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ひたすらダンジョン!  作者: メテオス
《第1章 蟲達の祭典》
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一章 12話 闇より這い寄る化物

《てめえええら! 止まれッ!!! 何か来る! 魔物が来やがる! 各自、周囲を警戒しろッ》


 歩く音しかしない静寂だった迷宮内に、そんな怒号が響く。

 ガレムの指示に応じる様に、踏破者達は一斉に歩みを止め、各々武器を取り出す。


(……魔物ッ!?)


 踏破者達は、お互いの戦いの邪魔にならないかの様に、一斉に陣形を膨らませ、全方向を警戒する。

 そのお陰で出来た隙間から、魔物を見つけるために辺り一帯を見渡すが、相変わらず見えるのは、先の分からないぼんやりとした闇だけだ。


(それでも最大限の警戒をしている、きっとこの闇の中に何かが、もういるっ)


 凄まじく張り詰めた空気の中、聖騎士達は互いに寄り合う。


〈……遂に出やがったらしいな〉


 声を極限まで抑え、緊張した様にルインは私達へ話しかける。


〈みたいだね、戦うなと言われたけれど、僕らもいつでも武器を抜ける様にしておこう〉


 少しだけ悔しそうに、腰の剣に手をかけているカイルが注意を促す。


〈け、けど本当に、魔物がで、出たんですかぁ? 何にもいませんよっ〉


 震えながらも、キョロキョロと周りを見渡すクリル。


〈……この緊張感、この緊迫感、本物だ、少なくとも彼らの悪質な冗談なんて事はないと思う〉


 足を止めてから、ずっと尋常では無い警戒をしている踏破者達を見て、カイルはそう呟く。


〈……それでどうするんだ、カイル、まさか本当にじっとしたままでいんのか?〉


 カイルと云うより、聖騎士全体を見ながらルインは問う。


〈悔しいけどガレムの言葉は正論だ……けれど僕らもただ見ているわけには行かない、きっと僕らも何かできる筈だ〉


〈そうです、そうです、魔法ならあまり邪魔にならない筈ですぅ〉


 そんなカイルとクリルの返答に嬉しそうな顔をするルイン。

 しかし……


〈……駄目よ、大人しくしておきましょう。言われた通りに〉


 それまで黙っていたルミナが、俯きながらも初めて口を開く。


〈けっ、喋らねえと思ってたら、まださっきのこと引き摺って弱気になってたのかよ〉


 くだらねぇ、と彼女を睨むルイン、それに同意する様に、カイルもクリルも彼女を睨む。


〈下らない……? そりゃ弱気になるわよっ、私のせいで貴方達を巻き込む所だったのよっ〉


 泣きそうな顔でルミナは静かに思いを吐き出す。


〈……それが下らないって言ってんだっ、クライナっ、お前もさっきから黙りやがってっ、お前もガレムの言いなりかっ!?〉


 一言も喋らない私に不満があるのか、ルインは私に問い詰める。


 けれど私が一言も喋らなかったのには理由があるのだ。


〈シッ! 今……何か聞こえた〉


〈あぁ? 何言って……〉


 そんなルインの言葉は中断される。


――明らかに空気が変わる。

 踏破者達の様子が変わった、臨戦態勢だったのが、警戒を止めて、本格的に目の前の闇を見据えて、武器を構え始めたのだ。

 そんな様子に、カイルも、ルインも、クリルも、ルミナも黙り呆気に取られる。


 今この場に走るのは……張り詰めるのは、極限までの緊迫感。

 そこから生まれた呼吸の音しか聞こえない静寂。

 そして


――コツ……コツ……コツ……コツ

 まるで最初から其処にいたように、ぬるり、と闇の中からソレは現れる。


 身構えてたと云うのに、武器を構えてたと云うのに、流石の踏破者達も狼狽える。


〔出やがった……〕〔……こいつが此処の魔物〕〔1体だけじゃないぞっ!〕


(っ、私は知っている……ソレを)


 視線をソレからほんの少しも離せなかった、闇の中から現れた魔物を一目みた瞬間に理解してしまった。


 闇から出てきた、細く長くビッシリと毛が生えた8つの脚、そして足の数とおんなじだけある8つの無機質な目が、闇の中から私達を見つめながら確実に近づいてくる。


(……蜘蛛)


 この世界には居ないはずの生物、きっとこの世界で私だけが知っている生物。

 けれど私の知ってる蜘蛛との大きな違いが一つあった。


(遠目にだけどあまりに大きすぎる……)


 犬と変わらぬ体躯、いや距離が離れている分、あちらの方が大きいかもしれない、それほどまでに大きいのだ。


――コツ……コツ、コツ、コツコツコツコツコツ!!!

