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『辺境伯令嬢と竜の子』 ―滅び行く者たちと未来に向かう者たち―  作者: 鶴見 日向子


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第十二話 ー歓迎された別人ー

「ヴァルド様?」

フィンは驚いた。


「娘は……」


ヴァルドの顔は真っ青だった。


「ご無事です。救護所で、けが人の手当てで大忙しです」


ヴァルドはその場に座り込んだ。


「よかった……。しかし、大変な事になっている」


「いったい何が……」


ヴァルドは転移陣の上に積もっていた燃えかすを、魔法で吹き飛ばした。

だが、そこには何も残っていなかった。


「ここの執事達を逃がすために、ヴィルヘルム王子が魔力を流したので、ここは使えなくなった」


「それは、三人を助けるために……」


「わかっている。それで、やっと符号したのだよ。ずっと何かが引っかかっていた」


ヴァルドは低い声で続けた。


「グレース様は、私が作った転移陣ではない物から飛ばされたのだ」


「いったい何のために?」


「この国に、王子誘拐の濡れ衣を着せるため……であろう」


フィンは息をのんだ。


「あの後、伯爵邸の裏に作っていた、私の転移陣を確認しに行った。明らかに何者かの手が加えられていた。痕跡は薄く、よく見なければわからなかったのだ。あの時は、早く伯爵令嬢を帰そうと焦っていて、深く調べなかった」


「ですが、私の両親という両陛下は、そのような事をする方には見えませんでした」


「内乱だ。国王の弟が計画したようだ。まさか、こちらに空を飛べる騎士がいるとは思っていなかったのであろう。そなたが戻っていてよかった」


ヴァルドは空を見上げた。


「いざとなれば、私が出ようと思っていた。だが、そなた達が出てきてくれたので、出ずに済んだ。私が出れば、敵を全員消滅させるしかないからな。証拠も何も残らぬ」


ヴァルドは深くため息をつく。


「平和な時代というのは長くは続かないのだな……。人間の困ったところだ……」


「王弟は人望がなかったのであろう。即刻逮捕された」


「転移陣が使えなくなった以上、数日すれば、あちらから謝罪の使者が来るであろう」


ヴァルドは静かに続ける。


「こちらは空を飛べる者が限られている。戦争になれば、大型の鳥を扱えるあちらが有利だ。無事に和平交渉が結ばれるといいのだが……わからぬ」


フィンはヴァルドをじっと見つめた。


きっと、この男は同じような光景を何度も見てきたのだろう。


「こちらの国王は、あまり優秀とは言い難い。城の内部も腐敗しきっている」


しばらく無言が続いた。


「とりあえず、辺境伯領へ帰る」

ヴァルドが言う。


「私もそうします。兄はいったいどうなったのでしょう?」


「おそらくだが、辺境伯領へ向かったのではないか?」


「先に帰ってください。私はアーチャと戻ります」


肩の上にアーチャが現れた。


「今は飛ばない方がいいよ。みんな、大きい鳥を目の敵にしてる。魔法でもかけられたら、たまったもんじゃない」


「そうだな。馬を借りよう。使える馬が残っているかわからぬが……」


ヴァルドは肩をすくめた。


「瞬間移動ができるのが、一人で済まぬ。私は先に行く」


そう言うと、そのまま姿を消した。


「さて、それでは、人目につかないところまで歩くか」


フィンにとって、目まぐるしい一日だった。


一歩踏み出した時、焼け跡の中で何かが光った。


フィンは近づく。


「ねえ、誰もいないの!? ねえ! 誰か答えて!」


かすれた声が聞こえた。


フィンがその場所を掘ると、光る球体が出てきた。


かなり汚れていたため、フィンは手から水を出して洗い流す。


「あ、ヴィル兄さま! 無事だったのね! そちらに飛行隊が攻撃を仕掛けたと聞いて、びっくりしたのよ! こちらでもいろいろあって、早く帰ってきてください! 大混乱です!」


