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『辺境伯令嬢と竜の子』 ―滅び行く者たちと未来に向かう者たち―  作者: 鶴見 日向子


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第二十話 ーエルフの涙と辺境伯夫人ー

前の話の続きです

「ヴァルド様もフィーユちゃんも大変だったでしょう。

お二人とも、別室でゆっくりお休みください。

ここなら安心です」


夫人が優しく言った。


「本当にありがたい。一生感謝する」


ヴァルドが深く頭を下げる。


「いいえ。ヴァルド様には、一生かけても返しきれないほどの恩があります。

どうかお気になさらないでください。


別室でお話ししましょう。あなた、お願いね」


夫人は侍女に声をかけた。


「はい、奥様。

ヴァルド様、私もエルフの本当の話を祖父母から聞かされて育ちました。

安心してくださいませ」


侍女は静かに微笑んだ。


ヴァルド、フィーユ、そして夫人とセレシアは別室へ移動し、椅子に腰掛けた。


「かなり衰弱していますが、あの侍女に任せれば大丈夫です。

私の時も、彼女がずっと付き添ってくれて、無事に四男を産むことができました。


ただ、そんな状態でしたので、魔力を注ぐことができず、あの子は魔力の少ない子として生まれました。


もしかしたら、今お腹の中にいる子も同じようになるかもしれません。


それでも家族として育てることができますか?」


夫人はヴァルドを見つめた。


「もちろんです。

血を分けた我が子です。

たとえ竜の姿だったとしても、魔力がない子であっても、耳が尖っていても……

どんな子であっても受け入れ、育てます」


「私も姉として、生まれてくる子を何としても守り抜きます」


フィーユも力強く言った。


「なら、よいのです。

いざとなったら、我が家で引き取ろうと思っていました。

それでセレシアを呼んだのですよ」


「はい。

もし、お二人に育てることが不可能であれば、私が姉となって守ろうと思っていました」


「そんな、見捨てるわけないじゃない!!」


フィーユが涙を浮かべながら叫ぶ。


「フィーユ、落ち着いて。

ヴァルド様とあなたは、普通の人間とは違うわ。


おそらく、私達が亡くなった後も生き続けることでしょう。


だけど、もし魔力を持たない普通の子だった場合、寿命が人間と同じぐらいになる可能性があるわ。


耐えられる?」


二人の表情が凍りついた。


「そんな事は……考えたこともなかった」


ヴァルドとフィーユの顔が青ざめる。


「そこを頭に入れておいてほしかったの」


夫人は静かに立ち上がった。


「奥様の様子を見てきます。

セレシア、お二人を部屋へ案内して差し上げて」


「はい、お母さま」


顔色を失った父子を見ながら、セレシアは複雑な気持ちになっていた。


その頃、病室では――


「目が覚めたようですね。

一口、お水を飲んでみましょう」


侍女がそっと水を口元へ運ぶ。


「もう一口いけそうですね」


少しずつ、水を含ませていく。


「一気に飲み込まず、ゆっくり喉へ流してください」


「なんだか、気持ちが楽になった気がします」


ヴァルドの妻が弱々しく言った。


侍女は優しく微笑み、自らの耳をさらけ出した。


「生き残りがいたなんて、うれしいです。

ヴァルド様に救われていたのですね。よかった……」


妻は目を見開く。


「私も耳を切り落としました。

しかし、出産と共にまた生えてきてしまって……


でも、夫と当時の領主様ご夫妻は、黙ってかくまってくださいました。


夫も、私の子供達も、もうこの世にはいません。


ですが私は、この辺境伯家に死ぬまでご奉公する覚悟です。


仲間です。安心してくださいね」


妻は涙を流した。


「私は夫に助けられました。

ですが、フィーユが生まれた時、村人達が襲撃してきて……

怒り狂った夫が、村を消滅させました。


村人全員が、私に敵意を抱いていたわけではありません。

優しい女子供や老人もいました。


だから、もう二度と妊娠しないようにと思い、夫を避けていたのです。


