第十六話 ―愛が必要不可欠―
タイトル「暴力反対」にしようかとマジで思ったのですが、チャッピー案を採用しました
「そういうのはいい。それより、親書を見た。今回の襲撃は、あちらの国王の真意ではないのだな?」
「はい。あちらの国王に対して、クーデターを起こすための模擬訓練だったそうです。
そのために、貴重な大型飛行獣と乗り手をかなり失ってしまい、あちらも大損害だそうです」
フィンは昨夜、グレースから聞いた事を話した。
「なぜ、辺境伯領ではそんな詳しい情報が手に入るのだ?
そして、国王同士が直接話せるとはどういう仕組みなのだ?」
「すでに移転の魔法陣を使っておられるのでしたら、話が早いです。
フィーユ様、ヴァルド様を呼んでいただけますか?」
フィンが言う。
「はーい♪
お父様、すぐ来てくれたら……何にしようか?」
全員ががっくりと肩を落とした。
「頬にキスではダメなの?」
セレシアが言う。
「それはこの前したから……」
フィーユは少し考えてから、
「お父様ー! すぐに来てくれたら、抱っこさせてあげる~~!」
数分後――
なぜか、いつもよりさらによれよれなヴァルドが現れた。
「すまない……抱き上げたいが、今日は無理だ。今度にしてくれ……」
(そういえば、今朝だった)
フィンは遠い目をした。
「公爵様。この方はヴァルド様といいまして、魔法陣を短時間で作ることができます。
そして辺境伯領には、相手国の王太子殿下が滞在しております。
さらに、直接話せる通信器があるのです」
フィンが説明しつつ、
(大丈夫かな……ヴァルド様)
と思う。
「ほおお……それはすごい事だ。私は陛下にそれを伝えればよいのだな?」
「はい。あちらの国王は決して戦争を望んでおりません。
今回の件の補償を直接話し合いたいとの事でございます」
「だが、上手くやらないと……こちらから報復の兵を送るべきだと主張する者達がいる」
王太子がつぶやいた。
「義父上はまともだが、まともではない者がかなりいるのだ。
父は幼少期に即位したため、重臣達には逆らえない。
辺境伯への予算も、水増し要求した挙句に横領だからな。
責任を一人に押し付け、後の者は知らん顔だ。
自業自得とはいえ、気の毒だったな。あの男爵は」
王太子の目が遠くなる。
「もしかして、その男爵とは……」
セレシアの胸に嫌な予感が走る。
「そう。あの女官の父親よ。
本当は一家全員処刑だったのだけど、娘は何も知らなかったので、私がお願いして女官として召し抱えたの」
「にしては、態度がどうかと思うわ」
フィーユが言う。
「実は父親が処刑された事を知らないの。いまだに自分は男爵令嬢だと思っているわ」
ヴァルド以外の全員が、何も言えなくなった。
「それで、公爵。結局どうするのだ?
明日なら、ここと辺境伯領を繋ぐ転移陣が作れるぞ」
「空気を読め!」
フィーユの平手が飛びそうになるのを、フィンが必死に止めた。
「これ以上のされたら、ヴァルド様が再起不能になります!」
「のされた?? 誰に?? なんで??」
フィーユが不思議そうな顔をする。
フィンはしまった、という顔になった。
「妻の愛を受け過ぎてしまってね……それで今日はまだ回復できていないのだ」
ヴァルドが答える。
「いったい何が原因で、お母様が怒り狂ったのですか?
いつもはそこまでしないのに。回復できなくなるまでなんて……」
「それは、そなたの――」
フィンが慌ててヴァルドの口を塞ぐ。
「ささいなすれ違いです!
奥様が激しく勘違いされたのです! ヴァルド様は全然悪くありません!
嘘だと思うのでしたら、直接奥様にお尋ねください!」
フィンが叫ぶ。
「なんでフィン様がそんなに必死なの?
まあいいわ。
お父様のその様子では、今日転移陣を作るのは無理ね。
仕方ないわ。
公爵様、予定が狂って申し訳ありません」
フィーユが頭を下げた。
「いや……そんな簡単に転移の魔法陣など作れぬであろう……
今の言い方だと、普通なら今日中にできるように聞こえるぞ」
「はい。半日あれば可能かと……
ですが、この状態で無理をすると、変な物を作ってしまいそうなので、やめてもらいます」
「そうね、赤ん坊が飛んだら困るし……」
セレシアがつぶやく。
「それは誤解だ! そうでは――」
フィンが言いかけたところで、ヴァルドがそっと袖を引いた。
「黙っていろ。まだ話す時ではない」
耳元で小さくつぶやく。
「話すのは、犯人がわかった時だ」
フィンは強く拳を握った。
「なんだかよくわからぬが、とにかく、ここと辺境伯領を繋ぐ転移陣を作るという事で了承した。
とりあえず、それでよいな?」
公爵が話をまとめてくれた。
「はい。
ヴァルド様、その旨をあちらへ伝えていただけますか?
