第二十七話(前編) ―リュカの覚醒―
短いので、次の話と同日公開します
そして、元の自分の部屋へ戻った。
「こっちの方が落ち着くな」
リュカはほっと息をつく。
寝慣れたベッドへ横になりながら、転移の魔法陣をじっと見つめた。
「なるほど……あちらのものと基本的な文字列は同じだ。
中央付近が、その場所固有の魔力を示す記号なのだな」
そうつぶやきながら、あちら側の転移陣の模様を思い浮かべる。
その瞬間――胸元から光が放たれた。
気が付くと、目の前にはヴァルドのあっけに取られた顔があった。
「いったい何が起こった!?
転移陣はあそこだ!」
ヴァルドが転移陣を指差して叫ぶ。
リュカ自身も何が起きたのかわからなかった。
「あれ? 自分の部屋のベッドにいたはずなのですが……」
確かにベッドの上ではある。
だがそこは、自分の部屋ではなく、ヴァルドのいる寝室だった。
「そなた、試験だからすぐ戻ってくると思っておったのだ!
なかなか帰って来ぬから、失敗したのではないかと心配したぞ!」
「あ……つい、あちらのベッドが懐かしくて、寝転がっていました」
リュカが答える。
「そこで何をしたのだ?」
ヴァルドが興味深そうに尋ねた。
「転移陣の形の違いを見ていたのです。
あちらの転移陣は――」
言いかけた瞬間、再びリュカの身体が光に包まれ、消えた。
「なんという事だ!!
私が百年かけて成し遂げた事を、数時間でやってのけおった!」
ヴァルドが頭を抱える。
「まあ、一か所だけですが」
再び現れたリュカが言う。
「そなた、この事は誰にも言うな。よいな。
私は転移陣を作り続けた結果、自然にできるようになった。
普通の人間には、転移陣の意味など理解できぬと思っていたのだが……そなたは違った」
「古語は竜に教わりました」
そう言うと、竜が姿を現した。
「まさか、そういう仕組みだったとはな」
竜が感心したように言う。
「まあ、私ほどになると、もう何も考えずに好きな場所へ飛べるが。
覚えれば、他の場所にも飛べるようになるだろう」
ヴァルドが言った。
「他に覚える事も多いですし、ここ専用にします。
いちいち思い出すのも少々面倒です」
リュカが答える。
「それがよいと思う。
まあ、無事に行き来できるようになってよかった。
では、私は妻の元へ帰る」
そう言って、ヴァルドは消えた。
「これからいろいろ楽しみだな」
リュカが竜へ話しかける。
「はい。この国には面白い物がたくさんありそうです」
竜も嬉しそうに答えた。
「あ、兄上に鶏肉を渡すのを忘れていた。もう一度戻る」
リュカは自分の部屋へ戻り、三兄付きの侍従へ袋から取り出した皿の上の肉を違う皿に移し替えた。
「また美味しそうな物があったら持って帰ると、三兄上にお伝えください」
そう言って、自室へ戻る。
話を聞いた三兄は慌てて四兄の部屋へ向かった。
だが、内鍵が掛かっていた。
「おい、いるのか? 開けろ!」
扉を叩くが、返事はない。
「そこにはおりません。竜の気配が感じられません」
竜が姿を現して言った。
「いったいどういう事なのだ?」
三兄は驚く。
「転移陣で移動できるようになったり、急に現れたり消えたり……
何が起きている?」
三兄の顔は険しかった。
「焼き鳥、少ない! もっと持って帰ってきてほしかった!!」
三兄は残念そうにつぶやくのだった。
次はフィーユのお話です。
引き続きお読みくださると幸いです