 1つでは無い、無数の音が鳴る、中心にいるから囲まれている事に真っ先に気づいてしまう。

 思わず周りを見渡して、固まっている聖騎士達が目に入る。

 

(……ッこれはそうなってもおかしくない)


 囲まれている、薄暗い闇の中、無数の瞳に囲まれている。


(……あはは、私が見たのは子蜘蛛だったのか)


 大きさがぞろぞろと疎らで不揃いな、数えきれない程の蜘蛛達、その光景は蜘蛛を知っている私すら、凄まじい程の嫌悪感を抱いてしまう。


《おいおいぃ! ビビってる場合じゃねえぞぉ! 敵は四方八方にいるっ! 俺からの指示は一つだっ! お前ら全員まだ動くなっ!》


 ガレムはまるで発破をかける様に、大きな声で動くなと指示を出す。

 そんなガレムの指示に、今にも飛び出して魔物に斬りかかろうとしていた踏破者さえも冷静に後退する。


(……私には怪しい命令にしか聞こえないのに、かなり信用されてるんだな)


 魔物達は、徐々に、徐々にその悍ましい包囲網を縮めていく。

 しかし踏破者達は、動けない、指示通り、動かない。


《まだだ、まだ我慢しろよ? 奴さんは、わざわざそっちから無防備に近づいてくれてんだからな》


 こんな状況下で敵を馬鹿にするように、楽しそうにガレムは笑う。


(……悔しいけれど勇気づけられるな)


 ジワジワと距離を詰めてくる魔物達に、悍ましい無数の巨大蜘蛛に、陣形の一番内側にいるにも拘らず凄まじい嫌悪感、恐怖感を抱いてしまう。

 ……なのに一番外側にいる踏破者達は、じっと何もせずに、ただガレムの指示を待つ。


(もう外側の人たちから見たら、もう目と鼻の先なんじゃっ? 見ているこっちがハラハラするっ……)


 あと数秒で、魔物と踏破者達がぶつかる、それぐらいに距離は縮まっていた。

 流石にもう我慢でき無さそうに、後退しそうになる者、ガレムの方を見る者、その瞬間。


《よくお預けを我慢したなお前らぁあああっ! いいぞっ! 殺しちまえぇええっっ!》


 怒号、それに合わせ、溜めていた力を開放する様に一斉に飛び掛かる踏破者達。

 魔物達の先頭に居た、ただ距離を詰め、やっと攻撃をしようとしていた蜘蛛達は逆に呆気に無く切り刻まれ、まるで闇の還るかの様に亡骸は消えてゆく。


《おしおし、上出来だぁっ! けど調子に乗って前に出すぎるなよっ!? 深追いなんてもってのほかだっ! 陣形を崩すなっ! 迎撃し続けりゃいいっ!》


 前に出ようとする踏破者達に釘を差す様に、ガレムは叫ぶ。

 その指示に従うかの様に、踏破者達は飛び込んだ分だけ元に戻る様に後退をする、一部を覗いては。


〔こいつら、弱っちぃぞぉ!〕〔ッびびらせやがって数だけじゃねえかっ!〕〔ガレムさん、こいつら大した事ないですぜ!〕


 ガレムの指示とは反対に、どんどんと前に出る一部の踏破者達、大蜘蛛は数を見る見ると減らしていく。

 そんな様子を見てガレムは呆れた様に声を出す。


《はぁ、せっかく用心して、奴さんの間抜けさを利用したってのに、どうやらとんだ雑魚だったみてぇだな、お前ら好きにしていいぞ……ただしあまり陣形を崩すなよ》


 そんなガレムの言葉に、俺もと言わんばかりに蜘蛛を切り刻みに行く者、少しだけ前に出る者、逆に疲れたと言わんばかりに後退する者。

 しかし大多数はきっちりと最初のガレムの指示を守って陣形を維持している。


(……こんなに余裕な物なのか、いや違う)


