第五話 ーそれぞれの試練ー
後半に「あの人」登場です
「えーー!! クビですかあ?」
先ほどの若い元侍女が呼ばれ、部屋へ入ってきた。
「せっかく、お綺麗だと褒めたのに……」
セレシアは、強い怒りを宿した目でその侍女を見つめた。
「我が父、辺境伯は国境を守るため、日夜騎士達を束ねています。侍女や侍従達も、その騎士達を支え、皆で質素に暮らしています」
セレシアは静かに言葉を続けた。
「それを『田舎じみている』と思っていたのでしょう?」
若い侍女は、セレシアの深い怒りを感じ取り、ただ震えることしかできなかった。
「申し訳ございませんでした。これから気を付けます。だから、クビだけはお許しください。やっと雇ってもらえたお屋敷なのです。ここを出されたら行くところがありません」
元侍女はそう言って泣いていた。
だが――
「嘘泣きはやめなさい。私には通じません」
セレシアは立ち上がった。
「ルリーヌ、自分の荷物は自分で整理します。それから、この者が服の中に隠している私物を、すべて出させなさい」
若い元侍女の顔色が変わる。
「行くところがないと言ったけれど、監獄という行き場がありますから安心なさい」
若い元侍女は「ひっ」と声を上げ、逃げ出そうとした。
セレシアはすかさず呪文を唱える。
「捕らえよ」
光る紐が現れ、若い元侍女の体をぐるぐる巻きにした。
さらにセレシアは、そのまま侍女を逆さまに吊るす。
「我が手へ戻れ。愛しき物達」
呪文を唱えると、若い元侍女の服の中から、アクセサリーや文具など、細かな物が一斉にセレシアの手元へ飛んできた。
「後は任せるわ。元気で愛想の良い子なら問題ない、というのは思い込みよ」
セレシアはそう言い残し、部屋を出て階段を上っていった。
ルリーヌと執事、そして逆さまにされたままの若い侍女は、その姿を見送る。
「合格ですね。これは久々に、お仕えしがいのある方に巡り合えました」
「もういいでしょう!? 助けて! 頭に血が上る!!」
若い侍女が叫ぶ。
「それが……魔力が強すぎて、ほどけないわ」
ルリーヌが焦った声を上げた。
その様子をこっそり見ていた侍従が、慌ててセレシアのもとへ知らせに走る。
「そういうことだったのね……ずいぶん手の込んだ歓迎ですこと」
セレシアは階段を下り、侍女を元の姿勢へ戻して、魔法の紐を消した。
若い侍女は泣きながら詫びる。
「お嬢様がどのような反応をなさるのか、わざと失礼な態度を取りました。お許しください」
「私が気付かなかったら、どうするつもりだったの?」
「辺境伯領へお帰りいただくつもりでした。これくらい見抜けない方は、中央の貴族社会では暮らしていけません」
「なるほどね」
こうして、セレシアの中央での日々が始まった。
一方、辺境伯領では――
「途中まで追跡したが、転移の魔法陣があった。
そいつらは、それに草を乗せてからどこかに立ち去った
草だけ、魔法陣に吸収された」
次兄が報告する。
「転移の魔法陣の上へ、行き先がわかる石を乗せてみたのだが……」
四兄が続けた。
「行き先は海外だ。それ以上はわからない。転移の魔法陣は無効化しておいた。あの草は、この領地にしか生えない」
「これで相手が諦めてくれるとよいのだが……」
その時だった。
突然、ヴァルドが現れた。
「何をしてくれたのだ、そなた達!!」
四人は同時に言った。
「誰だっけ?」
竜達が一斉に姿を現す。
「ヴァルド殿です。龍神の使い……のはずです」
「ああ……セレシアに卵を預けた者か」
長兄が思い出したようにうなずいた。
「何か問題でも?」
「あの草は、新しく誕生した雌の竜のために人間に金を渡して集めていたのだ!
