表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『辺境伯令嬢と竜の子』 ―滅び行く者たちと未来に向かう者たち―  作者: 鶴見 日向子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/21

第三話 ―アーチャの友達とヴァルドの訪問―

ヴァルド再登場です

『騎士の家』と呼ばれるこの建物は、実質的には孤児院だった。


だが、ただの孤児院ではない。


親を失った騎士の子供、魔力を持つ平民の子供――とにかく、『実力』がなければ入ることはできなかった。


いわば、騎士見習い達のための訓練校でもある。


時折、事情を知らぬ貧しい者が赤子を置いていくこともあった。


だが、魔力や素質の審査で適性がないと判断された子供は、町の普通の孤児院へ引き取られていく。


逆に、町の孤児院から『見どころがある』として連れて来られる場合もあった。


フィンは後者だった。


赤ん坊の頃、旅人が『道で拾った』と言って孤児院へ置いていったらしい。


たまたま視察へ来ていた長兄が、


「なんだ? この子は!」


と、その隠れた力にすぐ気付き、連れ帰ってきたのである。


長兄の目は正しかった。


フィンは驚くほど成長し、敵襲の際には子供達を即座に避難させ、その後、火の中へ入っていくセレシアを救い出したのだ。


セレシアは、自分を助けてくれたフィンを深く信頼していた。


だから何かあるたび、『騎士の家』へ会いに来るようになっていた。


「フィン、卵が孵ったの。この子よ。アーチャっていうの」


セレシアはアーチャを紹介する。


「かわいいトカゲですね」


フィンはにこりと笑い、触れようとした。


「無礼者! 僕は竜であるぞ! 気軽に触るな!」


アーチャが怒鳴った。


フィンは目を丸くする。


「竜ですか? 本当に?」


「竜なの。生まれたばかりだから小さいの。私の友達になってくれたのよ」


セレシアはアーチャをそっと手へ乗せ、そのままフィンの肩へ移した。


「アーチャ、フィンは私の命の恩人なの。私と同じように、仲良くしてほしいのよ」


「ふむ……そなた、ずいぶんと力を内に秘めているな。何者だ?」


アーチャがフィンの耳元でささやく。


「ただの孤児でございます」


フィンは頭をかいた。


「アーチャ、内緒話はダメよ。三人は友達なんだから、普通にお話ししましょう」


「わかった」


アーチャはぴょんと跳ね、再びセレシアの肩へ戻った。


「フィンと申します。アーチャ殿、よろしくお願いします」


フィンは丁寧に頭を下げる。


「僕はアーチャ。友達になってくれるんだね。嬉しいよ」


すると他の子供達も集まってきた。


「僕も友達になりたい!」


「私もです!」


「そうね。みんな友達よ」


セレシアは笑いながら、一人ずつアーチャへ紹介していった。


アーチャは『しゃべる自称竜のトカゲ』として、子供達の人気者になった。


「大きくなったら、みんなを守れるようになってね」


セレシアが言う。


アーチャは強く思った。


――絶対に強くなる。


だが、吐ける炎は、まだマッチの火程度だった。


子供達の生活は厳しい。


早朝から起き、訓練を行い、朝食後は部屋や建物の掃除。


その後も、ひたすら訓練に明け暮れる。


セレシアも時折、小さな子供達に混じって訓練を受けていた。


兄達も同じように育ち、一人前の騎士となった。


――一人を除いて。


四兄は体が小さく、魔力もあまり強くない。


『今度こそ女の子を!』


と期待していた両親は、赤ん坊時代の四兄へ、あまり魔力を注がなかったらしい。


男だとわかった時の落胆は、相当だったという。


だが、その分、四兄は知識を蓄えた。


穏やかで、人柄も良い。


アーチャが『雄だった』と落胆された姿が、どこか自分と重なったのだろう。


四兄は守護竜と共に、アーチャを可愛がっていた。


「この薬草は独特の匂いがあるが、魔力を含んでいるのだ。私はあまり魔力を与えられないから、その代わりとして食べてもらっている」


四兄が説明する。


「そなたも食べてみるがいい」


アーチャは思い切って口へ入れた。


「美味しい……臭いけど、慣れたら癖になりそう」


「そうであろう?」


守護竜は笑っているように見えた。


実際、竜の表情はよくわからないのだが。


「でも、僕まで食べたら四兄竜さんの分が減っちゃう……」


「大丈夫だ。秘密の場所で大量に栽培している。内緒だぞ」


四兄が笑う。


「しかし、そなたは自由だな。不思議だ。我々は主から離れることなどできぬ。常に側にいて、危機があれば守護に回る」


「それ、誰が決めたのですか?」


薬草の匂いが苦手なセレシアが、少し離れた窓際から鼻を押さえつつ聞いた。


「いや……気付いたら、そうなっていたというか……」


「ふーん。今度ヴァルド様に会ったら聞いてみようっと。ヴァルド様、また来るのかしら?」


「わかりませんねぇ。ヴァルド殿は特別なのです。我々とは少し違う。ただ、竜帝には一応従っています」


「一応?」


「協定を結んでいる、という感じでしょうか……詳しいことは私も知りません」


いつの間にか、四兄の守護竜もセレシアと普通に会話するようになっていた。


「娘がいるって聞いたわ。ヴァルド様って人間なの? でも、なんだか不自然よね」


だいぶ薬草の匂いに慣れてきたセレシアは、ようやく鼻から手を離した。


