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『辺境伯令嬢と竜の子』 ―滅び行く者たちと未来に向かう者たち―  作者: 鶴見 日向子


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第二十五話 ―それぞれの未来―

四兄の名前がやっと出てきました。

「リュカ様、フィン殿、ヴィル様がお呼びでございます」


侍従が四兄の部屋の扉をノックした。


「今行きます」


二人が声を上げた。


部屋へ向かうと、ヴィルとグレースが待っていた。


毎日のように遊びに来るのだ。


(いっそ、こちらに住んだ方が早いのでは?)


フィンはそう思ったが、口には出さなかった。


ヴィルとセレシア達の国との国交は、結局ほとんど始まらなかった。


セレシア側の国王から、


「それどころではない」


という言葉を、公爵が伝えてきたのだ。


「うちのダイアナも王子を産んで、我が家も大変なのだ。

城下の再興もまったく進まない。


悪いが、『相手国との事は辺境伯家に任せる』との事だ」


それを聞いたヴィルは、


「おお、面倒がなくてよい。

こことなら気楽だ。


いっそ、我が国の領土に入らぬか?」


と言った。


「いえ、近くはありますが、平民達が行き来する事が不可能です……」


辺境伯は丁寧に断った。


ヴィルの国には『地図』というものがあり、ヴィルが持ってきてくれた。


「ここが我が国で、こちらがそなた達の国だ」


意外にも、両国は隣同士だった。


しかし、その間には険しい山脈が横たわっていた。


「だから言葉がほぼ同じなのだな。

もしかしたら、この山脈は昔はなかったのかもしれない」


四兄がつぶやく。


「飛行獣なら半日もあれば行けるが……確かに徒歩では無理だな」


ヴィルが言った。


大きな鳥は『飛行獣』と呼ばれているようだった。


「山脈の中で勝手に繁殖しているようであるな……。

うちの国でも見かけるようになった」


さらにヴィルが言う。


「首に魔力を流すと、魔力を流した者を『主人』と認識するようだ。

一度懐けば、どこにいても魔力を察して飛んでくる」


フィンは納得した。


そういえば、セレシアが檻を作った後、首輪でつないだのだった。


「繁殖力もほどほどにあるようだ。

寿命はわからぬが、移動手段としては使える。


二度と爆撃には使わぬようにしなければならない」


ヴィルが真剣に言う。


「山脈の中に道を作るしかありませんね。

最短ルートを探ってみたいです」


フィンが言った。


「そうだな。

そうすれば平民達の物資移動も可能になる。

お互いに調査団を作ろう」


ヴィルがうなずく。


「今は無理ですけどね……。

辺境伯領からは人員を出せません」


フィンが遠い目をした。


「まあ、慌てる事はない。

我々の世代だけで、何もかもできるわけではないからな」


ヴィルが言った。


「いよいよ明日ね。

リュカ様、準備はよろしくて?」


グレースが四兄へ話しかける。


「はい。ほとんど済んでおります」


「着替えとか生活に必要な物は、すべてこちらで用意してあるわ。

こちらの国を案内するのが楽しみ」


グレースは嬉しそうにはしゃいでいた。


どうやら彼女は、四兄の事をすっかり気に入ってしまったらしい。


謙虚な人柄。


相手を思いやる姿勢。


それは、自分に魔力が少ない事への劣等感の裏返しでもあったのだが、グレースにはそう映らなかったようだ。


「私、偉ぶらない人が好きなの!

リュカ様は私の理想よ!


