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ひたすらダンジョン!  作者: メテオス
《第1章 蟲達の祭典》
20/42

一章 19話 完璧なる生物、美しい迷宮

(どこで間違えたのだろう……?)


 眼の前で起こる惨劇に少女は後悔するが、今更もう遅い。


 抵抗虚しく、次の犠牲者になるであろう者が、周囲の者所か、自分を害そうとしている者にさえ血に濡れた必死の形相で助けを求める。


「ああぁッ! あともう少しなんだッ! い、嫌だッ! 死にたくないッ! 助けてくッ……」


――グシャッ!


 そんな命乞いの叫びに、目の前の怪物は少しの感情すらも表さずに、何度も何度も冒涜的に魂を引き裂く。


(嗚呼……舐めていた、魔物と呼ばれる存在を舐めていた、迷宮と呼ばれる物を甘く見ていた)


 何が大蜘蛛だけだ、何がこのまま行ったら、迷宮踏破出来ちゃうかもだ、何が理想に近い状況だ。

 どんどんと死んでゆく踏破者達を見ながら、そんな甘かった自分の考えに反吐が出そうになる。


(魔物と言うのはこうっ、ゴブリンやオークとかまだ可愛げのある異世界生物を想像してたのにっ……!)


 ここは私が想像していた迷宮じゃなかった、この世界の迷宮は私が考えていた物では無かった。


 “そして私がさっきまで居た迷宮とも思えなかった”


 目の前で起こる惨劇が、嘘の様に明るい部屋が、目の前の魔物達が、そうは思わせてくれなかった


――ジジジジジジ!!!!


 ソレは魔物と言うより生物、私だけが知っている……私だけが知っていた、この世界には居ない筈の蟲! 見渡す限りの悍ましい蟲達。


 剥き出しの地面に人の頭蓋はあろう、大きな蟻(アリ)達が忙しく這いずり回り、人と蟲、両方の亡骸を平等に喰らい。


 大の大男(だいのおおおとこ)程の体躯を誇る悍ましい蟷螂(カマキリ)がその体に見合う大きな鎌を朱く染め。


 小指ほどの無数の蜂(ハチ)が纏わりつくかの様に群がり、恐ろしい爪痕を残す。


 ……そんな残酷な蟲達に踏破者達は混乱し、一人また一人と命を失っていく。


 だが……そんな血が飛び散り、人の惨劇が支配する混沌の迷宮に、未だに諦めていない声、空気が震える様な怒号が響き渡る。


《慌てるなッ! 陣形を立て直せぇ! 本隊に合流できない者は近くの者と協力しろッ!》


 この集団のリーダーである男、ガレムは、蟲達の襲撃に対し周り者よりいち早く我に返り、即座に状況を判断し、今(・)更(・)、適切な指示を繰り出す。


(ッ! 逃げなきゃ! 本隊の近くにッ!)


 それでも私はそんなガレムの声を聞き、短剣を片手に死に物狂いで走り出す。

 幸い、私と本隊への距離はそう遠くは無かった、けれど、蟲が、蟲達の包囲網がそこまでへの道を阻む。


(……蟻が大量、そして蟷螂が1匹)


 走りながら、進行方向上に居る蟲達を数えながらも、回り道をする余裕は無く、そのまま最短距離を突き進むと心に刻む。

 そんな私に気が付き、早速と地面を這って、私を喰らう為に向かってくる蟻達。


(私の想像していた迷宮じゃなかったのに、私が知っていた魔物じゃなかったのに、恐ろしくない、それ所か)


 体が前へと動く、本隊への道が……進むべき道が視える、蟻たちの隙間が視える。

 遅い、遅いと蟻達の隙間を縫うように、前へと進んで行く。

 だがとにかく数が多かった、蟲の癖にまるで連携する様にどんどんと蠢き、遂には足の踏み場所が無くなってしまう。


(っくそ、躱せないッ!)


 私の足の着地の間際を狙って、喰らう為に、じっと動かずに地面にへばりつく様に待ち構える蟻が目に入ってしまう。

 けれど私は足を止められない、ここで止まってしまったら、どちらにせよ待っているのは悲惨な死だけだからだ!


(ごめんッ! トマス!)


――グチャッ!


