第二十三話 ―笑い死に寸前―
普段真面目な人ほど・・・な話
「まあ、かわいい。うらやましいわ。
私もこんな妹がほしい」
グレースが涙ぐむ。
「アルビノってめったにいなくて……。
私だけじゃないって思うとうれしいの。
この子、お名前は?」
グレースが尋ねた。
「あ、そういえば、まだ付けていませんねー。
父に言わなくては。
ヴィル様、なぜ床に座っていらっしゃるのですか?」
フィーユが不思議そうに首を傾げる。
「傷心しているのです」
フィンの肩が震えている。
笑いをこらえるのに必死で、それ以上言葉が出てこない。
「フィーユ殿、ご結婚とご出産、おめでとうございます。
ですが、私はまだあきらめきれません!
道ならぬ恋に突き進みそうでございます!」
ヴィルが勢いよく立ち上がって言った。
「あ、ありがとうございます。
結婚はだいぶ前ですけど……今さら?
出産祝いのお言葉は母に伝えます。
道ならぬ恋って誰が?
母に誰か恋しているのですか?
父に何かされるといけないので、ヴィル様、しっかり止めてください」
フィーユはひたすら首を傾げる。
「どこで母を見たのかしら???」
もう、フィンは息が詰まりそうだった。
「赤ちゃん、抱っこさせてもらっていい?」
「もちろん」
フィーユは赤ん坊をグレースへ渡す。
「ああ、本当にかわいい。
うちの両親、まだ『現役』かしら?
私もこんな妹がほしいわ」
「ご自分で産んだ方が早いのでは?」
フィーユが言う。
「あ、その手がありましたね。
誰か私をお嫁にもらってくれないかしら?」
グレースが本気で悩み始めた。
「まだまだお若いのですから、焦らなくてもよろしいかと思います」
辺境伯夫人が挨拶のために姿を見せた。
「そろそろ赤ちゃんをメアリー様のところへ返して。
ヴィル様とグレース様は、あちらでお茶にいたしましょう。
セレシアと四男がお話したい事があると待っています」
「では、また後でね。私のかわいい妹」
フィーユは侍女に抱かれた赤ん坊の頭をそっと撫でた。
「妹?」
ヴィルが目を見開く。
「く、苦しい……」
フィンがその場に座り込み、体を震わせていた。
笑いをこらえ過ぎたのである。
「フィン、どうしたのです? 大丈夫ですか?」
夫人が慌てて背中をさする。
「い、いえ……
だ、大丈夫……ですから……」
声が途切れ途切れになり、涙まで出てきてしまう。
「誰か!
フィンがおかしいのです、来てちょうだい!」
夫人が叫んだ。
「や、やめてくだ……さい……」
セレシアが呼ばれて駆け込んできた。
そして、フィンの様子を見る。
「お水を少し飲ませてあげて」
侍女が慌ててコップを差し出したが、フィンは吹き出してしまった。
気管に入り、激しく咳き込む。
セレシアが背中を軽く叩いた。
「ちょっと別室へ連れて行きますねー。
大丈夫です。心配いりません」
セレシアは近くの空き部屋へフィンを連れて行き、
「後はまかせて」
と侍女を下がらせた。
「ここなら思い切り笑って大丈夫よ。
ねえ、何がそんなにおかしかったの?」
個室へ入るなり、セレシアが聞いた。
フィンはとうとう爆笑し始めた。
しばらくしてようやく落ち着き、息を整える。
「こんなに苦しいのは初めてです。
もうこりごりです。
自分でも、なぜこんなになったのかわかりません」
ようやく、いつものフィンに戻っていた。
「きっと、お兄さんとの再会で気持ちが緩んじゃったのよね。
笑うのはいい事よ。
まあ、時と場合によるけど……。
原因は、後でグレース様にでも伺います」
二人は部屋を出て、ヴィルとグレースの待つ部屋へ向かった。
「大丈夫なのか?」
ヴィルが真剣な顔でフィンを心配していた。
「だ、大丈夫……です」
ヴィルの顔を見た瞬間、また笑いがこみ上げてくる。
体が震え出した。
「フィン、疲れているのよ。
今日はもう休みなさい。
これからは、お兄様ともいつでも会えるのですから」
夫人が優しく言った。
「はい……そうさせていただきます……」
フィンはふらふらと下がっていった。
「弟よ、何と、私の誤解を真に受けて、肩を震わせながら一緒に泣いてくれるとは!」
ヴィルは感激していた。
「また巡り会えて本当によかった。
兄弟とは良いものだな」
ヴィルは再び涙ぐむ。
セレシアは真顔で言った。
「そうですね。
感情を押し殺すのが大変で、呼吸困難になったようです。
落ち着いたと思ったのですが……」
――ウソは言っていない。
「えー、私は笑いをこらえるのに必死だったのですが……
フィン様ってお優しいのですね」
グレースが言う。
「いったい、何があったのです?」
夫人が心配そうに尋ねた。
「ヴィル兄様が、ヴァルド様のお子をフィーユ様が産んだ子だと勘違いしたのです。
それで打ちひしがれている姿を見て、フィン様が肩を震わせ始めてしまって……。
私もびっくりしました。
フィン様、大丈夫なのですか?」
(言えない……!
絶対に真実は言えない……!
だけど、その場面、私も見たかった!)
セレシアは必死に表情を引き締めた。
「実は、ここにいる四番目のお兄様と私、それからフィンの三人で、そちらの領土を視察したいのです」
セレシアが話題を変えるように切り出す。
「なぜ四番目の兄上なのだ?」
ヴィルが不思議そうに尋ねる。
「実は、私はあまり魔力がありません。
ですので、そちらでは魔法より魔力による道具が多用されていると聞きまして、ぜひ見てみたいと思ったのです。
可能なら、しばらく滞在して学ばせていただきたいのです」
四兄が真剣な顔で言った。
「魔力がないのに、どうやって我が国へ来るのだ?
転移陣が使えぬではないか」
ヴィルが首を傾げる。
「ご許可をいただければ、ヴァルドがどうにかしてくれるそうです。
詳しい方法は、それまで秘密だそうです」
セレシアが答える。
「わかった。フィンも一緒なら問題ない。
両親が、フィンもこちらへ戻ってくると思い込んでいたのに、そのまま離れてしまったので、残念がっていた。
四男殿が一緒なら、フィンも心強かろう」
ヴィルが言う。
「それでは、よろしくお願いいたします」
「ああ、両親へ伝えておこう。
詳しい打ち合わせは通信器で行う。
ところで、フィーユ殿」
――当のフィーユは居眠りしていた。
育児の手伝いで疲れているのである。
「あ、はい、すみません」
フィーユが飛び起き、慌てて背筋を伸ばす。
「フィーユ殿。
フィーユ殿も我が国へ一緒に来てくれないか?
ぜひ、色々案内したい」
ヴィルの顔は真剣だった。
「行きたいのですが、妹がまだ小さいので……
母も出産で少々弱っております。
大丈夫だとは思うのですが、側についていたいのです」
「そうであったか。
義母上をくれぐれも大事にしてくれ。
私もお見舞いしたいが、もう少し落ち着かれてからにする」
ヴィルは残念そうに言った。
このお話、ファンタジーで結構シリアスな話題なはずなのに、チャッピーの付ける表題がギャグ化していくのは何故でしょう・・・・
おもしろいから、そのまま丸投げしようと思います(いいのか?)