四男なら、養子にも来られるわよね?」


四兄は、


「何とも言えません」


と、何とか話をごまかしていた。


「では、明日また迎えに来る」


そう言って、二人は帰っていった。


ヴィルとフィーユも仲が良く、ヴィルはセイラを抱っこしては、


「赤ん坊というのはかわいいのだな。

大変ではあるが」


と、育児を手伝っていた。


フィーユは時折ヴィルと共に、ヴィルの国へ行く事も増えた。


あちらの国王夫妻もフィーユをすっかり気に入り、


「まだ成人前であるから、成人したらすぐに嫁入りしてもらいたい」


と言っているらしい。


「よかったじゃない」


セレシアが言うと、


「うん……そうなんだけど。


国王夫妻は、私の中身じゃなくて、魔力量を気に入っているのが、ちょっと引っかかるのよね」


フィーユが言った。


「それに、私、ずっと両親と三人だけで暮らしていた時期が長いでしょ?


自分が少し変わっているってわかっているから……少し不安なの」


フィーユらしからぬ言葉に、セレシアは驚いた。


「私、本気でヴィルヘルム様を好きになってしまっているの。


嫌われたらどうしようって……そればかり考えちゃうの。


お母様に相談したいけど、お母様もちょっと違うし……。


私は純粋な人間じゃないし……ヴィル様の方が先に年を取ってしまうかもしれない。


なんだか、色々考えちゃうの」


フィーユが肩を落とす。


「じゃあ、うちのお母様に相談しましょう。


うちのお母様は元々王族だったのよ。

降嫁してきたの。


きっと相談に乗ってくださるわ」


セレシアは侍女へ頼み、母と話をする事になった。


辺境伯夫人はフィーユだけを部屋へ入れ、セレシアには同席しないよう告げた。


「なんでですか?」


「内緒でございます。

さあ、セレシアお嬢様は明日のお支度の確認をなさいませ」


例の『ヴァルド対応役』の侍女が、いつの間にか現れ、セレシアを部屋から追い出した。


「お嬢様、盗聴の魔術を使っても無駄ですから。

奥様のお部屋には盗聴防止の細工がしてあります」


そう言って、侍女は内鍵をかけてしまった。


侍女の言う通り、話を聞こうとしても不可能だった。


「なんでよーー!!

私の親友なのに!!」


セレシアは涙目になる。


そこへ長兄が通りかかった。


セレシアは必死に事情を説明する。


長兄はにっこり笑った。


「そなたも婚約者が現れたら、同じ話をされるから、焦らずともよい。


フィーユ殿は母にとって、娘同然だからな」


そう言って、セレシアの頭をそっと撫でた。


「そなたは、そんなに早く嫁に行かなくてもよい」


そう言う長兄はいまだ独身である。


「私はよいのだよ。


兄弟のうち誰かが結婚し、子ができれば、その子が辺境伯領を継げばよい。


もしくはセレシア、そなたが婿を取って継いでもよいのだ」


「なんでですか?

お兄様が四人もいるのに!」


セレシアが目を丸くする。


「竜に守護されるのは、私達兄弟で終わりだ。


なるべく穏やかに、次世代へ引き継ぎたいのだよ。


私達は騎士として、この地を守る事だけに全力を尽くしたい。


リュカは別だがな。


あれは、あれの才能を伸ばしてほしい。


リュカには、リュカにしかできない事がある。

それに期待している」


長兄の顔は穏やかだった。


「我々も色々考えている。


そなたも、これから考えていかなければならない事が増える。


今はまだ、その時ではない。

色々な事を学びなさい」


長兄はそう言うと、そのまま去っていった。


セレシアは呆然としていたが、


「そうだ!明日の準備があった!」


と、慌てて部屋へ戻っていった。


長兄は、次兄と三兄のいる部屋へ入る。


「リュカが明日、他国へ旅立つ。

戻ってくるかどうかわからぬ。


それがリュカにとっての幸せであるなら、我々は喜んで送り出そう」


「寂しいですけどね。

しかし、あの子には才能がある。


それが他国で役立つのであれば」


次兄が言った。


「調停役がいなくなるなあ……。


あれが焼く焼き鳥は上手かったのだが」


三兄である。


三人とも、まさか四兄が毎日領地へ帰ってくるなど、夢にも思っていなかった。


だんだん終盤に近付きつつあります。

続きをお読みくださると幸いです

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