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ひたすらダンジョン!  作者: メテオス
《第1章 蟲達の祭典》
21/42

一章 20話 狂気の片鱗、彼らの戦い、そして……

 男は嗤っていた。

 遂に目的が果たせると、遂に神器を手に入れられると。

 それだけの為に、それだけが為に、この惨状を引き起こした男は、ただ嗤っていた。



 ◆◆◆◆◆



(……)


 目の前で起きた事実に頭が混乱する、蟲達の中で立ち尽くしてしまう。

 影ノ偽装が無ければ、きっともう死んでいただろうと思いながら、ただガレムを見つめる。

 ガレムは用が無くなったと言わんばかりに、何処かを目指す様に早々と走り去る。


(……追わなきゃ)


 そんなガレムを追いかけようとするも、チラリと後ろを見てしまう。


(カイル、ルミナ、ルイン、そしてクリル……)


 必死に蟲達と対峙し、持ち堪える彼らを見てしまう、このまま行っていいものかと少しだけ足が止まってしまう。

 このまま前に進む事は、彼らを見捨てる事ではないだろうかと思ってしまう。


(……違う、どうやってか、道を把握しているガレムを見失うのは不味いから、それに)


 真正面から蟷螂に斬りかかるカイル、連携して場所を維持するルミナとルイン、魔法で小さな、そして危険な蟲達を焼き尽くすクリル。

 そんな彼らの戦う様を見て、きっと私が行っても、何の役にすら立たないし、それどころか、確実に足手まといになってしまうだろう、と自分を納得させようとする。

 けれど


(……違う、そんな言い訳なんて、結局の所、私もきっとガレムと変わらない)


 だからこそ、あの男の気持ちが分かってしまう、何に変えても神器が欲しかったのだろうと理解できてしまう。

 そしてそれは私も変わらないのだ……きっとどれだけ彼らが大切な存在になっても、何回同じ場面が来ようが、私は此処で進む事を優先しまうと。

 トマスを思い出す、あのきっかけを思い出す、迷宮まで辿り着けた執着心を思い出す、ただそれだけの事に過ぎないんだと。

 そう思うと、気持ちが軽くなり、振り返った視線を前に向けて、足が動き出す。


(それでも、できれば……)


 そう思いながら、もう、一度も振り返らずに、ただガレムを追う。

 遂に目的が果たせると、遂にそこまで辿り着けると。

 この先に待つ者を……迷宮の主を想像しながら、私は嗤う。



 ◆◆◆◆◆



――ギィイイイイイイ!


 そんな悍ましい断末魔を上げる目の前の魔物を見ながら、すぐに()は彼らへと声を掛ける。


「っルミナ、ルインっ! クリルッ! このままじゃ駄目だっ! 切りがない! どうする!?」


 倒したばかりだと言うのに、また此方へと向かってくる緑の魔物を睨みながら、喋る余裕の無い状況の二人の援護に下がる。


「っ助かったわカイル! それでっ、どうするって!?」


「どうするも何もお前がリーダーだろカイルっ!」


 余裕が無いからか、何を言っているんだと、苛ついた様に此方を見るルミナとルイン。


(くっ、都合のいい時ばかり、僕だって考える余裕なんか)


 僕もこんな状況に参っているのか、そんな後ろ向きな感情が浮かんでしまう、けれど少しだけ余裕のある今、必死に周りを見て頭を回そうとする。

 けれど周りを見渡せば、見渡すほどに、何も浮かばない、それどころか、考えが全て吹き飛んでしまう。


(……そんな、クライナ君の部隊がッ! それに本隊がッ!)


 見たことの無い渦巻いた魔物に蹂躙されている本隊が見えてしまう、跡形も無く魔物に呑み込まれてしまったのか、先程まで分隊があった場所が見えてしまう。

 他の聖騎士達はまだそれに気付いていない、だから何とか青褪めた顔を隠しながら、必死に頭を回す、けれど何も浮かんでこない、そんな自分にさえ絶望してしまう。


(……あっ)


 だからだろうか、自分の足元に迫る、小さな魔物に気付いてしまう、いや見落していた魔物に今更気付く。

 彼らが倒した魔物さえ喰らってしまう凶悪な顎を持っているのは知っていた、容易く人間の足なんて噛み砕いてしまうであろうソレが、今、僕の足へと喰らいつこうとしていた。


(……すまない、みんな)


 恐怖など無かった、ただ、申し訳ない気持ちで一杯だった、僕なんかがリーダーなんて無理だったんだ、何が英雄だ、何が活躍だ、仲間さえ守れないのに。

 最後に足元の魔物から目を離し、迫ってくる緑の魔物へと視線を変える、せめて命に変えてもこいつだけは止めなくては、でないと、きっとみんな死んでしまうから。


「カイルッ!」


――ギッ!


