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ひたすらダンジョン!  作者: メテオス
《第1章 蟲達の祭典》
12/42

一章 11話 闇と不信と屈辱に

 一体、どれほど歩いたのだろうか……。


(もう1時間以上は確実に立ってるよね、ただ歩くだけがこんなにキツイなんて……)


 周りを見渡す、薄暗く見えない天井、最初は見えていた壁さえも、もはや見えない。

 一体どれほど広く、どんな地形なのかすら分からない、方角さえ見失ってしまうのではと思うほどに、ぼんやりと闇が続いている。


(何も起こらない、ただ歩くだけ、一体何を目印に、どこへ向かっているんだろ……)


 これじゃ迷宮と言うよりも、迷路だ。僅かな明かりを頼りに、暗闇を彷徨いゴールを探しているのだろうか?

 そんな疑問や焦りを抱いてしまうぐらい、ただ歩かせられている。


(……まぁ、それは無いだろうけど)


 何故なら、誰も喋らない……。とてもじゃないけれど喋れない。

 そんな雰囲気がある程、皆、この薄暗い闇の中で、何かを警戒し、緊張している。


(……これは本当に精神が削られる)


 闇の中、何かを常に警戒しながらの無言の行軍。

 文明の利器と言える明かりは何もなく、唯一在るのは、ぼんやりとした信用できるか分からない月の光の様な物。


(まぁ私達(・・)が一番マシなんだけど……)


 かえってソレが私を不安にしているのかもしれない。

 もう一度周りを見渡す、前も、後ろも、右も、左も。


(やっぱり釈然としないなぁ……)


 そんなキョロキョロとしている私に気づいたルインが、呆れた様に顔を背け、こちらに気づいたカイルが近づいてくる。


〈……やっぱり納得できないよね、クライナ君〉


 小声で私に、囁く様に話しかけるカイル。


 ちょうど暇をしていたから、私も小声で声を返す。


〈……うん、明らかに胡散臭い〉


 そう、胡散臭いのだ、明らかにおかしい事が、一時間以上前から起きていた。


〈まさかだよね、僕らが、聖騎士が、一(・)番(・)安(・)全(・)な(・)所(・)に(・)い(・)る(・)な(・)ん(・)て(・)〉


 ……前も、後ろも、右も、左にも踏破者がいる。

 私達のいる位置は一番真ん中、陣形の中心にまるで守られている様に囲まれている。


〈……そうだな、単刀直入に言おう、君はこの状況、何かの罠だと思うかい?〉


 カイルは更に声を抑えて、私に問う。


〈ううん、あくまでも胡散臭い止まり、だけど害意は感じないと思う〉


 そんな私の意見に、カイルは少しホッとした様に息を吐く。


〈そうだね、僕もそう思う、彼らを見ているけど真剣に周囲を警戒してるし、僕らの事を監視はしているけども、敵意は微塵も感じなかった、だからといって気を緩める訳にはいかないけどね〉


 カイルと小声で喋りながらも、決して止まらずに歩き続ける。


〈守ってもらえるなら、気楽に守ってもらえばいいと思う、一番いい位置にいるんだから〉


 迷宮の主とやらと戦うまで生き残りたい私としては、ありがたい話なのだ。


〈ははは、流石だなクライナ君、そうだな、味方を警戒なんてしていても無駄か、どうせ裏切られたら僕らは一網打尽だしね〉


 なんだか自虐するように笑うカイルに、少し驚いてしまう。


〈しかし、いつまで歩き続けるんだろうね。行軍は慣れているけれど、こんな大人数で暗闇の中を歩き続けるなんて……しかも周りはあまり信用できないし〉


 カイルにしては珍しく、ウンザリとした顔になる。


 成る程、どうやらカイルもこんな状況にかなり参ってる様だ、そりゃ無理もない。

 きっとこの一時間、周りの味方すらもずっと警戒していたんだろう。


(本当に短い付き合いだけれど、いつも明るいカイルが暗いと、なんだか嫌な気持ちになるなぁ、よしっ)