 ガレムの采配のお陰で、最初の衝突で一方的に、目に見える敵を一斉に殺したから余裕なんだ。

 決して敵が弱い訳ではない……舐めてはいけない。


 そして果敢にも闇へと突き進んでいく踏破者が目に入る。


(闇の中にどれだけ無数の蜘蛛がいるか、わからないのに……)



 ◆◆◆◆◆



〔はっはっは、迷宮がなんだ、余裕じゃねえかっ! 俺はこんな奴らにビビって動けなくなっちまってたのかよっ!〕


 勿体無い事をした、先にこの弱さに気づいていたら、ガレムの意味の無かった静止の指示を皆の前で破ってやれたのに、そう思いながら、犬ほどの大きさの蜘蛛をどんどんと斬り殺してゆく踏破者。


 その踏破者は陣形からかなり突出して離れてしまっていた。


〔……流石に離れすぎたか? 俺と一緒で前に出てた奴らも戻っていってやがる、けっ腰抜け共が〕


 はっ、ガレムとべオルグの禿はそれ以下、聖騎士共と変わんねえ腑抜けじゃねえか、と笑いながら魔物を切り刻む。

 きっとこれだけ魔物を殺して戻ったらあいつらもでかい顔が出来ないはずだ、と思い鬱憤をぶつけるが如く魔物を切る。

 魔物を切って、切って、切って、ふと気づく。


〔……減らなくなって来やがった? それどころか増えてねえか?〕


 そんなおかしな様子にふと周囲を見渡す、おかしい、1人だけ、まだ俺と一緒で戻ってない奴が居た筈だ。


〔くそったれ、腰抜け野郎が、戻るんなら一言、言えってんだ、そいつの分、こいつらが俺に集中してやがるのか〕


 流石に焦り、引き返そうと陣形までの道を急ぎ、魔物を斬り殺す。


〔なっ! 魔物を切り刻みながら来たってのに、道がっ!〕


 魔物が闇から侵食する様に溢れてくる、陣形までの帰り道をその体で、どんどんと狭めていく。


〔……くそっ、どけ! てめえらみてぇな雑魚がどんだけ居ても無駄なんだよっ!〕


 男は焦りながら、先程までの倍の速さでどんどんと魔物を殺しながら進もうとするが。


〔はぁっ、はぁっ、くそっ! くそっ! なんでだ、どんだけ居るんだよてめえらっ!〕


 殺しても、殺しても、いくら切り刻んでも全く数を減らさないどころか、増えていく魔物達。


〔ぐあああああああっ! どけってめえらっ! どけってんだよぉおおおおっ!〕



 ◆◆◆◆◆



《馬鹿が一人、いや二人死んだな、だから前に出すぎるなよ、と言ってやったのになぁ》


 どこまでも残酷に、ガレムは笑う。


《ま、助かったぜ、自分の命と引き換えに魔物を殺した上に、お前らに戒めを与えるなんて、本当にいい奴らだったな》


 大量の魔物に退路を潰され、息絶えた踏破者。

 そんな光景を見て、その男と同じく飛び出した者達は青い顔になる。


《……どうやら奴さんは、とんでもねえ数がいるみたいだな》


 ま、あくまでも予想だ、もしかしたら少ない数かもしれん、とガレムは付け足すが。


(その少ないってのも……最低でもあれだけの数は確定してる)


 最初のぶつかり合いで殺した分、前に出た踏破者達が殺した分、それで開いた空間がもう半分埋まっているのだ。

 先程、蜘蛛達に押しつぶされて、見えなくなった踏破者を思い出す。


(目の前で初めて人が死んだ、けど何も思わなかったな……)


 死に姿が見えなかったから、それとも踏破者だったからか、よくわからない。


(私はいざとなれば、見捨ててしまうのかな、見捨てれるのかな?)


 亡くなった踏破者の方を見て、信じられない物を見てしまった様に、ショックを受けている聖騎士達が目に入る。

 

 先程のガレムの言葉に、踏破者達にざわざわと動揺が走る。

 動揺する踏破者達を見て、ガレムは自信満々と頬を釣り上げる。


《……此処からは先の見えない持久戦だ、覚悟はいいな?》






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