一章 10話 恩寵と神器
――私達が転移した先は大部屋だった。
天然の洞窟では無くしっかりと整備された様な、まるで人の手が入ったかのような場所だった。
しかし異様な事に天井があり、光源が見当たらない筈なのに、まるでぼんやりとした、例えるならば月の光、それが部屋を照らしている様に明るい事だった。
そして、そんな大部屋には聖騎士を待ちくたびれたかの様に、既に十数名程の先客が集まっていた。
(……っもう迷宮!?)
入ったと思ったら転移させられてた、転移した実感すら沸かない……。
(ここが迷宮……天然の洞窟とかをイメージしてたんだけど、石造りの地下遺跡って様にも感じる)
苔や植物なども何もない、というより生き物の気配が全くしないのだ、私達以外は。
(凄く広い上に、ぼんやりとした明るさのせいで、部屋の全容が全然掴めない、踏破者が思ったより沢山居る筈なんだけど、なんか逆に少なく見えちゃうな)
この大部屋は安全地帯的な場所なのだろうか? 私は警戒を止めずに周りを見渡す。
(……本当に広い、天井も辛うじて見えるぐらい高いよ、それこそ、ここでもう迷宮の主との戦いが始まってもおかしくないぐらいに)
少し怖いな、とそんな本能的な恐怖の様な物を抱いてしまうぐらい、部屋は広く、明かりも薄暗く、不気味なのだ。
(まぁカイルの説明を思い出す限り、そんな事ありえないんだろうけどね)
っとそうだ、カイル達は何してるんだ? 踏破者達と合流せずしなくていいの?
様子が気になり確認するようにカイル達の方を見ると……。
――カイルとルミナは真剣な表情で何かを見つめる様に、ルインとクリルは目を瞑ってまるで何かに祈るように。
(祈ってる? あっ! 恩寵ッ! そっか祈るんだっけか! 神様、私の恩寵を教えてくださいっ!)
祈るように目を瞑る、するとほんの一瞬、何かが流れ込んでくる様な、そんな感覚が全身に走る。
(――ッこの感覚、前世の記憶が戻った時と……)
まるでソレは、最初から有ったかの様に違和感無く、何かが私の中へ流れ込む。
(凄い……これが恩寵、成る程、これは神が信仰される訳だよ。……まるで神託だ)
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【恩寵】 クライナ・アナベル
【称号】 無謀なる者 無知なる者
【技能】
【加護】 資質:C
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しかしそんな期待や、色々な疑問はすべて吹き飛ばされてしまう……。
(…………え? 弱くないかな? 称号も酷いし、技能は何もないし、加護も1つしかないじゃん)
ワクワクしただけに肩透かしのような、何だか色々と急すぎて考えがまとまらない。
……なんにもなさ過ぎて、逆に考える事ある? と自分で思ってしまう程に。
みんなはどうなんだろうか、そう思いチラリと様子を伺う。
(えっと、まだみんな思案中なんだけど……)
これはきっと私の恩寵が少ないのが、もう確定だろう……。
いや、まだ諦めるのは早い、私は転生者なんだぞ、色々試そう、きっと何かあるはずだ。
(神様、素質ってどんな効果ですか?)
と一応祈ってみる、おぉ、出てきた、出てきた。
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【資質:C】 生まれた時から少し優れた者が所持している
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(確かに私って昔から何でも出来たからなぁ、ってこれだけ……?)
良い加護なんだろうけど、加護ってより唯の才能を表記している様に感じる。
(だって優れた物が所持しているって書いてるし、加護ってより称号ぽくない?)
しかも称号と違って恩恵とやらが無さそうだし、しかも少しだけだし。
……無いよりはマシなんだろうけどさ。
(取り敢えず、素質はCとやらしか説明されなかったし、自分の持っている恩寵しか聞けないみたい、私は恩寵を3つしか知らないけど……)
よし! 気を取り直して次は称号だ! 次は纏めて見れるか試そう。
(神様、無謀なる者と無知なる物の効果をお教えください……。できれば強力でありますように!)
名前的に全く期待できないんだけどね……。
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【無謀なる者】 無謀な挑戦に挑む者に与えられる:判断力に補正が掛かる
【無知なる物】 無知の挑戦に挑む者に与えられる:判断力に少し補正が掛かる
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(っもっとあるでしょ! 私に相応しいユニークな称号が! なんか汎用称号って感じじゃん!)
判断力とやらに、補正が掛かるのはありがたいけど! その前にもっと他の称号無いの!?
思わずそう思ってしまう程に、私には何もなかった。
(だって、異世界の記憶持ちで、神器持ちで、記憶喪失なんだよ私! 記憶喪失は嘘だけどさ!)
それに無謀な挑戦って酷くないかな!? だって神様が称号を贈ってるんだよね? 神様に無謀って言われるなんて、死を宣告されてる様な物じゃないか。
(レベルみたいな物は無いんだっけか、あったとしても私はレベル1だろうけど……)
もういいや、いくら神様とは言え人間の可能性はデータ化できない筈! 恩寵なんてステータス染みた物なんて、関係ない! 私は自分の力で切り拓く!
