第八話 ―飛んできた令嬢と通信の魔法具―
未知との遭遇?(古すぎ!)回です
フィーユの言う通り、数時間するとヴァルドが戻って来た。
「こちらから移転できる魔法陣を今から作ります。数時間お待ちください」
グレースの目の前で作業を始めようとする。
「そんなところに作らないでよ! ここに来た人が飛んで行くじゃない!!」
フィーユが叫んだ。
「あ、失礼しました。どこに作りましょう……」
「あの、あちら側の魔法陣は、どこに作られましたの?」
セレシアが尋ねる。
「元の場所の隣です」
ヴァルドが答えた。
「また誰か飛んで来ると困るのだけど、ちゃんと無効化しました?」
「あ、してないです」
フィーユの拳がぎゅっと握られる。
セレシアは慌てて止めた。
「あら、よろしいわ。それをお城の安全な場所へ移動させて、こちら側の出入り口もここへ移してくださらない? ここ、おもしろいから、しょっちゅう遊びに来たいわ。次に来る時は侍女と護衛も連れて来るから、迷惑はかけないわ」
グレースが言う。
セレシアは少し考えた。
「そうね。そちらの魔法の使い方、すごく興味があるわ。私もグレースの国へ行ってみたい」
フィーユの拳が解かれた。
「お父様、セレシアに感謝するべきですわ」
――いや、すごい事をやっている父親を尊敬するべきではないのか?
セレシアはそう思ったが、口には出さなかった。
こうして、グレースの国と中央の辺境伯別邸は、転移の魔法陣によって結ばれたのだった。
「お互いの国王には、くれぐれも内密に」
ヴァルドに念を押される。
「わかっていますわ。では皆様、またお会いしましょう」
数時間後、屋敷の納屋の中に魔法陣が作られ、グレースは帰って行った。
数日後。
中央の辺境伯別邸に、フィンがやって来た。
「辺境伯様からの手紙です」
手紙を受け取り、中を読んだセレシアは何とも言えない顔になる。
「情報が遅すぎ……。なんでそうなったのかしら……」
その手紙を執事へ渡した。
執事も「あちゃあ」という顔をする。
そこには、
『そなたの学友である、白髪に赤い目の少女は、外国から消えた伯爵令嬢である可能性が高い。至急保護せよ』
と書かれていた。
「もう、数日前に帰国なさったわ」
「そうなのですか? 辺境伯領に、その国の者達が来て、捜索の協力を依頼されました。それで、セレシア様が以前書いてくださった手紙の内容を思い出し、早馬で知らせろと言われて、飛んで来ました」
辺境伯領にまで捜索隊が出ているとは。
ヴァルドは、すごい国際問題を引き起こしていたらしい。
フィーユの拳が再び握られる。
「まあまあ、もう解決したから」
セレシアが慌ててなだめた。
「その方は?」
フィンが尋ねる。
「あ、ヴァルド様の娘のフィーユよ」
フィンの目が丸くなる。
「あのヴァルド様のお嬢様! 初めてお目にかかります。私は辺境伯領で騎士をしております、フィンと申します。お見知りおきください」
フィンは跪き、頭を下げた。
「なんでこの人、頭下げているの?」
フィーユが不思議そうな顔をする。
「一応、ヴァルド様は竜の使いとして尊敬されているのよ。あなたのお父様はすごいの」
セレシアが説明した。
「えー、あのお父様が?? 信じられない!!」
「フィーユ、やめましょうね。ヴァルド様にも立場があります。あなたのお父様という以外にも、色々なお立場をお持ちなのです」
「そうなんだ……。いつもお母様に――」
セレシアは慌ててフィーユの口をふさいだ。
「フィン、疲れたでしょう? 馬を走らせたの?」
「いえ、途中までは……」
そこへアーチャが姿を現した。
「僕が乗せて飛んで運んだ。途中の山道は、馬では時間がかかるからね」
「あなたも来ていたのね」
セレシアはアーチャを抱きしめた。
「恥ずかしいよう~~。僕はもう大人なんだよ。子供じゃないんだ」
そう言いながらも、どこか嬉しそうだ。
「え? それって竜よね? 初めて見たわ。小さいのね」
フィーユが目を見張る。
「体の大きさを変えられるんだ。本当はもっと大きいんだよ。でも家の中で大きくなると、家が壊れちゃう」
「体の大きさを変えられるなら、形も変えられるんじゃないの?」
フィーユが何気なく言った。
「確かに!」
フィンも感心する。
「アーチャ、人間になれれば、セレシアとここに住めるぞ」
フィンが言う。
