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ひたすらダンジョン!  作者: メテオス
《第1章 蟲達の祭典》
18/42

一章 17話 絶望より希望、希望より無謀

 二人で寄せ合い、必死に息を潜める。


 そんな二人の息遣いだけが響く、闇の中で私は耳を澄ませる、異常な音がしないかを、必死に探す。

 あの蜘蛛の音、あり得ないだろうけど私達を探しに来るかもしれない踏破者達の足音、もしくはそれ以外の何かを。


(……それにしても暑いな)


 私達がお互いの息がかかるぐらいに密着しているからか、割と暑いのだ。


(……まさか私が誰かを助ける事になるなんてね)


 私の下に居るクリルを意識しながら、そう思う

 ふふふ、もしも私が聖騎士を全員生還させたらトマスはどんな顔をするんだろうか、見れたらいいな……。


(……ガレム達はどうしてるんだろう)


 蜘蛛達が戻ってくる事を恐れて、もう進んでしまっているんだろうか?

 いやきっとあれだけ疲弊していたのだ、休息は取っている筈。


 もしガレム達が進んでしまって居たら、ここを生き残っても……。


(……ううん、駄目だよ、私、もっと前向きな考え事を)


 一度そんな考えが浮かんでしまったからか、現実に戻ってしまう、後ろ向きな考えしか思い浮かばなくなってしまう。


(…………)


 怖い。


 いつ音がなるのかが恐ろしい、もしかしたら顔を上げたら囲まれているかもしれないのが恐ろしい、もう気付かれいて、音も無く忍び寄られている最中かもしれないと思うと逃げ出したくなってしまう。


 あぁ、闇の中にいつまで居たらいいのか、どれほどの時間がたったのか、いつまでこうしてればいいのか……わからない。

 

 少し前はこれは行けるかもしれない、なんて思っていたけれど、少し時間が立ってしまうだけで、こんなにも恐ろしいとは思わなかった、じっと動かずに闇の中にいるのがこんなに恐ろしいと思わなかった。


 悪い考えが頭の中を支配する、そんな事を考えてしまっていたからか、それが現実になってしまう。


――……コツ……コツ……コツ


(……ッ!)


 そんな音に、私も、私の下にいるクリルも身を固くする。


(……クリルも驚いたって事は幻聴じゃない筈)


 残念な事に、恐怖に染まった私の幻聴では無くて、本物の魔物が来ている様で。


 そう分かると否やさっきまで後ろ向きな考えが全て無くなり、集中して耳を澄ましている私に自分のことながら驚いてしまう。


――……コツ……コツ


(距離は遠くて、数は少ない……)


 私達の位置を突き止め、捕らえにきたのか、それとも偶然にこちらへ来たのか。

 情報を探る為に、逃げ出したくなる気持ちを抑えて、ただ耳を澄ませる。


――…………コツ……コツ……コツ


(音が少しずつ離れていってる……?)


 もしかして、ただ偶然、こっちに来た? なんて希望が胸の中に芽生える。

 しかし。


――……コツ……コツ……コツ


(……くそ、戻ってきた)


 やはりバレているのでは、そんな不安が胸に渦巻き、ただ早くどこかに行って、と、此処から離れてと祈る。


――…………コツ……コツ……コツ……コツ……コツ……コツ


 しかしそんな祈りを馬鹿にする様に、離れては戻り、離れては戻る蜘蛛、そんないつまで経っても離れない蜘蛛に苛立ってしまう。


(……時間が経つ程、ガレム達が離れても可笑しくないって言うのに、何が目的で)


 ……もしかして探してる? そんな考えがふと思い浮かんでしまう。


 その瞬間、苛立ちが消え、吹き飛んだ筈の恐怖がぶり返す。

 あの化物が……あの化物達が、無機質な8つの瞳で明確な意志を持ってこの暗闇の中で私達を探し彷徨っている、そう思ってしまうと身の毛がよだつ様な恐怖が私を襲う。


(頼む、早く離れて……)


――……コツ…………コツ…………コッ…………ッ。


 そんな祈りが通じたのか、ゆっくりと、ゆっくりと、諦めた様に音は遠くなって行き、やがて聞こえなくなる。

 やっと行った、と安心するけれど、動けない、動いていいのか分からない、顔を上げる事すらできない。


(……音が戻ってくる前に動かないと)


 そう思っているのに、今度は、まだ、まだ動かない方がいいんじゃないかと、そんな考えに頭が支配されて、まるでこの闇の中で体が石になってしまったのでは、なんて思ってしまうぐらいに体が動かない。


(そんな場合じゃない、早くしないとガレム達が……)


 きっと彼らは移動してない、そう信じて無理やり頭を、恐怖で固まってしまっている心を動かす。


(……この為に足を止めて、体力と魔力みたいな何かを回復させたんだ!)


 疲れきった体に少しは体力が戻っているのを確認する、私からゴッソリと抜けた何かが多少は回復しているのを感じる。


 ……きっと、行ける、成功するはずだ。


(《影ノ人形》、蜘蛛がもしまだ近くに居るなら、大きな音を鳴らして引きつけて!)


