第十九話 ―エルフの妻―
少し文章が短めなので、同時公開にします
確かに、言われた場所に城が見えた。
領地の中とは思えないほど大きな城である。
「何で今まで見えていなかったのかしら?」
セレシアは鳥を屋上へ降ろした。
「来てくれたか。助かる」
ヴァルドは妻を抱きかかえていた。
「少しの辛抱だ。我慢してくれ」
ヴァルドは鳥の背に妻を座らせ、落ちないよう固定の魔法をかける。
フィーユが姿を現した。
「ありがとう。もうどうしていいのか、途方に暮れていたの
私は、転移陣で移動するわ。母をお願い」
「その必要はないよ」
アーチャがセレシアの後ろからひょっこり顔を出した。
「僕の背に乗って。ひとりなら運べる。
フィーユなら魔力が豊富だから大丈夫」
「ありがとう! アーチャ!」
フィーユが涙を浮かべる。
「じゃあ、行くわよ」
セレシアが飛び乗り、ヴァルドの妻の後ろに座って支えながら飛び立った。
アーチャも大きな姿になり、フィーユを乗せて、その後に続く。
すぐに辺境伯の城へ到着した。
そこには担架を用意した侍従達、侍女達、そして夫人が待ち構えていた。
セレシアは先に降り、妻にかけられた固定の魔法を解く。
妻はぐったりとしており、鳥の背から落ちそうになるのを、フィンが飛び出して支え、そのまま抱きかかえた。
すぐに担架へ乗せられ、城内へ運ばれていく。
いつの間にかヴァルドも現れ、付き添っていった。
「かなり衰弱しておられます」
診察した医師が言う。
「毎日、竜の生き血を飲ませようとしていたのだが、拒否されてな。
その他にも、竜の内臓やモモ肉。精がつくのだが、それも受け付けてくれなくて……」
ヴァルドがしょんぼりする。
「フィーユちゃん、奥様の代わりに拳骨十発ぐらい入れて差し上げなさい。
つわりの女性にそんな生臭そうな物、余計に食べられなくなります!」
夫人が呆れたように言う。
「え? ダメだったんですか?
すごい貴重品なんですよー」
フィーユが驚いた。
例の侍女が前に進み出るが――
「二人とも全然悪気はないの。
どちらにしても、何も食べられないのよ……」
ヴァルドの妻が弱々しく言った。
その言葉に、侍女は静かに下がった。
「水分から少しずつ取りましょう。
そういう人間の妊婦もいます。
エルフも人間も同じですよ」
夫人は妻の手を握りながら言う。
「気付いていたのですか?」
妻が小さく驚きの声をあげた。
「私が本当に小さかった頃、おばあさまから本物のエルフの話を聞きました。
全滅したと聞いていたのに、まさか本当にお会いできるなんて……感激です。
変な昔話が伝わっているのは困りますね。
ここではそんなことありませんから、大丈夫ですよ」
妻は静かに目を閉じた。
「最後に残っていた私達の村に、人間が襲撃してきて……
必死に逃げている最中、今の夫に助けてもらったのです。
もう、どのくらい前の話でしょうか……
その人間達は、夫に一瞬で消されました。
また同じことが起きるのが恐ろしくて、耳の先端を切り、普通の人間として暮らしてきたのですが……
フィーユを産んだら、なぜかまた先端が生えてきてしまったのです。
また切り落とそうと思ったのですが……痛いから……思い切れなくて……
そうしたら、また村人達に襲われて……」
「もう、何も思い出さなくていいのです」
夫人は用意させていた薄い粥をスプーンに乗せ、口元へ運んだ。
「これを一口だけ食べてみてください」
妻は何とかそれを口にし、ゆっくり飲み込む。
「どうですか? 吐きそうですか?」
「今は……大丈夫です」
「よかったわ。
少しずつ増やしていきます。
水も一口ずつから始めて、だんだん増やしていきましょう」
夫人は優しく微笑んだ。
「私も、四人目の子の時に同じようになりました。
だから、どれほどきついかよくわかりますよ」
そっと小さな声でささやく。
「さあ、眠ってください。
誰かしら側にいますから安心して。
目が覚めたら、またお粥を口にしてみましょう」
夫人の言葉に、ヴァルドの妻は静かに目を閉じた。
つわり、きついですよね。
人によって全然違う。ひどい時は出産直前まで続いたりする。
でも、経験した人じゃないと理解できない。
ヴァルドの妻の過去が開かされましたが、続きをお読みくださると幸いです