〈カイル、あの男の言葉を思い出して、本当に騙すつもりだったらあんな対応なんてしないと思わない?〉


 私は言葉を続けながら、前方を見る。

 先頭に立っている立派な装備をした、恐らく立場の高い人間、この集団のリーダーである男を。



 ◆◆◆◆◆



「おいっ! お前ら遊んでんじゃねぇ! もうとっくに恩寵は確認し終えてるだろ! こっちへ来い!」


 その声に応じ、どんどんと踏破者達へと、近づいてゆく。

 踏破者達は私達が来るまでの間に親睦を深めたのか、それとも元々知り合いだったのか、一つの場所に固まっていた。

 踏破者達は歩んでくる私達を見て、ざわざわと騒がしくなる。


(すっごいアウェイだ……あれが踏破者か)


 彼らの空気に気圧される、それは様々な理由があるけれど、やはり一番の理由は……。


(まるで山賊の集団みたいだ……それは流石に言い過ぎか)


 カイル達や此処へ入る前に見た騎士のせいで、勝手なイメージを想像してしまっていたからか、私の想像よりも厳ついと云うより、なんだか荒そうな人が多い。


(前世で言うならアウトローって奴?)


「遅くなって、申し訳ない」


 すっと、皆より一歩程、前に出たカイルが、下手に出ないながらもきっちりと謝罪をする。

 すると元々騒がしかった踏破者達が、更にざわざわと盛り上がる。


〔あいつらが聖騎士か〕〔くくく、餓鬼じゃねーか〕〔こりゃ骨が折れそうだ〕〔こりゃ強そうなお坊ちゃま達ですなぁ〕


 せせら笑いに嘲り、蔑み、侮辱、その全てがカイルへ、私達へぶつけられる。


(信じられない、こんな人達と今から命懸けの迷宮に潜るって言うの……?)


 確かに聖騎士の立場は弱いと聞いていた、しかしここまで露骨な物なのか。


――ギチリ、ギチリと手を握りしめる様な音が私の横から聞こえる。


(ルミナ……)


 抑える様に、それでも静かな怒りを表す様に彼らを睨みつけるルミナ。

 彼女にとっては、きっと我慢できない程の屈辱だろう、怒りを必死に抑えている。


「なんだぁ? 手前ぇよ、その目は」


 けれどそんなルミナの頑張りは実らずに、踏破者の怒りを買ってしまう。

 その声の主はとんでもなく厳つい禿頭の男で、その顔は怒りで真っ赤に染まっていた。


(不味い、相手も本当にブチ切れてる、くそ、どんだけ短気なんだ……!)


 そのままズカズカと、争いを止めようとするカイルを弾き飛ばし、ガシりと、ルミナの眼の前に立ち、ルミナを見下ろす。

 しかしルミナはそんな禿頭の男を、睨みつけたまま微動だにしない。

 

「だからよぉ、なんだその目はよ? 言いたいことがあるなら言ってみろ」


「……」


 ルミナは本物の殺気と怒りを出すその男を目の前に、呆れたと言わんばかりに、睨む事さえやめて、その男からわざと顔を背ける。


 そんなルミナを見て毒気が抜かれたのか、男も殺気と怒りが無くなり、呆れた様に息を吐く。


(……流石に、迷宮の眼の前で殺し合いなんてしないか、よかった)


 一触即発の空気が収まったことで私は胸を撫で下ろす。

 それはカイルやクリル、流石のルインも一緒だったみたいで、クリルに至っては涙目だった。


「……しっかしよぉ、驚いたぜ? 紫髪の嬢ちゃん、やるじゃないか」


 褒めるように、まるで見直したと言わんばかりに、ルミナに声を掛ける男。

 

「……あまり聖騎士を舐めないで欲しいわ、相応の実力は、今日証明してみせる」


 流石にルミナも緊張していたようで、男の言葉に安心した様に言葉を返す。


 しかしその安心した刹那、禿頭の男がルミナを見透かした様に、最大限の侮辱を込めて大声を出す。


「いやいや、本当に驚いたぜ! 死(・)体(・)と(・)変(・)わ(・)ら(・)ん(・)聖(・)騎(・)士(・)の(・)分(・)際(・)で(・)、よくもまぁいっちょ前に人を睨んだもんだよなぁっ!? なぁお前ら!?」


