第二十八話(後編)―それぞれの役割―
続きです
その日のうちに、セレシアとフィーユは帰ってきた。
侍女の話によると、ヴァルドは帰りが遅かったらしい。
「めずらしいわね」
フィーユが言う。
「お父様にお話があるのだけど、お時間いただけるかしら?」
フィーユがそう言うと、侍女が呼びに行ってくれた。
しばらくして、ヴァルドが慌てて現れる。
「どうしたのだ?」
「今日ね、あちらの国王陛下から興味深いお話を聞いたの。
古い文献なのだけど、人間が竜になれる処方箋があるって」
「なんと!竜になりたい人間などおるのか???」
「逆を何とか調べられないかなと思って。
今度、四兄さまとお父様にその文献を見せてくださるって約束してくださいました」
「娘よ、よくやった!」
ヴァルドはフィーユを抱き上げた。
「お父様の献上品に、とても感謝していらっしゃったわ。
『万能薬』の材料になるそうよ。
どんな病にも効く薬だとか……」
「ふむ、残念ながらそれは迷信だな。
竜の血肉にそんな力はない。
あるのは体力増強の効果ぐらいだ。
まあ、人間達が信じているから高く売れて、我らの生活が成り立っているのだがな」
ヴァルドはあっさりと言う。
「妻用に解凍したものを、そのまま使えてよかった。
喜んでいただけたのなら、それでよかろう」
「今頃、フィンと四兄さまは何をしていらっしゃるのかしら?」
セレシアは、異国で生活する事になった2人が少し心配だった。
「大丈夫だ。2人とも上手くやる。
リュカ殿も、もう心配いらぬ。竜も付いている」
ヴァルドが言う。
「四兄さまとは話す事が多かったから、少しさみしいです」
セレシアはしょんぼりする。
「大丈夫だ。毎日帰ってくる。魔力の心配もいらない」
「いったい、どうやって四兄さまを移動できるようにしたのですか?」
ヴァルドは笑った。
「秘密だ。ただ、彼の今までの努力の結果だ。
彼の実力を認めてやってほしい」
そこへ三兄が駆け込んできた。
「鶏肉がうますぎた!あれの原料は何だ!」
セレシアの目が遠くなる。
「聞いておりません。
四兄さまと私の分は、全部お兄様にお渡ししました。
私は残った欠片を口にしただけです。
たしかに美味しかったですね」
「ぜひ材料と調理法を聞いておいてくれ。腹いっぱい食べたい」
「あちらの国王陛下が貴重品だとおっしゃっていました。あきらめてください」
「私が行けばよかった!!もっと食べたかった!」
「1人分は限られていました。
四兄さまの分まで召し上がったではありませんか」
セレシアは鶏肉を渡した事を激しく後悔した。
その時、アーチャが顔を出した。
「大きい鳥のヒナ鳥だって。
成長した鳥の肉は不味いけど、ヒナ鳥の肉は美味しいんだって」
「なんと!セレシア、知っていて黙っていたな!」
三兄がじろりと睨む。
「何で言うのよ!」
セレシアがアーチャに小声で叫ぶ。
「だって、僕も食べてみたくなったんだもん」
その日から、三兄の
『領地の食料確保』
という名の飛行獣養殖実験が始まった。
「まあ、いいか。飛行獣が増えれば、物資の運搬にも役立つし……」
セレシアは遠い目をした。
「アーチャ、これからは余計な事言わない方がいいよ」
フィーユが真顔で言う。
「竜の肉がおいしいなんて話になったら、焼き竜にされちゃうかもよ」
「あ、三兄さまならやりかねない」
セレシアも真顔でうなずく。
「もう言いません!ごめんなさい!!」
アーチャは慌てて隠れた。
この事をきっかけに、三兄の食料の質向上への探究心は恐ろしく向上した。
誰よりも熱心にヴィルの国へ通い、食の追求を始める。
ヴィルの国からは、魔法を学ぶために騎士や魔術師達が入れ替わり立ち替わり訪れるようになった。
長兄と次兄は、その対応に追われた。
四兄は機械作りに熱中する事になる。
そして、ある日――
「自動草送入機」
を完成させた。
「これで私の負担が減るし、一定時間ごとに草を投入できる」
機械と魔法の融合である。
平民達の精密機械と、魔法で動く装置を組み合わせた
『魔道具』
が、次々と作られていった。
ヴァルドとセレシアは、『竜の人間化』について研究を始めた。
四兄は魔道具作りで忙しく、結局2人で研究する事になったのである。
フィンは、両国の調整役として必死に働いていた。
フィーユは育児の傍ら、それらしい文献を国王から聞き出し、見せてもらう手筈を整えていく。
だが――
例の
『人間が竜になる処方』
は出鱈目だった。
「だが、そういう発想があったという事実は、何かの参考になるかもしれない」
ヴァルドとセレシアはあきらめなかった。
そうして、年月が流れていく。
フィーユは成人し、無事に王太子妃となった。
その結婚式は盛大に執り行われ、多くの者達に祝福された。
ヴァルドとメアリー夫妻。
そしてセイラと、もう1人の幼い男の子も姉の結婚を祝福する。
「まだ、その子、名前ついてないのね」
「息子は1人なのだから、『息子』でよい」
ヴァルドが真顔で答える。
ちなみに『セイラ』という名は、母であるメアリーが付けたものだった。
由来は、なぜか教えてもらえなかった。
(ヴァルドはヴァルドだなあ……)
セレシアはそう思いつつ、
「そのうち、何とかなるわよね」
と笑った。
セレシアも、少しずつヴァルドの影響を受けつつあったのである。
産まれてしばらく「こどもに名前をつけない」どこかで聞いたような?(笑)