 だからこそ止まらずに、咄嗟にトマスに借りていた上着を地面に投げつけて、その上から思い切り蟻を踏み潰してやる! そうして強引に道を作り出し、そのまま前へ、前へと突き進む。


(はははは! さぁ、次はどうするッ!?)


 全身に溢れ出す妙な高揚感を抑えながら、冷静に進む先を睨みつける。

 迫ってくる私に気付き、威嚇する様に、いつでも鎌を振れる様に、二本の鎌を高々と振り上げ仁王立ちしながら待ち構える蟷螂。

 そんな私を通さない意志を見せる様に腕を広げる蟷螂を睨みながらも、必死に頭を回す、その間にもどんどんと距離は縮まって行く。


(胴が、がら空きッ!)


 これしかないと、走る勢いを殺さない様に落ちていた誰かの兜を思い切り、殺意を込めて蹴飛ばしてやる。

 足に伝わってくる感触と、心地よい風切り音に手応えを感じながら、狙いは少し甘いけれど、その蟷螂の柔らかさそうな胴体へと飛んで行くのをしっかりと確認する。

 そんな私の行動に、胴体を守る様に両手の鎌を思いきり振り下ろし、向かって来ていた兜を弾く蟷螂。


(……邪魔ッ!)

 

 迂闊な行動をした蟷螂を尻目に、私は真正面から全く減速せずに走り続け、蟷螂の目の前へと迫る。

 そんな私を見てから蟷螂は振り下ろしきった鎌をすぐに上げようとするけれど、今更遅い。


 甘い、甘いと笑いそうになりながら、減速せずに、その身の毛がよだつ程大きな、悍ましい蟷螂へ、真正面からぶつかりに行く。

 その衝突する寸前に半歩だけ体をずらし、蟷螂と地面の間を縫う様に潜り抜け、すれ違いざまにその細い後足の関節に短剣を突き刺し、手応えを感じる間も無く、そのまま一気に引き抜き駆け抜ける。


――ギィイイイイイイ!


 そんな悲鳴の様な鳴き声と、鎌を思い切り振り上げていた最中に膝を破壊されたからか、ドシリと倒れ込む様な音が背後から聞こえる。


「あっはははははは」


 走りながらも、息を乱しながら、つい我慢できずにそんな蟷螂に笑ってしまう、あの状況を、蟲達の包囲網を、この剣一本で切り抜けた事に興奮してしまう。

 こんな状況にも関わらず、やってやったぞ、と身を焦がす様な、脳が蕩ける様な高揚感が私を襲う。


(ひょっとして私って強い?)


 なんて馬鹿な考えが頭に浮かぶが、即座に否定する。

 何故なら、別にあの蟷螂を倒せた訳じゃないのだ、あそこまで上手くやれて、やっと足一本、私にはあの蟷螂仕留める手段が無い。


(それにしても、どうやら私の判断は正しかったみたい)


 周りを見渡しながら、そう思う。

 何故なら、蟲達の襲撃から崩れず耐えているのは本隊と、本隊とは離れた位置で何とか持ち堪えている、カイル達、聖騎士達だけだったからだ。


 神経を研ぎ澄ませながらも、チラリと聖騎士達の戦いを見る。

 私なんかとは違い搦手を使わずに、ま(・)と(・)も(・)に(・)蟲(・)達(・)と(・)遣(・)り(・)合(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)。


(……やっぱりだ、聖騎士は強い)


 辺りに転がっている踏破者達の死体と、蟲達と戦えてる聖騎士達を見比べて、やっと確信を得る。

 クリルの魔法を見た時から分かってたけどね、それにあの恩寵で弱かったら、私の立場が無い。


(本隊にもう少しで……! っ!? ま、まずいっ!)


 本隊まであともう少し。

 しかし私はこの明るい部屋の天井を見つめながら、思わず立ち止まってしまう。


「そこの餓鬼ッ! そんなところで立ち止まるなっ。死にてぇのかっ! おいっ! 早く来やがれぇッ!」


 善意からか……違う。少しでも戦力が欲しいからだろう。

 べオルグが蟲と対峙しながら必死に叫ぶ。


「上です! 上なんです! 洞窟の天井にっ! あれは岩とかそんな物じゃないんですっ! 大量のカタツムリがっ!」


 天井にビッシリと張り付いたソレを見ながら、演技する余裕も無く必死に言葉を伝える。


「はっ? か、かたつむりぃ!? 何を言ってるっ!? 天井にっ、なにか居…るの、か……?」


 本隊に向かってそう叫ぶけれど、もう遅いのは見て理解してしまった。

 殆どの者が目の前の敵に必死で上を気にする余裕などなかった。

 つまりこの場所まで追い込まれた時点で本隊の壊滅はもはや当然の出来事だった。


――ボタッ!ボタ!ボタ!