「私も知りたいので、ぜひ今度、セレシア様から聞いてみてください」


四兄竜の目が輝く。


「了解です」


セレシアは笑った。


その後、ヴァルドが現れたのは約二年後だった。


セレシアは十歳になっていた。


アーチャは、トカゲからカメレオン程度の大きさへ成長していた。


いつものように食後のお茶を飲んでいると、ドアを叩く音が聞こえた。


侍女が扉を開く。


そこにヴァルドが立っていた。


「お久しぶりです。セレシア様。竜も少しは大きくなったな」


礼儀正しく頭を下げたヴァルドの右頬には、見事な手形が付いていた。


「今回はまともな登場で安心しました。でも、前触れがあるともっと良かったですね」


侍女が皮肉を言う。


「すまない。どうも我々と人間では感覚が時々違う……」


「そのお顔は?」


セレシアが目を見張る。


「娘が風呂へ入っていたので、一緒に入ろうとしたら怒られた」


ヴァルドはしゅんとしていた。


「そういえば、前回こちらでも何か投げつけられたのを思い出した。それを話したら、妻に平手打ちされてしまった。『ちゃんと謝って来い』と……」


「わざわざそれだけのために来たのですか?」


セレシアは目を丸くした。


「まあ、竜の様子を見るのもあるのだが。あと、名前を付けるなというのを言い忘れていたのを思い出してな」


ヴァルドは嫌な予感を覚えたように聞く。


「……名前は付けておらぬよな?」


「今さらですかあ!?」


セレシアとアーチャが同時に叫ぶ。


「生まれてすぐ付けちゃいましたよ。『竜』じゃなくて、ちゃんとアーチャって呼んであげてください」


「あー……そんな気はしていた……」


ヴァルドは頭を抱えた。


「まあいい。最近、竜帝も少しぼけてきているからな。適当に誤魔化そう……」


ぶつぶつ言っている。


「ヴァルド様って、龍神様とどういう関係なのですか?」


四兄竜も気にしていたので、セレシアは尋ねた。


「うーむ。一応、親らしいのだが……私はなぜか人間の姿で生まれてしまった。竜になろうと思えばなれるが、する気はない」


「なぜです?」


「人間の姿の方が、人間の女性にもてるからだ。竜の雌より、人間の女性の方がはるかに良い。妻も娘も人間だ」


ヴァルドはきりっとした顔で言った。


「人間との間に子供ってできるのですね……」


侍女が感心したようにつぶやく。


「まあ、することをすれば……」


その瞬間。


頬の反対側へ、新たな手形が追加された。


「何をお嬢様へ吹き込もうとしているのですか!!」


侍女が怒鳴る。


セレシアは咳払いをした。


(一応、知ってるんだけどな……まあいいや)


騎士の家の女子寮で、年上の騎士見習い達から色々教わっていたのだ。


そういう話になる時は、アーチャをフィンへ預けていた。


「ねえねえ、『すること』って何?」


アーチャが目を輝かせて聞く。


「ああ、それはな――」


ヴァルドが答えかけた瞬間。


侍女の拳が顔面へめり込んだ。


ヴァルドはそのまま後ろへ倒れる。


幸い、ちょうどソファーの上だったため、後頭部は無事だった。


「もう、その話は終わりです。これ以上続けたら、ヴァルド様の綺麗なお顔が別物になってしまいます」


セレシアは倒れたヴァルドへ近寄り、治癒魔法を唱えた。


「白き妖精よ。この者の顔を元に戻したまえ」


白い光が手のひらからあふれ、ヴァルドの顔がみるみる治っていく。


「わざわざお嬢様の手を煩わせるなんて」


侍女はぶつぶつ文句を言う。


「本当に、人間はよくわからない」


ヴァルドもぶつぶつ言った。


「他にご用件はありますか? お風呂の件と名前の件はうかがいました」


セレシアが尋ねる。


「『すること』を聞いてないよー」


アーチャが無邪気に言った。


「それは聞かなかったことにしなさい」


ヴァルドが真顔で言う。


「はーい」


「人間の子供には聞かせてはならないらしい。娘へ言う前に知れて良かった。礼を言う。妻に張り倒されるのは慣れている。治癒魔法を使わせて悪かった」


ヴァルドは礼儀正しく頭を下げた。


その時。


気付けば、アーチャへ羽が生えていた。


ぱたぱたと宙を飛んでいる。


「あれ?」


セレシアも侍女もアーチャ本人も驚く。


「ふむ。順調だな。それで良い」


ヴァルドは満足そうにうなずいた。


「生まれてから、ちょうど七百五十日。様子を見に来た。次は八百日後に来る」


そう言うと、ヴァルドは姿を消した。


「あー!! もっと引き留めて、四兄様と竜さんを呼べば良かった!!」


セレシアが叫ぶ。


「八百日後と言っていましたから、その時までに聞きたいことをメモしておきましょう」


侍女が冷静に言う。


「その頃まで覚えているかしら?」


「忘れちゃうよ!」


そう言いながら、アーチャは嬉しそうに飛び回っていた。


「飛べるっていいわね。うらやましい」


セレシアは目を細めた。


暴力描写はよくないと思いつつ・・・・

ヴァルドは「人外」なので深く考えないでいただけるとありがたく思います

草は「パクチー」をイメージしました。

実物を知らないのですが、(売っていても手に取ろうとは思わない)よく耳にするので

ドクダミでもいいかも・・・・

ドリアンとか・・・・お好きな「匂い」をご想像ください

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