……って言いたい所だけど、自分の力自体もこの部屋の中で一番低いんだろうなぁ。
「おっ! やっと顔を上げたねクライナ君! 君が一番最後だったね、一体どれだけの恩寵があったんだい? 聞いてもいいかな?」
どうやら私は考え込んでる間に恩寵の確認が終わったらしく、そのまま声を掛けてくるやけに上機嫌なカイル。
勿論、嫌味では無く純粋に善意と信頼で聞いているのは分かってるんだけど、カイルの上がったテンションや表情を見ると、どれだけの恩寵があったのか察せられてお腹が痛くなってきた。
……他の3人の表情を見たら心も痛くなってきた、取り敢えず誤魔化さないと。
「……あー、その前に皆はどんな恩寵だった? 踏破者も待たせてるし、全部じゃなくて凄そうな奴だけ聞かせて欲しい」
話したくてウズウズしてる4人に逆に聞いてあげると同時に、時間がないアピールをする。
「……確かに僕達が最後みたいだし急いだほうが良さそうだね。じゃあまず手短に僕から言わせてもらおう、僕が見た感じ凄そうなのは技能の【剣術B+】と【盾術B】と加護の【資質:A】と【指揮資質:B+】と【天賦の才】と【不屈:C】かな、まぁ指揮素質は今回はあんまり役に立た無さそうだけどね、目立つのはこれぐらいかな」
ドヤ顔とは行かないけれど自慢げな顔のカイル。+とかあるって事は-もあるのかな?
(ていうか資質Aの時点でもう私ボロ負けじゃん、強すぎないかな……?)
……妬ましい、自分で天賦の才とか言うんじゃない!
「ちっ、カイル、てめぇが言ったら後の奴が言いづらいだろ、この中じゃお前が頭一つ抜けて強いしな、ちょっとは自重しやがれってんだ」
褒めるのか、注意するのかどっちかにして欲しいよルイン、けど他の3人はカイル程は強く無いみたいだ。
カイルのような人材が居る聖騎士が舐められてるんだから、ひょっとして踏破者の平均って私にとっては敷居がめちゃくちゃ高いかと思ったよ。
「んじゃあ言うぞ、俺は【槍術:B】、【体術:C+】、【回避C+】、【資質B+】、【底力B-】、ぐらいだな目ぼしい奴は、んじゃあ次任せた」
(……やっぱり敷居高いよ! 聞いてるだけじゃ1対1ならカイルに勝てそうじゃん!)
ランク差でどれ位の実力差でるかわからないけども……。
ランクと言えばカイルの天賦の才ってランクがないけど、ユニークスキルとかそんな感じなのかな? 羨ましい。
「じゃあ次は私かしら、技能は【剣術:B+】と【短剣術:B】と【体術:B】、加護は【資質B+】、【筋力強化:C+】ぐらいね、じゃ次はクリルね、他の二人はある程度分かってたけど貴方は楽しみだわ! 勿論クライナさんの次に、だけどね!」
ハードルを上げやがるルミナ。
多分、恩寵は自己申告制だから適当に誤魔化そう!
さっきから神様に他の人の恩寵見せてとか、見れる方法無いですかとか、私の恩寵おかしくないですかとか、祈ってるけど応答なしだし、大丈夫だと思う。
ルミナの恩寵はもうノーコメントだ。
「ふふふ、わ、わたしですね! 技能は【魔術:B+】! 【詠唱:B】! 【杖術:C-】それで加護が【資質B】、【魔法補助C-】! です!」
魔法関係の部分だけやけに強調するクリル、ていうか私、クリルより接近戦弱いんじゃ?
……みんな技能は置いといて資質高すぎない? これでも私、学校じゃ結構優秀だったんだけどなぁ。
それと他の人の恩寵聞いたお陰で、改めて自分の考えの補強が出来た。
(やっぱり技能が後天的な物、加護が先天的な物って感じなのかな、私は資質しかないけれど……)
「次はクライナ君だね……他の3人の恩寵を聞いていて思ったんだけど、人の恩寵を聞くのって何だか楽しいね。クライナ君、君がどんな予想外の恩寵を持っているのか、とてもワクワクしているよ」
とても重い期待を乗せてくるカイル。
他の3人も声には出さないが、ソワソワと容赦なしに、こちらのハードルを上げるような視線を浴びせてくる。
(生死が掛かってるんだもんね、やっぱり正直に言うべきか……。お腹が痛い)
期待の視線が重い、他の4人の恩寵を聞いてたら、どれほど自分が足手まといで、死に近いか実感してしまう。
(ましてや、私は迷宮踏破者だってハードルが上がってるしね、なんでこんな事に……)
思い返せば、全部トマスのせいじゃないか、あいつが神器なんて分不相応な物なんか渡さなかったら、こんな事には……何が後で感謝する羽目になるだ!
(そうだ……神器だ……!)
