重という以上に彼にとってどれだけ大切な物だったのか。


(だからこそ知りたい、何で私に託したのかを、教えてほしいよ)


 じっとじっとトマスを見つめる……すると、音を上げたのか、トマスはやっと口を開く。

 

「……言いたくないよ、こればかりは勘弁して欲しいな」


 本当に弱った表情で、顔を背けるトマス。


 そんなトマスをじっと見つめるけれど、どうやら意志は固く、仕方なく私が口を開く。


「並々ならぬ理由があったと云う事で納得しますよ、何にせよ、先生が選んだ私は成し遂げましたから、それで少し聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」


 きっとそれは無理矢理侵してはならない、トマスの想いなのだろう、だからこそ本当は聞きたかったけれど、私は諦める。

 ……いつか話してくれたらいいな、なんて思いながら。


「……ありがとう、クライナちゃん、これ以外は何でも答えるよ」


 私の質問を待つトマスに、私は遠慮なく思っていた疑問をぶつける。


「その結界とやらで、人の記憶を操作したのはわかるんですけど、恩寵はともかく、なんで魔法なんて便利そうな物まで忘れさせたんですか、いやそもそも、その呪いの夜とやらが来たのなら、聖域の結界なんて解除しても良かったんじゃないんですか?」


 パトリクが御者をして、馬に魔法を掛けたのを思い出す、あんな便利な魔法があるのなら、魔法までは忘れさせなくてもよかったんじゃないかと思ってしまう。

 それにその結界とやらが魔法だとしたら、きっと凄まじい魔力が掛かっているだろうし、アベル・ワグナーには悪いけれど、正直、そんな魔法を掛け続ける意味はないと私は思う。


「結界の源は、イルオレーネの人々から徴収された魔力なんだ、だから魔法は忘れさせた方が都合が良かったんだろう、そして結界を消さないのは、神の御業を残す為、英雄の願い、なんて色々な理由が、建前があるんだ」


 私利私欲さ、本当に下らない、とトマスは吐き捨てる。


(……ここがそのメルガルド王国の土地だとしたら、利権的な理由とかなのかな?)


 結局はアベル・ワグナーの名の下に、非合理的で、私情の混ざった何かが起きているのだろう。

 目に見えた脅威があると言うのに、人が足を引っ張り合う、心底トマスから見たら、ここは、聖騎士は下らない物だったのだろう。


「さて、他に聞きたい事はないかい?」


 再びトマスは口を閉じ、私の答えを静かに待つ。


(う~ん、もういいかな?)


 突拍子も無い真実を話されたせいか、私も結構疲れているので、もう質問は無いと言わんばかりに、トマスへと首を振る。


「……満足したかい? これが君に取っての全てだ、それで君はこれを聞いて、どうするんだい?」


 ゆっくりと、それでいて答えを分かっているかの様に、トマスは私へと問う。


「どうするですか……つまり人々は英雄の再誕を待っていたんですよね? そして今も待っているんですよね?」


 ニヤリと、頬が緩み、舌が回る、呪いの夜なんて言葉を私は聞き逃していなかった。


「迷宮は踏破され、聖騎士は廃れ、そして神器を授かった、先生、そんな英雄が目の前にいるんですよ、メルガルドに、迷宮に私を連れて行ってくださいよ」


 私に求められていた役割はそれで、人々の願いは成就されたのだ! 私は弱いかも知れない、けれど、神器が2つある、あの剣の感触を、あの戦いを覚えている。


「それでいいのかい? 本当に君は……」


 トマスは分かっていたと云うのに、心の底から引き止める様に、私へと言葉を向ける。


「止まる理由がありますか? それともまだ私が信用できませんか?」


 煮え切らないトマスに……私が迷宮を踏破して帰ってきたと言うのに、まだこの世の全てに絶望した様な顔をまだしているトマスに、思わずそんな言葉が出てしまう。


「そんな事は無いっ、けどっ君は本当に分かっているのかい? 君は利用されてたんだよ? メルガルドにっ、そして僕にっ……全て命懸けの茶番だったんだっ!」


 ずっと何かを堪えていたのだろう、私のそんな言葉に、まるで自分を責めるかの様に怒りを表すトマス。


「茶番なんかじゃありませんよ、決して、絶対に……私が、先生の選択も、メルガルドの選択も、アベル・ワグナーが残した迷宮と言葉も、間違いじゃなかったって、まとめて証明してやりますよっ」


 利用されていたとしても、結局やる事は変わらないのだ。

 だから私は踏破した迷宮を思い出し、そしてまだ見ぬ迷宮を思い馳せ、頬を緩ませる。


「……全く君はどうして、そんなにも強いんだい」


 私を散々弱いと罵ったトマスが、嬉しむ様な、哀しむ様な、羨ましむ様なそんな声を静かに零す。

 そんな声を聞けて、改めて帰ってきてよかったと思えた。




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