 祈るように神器を発動させる、ゴッソリとまた私の体から何かが抜けていく感覚が走る、頭が少し痛い。

 そしてまた少し魔力の様な光が私を包むが、クリルは無反応なので、きっと影ノ偽装の効果が続いてるとそう信じる。


――パタ、パタ、パタ


 そんな音が耳に入る、小さい軽い様な足音、きっと私の影ノ人形だろう。

 そんな頼りない軽い音に、大丈夫なのかなんて思ってしまう。

 クリルがその音に驚いているけど、私はまだ動かない。

 


――…………パタ、パタ、パタ……。


 どんどんと離れて行き、やがて聞こえなくなる足音。

 どうやら近くに蜘蛛は居ないみたいで、安心してしまうけれど……。


――…………バタ! バタ! バタ!


 安心した刹那、そんな激しい音が暗闇に響く。

 そして


――コツ……コツ、コツ、コツコツコツコツコツ!!!


 そんな音が響いた瞬間、それを追いかける様な、想像できない程のおびただしい数の音がなる。


 その音に思わず、数が少ないなんて思っていた自分に笑ってしまうそうになるけれど、そんな場合じゃないと、怯えるクリルの声を掛け、音に乗じて急いで移動する。


「クリル歩けるっ?」


 まず顔を上げ、急いで周りを見渡してから、立ち上がり、クリルを起こす為に手を伸ばす。


「はいっ!」


 そんな私の手を握り返すクリル。


 どうやら影ノ偽装の効果は切れているみたいだ、なんて思いながら、クリルの手を引き、ガレム達が居た所への道しるべである、痕跡へと向かう。


(……嘘っ、ない?)


 痕跡が有ったはずであろう場所につくけれど、必死に見渡して痕跡を探すも見当たらない。

 なんで、どうして、まさか方向を間違えた? どうする!? 探せばまだ……。


「……クライナちゃん、あれ」


 何かを見つけたクリルが、ソレを指差し、私もソレを見てしまう。


 ……引きづられた踏破者達が持って居たであろう、ボロボロになった小さな剣が。


(……方向は間違っていない、じゃあなんで)

 

 最悪な答えが頭に浮かぶ、もしかして、蜘蛛達の死体が消えた様に、時間経過で痕跡が消えてしまったのでは? なんて。

 そんな筈は無いと、ここまで来て、ここまで頑張ってそんな仕打ちなんて、と思うけれど、もうそれしか考えられなかった。


(……こんな方向すら見失いそうな闇じゃ!)


 何も景色が変わらない、遠くに見えるのはぼんやりとした闇だけ、だからこそ痕跡を辿らないと行けなかったのに、それが無くなってしまった。


 落ちてる物を伝う? 駄目だ、この剣の周りでさえもう何も落ちてない、結局は運任せになってしまう。

 地形さえ分からない、どれぐらい広いのかも分からない、どこに化物が居るかも分からない、そんな中、なんの光源さえ持っていない踏破者達を見つける事が出来るわけがないっ。


 何も浮かばない、せっかく切り抜けたのにこんな現実に、立ち尽くしてしまう。


「きっと大丈夫です、クライナちゃん」


 そんな私を励ましてくれる様に優しく手を握るクリル。


 そして、少しだけ聞いてくださいと、私を見つめる。


「……私はいつからか、ずっとずっと絶望してました」


 真剣に私を見つめるクリルから、私は目を離せなかった。


「ただ恐ろしい者に殺されるだけに生かされるこんな世界が大嫌いで……全てがすごく、すごく怖かった」


 ギュッと私の手を握りしめる。


「私はそんな運命だったんだって自分を無理やり納得させて、ただ今日この日まで、ずっとずっと何の希望も持てずに、ただ漠然と過ごしてました」


 そんな運命を知るまでは、私はただの子供で幸せだったんですよ、と何かを思い出す様に、何かを哀しむ様にクリルは少しだけ微笑む。


「……踏破経験者の貴方が乗り込んだ時も、ガレムさんの指揮を見た時でさえ、ほんの少しの希望も持てませんでした」


 私はカイルやルイン、ルミナ達とは違うんです、ただ絶望して自分にすら期待できなかったんです、とクリルは自虐的な笑顔を浮かべる。


「……けど今は違うんです、私なんかが、生き残れるかもしれないなんて思ってしまって、今もきっと戻れるなんて思ってるんです、ふふ、おかしいですよね」


 まるで自分に言い聞かせる様に、クリルは嬉しそうに笑う。


「だから立ち止まらずに前へ進みましょう、クライナちゃん、貴方に絶望は似合わないですよ」


 まるで私を真似た様なドヤ顔で、希望に満ちた顔でクリルは私を見る。


 ……そんなクリルに言葉に少しだけ笑いそうになってしまう。


(私に絶望は似合わない、か)