 だから……本隊の上から降り注いで来る蝸牛から目を反らして、最後にこの場所まで追い込んだガレムをじっと見つめる。



 ◆◆◆◆◆



 いつまでも物々しい雰囲気の踏破者達に辟易させらながらも、魔物の襲撃も何もなく、歩き続けてどれぐらい経ったか。

 そんな事を考えていたら、急に景色が変わる、光が目に入る、遠い前方の辺り一面が光っているのだ。


(……何あれ、もしかして壁が光ってる?)


 遠目にだが、鼓動する様に動き続ける光の紋様が映る。

 その光景に、踏破者達もざわざわと騒がしくなる。


《ほぉ! もう此処まで来ちまったのかッ! お前らアレが転移門だぞッ!》


 気を引き締めて行けよ、と声を掛けるガレムに更に踏破者達は騒がしくなる。


〔……あれが転移門?〕〔……もうそこまで〕〔何なんだよ、あの光は……〕


(……転移門?)


 その言葉に、何だそれは、と疑問を持ってしまうけれど、踏破者達に話しかける勇気は無いので、仕方ないから歩きながら考える。


(ガレムの気を引き締めろって言葉からするに、迷宮の主との戦う為のゲートなのかな?)


 闇の中、目の前にドンドンと迫ってくる一面の光を見ながらただ考える。

 

(……けど踏破者達の反応を見る限り、まだそこまでは行って無さそうだけど)


 近づくに連れ、その光の壁の全容がどんどんと明らかになって行く。


(てゆーか、まず転移門に疑問を抱かないんだね、もしかして入り口のあれも転移門だったのかな)


 鼓動する様に動き続ける光、水晶の様な壁、そしてぽっかりと空いた穴。


(……もしかして此処に入るの?)


 躊躇せずに進んで行く、ガレムに踏破者達、渋々付いていく。


 普通なら見とれそうな程の美しい光景だったけれど、気が乗らないのは何故だろう。

 その美しい光に、その美しい水晶の様な壁に、辟易とさせられるのは何故だろう。


(……)


 もしかしたら、その光は幻想的と表現するには不似合いで、蠱惑的だったからかもしれない。

 もしかしたら、その水晶の様な壁が、有機的で、重厚感があり、肉々しく見えたからかも知れない。


(……気持ち悪い)


 そのぽっかりと空いた穴の中を通ると、まるで最初の大部屋の様な所へたどり着く。

 美しい水晶の様な壁に囲まれ、ドクンドクンと鼓動する様に動き続ける光が、ぬらぬらと部屋全体を照らす。

 さっきまでの薄暗い迷宮が嘘のように、明るい光が私達を包んでくれるけど、ほんの僅かの安心感を感じられなかった。


(……有機的に感じる要素なんて一つも無いはずなのに、なんか壁とかぶよぶよとしてそうって感じちゃうな)


 他の人はどうだろうと、踏破者達を見ると、少しだけげんなりとした顔をしているので、私だけがおかしいわけじゃないみたいだ、多分。


 ……どうやら私が部屋を見渡している間に、ガレムが聖騎士達と話していた様で、中心から前方へと帰っていくガレムが見えた。


(……何話してたんだろ)


 そういえば、割とガレムって結構、聖騎士達の所来てたっけな、なんて思い出していたら、ガレムの指示が耳に響く。


《よしよし、お前ら、楽にしていいぞッ!》


 そう言いながら、此処は安全だと言わんばかりに、どっしりと腰を下ろすガレム。

 そんなガレムの言葉に続々と腰を下ろす踏破者達、私もすぐに座る。


《遂に転移門まで来たぞお前らッ! よくやったッ! 聖騎士達も全員生きてるぞッ!》


 そんな鼓舞する様なガレムの言葉に、やったぞ、と言わんばかりの顔で応じる踏破者達。


 やはり、聖騎士達が生存していると彼らはお金が貰えるんだろうか?