 その瞬間に、一斉にぎゃはははは、と品のない笑いが、静かな迷宮に響く。

 さっきとは逆に見る見ると真っ赤になるルミナの顔、その手は腰の剣へと手を伸ばしていた。


「ッぐっ貴様らぁああああああ!」


 完全に頭に血が昇ったのか、怒りの形相で、刀身の半分まで剣を抜いてしまっているルミナ。


〔おいおい、餓鬼が抜きやがったぞ!〕〔くっくっく、1人くらい殺しちまっても大丈夫だろ〕〔喧嘩で剣を抜いちまうなんて……馬鹿が、言い訳できねえぞ〕

 

 そんなルミナの行いに一斉に踏破者達が、殺せ、殺せと殺気立つ。


「手前みてぇな短気な野郎はなっ、どうせ足手まといになって死ぬだけだっ、今此処で死んどけ」


 その体格に見合った、巨大な鈍器の様な物を構える禿頭の男。

 一触即発どころか、もう取り返しのつかない、止めようの無い状況に完全になってしまった。


 ……筈だった。


「やめやがれ、べオルグ……お前らも少し黙れ」


 踏破者達の後ろから、低くそして通る声が響く。

 それだけでさっきまでの踏破者達の騒々しさ、殺気が嘘の様になくなる。

 ルミナもあまりの展開に、怒りの吐き所を見失い、戸惑っている様だ。


「……ガレムさん、寝てたんじゃないですか?」


 そして代わりに走るのは緊張感。

 禿頭の男、べオルグが、すみませんと謝りながらその男に問う。


「馬鹿がうるせぇんだよ、寝れるかっ、それにこの騒がしさ、聖騎士が来たんだろ? 丁度いい時間じゃねえか」


 そんな声と、まるで起き上がるかの様な音が聞こえ、そしてその音はやがて歩く音へと変わる。


「あ~肩いてぇ、おいそこのお前、時間は押してるか?」


 何気なく、こちらへ、私達の方へドンドンと歩いてくる、ガレムと呼ばれた男。

 他の踏破者とは違う、一瞬で場を収めた、立派な装備をした、狼の様な男が、悪質そうな笑みを浮かべ近づいてくる。


「やぁやぁ、君達が聖騎士か、待ってたよ。俺が今回、指揮を任された【ガレム・ローレンツ】だ、しかし驚いた、ほんとに餓鬼なんだな」


 颯爽とルインに握手をしながら、意図したかせずか、威圧するようにこちらを見る。

 そしてべオルグの方へ、睨むように視線だけを向ける。


「んで、なんでこんな騒ぎになった? 殺す一歩手前の様に見えたんだが?」


 なんでそんな面白そうな事になったんだ、と言わんばかりに楽しそうな声を出すガレム。


「あの紫髪の餓鬼が剣を抜きやがったんだ」


 汗をかきながら、緊張した様にべオルグもガレムへと視線を向ける。


「……それは結果だろ? なんでかを俺は聞いているんだが?」


「っあの餓鬼が、俺をコケにしやがったんだっ! 糞みてぇな目で俺を睨みやがった!」


 そんなべオルグの答えに、納得したかの様にガレムは頷き、それから私達の顔を見渡す。


「糞みたいな目ねぇ……」


 じろり、じろりと値踏みする様に、1人、1人、順番に顔を見る。

 そして最後に私に視線を合わせると、のんびりとこちらへ向かってくる。


「……そりゃあ、お前の勘違いってもんだな、べオルグ」


 私の目の前にたどり着いたガレムは、視線を合わせる様に屈み、こちらへとゆっくりと手を伸ばす。

 そんな様子にカイルもルミナもルインもクリルも、心配するようにこちらを見つめる。


「ほらな、いい目をしているだろ……?」


 ガレムは無造作に、私が被っていたトマスの上着を床へ投げ捨てる。


「くくく、まるで親に従う……子供の目だな」


 はははっ、と突然、馬鹿にするように大笑いを始めるガレム。

 そんな様子にべオルグも踏破者達も、誰もが沈黙していた。


 私は必死にそんな屈辱が通り過ぎるのただ、待つ。

 やがて男は興味が無くなった様に離れる、それに私は思わず安堵してしまった。

 ……そしてそんな自分に、とても惨めな気持ちになってしまう。


(……悔しい、何も出来なかったっ! この男の言う通りじゃないか!)


 聖騎士が侮辱された時も、ルミナが侮辱された時も、ルミナが剣を抜きそうになった時も、一触即発の空気になった時も……。


(今、この男に手を伸ばされた時も、少しも動けなかったんだっ、私はっ!)


