第二十七話(後編)―フィーユの答え―
フィーユと未来の舅姑との会話です
「お父上は、もうお帰りになられたのか?」
国王はフィーユに尋ねた。
「はい。父は母がいないと死んでしまう病にかかっておりますので、用事が済めば、さっさと帰ります。
慣れていただけるとありがたく存じます」
フィーユが国王夫妻に頭を下げる。
「いや、凄い物を献上品としていただいたのだが……
そなたの父上はいったい何者なのだ?」
「一応、城に住んでおりましたが、家来も侍女もおらず、三人だけで暮らしておりましたので、貴族ではありません」
フィーユが答える。
「城? 三人だけで暮らしていた?」
国王が目を見開いた。
「城持ちという時点で、もう貴族以上なのでは?」
王妃がつぶやく。
「そなたは礼儀作法もきちんとしている。誰に教わったのだ?」
国王がフィーユに問う。
「主に母からですが……あ、そういえば、あちらのお城でも教えていただきましたわ」
フィーユは、セレシアと知り合った女官育成所を思い出していた。
「城にも出入りしていたのであれば、貴族であろう」
「そうでしょうか?」
「その、よくわからないところも魅力の一つなのでございます」
ヴィルがフィーユの隣で言う。
「まあよい。お父上に、竜の目玉、生血、鱗のお礼をくれぐれも伝えてくれ。
あれらは『万能薬』として、本当に貴重な物なのだ。
いったい、どこで手に入れられたのであろうな?」
(竜帝様が亡くなった時に分解したって言っていたけど、言えないわよね)
ヴァルド達の住んでいた城の中には、その他の部位も山ほど眠っている。
「万能薬とは、どのようなものなのですか?」
(四兄様が喜びそう)
フィーユは尋ねた。
「どんな病でも治せる薬だ。
そして、本当かどうかはわからぬが、人間が竜になれるという処方もある。
古い文献ゆえ、真偽は定かではないがな」
フィーユは下を向き、喉が「ヒュ」と鳴りそうになるのを必死に押さえた。
「人間は竜になりたいのですか?」
動悸を押さえつつ、不思議そうに尋ねる。
「昔はそう願う者が多かったようだ。
竜は長寿で、空を飛び、不思議な力を持っているからな。
実際どうなのかはわからぬ。
我が国には竜はおらぬ。とっくの昔に全滅したと言われている」
(目の前に混血がいますよー)
とは言えない。
「フィーユさんは面白いわ。
普通なら『どんな病でも治せる薬』に反応するのに、竜の方に興味を示すなんて。
本当に他の方とは違っていますね」
王妃がおほほほ、と笑う。
「そういうところが私は好きなのだ」
ヴィルがうっとりとフィーユを見つめた。
「申し訳ありません。四男様がその文献を見たら喜びそうだと思いまして。
四男様は竜の研究にも大変熱心なのです」
フィーユが言う。
「そうか。あのリュカ殿は竜の研究もしているのか。
こちらの学者と話せるよう手配しよう」
「ありがとうございます。父も、ついでに同席させていただけませんでしょうか?」
「構わぬぞ。
もしよければ、素材をどこで仕入れたのか知りたい。
その辺りも頼んでもらえぬか?」
「そこは私にはわかりかねます。一応、お伝えはいたします」
(まさか、老衰で亡くなった竜を分解しまくっているなんて、口が裂けても言えないわ!)
婚約破棄は嫌だった。
「ところでだ。フィンの事なのだが」
国王が急に話題を変えた。
「はい。フィン様が何か?」
「ふむ。しばらくはこちらに住んでもらうつもりではあるが、慣れぬようなら、辺境伯領へ帰してもよいと考えている」
国王が言う。
フィーユはうなずいた。
「セレシア殿には婚約者などはいるのか?
娘は一人だと聞いている」
「いません。ご両親もあまり考えておられないように思います」
フィーユは、先日、領主夫人と侍女が話していた事を思い出して答えた。
「父上、フィンにはセレシア嬢がよいと思います。
幼馴染ですし、仲も大変よい」
ヴィルが言う。
「そなたはどう思う?」
突然話を向けられ、フィーユは少々困った。
「フィン様とセレシア様は、どちらかと言えば兄妹のような関係という気がいたします。
お互い信頼が深いのは事実ですが……」
(アーチャを共有しているし)
「そうか、難しいのう」
国王が渋い顔をする。
「実は、辺境伯殿と長兄殿とも話をした。
長兄殿達は、自分達は家臣となり、フィンをセレシアの配偶者として、辺境伯を継がせてもよいと言っている」
ヴィルが言った。
フィーユはまったく初耳で、息が止まるほど驚いた。
「フィン様とセレシア様が承知するとは思えません。
あの二人は、お兄様方をとても尊敬しております。
それを押しのけて自分達が上に立つなど、全く考えないと思います」
フィーユは思った事をそのまま口にした。
「そうであろうな。
なので、フィーユ殿。フィンとセレシア殿がそうなるよう、力添えをしてくれぬか?」
国王が言う。
フィーユは首を振った。
「セレシアは私の大切な親友です。
彼女自身がフィン様を想っているのであれば、心から応援いたします。
ですが、そうでないのであれば、お断りさせていただきます」
フィーユの目に怒りの炎が宿る。
国王は満足そうにうなずいた。
「わかった。無理を言ってしまったな。
今の話は忘れてくれ」
そう言う国王の目は優しかった。
「友を大切にできぬ者が、国民を大切にできるわけがない。
そなたは本当によくできた娘だ。
王妃よ、どう思う?」
王妃も微笑んでいた。
「ヴィルの言う通りですわね。
自分をきちんと持っている事は大切です。
最近、すごく従順になってしまって……少々不安だったのです。
あなたらしさが失われてしまっているような気がして」
「そうだ。そういう、自分の意見をはっきりと言うそなたが私は好きなのだ。
それを忘れないでほしい」
ヴィルも笑った。
フィーユはあっけに取られる。
こちらは『嫌われたらどうしよう』と思い、なるべく大人しくしていたのだ。
それが、逆に心配されていたらしい。
「早く、あなたが私の娘になってほしいわ」
王妃は、おほほほ、と笑った。
本当に?と言いたくなるような・・・・・
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