 まず何かを鈍器で勢い良く殴る様なそんな音が耳に聞こえ、そして僕の足元へ迫っていた小さな魔物が吹き飛んでいくのが見えた。

 息を吐きながらも、杖で魔物を倒したクリルが見える。


「……クリル、どうして」


 助けてもらったお礼さえ言えずに、後ろに居たはずのクリルが何故此処へ、とそんな疑問が口から漏れる。


「生きる為ですっ! 生き残る為ですっ! いま此処でカイルに倒れてもらったら困るからですッ! 生き残ってクライナちゃんと会うんですっ!」


 カイルは何でそんな表情をしてるんですか、と僕を睨むクリル。


 ずっとずっと、僕達の中で一番生きるのに諦めていた筈の彼女が、こんな状況にも関わらずに希望を持って戦っていた。

 ……それはきっとクライナ君のお陰なんだろう。

 けれど、そんな彼女を見てどうしようも無く心が痛くなる、こんな現実に泣き叫びたくる。


「……クリル、僕だって、生きたいさッ! けど、こんな事は伝えたくないけどッ! 本隊も、クライナ君も、もうッ!」


 そんな僕の叫び声に、ルミナもルインも、ピクりと反応を顕にする。


 必死に隠そうとして居たはずなのに、僕は何をやってるんだ……。

 そんな惨めな自分に涙が出てしまう。


「……そんなの知ってますっ! 後ろに居たから知ってるんですっ! けどっ、それでもっ! 信じれるんですっ! あの時、カイルだって信じて叫んだんでしょっ! ならっ!」


 知っていた、と泣きそうな顔で叫ぶクリル、けれどその顔は自棄になったわけでも無く、ただ僕を元気づけるために泣きそうになっていた。


 知っていたのと言うにも関わらず、諦めていない、そんな彼女の強さにただ惨めになってしまう。

 そしてそんなクリルの言葉は僕には何も響かなかった、きっと僕も何処かで彼女を信じていて、僕が一番わかっていたから。


「そりゃ信じたさっ! 彼女なら信じれるさっ! けどっ! 此処に居るのは僕なんだッ! 彼女じゃない、僕なんだッ……」


 『きっとクライナ君なら、きっとガレムなら』、そんな惨めな思いが声に出てしまう。


 僕だって信じたかった、僕だって誰かを信じて戦いたかった、けれど彼らが頼っているリーダーが僕なんかで、その期待が重かった、苦しかった、もう自分が自分自身を少しも信じれなかった。


「……カイル」


 魔物達の中、絶望しながら泣き喚く僕に、ルインもルミナも怒りの視線を向ける、そりゃそうだ、そんな視線すら受け止められずに、もう顔すら合わせられない。


 ……見ないでくれ、こんな自分を見せたくなかった。


「嘘ですっ、カイルはやっぱり信じてないんです、自分だけじゃない……クライナちゃんも、私も、ルインもルミナもっ」


 そんなクリルの暴論に、すぐさま、否定の声を上げる為に顔を上げると、ルイン、ルミナ、クリル達の顔が目に入ってしまう。

 そして気付く、みんなが同じ顔をしていた、怒った様な悲しい顔を、僕と同じ様な顔を……。

 

「……上を気にしても仕方ないのよ、カイル」


 そんなセリフが一番似合わない筈のルミナが、悲しそうな顔で声を零す。


 止めてくれ、そんなルミナを見たくなかった。


「あぁ、お前に押し付けて悪かった、けど俺は馬鹿だから……」


 そんな顔をしない筈のルインが、泣きながら僕に謝る。


 止めてくれ、そんなルインを見たくなかった。


(あぁ、僕が、自分を信じきれなかった僕が、二人にそんな顔をさせたのか)


 きっと彼らが一番見たくない僕を見せてしまった、生きることを放棄して、僕を信じて戦っていた二人を裏切ってしまった。


「もしカイルが、私達をもう一度信じてくれるのならっ、本当にクライナちゃんを信じているのならっ、もう一度自分を信じるんですっ! 彼女が此処に現れないのは……きっと私達を信じて先に進んだからだと、そう思わないですか?」


 彼女についていけなかったクリルが、きっと僕なんかよりも無力感を味わっている筈のクリルが、手を握りしめ、僕を励ます。


(……迷宮の主)


 そんなクリルの言葉にハッとなる、自分さえ信じれないのに、まだ見ぬ迷宮の主と、孤独に戦っている英雄が容易に想像できてしまう。

 我ながら都合がいいな、と笑ってしまいながらも、剣を握る手には力が入り、僕を見つめる仲間が目に入る。


(だったら僕は戦える、もう自分は信じれないけれど、その代りに、クライナを信じて……彼らを信じて戦える)

 

「……ごめん、みんな、僕からの指示はただ一つだ、決して死なないでくれ」


 もうそれ以上の言葉は要らない、ただ顔を上げて、迫って来ていた筈の緑の魔物を睨む。


 僕の下らない癇癪の間に、かなり近づいていたみたいだけど、問題はなかった、きっとやれる、さっきよりもずっと上手く。

 それは誰も彼もが同じ気持ちみたいで、みんなさっきよりも晴れ晴れとした顔で、敵を見ていた。


(さぁ来いっ! 生き残ってやる!)


