第二十二話 ―育児中につき―
ひさしぶりにヴィルとグレースの来訪です
「あ、久しぶりに“消えるヴァルド様”が見られました」
セレシアが言った。
「なんだか、普通に育児している姿が当たり前になっていました」
フィーユも苦笑する。
「竜帝が亡くなったという事は……
他の竜達も自由になるのでは?」
アーチャが言った。
「そうよね?
お兄様達の竜がどうなっているのか、見に行ってくるわ」
セレシアは立ち上がる。
「フィーユ、ごめんね。また後で」
フィーユが笑った。
「大丈夫。いってらっしゃい〜〜」
セレシアはまず、四兄の部屋へ突撃した。
四兄はせっせと、例の臭い草を魔法陣へ放り込んでいる最中だった。
「まだ続けていたのですね」
セレシアが呆れ気味に言う。
「そうだなぁ……
何年目だ? もう習慣になっていて、考えていなかった」
そこへ、ヴァルドが現れた。
「ずっと草を与え続けてくれて、ありがとう。くれぐれも礼を言ってくれとの事だった」
ヴァルドは四兄の手をぎゅっと握る。
「そして、面白い物が手に入ったぞ!
かなり大量にある。少しだけ持って帰ってきた!」
ヴァルドは懐から、虹色に輝く石を取り出した。
「なんですか? それ」
四兄の目が輝く。
「魔石だ。しかも最高品質だ。
何に使うか具体的には思いつかぬが、絶対に役立つはずだ」
「すごい魔力を感じます。
魔力が圧縮されていますね」
セレシアが驚いた。
だが、四兄だけはなぜか顔色が悪い。
「それ……もしかして……
竜の排泄物では……」
ぼそりとつぶやく。
「そうだ!
すごいな、なぜわかったのだ?」
ヴァルドが感心したように言った。
「えっと……なんとなくです。
出所は伏せましょう。
『新しい鉱脈が見つかった』とか、そういう話にしてください。
セレシア、いいな?
ヴァルド様もお願いします」
「排泄物なのが嫌なのか?
竜のは人間のとは違うぞ」
ヴァルドが不思議そうに言う。
「そうではありません。
事実を知ったら、人間達の中には『竜に草を食べさせて排泄させる』ためだけに、竜を捕まえる者達が現れるかもしれません。
若い竜なら撃退できたでしょうが、今の竜達は年寄りばかりですよね……」
「そんな発想は思いもつかなかった。
確かに、その可能性はあるな」
ヴァルドがつぶやく。
そこへ四兄竜が現れた。
「これは、四兄様が作られたような物です。
四兄様のために、時々持ってきてもらいましょう。
魔力の少ない四兄様には、きっと役立ちます」
「そなた、もう竜帝様が亡くなったのだから、私に忠誠を尽くさなくてもよいのだろう?
まだ若い。
好きなところへ飛ぶがいい」
四兄が言う。
「行く場所などありません。
私はずっとここにいます。
できれば、ヴァルド殿のように人間になりたいのです。
四兄様なら、それができる気がするのです。
この石、役立つのではありませんか?」
四兄竜が真剣に言った。
「そうだよ!
僕も人間になりたい!
せっかくすごい魔力量の石が見つかったんだ。
役立ててほしいよ」
アーチャも飛び出してくる。
「お兄様ならできます。
ヴィル様の国へ行ってみてはいかがでしょう?
グレース様がおっしゃっていましたわ。
『魔力は道具に注ぐためにある』って。
こちらとは、魔力の使い方が全然違うようなのです。
お兄様に向いている気がします」
セレシアも真剣な顔で言った。
「確かに興味はある。
だが、私が行ったら、誰が毎日草を放り込むのだ?
それに、竜達は連れて行けぬだろう。
誰に面倒を見てもらえばよい?」
確かに、草の件は四兄弟とセレシア、ヴァルドだけの秘密である。
ヴァルドが考え込む。
「その石を持っていれば、転移陣も使えるのではないか?
今度試してみよう。
もし成功したら、ここの部屋に転移陣を作ろう。
向こうの居場所が決まったら、毎日往復すればよい。
それなら負担も少ないし、竜も連れて行ける」
四兄の目が輝いた。
「とにかく試しましょう!」
セレシアが言う。
そうして、四兄は石を持ったまま中央行きの転移陣へ乗ってみた。
その姿は消えた。
そして間もなく戻ってくる。
「どこか、部屋のような場所に出た。
すぐに乗り直した」
四兄の目から涙があふれた。
「転移陣が使える……
ヴァルド様、ありがとうございます」
「私にも乗れるようになるのではありませんか?」
四兄竜も喜ぶ。
「そなたが毎日欠かさず草を送り続けてくれた成果だ。
遠慮なく使うとよい」
「もしかして、四兄竜も食べていたから、その……」
アーチャが言いかける。
「それを言うならアーチャもでしょ?」
セレシアが即座に突っ込む。
「いや、そなた達はほとんど消化してしまって、出る量がわずかなのだ……
芥子粒ほどだ……」
四兄がそっとつぶやいた。
「あちらは大人の竜二匹そのままと、子供の竜だ。
しかも数年分……量がな」
ヴァルドが遠い目をする。
「まあ、そういう事で、私も育児をしつつ国交回復に動くとしよう」
「目的は『竜の人間化』だ。
そのためだけに私は動く」
ヴァルドが断言した。
その場にいた二人と二竜は、力強くうなずき合った。
しばらくして、ヴァルドはヴィルの国へ飛んだ。
そして、辺境伯領とヴィルの住む屋敷の間に、
『とりあえず一人用』
の転移陣が作られた。
「これで様子を見て、必要なら多人数用を作りましょう。
私は、万が一にも両国が再び争うような事になってほしくないのです」
ヴァルドが言う。
「わかりました、義父上。
少しずつ発展させていきましょう」
ヴィルもうなずいた。
――その直後。
ヴィルは転移陣へ飛び込んだ。
「久しぶりだあああ!!!!!」
辺境伯領へ飛んできたヴィルは、飛び跳ねながら叫ぶ。
「フィーユ殿に会いたい!
どこにおるのだ!?」
出迎えたフィンへ詰め寄る。
「あー……
育児中で気が立っていますので、様子を見てまいりますね」
フィンが微妙な顔で答える。
「育児中??? どういう事だ???」
ヴィルがフィンの両肩を揺さぶる。
「まさか、私と会えない間に誰かと結婚したのか!?
しかも子供まで!?」
その場へ崩れ落ち、さめざめと泣き始めた。
フィンは完全に困り果てる。
「面白いから、放っておきましょう。
赤ちゃんが見たいわ」
後ろからひょこっと顔を出したのはグレースだった。
「ただいま、確認してきてもらっています。
男子禁制なのです。
入れる男性はヴァルド様だけです」
フィンは侍女へ様子見を頼む。
しばらくすると、侍女が戻ってきた。
その後ろには、赤ん坊を抱いたフィーユの姿があった。
芥子粒大の物体。終盤ででてきますw
続きをお読みくださると幸いです