そして、明日までゆっくりお休みください」
フィンが言う。
「わかった。フィン殿、いろいろすまない。明日また来る」
そう言って、ヴァルドは姿を消した。
「いったい何なの?」
フィーユは不満そうである。
「ヴァルド様はすごい方です。もう少し尊敬してください」
フィンが珍しくきつい口調で言った。
「そうよ。父親に手を上げるのは良くないわ」
ダイアナも同調する。
「そうよね……
私も小さい頃から見慣れていたから何とも思っていなかったけれど、言われてみれば、確かに良くない事だわ。」
セレシアも言う
3人から指摘されてしまい、フィーユは何も言えなかった。
「それもそうだが、あの者はいったい……
急に現れて急に消えたぞ? どういう事だ?」
公爵の言葉に、
「今ですかあ??」
セレシア、フィーユ、フィンの三人が叫ぶ。
「あまりに情報が溢れすぎて、もう何が起きても驚けなくなった……」
王太子がつぶやく。
「私もです……」
公爵も同意した。
ダイアナは目を見開いたまま、硬直している。
「辺境伯領はもっとすごいですので。すぐ慣れます」
セレシアが言った。
その日、セレシア、フィーユ、フィンの三人は公爵邸に泊めてもらう事になった。
そして、アーチャも姿を現した。
「竜??
襲撃の時、竜が来て相手を撃退したと言う者達がいたが、小さいから違うな」
公爵が目を丸くする。
「そうだよ。僕は体を大きくしたり小さくしたりできるんだ。
大きい時はフィンを乗せて飛べるんだよ」
アーチャが胸を張る。
「たまたまこちらに来ていまして……
もう少し早く気付いていれば、被害が減ったのですが」
フィンは唇を噛んだ。
「いや、城が無事だった事が何よりだ。
しかし、驚く事が多すぎる。
正直、私の頭ではなかなか付いていけぬ。
少しずつ理解できるようにしたい。
その手助けを、王太子殿下と娘に頼みたい」
「そうですよね。わかります」
フィンが言う。
「私も。
こちらに来て、『お父様は張り倒される存在』と思っていたら、皆に叱られてびっくりしたわ。
人間界の事、もっと勉強する!」
フィーユも自分に言い聞かすように言葉を出した。
* * *
そして翌朝。
目を覚ますと、ヴァルドが立っていた。
「辺境伯領側の転移陣は完成しております。
こちら側はどこに作りますか?」
ヴァルドの顔は生き生きとしており、昨日のやつれた様子はすっかり消えていた。
「お元気になられたようで良かったです」
フィンが、その差に驚く。
「妻が昨夜、『自分が悪かった』と言ってくれてな……それで……
それ以上は内緒だ」
ヴァルドの顔は喜びに満ちていた。
フィーユも父親に抱きつく。
「お父様、今までごめんなさい。
もう平手はやめるわ。
大好きです。だから頑張って。
お父様が皆の頼りなんだから」
ヴァルドは顔を真っ赤にし、鼻血を吹き、倒れそうになる。
「倒れないで! しっかり仕事してください!!」
フィンが慌てて支える。
「ヴァルド様、お願いですから、しっかり仕事してくださいませ!」
セレシアも必死である。
「ほあーい……」
ヴァルドはふらふらし、ぼうっとしてしまっている。
フィーユは父の鼻血を拭き取った。
そして――
「そんなだから、いつもお母様に張り倒されるんでしょうがああああ!!」
思い切り拳骨を顔面中央へ叩き込んだ。
フィーユは手をパンパンとはたく。
「暴力はやめるんじゃなかったのですか?」
フィンがおそるおそる聞く。
「平手はやめるって言ったけど、他は続行よ!」
「せめて平手だけにした方がいいのでは……」
フィンがつぶやく。
ヴァルドはふらりと立ち上がった。
「あ、そうであった。失礼した。
私には『愛』が必要不可欠なのだ。
公爵殿、場所の指定を頼む」
公爵は呆然としている。
「鼻が曲がっているようですが……大丈夫なのですか?」
「あ、すぐ元通りになりますから」
セレシア、フィーユ、フィンの三人が同時に答えた。
公爵とヴァルドが相談し、客間の一つを専用部屋として使う事になった。
こうして、公爵邸と辺境伯領を行き来できる転移陣が作られたのだった。
かなり、重要な場面なのに、全部ヴァルドが持っていってしまいました・・・・(呆)