魔法陣を勝手に無効化するな!!」
ヴァルドが珍しく怒っている。
「えっ? もう新しい竜の卵は生まれないのではなかったのですか?」
四兄が驚く。
「海外にまで足を延ばして、ようやく我が一族の竜に会えたのだ。しかも番であった。卵が孵化し、雌が生まれた」
ヴァルドは早口で説明する。
「人間の魔力に頼らず子を育てるには、あの草が必要なのだ」
「それなら、最初に言ってくだされば協力しましたのに」
四兄が呆れたように言う。
「こちらの竜帝の耳に入ると厄介だからだ。戻って来いという話になれば、板挟みになる私がたまらぬ。面倒だから、勝手に持っていっていた」
「こちらは大いに警戒したのですが」
四人と四竜が、じとりとした目でヴァルドを見る。
「協定を結びましょう。必要な量の草は分けます。その代わり、管理はこちらに任せてください」
四兄が言った。
「勝手に持っていかれると、それを小遣い稼ぎにしていた民の不満が溜まります」
さらに続ける。
「それから、このような場所に魔法陣を勝手に作らないでください。普通の人間ならともかく、魔力を持つ者が踏んだら転移してしまいます」
四人の兄達に畳みかけられ、ヴァルドはうなる。
「その代わり、竜帝には内緒ということで……」
「いいですよ。どうせ守護竜は、我らの代で終わりですし」
三兄があっさり言う。
「それから、海外にいるのなら、時々こちらへ来て情勢を知らせてください。小規模な奇襲なら問題ありませんが、大規模な戦争は困る」
長兄がヴァルドへ言った。
「要求が多くないか?」
ヴァルドが不満そうに言う。
「あ、草はいらないのですね」
四兄がすかさず突っ込んだ。
「我が兄弟の雌の子……わかった。要求をのむ」
こうして、新しい転移の魔法陣は四兄の倉庫の中に作られた。
ついでに、その倉庫は大幅に増築されることになった。
「どこにつながっているのです? まあ、私が踏んでも飛びませんが。魔力がありませんので」
四兄が尋ねる。
「某国の山の上だ。そこに巣を作っている」
「ふむ……他にも、そういう竜がいそうですね」
「ああ。あちこちに散らばっているらしい。ただ、問題がある」
「どのような?」
「竜がいると、その付近の魔獣達が離れる。結果、人間界に近寄ってしまう。そうなると、人間の暮らす場所に魔獣が出没する可能性が増す」
「それは大問題ではないですか!!」
三兄が叫んだ。
「これも、竜帝の力が低下したせいだ。私は、人間の姿をした竜として、何とかしたいと思っているのだが……」
ヴァルドがうなだれる。
「どちらもまったく言うことを聞かず、平行線なのだ。竜帝は今まで通りのやり方を続けたい。出て行った者達は自由を求めている。特に虐げられてきた雌達は『絶対に戻りたくない』と言う」
「竜帝が悪いだろう、それは。誰だって虐げられたくはない」
次兄が言った。
「価値観が違うのだよ。人間の一生は竜と比べれば短い。だから世代交代と共に、考え方も変わりやすい」
ヴァルドは遠い目をする。
「だが、竜は寿命が長い。その分、同じ思考が長く続いてしまう……」
「いっそクーデターを起こして、竜帝を倒すとか」
三兄が言った。
「無理を言わないでくれ。不満はあるが、長く仕えてきたのだ。それはできぬ」
ヴァルドは首を振る。
「どちらにしても、竜帝のいる場所はもう手狭だ。老竜達でいっぱいなのだ。その世話をさせられるのも御免だと……悪循環この上ない」
「つらい立場だのう、そなた」
長兄がしみじみと言った。
「わかってもらえますか?」
ヴァルドはすがるように長兄の手を取る。
「我らでよければ、いつでも話を聞く。訪ねてくるとよい」
長兄が穏やかに言った。
「ありがとうございます。そういえば、何か忘れているような……」
ヴァルドが頬をさする。
「ああ、セレシアとアーチャのことをすっかり忘れていた! どうしている?」
「アーチャは元気だ。今はフィンに付いている。セレシアは中央へ訓練に行った。数年は帰って来られない」
「主人を変えた? そんなことができるのか?」
ヴァルドは目を見開いた。
「実際、フィンと仲良くやっている。セレシアがいなくなって寂しそうではあるがな。戦闘の時は、セレシアと一緒にいた頃より生き生きしている」
長兄が言う。
「どういう事なのだ?まあよい。では、失礼する」
ヴァルドはそのまま姿を消してしまった。
「都合が悪くなると消える……」
四兄の守護竜がぼそりとつぶやいた。
「まさか、竜の世界のことが人間にまで影響するとは……。いったい、これからどうなるのだ?」
長兄は胸騒ぎを覚えずにはいられなかった。
え?そんなオチ?
とチャッピーに言われてしまいました。
すみません。面倒はすべてヴァルドに丸投げです