 ルミナが微妙な顔をしているのが遠目に目に入る。


《そうだッ! 此処を乗り越えりゃあッ! もう少しでッ! 栄光を味わえるぞッ! 掴めるぞッ! お前らッ!》


 そうだ、そうだ、と言わんばかりに熱狂的に頷く踏破者達。


《だからこそッ! 俺に策があるッ! 生き残る為の策がなッ! 陣形を変えるッ! 隊を3つに分ける!》


 そんな自信満々ガレムの言葉に、今までと違い、流石にざわざわと困惑する踏破者達。


 その通りだ、今の今までしてきた事と全く逆に事をしているからだ、私だって驚く。


《くっくっくッ! まだ俺を信じれねえかッ!? 今までの活躍を見て信じれねえかッ! 今まであんなに縋るような目で見てきてまだ信じれねえかッ! まぁ命が掛かってんだ、当然だよなぁ!》


 その言葉とは裏腹に、失望するような表情をするガレム、そんなガレムの言葉の説得力に、流石の踏破者達も静かになる。


《くく、すまねえな、お前らッ! それでだ、分ける隊は俺が率いる本隊ッ! そして聖騎士達の分隊、最後にそこのお嬢ちゃん、クライナが率いる分隊だッ!》


 静寂、あまりのガレムのその言葉に、一瞬の静寂が生まれ、そして一気に不満が爆発する。


 なんでと、どうして、と、せっかく聖騎士達を生存させたのに、と、意味がわからないと。

 そして私自身も、度肝が抜かれる思いだった、周りの踏破者達の視線が痛い。


《くっはははッ! お前らの気持ちも十分、分かるッ! だがまず聞きやがれ、まずは本隊ッ! 此処は俺が率いるが一番危険な隊だ、敵と真っ向からぶつかる、俺が一番前に出よう》


 心配するなよ、本隊だろうが、分隊だろうが儲けは同じだからな、と愉快そうに笑うガレム。


 危険、そんな言葉に、ガレムの隊から外されてしまったら不満を起こしそうだった踏破者達が、徐々に落ち着いて行く。

 私の周りの踏破者達も、私を恨めしそうに睨む視線を柔らかくする。


《次は聖騎士達の分隊だなッ! せっかく此処まで全員生存で、無傷で連れてきたってのに疑問に思うよなッ! だからこそだッ!》


 何故、と疑問を隠さずに浮かべる踏破者達を見ながらガレムは言葉を続ける。


《戦力になる奴を温存し続けてどうするッ! 死んだら元も子もねえぞッ! なら戦わせた方がいいだろッ! それともなんだッ! 誰かが熾烈になる戦いで子守でもしてくれんのかぁッ!?》


 疑問を浮かべていた踏破者に狙いをつけるかの様に、睨むガレム。

 睨まれた踏破者はあまりのガレムの迫力に、首を一生懸命横に振る。


《そうだよなぁッ! それにお前らも分かってんだろ、あいつらは強い、お前の恩寵を聞かせてやるか! カイル!?》


 さっきのやり取りは恩寵聞いていたんだろうか、ガレムは問いかける様に、陣形の中心にいるカイルへと言葉を飛ばす。

 流石のカイルも苦笑しながら断るけれど、ガレムの言葉に一理あったのか、踏破者達も一先ずは納得した様だ。


 けれどまだ最後の大きな疑問が残っていた、踏破者達も不安と不満混じりの表情で私を見る。


《くっくっく、何不満な顔してるんだお前ら、そいつはあの闇の中から帰還したんだぜ? 誰も戻ってこない中で、唯一、仲間を守りながら帰還したんだぜ?》


 この中で一番実績があるじゃねえか、とガレムの言葉にはっとした表情になる物、納得できないとまだ不満げな顔をする者、胡散臭そうに私を睨む者。

 そんな踏破者達を見て、ガレムは嬉しそうに舌を回す。


《そうだ、それこそが隊を分ける理由で俺の策でもある、見てねえとは言わせねえぞッ!? クライナが闇へと走って行く姿を……誰も、俺さえも分からなかった、あの恐ろしい何かを見破り、生還しやがったッ!》


 誰もガレムから目を話せなかった、どんどんとガレムは白熱する様に言葉を飛ばす。


《そいつは見破りやがった、あの化物は糸をくっつけていやがった、恥ずかしい事に俺は全く気づかんかった、そしてその糸はとんでもねえ驚異だッ! けれどそれ以外はどう思うッ!? 俺達はあの化物を何匹殺したッ!? 馬鹿を除きゃあ、あの糸以外に死人はいねえぞッ!》