――ゴシャッッ!!


 しかしそんな僕の意気込み諸共、緑の魔物は砕かれてしまう。

 

 ……横合いから飛び出した鈍器によって。


「おいおい、手前ら、魔物の前で、喧嘩なんて随分と余裕じゃねえか」


 その台詞とは裏腹に、かなり疲弊した様子のべオルグが、陣形へと飛び込んでくる。


「……な、なんで此処に?」


「本隊はもう駄目だ……なんて所でギャーギャーと五月蝿え声がしたからな、なぁお前ら?」


 誰かに問いかける様に声を上げるべオルグ。


〔ああッ! 死んでたまるかッ!〕〔声に助けられるなんてあの餓鬼みてえだなっ!〕


 べオルグが開けた蟲達の包囲網から、二人の踏破者達が飛び込んでくる。


 絶対に生き残ってやる、と指示をくれと、散々僕らを馬鹿にした癖に都合良い彼らに顔が綻んでしまう。


(……はは、本隊が壊滅したって言うのに、戦う意志を見せる彼らがこんなにも心強いなんて)


 驚きながらも聖騎士達は、それを受け入れて魔物を迎撃する為に直ぐ様、陣形を変える。

 誰も彼もが生き残ってやると息巻く。


「ひーふーみー、あー面倒くせえ、取り敢えず死人は居ねぇ見てぇだな、じゃあ俺達を合わせて8人か? あッ!」


 此方を数えていたべオルグが、突如大声を上げる。

 来るべき魔物に備えていた全員が、鬱陶しそうにべオルグを睨む、僕も正直かなりイラっと来た。


「おいおい! あの餓鬼がいねぇじゃねえかッ! そう、クライナだッ! どういう事だッ!? あいつのお陰であの魔物を躱せたってのに!」


 クライナ、そんなべオルグの言葉に、聖騎士達、誰もが顔を上げる。

 まさか死んだわけじゃねえよな? あいつがそんなタマとは思えない、と聞いてくるべオルグについニヤけてしまう。


「はは、べオルグさん、聞いてください、彼女はきっと……」



 ◆◆◆◆◆



「~~~」


 口笛を吹きながら、何気ない様に、蟷螂を一撃で斬り殺し、無数の蜂を切り刻み、地面から迫る蟻を次々と斃しながら、そのどれも障害にすらならずに、全く速度を落とさず進んで行くガレムに恐怖を覚える。


 ……影ノ偽装が無ければ、確実に殺されていたと。


(……強い、強すぎる)


 前に進むたびに、蟲達の亡骸を生み出すガレムを見ながら、そう思う。

 蜘蛛達と踏破者達の戦いを見て、この世界の冒険者はこんな物なのかと思ってしまったけれど、この男は違う、個としてずば抜けている。

 きっと普通にやれば、あそこにいた蟲なんて一人で倒せたのではないかと思ってしまう程に。


(まぁ、あくまでも素人の私の意見だけど)


 物量には勝てないから、きっとあそこまで踏破者達を連れてきたのだろう。

 事実、一人であるガレムにはそこまで蟲は集中していない。


(……また穴だ)

 

 ずっとガレムが向かっていた方向、そこに穴が見える、転移する前と同じ様な穴が。

 それを目に入れたのか、ガレムは速度を上げる。


(あれも転移門なのかな)


 走るガレムに喰らいつく様に必死に追う。

 もしあれが転移門だとしたら、私は転移の仕方を知らないから、置いていかれたら取り返しのつかない事になる。

 そう思いながら、必死に追い、穴に入るガレムの後を続く。


(先が無い部屋、やっぱり転移門だ)


 よかった、と安堵する、もし途中で影ノ偽装が切れたら、きっと殺されるからだ。

 ……本当に効果が切れる前に着いてよかった!

 ゼェゼェと吐きそうになる息を必死に隠しながらも、ガレムの様子を見ると、蟲なんかよりもよっぽど、悍ましい笑顔を浮かべる様子が目に映り。


――そして景色が変わる。


「くくく、まさかこんなのと一人で戦うなんてなぁ」


 一体、何が可笑しいのか、その威圧感を目の前にただ嗤うガレム。

 そんな大胆な侵入者に、迷宮の主であろう魔物は不愉快そうに、その宝石(ルビー)の様に美しい真紅の瞳を向ける。


(……私は、あんな蟲を知らない、あんな蟷螂を知らない)


 思わず考えが吹き飛んでしまう、部屋の中心にいる凄まじい存在感に目が奪われる。

 さっきまでの悪趣味な部屋とは違い、明るいながらも、まるで最初の迷宮の様な部屋、そしてその中心に立つあまりにも美しい蟷螂。


(私が戦った蟷螂より一回り小さいはずなのに……)


 その美しい体に魅入られる、その美しい色に魅入られる、その存在感に圧倒される。

 そして蟷螂は咆哮を上げる様に、剣を向けるガレムへと、その美しい七色の4枚羽を広げる。

 その姿は……


(……あぁ、まるで、(ドラゴン)




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