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『辺境伯令嬢と竜の子』 ―滅び行く者たちと未来に向かう者たち―  作者: 鶴見 日向子


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第三十二話 ―欲望の代償―

最初の頃にでてきた男爵令嬢登場です

「おお、久しいのう。こちらがばたばたしていて、ちっともそちらへ行けずに申し訳ない」


公爵が2人を出迎えた。


「いいえ。復興も少しずつ進んでいるご様子。ご苦労が目に浮かぶようでございます」


フィンが言う。


「そうなのだ。荒くれ者達が石を切り出し、木を伐り出して、道ができつつある。

まだまだ先は長いがな。


グランヴェル国からも物資が届いておる。

あの飛行獣とかいう鳥は、使い方さえ間違えなければ、とても助かる。


あとは『無機質な物だけを運べる転移陣』だ。

あれは恐ろしく重宝しておる」


それはリュカのアイディアだった。


無機質な物だけを運べる転移陣。


人間や生き物は、魔力があってもなくても飛ぶことはない。


ヴァルドとリュカの共同作業で完成したものだった。

セレシアが無意識にやってしまった事を誤魔化すためでもあったのだが。


「まだ道は長いですが、目標に近づきつつあることは素晴らしいです」


フィンが深くうなずいた。


そこへ、公爵夫人に連れられた、白い髪、白い肌、そして赤い目の女の子がやってきた。


「お久しぶりです」


セイラは上手にお辞儀をして、挨拶ができていた。


「まさか、ヴァルド様がセイラちゃんを公爵家に預けるなんて思っていなかったわ」


セレシアがつぶやく。


「将来の王太子妃なのだから、早く環境に慣れた方がいい」


というフィーユの勧めだった。


ヴァルドも、


「少しでも普通の人間に近くなるように」


と、血の涙を流しながらセイラを手放したのである。


「とても賢い方です。すぐにいろいろな事を覚えてしまわれます」


夫人が嬉しそうに言う。


「将来の王太子妃、そして王妃としての素質が充分にあります。

しっかりお育てしたいと思います」


その言葉を頼もしく思い、2人は公爵邸から城の公爵専用の部屋へ飛んだ。


部屋から出ると、そこには、かつての男爵令嬢が深くお辞儀をして待っていた。


セレシアは驚く。


「孤児院へ行かれたと聞いたような……?」


思わず声を漏らす。


「はい。あの頃は大変失礼な態度を取りまして、反省いたしております。

孤児院で孤児達の面倒を見て、自分がいかに自分勝手で傲慢であったか、身に沁みました……。


なーんて言うと思った?

違いまーす」


セレシアは目が点になった。


そこへダイアナがやってくる。


「お待ちしていました。さあ、参りましょう」


ダイアナ自ら2人を案内する。


「国王陛下、王妃陛下、王太子殿下がお待ちです。

なかなかお会いする機会がありませんでしたね」


「本当に。ところで、先ほどの方は?」


セレシアが尋ねる。


「ああ、あの部屋の掃除係ですわ。

ずっと、あの部屋だけにいます。

部屋の外へ出ることはできません。

そういう『呪い』を、自らかけてしまったのです」


「呪いですか?」


フィンが驚く。


「孤児院を逃げ出し、あの部屋に入り込んで、

『自分がここの当主になる』

という魔法を自らにかけてしまったらしいのです。


魔力が少なく、さらに呪文も中途半端だったため、あの部屋の中でしか動けなくなりました」


ダイアナが遠い目をした。


「もう、いない者として扱っております。

落ち着いたら放り出します。

今は忙しくて、かまっていられないのです」


「はあ……」


あんな者が自分の屋敷にいたら嫌だな、とセレシアは思った。


国王夫妻、王太子夫妻との話は弾んだ。


「グランヴェル国との国交の件、丸投げしたというのに、ここまで良い関係になるとは思わなかった。

感謝する」


「いいえ。こちらこそ、辺境伯領にいろいろお気遣いいただきまして、ありがとうございます」


セレシアとフィンも礼を言う。


時間になり、退出することになった。


再び公爵家専用の部屋に入った、その時だった。


元男爵令嬢が、セレシアの耳飾りを掴んで外し、そのまま飲み込んだのだ。


「なんてことを!」


ダイアナが青くなる。


「後で『出てくる』からねー。

取り返せるものなら、やってごらんなさい」


セレシアとフィンは顔を見合わせた。


その耳飾りは、例の屑魔石で作られたものだった。


小粒過ぎて役に立たないものを、見た目がきれいなので集めて固め、試しに耳飾りにしていたのである。


「別にいいわよ。欲しいのなら、こちらもあげる」


セレシアはもう片方の耳飾りも外し、令嬢に投げた。


彼女は、それも飲み込んでしまった。


「取り返されたら嫌だから」


満足そうだった。


しかし、すぐに彼女の体の内側から光が放たれる。


その光が消えた時、そこにいたのは人間ではなく、羽の生えた小型の竜だった。


3人は顔を見合わせた。


「ねえ、大丈夫?」


ダイアナが話しかけてみるが、返事はない。


ただ、ひたすら窓をめがけて飛び、ガラスに体当たりをしている。


「もう放っておきましょう。自業自得です」


フィンが言った。


フィンが窓を開けると、その小型の竜は飛び去っていった。


「ダイアナ様、気になさる必要はありません。

あの方は、自ら人間を捨てる行為をしたのですから」


フィンは、顔色をなくしたダイアナを心配そうに見た。


「あの耳飾りは、竜由来の魔石の屑石だったのです。

私達には何の影響もないものでしたが、平民や魔力の弱い者には、ああいう形で影響が出たのでしょう」


セレシアが冷静に言う。


「他の者が、その竜由来の魔石を手に入れる可能性はありませんか?」


ダイアナが心配そうに尋ねた。


「ほぼありません。

ただ、贈ってくれた方には念のため報告しておきます」


セレシアが落ち着いて答える。


「でも、びっくりしましたね」


フィンが言う。


「本当です」


ダイアナとセレシアは顔を見合わせた。


「では、我々は行きます。

万が一問題が起こった場合はお知らせください」


フィンはダイアナにお辞儀をして、魔法陣に乗った。


「厄介払いができてよかったと思うことにいたします」


ダイアナがセレシアに言う。


「それがいいわ。竜が助けてくれたのよ。

それでは、また」


セレシアも転移陣の上に乗り、消えた。


ダイアナは2人を見送ると、首を振りながらつぶやいた。


「あの領土の人達ですもの。何でもありだわ。

正直、いなくなってくれてよかった」


そう言って壁を閉じ、部屋を出た。


一度、公爵邸へ戻る。


念のため、公爵に事の次第を話した。


「そういえば、きれいな耳飾りだとは思っていたのですが……。

申し訳ないことになりました」


公爵が謝る。


「いえ、ほとんど価値のない代物です。

魔力もほとんど含まれていなかったのですが」


セレシアが言う。


「帰って、皆で検討いたします。

この事は口外なさらないよう、お願いいたします」


「わかった。話したところで、誰も信じてくれないと思う」


公爵がうなずく。


「また来ます。それでは」


2人は去っていった。


その後、城の周りをうろつく小型の竜が目撃されたが、騎士達に追い立てられ、そのうち姿を消した。


こういう結末になりました。

あんまり後味はよくないのですのですが・・

ここまでお読みいただきましてありがとうございます

続きをおよみいただけるとありがたく思います

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