「ごめん、目ぼしい恩寵、何があったか忘れてしまった、ちょっと見てみる」
「なる程……それほどまでに恩寵が……」
ボソボソと呟くカイル、わざとやってるのかな?
(神様、神器って何? いやどんな効果があるんですか?)
……。
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【神器】影の神器
《影ノ人形》
《影ノ偽装》
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期待してなかっただけに、思わず声が漏れそうになってしまう程の驚きが私を襲う。
(な……! 何、これ、影の神器……?)
混乱する、この下の3つが神器の機能なのか?
(と、取り敢えず聞いてみよう……。神様、影の神器って何ですか?)
何も出ない。
(ではまず、神様、影ノ分身ってなんですか?)
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【影ノ人形】 神器装着者の影を、自身の人形として召喚する。
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(えっ? 世界観が違いすぎないか……この能力? だってさ、みんなの恩寵聞いてたら、こんな如何にもスキルですって感じ、じゃなかったよね?)
あまりの展開に絶句する、この迷宮の仕組みを聞き、迷宮についた所で、なんとか興奮を押さえつけているのに、心臓が高鳴る。
(これが攻撃魔法なら、私の心臓は破裂していたかもしれない)
取り敢えず考えてみる、私の影を人形として召喚するとしか書かれてないけれど、発動条件や発動リスクなどは書かれてはいないし、祈っても答えは帰ってこない。
(不親切だな……多分だけど、祈れば発動するんだろうけど、けど流石にここで試すわけにはいかない)
もっと使いやすそうな単純な能力の方がよかったかもしれない。
(でも、まだ能力が残ってる! 【影ノ偽装】の効果を教えてください!)
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【影ノ偽装】 神器装着者の気配を薄める。
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(名前で何となく分かっていたし、高望みだけど、もっと攻撃魔法的な奴が欲しかったよ!)
多分説明そのままの効果だろう、こちらも効果以外、制限時間すら書かれていない。
(集団だし、使い所なさそうじゃん! 私がなったのは聖騎士で暗殺者じゃないよ……)
覚悟を決めて、私は顔を上げ目を開ける、それにつられカイル達のようやくかと視線を浴びる。
(なんてね……トマス、ありがとう! 本当に感謝する羽目になるなんて!)
資質しか無かった私に2つも手段が増えたんだ。きっと生き残れる、ボス戦までは!
「おっと確認し終わったかい? さて一体どんな恩寵が出るのかな……」
嫌がらせの様に、さっきからハードルを上げてしまうカイル。
まぁいいや、言い訳はもう思いついた。
「……あー言いづらい、驚かないでほしい、殆どの恩寵がダメだった。私は加護が【資質:B】しか無くて、殆どが技能だったんだけど、記憶がない為で使えないみたいだ」
ふふふ、これが私の作戦、技能は後天的な物だ、記憶が無くなったら使えない、説得力が出るはずだ。
それに加え資質を上のランクにしたのは理由がある、みんなの資質を見ていると逆に私だけ資質が低いと違和感が出る気がした、神器持ちだしね、別に見栄を張るためではない。
「っな! 恩寵が沢山あるどころか、殆ど無いってか、逆の意味で驚かせやがって、どうなってんだ!」
「まぁまぁルイン、もしかしたら戦いの最中に記憶を取り戻して、僕らの窮地を助けてくれるなんて事あるかもしれないよ」
不満を吐き出すルインを咎めるカイル。
けど、そんな事100パーありえないんだ、ごめん……。
「まぁそうだと思ってたわ、学校でも片手が無くなったら剣術等のランクが激減するって習ったでしょ、そりゃあ記憶が無くなったら使えるわけないわよね」
得意げに語るルミナ、なる程、そんな物なのか。
「ルミナ、魔法なら片手が無くなってもランクが下がらないので安心です! 流石魔法です!」
「あらクリル、貴方ねぇ……片手が無くなったらとっても痛いし、大変よ、想像してごらんなさい?」
「ひ、ひぃ……」
何やらじゃれ合っている二人、なんとか誤魔化せた様だ、よかった。
「おいっ! お前ら遊んでんじゃねぇ! もうとっくに恩寵は確認し終えてるだろ! こっちへ来い!」
――踏破者達の居る方向から、脅す様な殺気混じりの声色の怒鳴り声が、クライナ達に飛んでいく。
(……びっ、びっくりしたぁ、急にそんな声出さないでよ、みんな平気かな、特にクリルとか)
「今のは流石に僕らが悪いかな、もう後戻りできない命懸けの舞台にいるんだしね」
「だなっ 流石に気が緩みすぎた、よし行くぞお前ら、舐められないようにしろよ」
「当たり前でしょ、あいつらは私がギャフンと言わせてやる連中なんだから、楽しみだわ」
「ま、待ってください、もうすぐ! 遂に! 魔法が撃てる!」
余裕そうに踏破者達への方向へどんどん進んでいくカイル達。
そうだ、今から迷宮に潜るんだ、踏破者何かにビビってられないよね!