 ガレムは私に視線を向けながら、手を広げ言葉を続ける。


《だからこそッ! その糸を見破ったクライナは凄えと思わねえかッ!? 任せられると思わねえかッ!? 事実、そいつは藍色の餓鬼を生還させやがった! 尊敬できると思わねえかッ!? 俺はそう思ったッ! お前らはどうだッ!?》


 私の周りに居る踏破者達を見ながら、ガレムは叫ぶ、踏破者達は値踏みする様な目で一斉に私を見る。


 ……あの男は何を言っているのだ、皆がガレムのカリスマ性、実績、勢い、この場所、そして熱狂的な雰囲気に飲まれる中で、きっと私だけがその波に乗れなかった、ガレムは一体、何を言っている?


《あの糸を見破って生還したクライナを見たかッ! そしてそれから出来たのが、この策、この3つの隊だッ! これが俺の生き残る為の策でッ! あの凶悪な糸への策だッ!》


 そうだよなぁクライナ? とガレムは熱に呑まれた様な視線を向ける、誰もが私に視線を向ける。


 顔を反らすことさえ出来ずに、ただ頷くしか無かった、きっとガレムの事だ、と信じてしまった。

 私が頷いた瞬間に、この場所の興奮は最高潮まで達する、すかさずガレムは言葉を飛ばす。


《だとよお前らッ! あとは戦うだけだッ! 勝利の決まった戦い程、虚しいもんはねえがッ! これだけは別だなッ! あとはあの魔物共に真正面から勝つだけだぞッ!》


――ウオオオオオオオオォッ!!!!


 気を引き締める所か、油断させる様なそんなガレムの言葉に、踏破者達の士気は一斉に上がる。

 先に待つ欲に目を奪われたのか、目の前危険を忘れる踏破者達、それはきっと悪い事だったのかもしれない。


《よしッ! いいぞッ! お前らッ! じゃあさっさと配置に付けッ!》


 目の前の凄まじい士気を維持する為か、安全地帯にも関わらず碌に休息さえ取らずに、進もうとするガレム。

 誰もが疑問さえ忘れ、ガレムの指示へ従い、3つの隊へと分かれる。


《じゃあ、お前らッ、転移門を発動させるぞッ!》


 そして転移した実感すらわかずに、景色が少しだけ変わる。


――そう、少しだけ……部屋自体は先程とは変わらなかったけれど、目の前にいる異形な化物(蟲)共が景色を変えていた。


 先程の嫌悪感を抱く部屋に、私達を囲む様に、嫌悪感を抱く蟲達が蠢いていた。

 こんな状況なのに、そんな光景に何故か凄く納得した気分になってしまう。


(……まるで肉の巣だ)


〔っ待ち伏せッ!?〕〔何なんだよっこいつら、こんなの……〕〔……足がッあああ!〕〔ガレムさんっあああァ!〕


 突然の奇襲、挨拶をする様に群がる蟲達に、油断していた踏破者達は阿鼻叫喚になり、地獄の様な惨劇が始まった。



 ◆◆◆◆◆



(ガレムも予想外だったのかな……)


 自身も苦戦する様に、目の前の蟷螂と必死に剣を合わせるガレムを見て、私の疑問も吹き飛ぶ。


 ガレムは何をしたかったのか、今更そんな事を考えても無駄だろう、私は死ぬ、そしてその前にガレムが死ぬからだ。

 必死に目の前の敵に対応する本隊に、容赦なく降りかかって行く蝸牛を見ながらそう思っていた。


(……なッ!? 《影ノ偽装》!)


 しかし見てしまったのだ、その剣の煌めきを、その剣の軌道を……その悪意を。


――ザンッ!


 そんな微かな音が遅れて伝わってくる、やっとソレを理解し、無意識に神器を発動した事に後から気付く。

 ガレムの近くで血を流し斃れる踏破者が目に入る、ガレムの目の前で斃れる蟷螂が目に見える、自身へと降り注いで居た蝸牛を切り刻んだガレムが

 

 “返しの刃で蟷螂を一撃で斃し、そのまま、その光景に驚いていた踏破者を殺してしまうのを見てしまった”




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