 私は勇敢でもなければ、命を簡単に諦めるし、突拍子も無い行動も、それ故に出来るだけだ。

 ……だからこそ、確かに私に絶望は似合わない、なんて自分でも思ってしまう。


(……どうせ拾った命だ! 行動すらせずに諦めるのは私らしくなかったかな)


 そう思うと気持ちが楽になる。

 そうだ、忘れていた、今日の私は強運で、ツイてるのだ。

 ただ歩くだけじゃないか、きっと辿り着ける筈だ。


「……ありがと、クリル、何の策も無いけど、着いてきてくれる?」


 そう言いながら、返事さえ待たずに、自分が此処だと思う方向を探す。


「はいですっ!」


 …………きっとこっちだ。



 ◆◆◆◆◆



「――――これが私の知っている魔法の知識ですっ」


「うん、ありがと、けど私には使えそうにないな……」


 ただ歩く、闇の中をひたすら歩く。


「えー! 何言ってるんですか、なんか凄いの使ってたじゃないですか!」


「私はクリルみたいな魔法が使いたい」


 まるで最初の行軍の様に、進んでる方向すら分からずに、ただ歩く。


「それは贅沢ですよっ! あんなの使えるなんて卑怯です!」


「それはこっちのセリフ、まぁ効果が凄いのは認めるけどね、クリル、泣いてたし」


「……うぅ、クライナちゃんの馬鹿っ!」


 けれど最初と少しだけ違うのは、楽しいのは、きっと隣にいる少女のお陰だろう。


「……それよりもっ! 魔法の話なんかよりもっ! クライナちゃんの話聞かせて下さいですっ」


「そんな事言われても、私記憶喪失だし……」


「絶対ウソですっ! だとしたら凄すぎますっ! 記憶喪失であんな咄嗟に判断出来るわけないじゃないですかっ!」


 まぁ、クライナちゃんはどっちにしても凄いんです! なんて意味のわからない事を付け足すクリル。


 そんなクリルの言葉に、少しだけギクリとなってしまう、何か言い訳は無いものか、そうだ!


「……多分、称号のお陰」


 そう言いながら、すっかりと忘れていた恩寵を期待しながら思い浮かべる。



--------------------------------------------------------------------


 【恩寵】 クライナ・アナベル


 【称号】 無謀なる者 無知なる者


 【技能】


 【加護】 資質:C


--------------------------------------------------------------------



(えぇ……何にも変わってないんだけど)


 あれだけの窮地を乗り越えてたのにも関わらずに、何も変わっていない恩寵を、見なかった事にしてすぐに脳内から追い出す。


「同じ称号を持ってる私を馬鹿にしてるんですかっ? それに1個の称号で変わるわけ無いじゃないですかっ!」


 クライナちゃんが元々凄いんです! なんてまた意味のわからない事を付け足すクリル。


 1個の称号? そう言えば聖騎士達の称号は聞いてなかったのを思い出す。


「クリルはどんな称号を持ってるの?」


 何となく、予想は付いてるけれど、恐る恐る聞いてみる。


「……無知なる者って奴です、嬉しくないです」


 不満げにボヤきながらも、教えてくれるクリル。


「……無謀なる者って、称号は無い?」


 分かっていながらも、つい聞いてしまう。


「無いですよ、もしかしてクライナちゃん、そんな称号が?」


 まさかですよね? と遠慮がちに私を見つめるクリル。


「……」


 それに対して私は沈黙しか返せなかった。


「……」


 クリルもフォローが思い浮かばないのか、気まずい沈黙が生まれてしまう。


 だからソレに気付く。


――……………ナー…。


「ックリル、何か聞こえない?」


「えっ?」


 最初は魔物かと警戒するも、私の様子を見て、耳を澄まし沈黙するクリル。


――……ラ…………。


(やっぱり、聞こえる!)


「……私には何も聞こえません、何が聞こえるんです?」


 難しい顔で耳を澄ましていたクリルが、少しだけ残念そうに呟く。


「分からない、けど多分人の声?」


「っほんとですかっ! 凄いですクライナちゃん! クライナちゃんの方向通りっ!」


 喜ぶ声を上げるクリル、けど。


「分からない、本当に微かに聞こえるだけで、どの方向から聞こえるか……」


 息を止め、少しだけクリルから離れて、必死に耳を澄ませるけれど、本当に分からない。


「……けど、少しずつ移動して、どんどん声の大きくなる方向に行ったらっ」


 私を励ます様に、案を出してくれるクリル。


「……駄目、私達は動いてないのに、声の大きさが小さくなっていってる、相手が私達から離れて行ってるか、それともどんどん疲れていってるのか」


「……そんな」


 極限まで耳を澄ませるけれど、方向が分からずに、どんどんと小さくなって行く声に焦ってしまう。

 もうその声がもう消えそうになってしまう、その瞬間。


――……黙っ………憩…。


 聞き覚えのある、そんな大声が耳に入る、まさかあの男の声で安心してしまうなんて……。


「クリルっ! べオルグの声がしたっ! 着いてきて!」


「本当ですかっ! もうクライナちゃんっ、どれだけ耳が良いんですかっ! 凄すぎますっ!」




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