でも、夫は殴っても殴っても、私を大事にしてくれて……


そして、また身ごもってしまいました。


また同じ事が起きるのではと……」


妻は声を震わせ、さめざめと泣いた。


侍女はそっと抱きしめる。


「辛い思いをされてきたのですね。

もう大丈夫です。安心してください。


さあ、今度はお粥を口にしてみましょう」


それから、妻の体調は目に見えて回復していった。


「エルフって、どうしてそんなに迫害を受けたのかしら?」


セレシアは、フィン、四兄、アーチャ、そして四兄竜と話していた。


「昔話が原因だとは思うが、火のないところに煙は立たぬというからな。

過去に何かあったのかもしれない」


四兄が言う。


「ええ、僕も、奥様の尖った耳を見た瞬間、血の気が引きました。

ただ、ヴァルド様をのしていらっしゃったので、『逆らったら怖い』と思って……

逃げました」


フィンが頭をかく。


「そうよねぇ。

ヴァルド様、お強いのに、奥様とフィーユにはやられっぱなしよね」


セレシアが苦笑する。


「実は僕も、あの奥様とフィーユ様にはどうも頭が上がらないというか……

命令されたら、何でも聞いてしまいそうな気がします」


アーチャが言った。


「実は私にも、苦手な女性がいまして……

以前セレシア様付きで、今は奥様に仕えておられる、あの侍女です」


四兄竜がぼそりと言う。


「ああ、そういえば、あの侍女は前にヴァルド様を……ええと、以下略!」


セレシアが声をあげた。


「なぜか、あの侍女はかなり昔からいるようで。

他の竜達も知っていて、皆『何かが違う』と言うのです」


「待って!

お兄様達の頃からいるにしては、若くない??」


セレシアが目を丸くする。


「まあ、少々ふくよかではありますが、よく見ると若いですよね……」


四兄が顎に手を当てた。


「あはは……気にしないようにしましょう。

世の中には、知らない方がいいこともあるわ」


セレシアは冷や汗を浮かべながら、話を打ち切ろうとした。


「村を消滅させちゃうヴァルド様より強いんだから、やっぱり怒らせると怖いんじゃない?」


アーチャが言う。


「しーっ! それ言っちゃダメ!」


「何の話だ?」


四兄が怪訝そうに聞く。


「もう、アーチャ!

そんな話したら、ますますエルフさん達が怖いと思われちゃうじゃない!」


セレシアが慌てる。


「ごめん。

だって、強烈だったんだもん。


ヴァルド様って優しいだけだと思っていたのに、奥さんのために村を消滅させたっていうんだもん。

しかも、フィーユ様が生まれた時って、そんな昔じゃないし」


そう言って、アーチャは小さくなり姿を消した。


「あのヴァルド様が村を消滅させた……?

もしかして、それが原因なんじゃないか?


ヴァルド様が村を消滅させたのを、エルフがやったと勘違いされたとか……

可能性としてはあるぞ」


四兄がつぶやく。


「話が飛ぶかもしれないけど……

もしかしてエルフって、竜を魅了する能力が備わっているのかも」


四兄竜が言った。


「あり得るかもしれない。

竜を自由に扱えたのだとしたら……

人類にとっては、ある意味脅威だからな」


四兄が低く言う。


「そういえば、ヴァルド様の奥様、最初、竜を操って籠に乗せられて登場していた」


フィンが思い出したように言った。


「あ、決まりだね」


アーチャが再び顔を出し、小さくつぶやく。


二人と二竜は黙り込んだ。


「まあ、絶対に怒らせてはいけない方よね。

ヴァルド様より、ある意味強いわ。

筋の通った方ではあるけれど」


セレシアが言う。


「これは、ここだけの秘密だ。絶対に他言するなよ」


四兄の言葉に、セレシアと二竜は深くうなずいた。


侍女も同じ存在だとは、絶対に思いたくない二人と二竜だった。


――そしてやはり、『エルフ』は怖い。


そう思ってしまうのだった。


ヴァルドの攻撃力、普通の人間達のはるか斜め上でした・・・・

まあねえ・・・


それを殴り続けていたエルフの奥様、うん、やっぱり最強

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