 いざとなれば動けると思っていた、命なんて惜しくないと思っていた、自分は特別なんだって思っていた。

 そんな思考さえも男の言葉で中断される。


「んで本題だ、時間が押してる、だからお前らは餓鬼らしく、俺の言うことに全て従え、そうすれば必ず生きて帰れる」


 ガレムはまるで簡単な事の様に、それを口に出す、そしてこちらに考える隙さえ与えないかの如くに言葉を続ける。


「ほらな、やっぱりお前らも生きて帰りたいだろ、当たり前だな、じゃ利害の一致さ、俺達はお前らみたいな足手まといは……いらねぇ」


 ガチりとルミナの方から、音が聞こえる。


「ははっ、なんだその目は? こりゃべオルグも切れる訳だ、しかしな、もう一度言う、足手まといはいらねえ、真っ当な意見だろ? お前さんはもうすでに一度、お仲間を全滅の危機に追いやってんだぜ? 分かったら黙ってろ」


 それと同時に、お前ら、そろそろ準備をしろと、踏破者達に声を掛けるガレム。


「ま、何をすればいいか、気になるよな? 安心しろ、お前ら餓鬼でも出来る簡単な事だ、行軍の中心に居てくれればいい、決して戦いに参加するなよ? 邪魔だからな」


 さっきの様子だと同士討ちしかねんからな、お前らが、と言葉を付け足すガレム。


「信用できねえって顔してるな、ま、安心してくれや、さっきみたいな事は起きんって事はもう理解しただろ? じゃ話は終わりだ」


 お前らもさっさと準備しろ、ともう出来つつある陣形の先頭へ向かうガレム。


 私達の中に、争いを一言で収めた男に逆らえる者はいなかった。

 私達は互いに言葉を発しないまま、ガレムの言うことに従い、陣形の中心に向かう……。



 ◆◆◆◆◆



(……それにしてもあの後、壁に大きな迷宮への入り口が開くなんて、すごい光景だったよ)


 そんな事まで思い返していたら、考え込んでいたカイルが疑問をぶつけてくる。


〈……だとしたら君は、どんな理由があると思う? 純粋に僕達を守ってくれているとでも言うのかい?〉


 皮肉ではなく、本当に分からないと云った様子のカイル。


 そんなカイルに私は視線だけを向ける。


〈それは確実にあり得ないと思う、けどそれに近い物、例えばお金〉


 悪いが、山賊の様な彼らと違って、聖騎士はもっと大掛かりな、大事な者な気がする、あくまでイルオレーネ王国とってだけどね。

 つまり、聖騎士が無事帰還したら、彼らに何かしらの報酬が入るんではないだろうか?


〈成る程、そう云った考えもあるのか……〉


 けれど、なんだかあまり納得してない様子のカイル。


 私としては、そこそこ自身のある説だったんだけど。


〈……じゃあ、もう一つ考え方があるんだけど聞く?〉


 もったえつける様に、私はカイルから少し離れる。


〈ぜひ、聞かせてほしい〉


 ずいっと、すぐに距離を詰めてくるカイル。


 ……まぁいい。


〈……カイル、英雄譚に陰謀や、障害は付き物だと思わない?〉


〈ぷっ、くくくく〉


 思わず漏れそうになった笑い声を、必死に抑えるカイル。

 そんなカイルを見ていたら、私までつられそうになる。


〈はは、そうだねクライナ君、君の言う通りだ、英雄譚に悪役は付き物だね〉


 先頭を睨みながらも、何時ものような笑顔に戻るカイル。


〈ありがとう……君のお陰で、いい気分直しができたよ、また後で〉


 流石に喋りすぎたかな、と名残惜しそうに離れるカイル。


(……私もいい暇つぶしになったよ、ありがとうカイル)


 けれど、まだまだ踏破者達が。先頭にいるガレムが歩みを止める気配はない。

 ふと左腕の神器を見る。


(……そうだ、あの時、私は少しも動けなかったと思っていたけれど、思えば神器を隠してた)


 トマスの上着を取られたあの時、私はアイツに見つからない様に、咄嗟に神器を隠していたんだ。

 少しだけ胸にあった敗北感が、軽くなる。


(……これで少しは歩くのが楽になるかもしれ《てめえええら! 止まれッ!!! 何か来る! 魔物が来やがる! 各自、周囲を警戒しろッ!》




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