「セレシア様を恋しがっていてね。それで今回、こっそり連れて来たんだ。屋敷の中だけなら大丈夫だろう?」
「そうでもないんだけどね。あ、来た。アーチャ、隠れて」
外の納屋の扉が開く音がした。
納屋は狭いため、一人ずつしか出入りできない。
「お嬢様、雨の時に困りますから、納屋と屋敷の間に屋根を作りましょう」
護衛の騎士が、日傘を持ちながら言う。
「そうね。日差しが当たるのも、私の肌では困るわ」
グレースである。
侍女と護衛を伴い、侍女がうやうやしく庭側の扉を開けた。
「ごきげんよう。今日は通信機をお持ちしたのよ。これがあれば、お互い行き来する前に予定を確認できるわ」
侍女が、手のひら大の透明な球体を差し出した。
セレシアの目が輝く。
「これ、どうやって使うのですか?」
「まず魔力を込めます。光り輝いたら使えます。今、試してみますね」
グレースが球体へ指を当てると、少しずつ光が増していく。
「お父様、こちらがセレシア様です」
なんと、球体の中に中年男性の姿が映った。
「セレシアでございます。お会いできて光栄でございます」
思わず挨拶をしてしまう。
「おお、なんと美しいお嬢様なのだ。娘が世話になった。これからも仲良くしてほしい」
「はい。お友達になれて光栄でございます」
フィンは呆気に取られ、つい球体へ顔を近づけてしまった。
「その方は?」
向こう側で、少し驚いたような声がする。
「失礼いたしました。私の幼馴染の騎士が、ちょうど来ておりまして、居合わせました。口の堅い、信用できる人間でございます。ご安心ください」
(手紙の内容を話す人間の口が堅いのか?)
と、フィーユは密かに思ったが、口には出さない。
「お父様、こちらが『フィーユ』ですわ」
フィーユが球体へ顔を近づけた。
「そなたの父が娘を返してくれたと聞いた。ありがたい。くれぐれも礼を伝えてほしい」
「かしこまりました」
「では、そろそろ魔力がなくなるので切りますね」
グレースが指を離すと、球体はただの透明な玉へ戻った。
「流す魔力の量で話せる長さが変わるわ。魔力を蓄えておけば、もっと長く話せるの」
グレースがにっこり笑う。
「こんな貴重な物……預かっていいの?」
「いいの。うちの国では当たり前にあるものだから」
(いや、それがあったら辺境伯領へもっと早く連絡が行ったのでは?)
そう思ったが、セレシアは何も言わなかった。
グレースが連れて来た護衛が、なぜかフィンの顔をずっと見つめている。
セレシア、フィーユ、グレースの三人は、お茶を飲みながら話をしていた。
フィンはセレシア達の後ろに立っている。
護衛のつもりなのだろう。
グレースの侍女が、そっと護衛へささやく。
「あの方に似ています……まさか……」
「そなたもそう思うか?」
その会話を、アーチャは姿を隠しながらもしっかり聞いていた。
数時間後、グレースは二人を伴い帰って行った。
「しかし、すごい物を置いて行ってくれたわね。どういう仕組みなのかしら?」
フィーユが球体を覗き込み、指先で軽く触れた。
「魔力を注ぐって言っていたわね。どのくらい吸収されるのかしら?」
フィーユが魔力を流してみる。
すると、向こう側の風景が映し出された。
「おい、行方不明の王子そっくりな青年がいたな?」
「はい。辺境伯領の騎士と言っていました」
「辺境伯領へ行った者も同じ事を言っていました」
「実物を見ましたが、本当にそっくりでございました」
三人は顔を見合わせる。
球体から離れ、ひそひそと話す。
「なんか、見てはいけない事を見て、聞いてしまったようね」
セレシアはつぶやいた。
「これって、どうやったら切れるのかしら?」
「もしかして、魔力が尽きるまで丸見えで丸聞こえって事?」
「こちら側も気を付けましょう」
執事が黙って球体へ布を被せた。
声が聞こえなくなる。
「魔力を遮断する布でございます」
「フィン、なんかあなた、変な事に巻き込まれそうよ。早めに辺境伯領へ帰った方がいいわ」
セレシアが言う。
「うん。僕もそう思う。もっとゆっくりしたかったけど、すごくまずい気がする」
アーチャも言った。
「わかった。そうするよ」
フィンはすぐに帰路についた。
その一時間後ぐらいだった――。
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