その声はグレースだった。


「すみません、聞こえています。こちらの声は聞こえますか?」

フィンが答える。


「何すっとぼけた事言ってるのよ! 勝手に一人で出かけちゃって! 何で私も連れて行ってくれないのよ! ヴィル兄さまのバカ!」


あの“ぽわーん”としたグレース様は幻だったのだろうか――。


フィンは思った。


「すみません。フィンです。弟の方です。辺境伯邸は焼け落ちました。城下は焼け野原です。私は今から辺境伯領へ戻ろうとしていたところです」


グレースの顔色が変わった。


「セレシア様は? フィーユ様は? 無事なの!? ねえ、大丈夫なの!?」


今にも泣き出しそうである。


「二人とも無事です。救護で忙しくしています。こちらの執事と侍女二人が、そちらへ飛んだと思うのですが……」


「そう、それで飛行隊が攻撃していた事がわかったの。そのおかげで、寸前のところで内乱が押さえられたの」


グレースは息を整える。


「ヴィル兄さまは?」


「無事ですが、どこへ向かわれたかはわかりません。今こちらでは、大きい鳥への警戒がものすごくて……移動に飛行生物は使えません」


「とんでもない事になっていたのね……」


グレースは唇を噛んだ。


「こちらもすごく混乱しています。本当はすぐに和平の使者を立てたいのだけど、馬鹿な連中が飛行魔獣をほとんど攻撃に使ってしまって、戻ってきたのが数騎だけなの。まさか、そちらに空を飛べる騎士がいるなんて思っていなかったって……」


「では、もうそちらからこちらへ攻撃はないのですね?」


「はい。それは大丈夫です。ただ、隠し持っている可能性も否定できないので、絶対とは言えません」


その時、


「おい、なんかあそこが光ってるぞ」


という声が聞こえた。


「人が来ました。切ります。切り方を教えてください」


「こちらで切るわ。そうしたら、そちらの光も消えるから」


直後に球体の光が消えた。


フィンは球体を懐へ押し込む。


「そこで何をしている!」


城の騎士達だった。


「私は辺境伯に仕える騎士です。ここは辺境伯の別邸です……執事と侍女二人が行方不明なのです……」


そう告げると、騎士達は同情の目を向けた。


「それは気の毒だ……。平民だったのだな」


「はい……。私にもとてもよくしてくれて……」


フィンの脳裏に、楽しかった日々が浮かぶ。


そして、うっすらと涙がにじんだ。


「なんで、こんな事に……」


絞り出すような声だった。


本当に、いったい何なのだろう。


「捕らえた捕虜は『王子が誘拐された』『証拠もある』と言うばかりだ……。まあ、気を強く持て。どこかへ無事に避難しているかもしれぬ。そなたも気をつけなさい」


そう言って、騎士達は去っていった。


誘拐された王子とは、自分の事なのだろうか――。


転移陣が使えなくなった以上、相手国の詳細はまったくわからない。


ヴァルドに聞くしかない。


「さて、今度こそ行こう」


フィンは辺境伯領へ向かって歩き出した。


辺境伯領では、戻したはずのフィンが大型の鳥に乗って帰ってきたため、大騒ぎになっていた。


「これは、あの使者が乗っていた鳥より、かなり立派ですね。どういう種類なのです?」

四兄が親しげに話しかける。


「えっと、私はフィンではなくて……」

ヴィルが頭をかく。


「もう戻ってきたのか!? 早すぎだろ! そんなに嫌な所だったのか?」

三兄が叫ぶ。


「フィンが戻ってくるなんて、よほどだったのであろう。いいのだ、もうどこにも行かないでくれ」

長兄がヴィルを抱きしめる。


「よく戻ってきてくれた。うれしいぞ」

次兄は涙ぐんでいた。


「ご両親にはちゃんとご挨拶してきたのですか?」

辺境伯夫人はうれしそうでありながら、複雑そうな顔をしている。


「よく戻ってきてくれた。正直うれしいぞ。やはり、そなたにはここにいてほしい」


辺境伯と思われる人物も、目に涙をためていた。


皆がおいおいと泣き始める。


(今さら、『双子の兄』だなんて言えないではないか!)


ヴィルは焦った。


その時だった。


「その者はフィンではない。フィンの双子の兄、ヴィルヘルム王太子だ」


ヴァルドが現れて告げた。


「へっ??」


全員の目がヴィルへ向けられる。


「フィンとは違うと、もっと早く言ってください!!」


全員の声がそろった。


「助かった……。どう説明しようか悩んでいたのだ。礼を言う。もう少し早く出てきてくれたら、さらに助かったのだが……」


「いや、皆がいつ気づくかと楽しみに見ていたのだが、なかなか終わらないので、仕方なく出てきた」


その時、夫人付きの侍女がつかつかと前へ出た。


そして――。


ヴァルドの顔面へ拳を叩き込む。


倒れそうになるヴァルドを、ヴィルが支えた。


「奥様を泣かせるなんて、許せません!!」


「やはり、そなたが出てきたか。相変わらずのお点前。見事だ。夫人付きになったのだな」


ヴァルドは感心したようにうなずく。


「鼻が曲がっているようですが……」

ヴィルが恐る恐る言った。


「あ、自然に元通りになるそうです。失礼いたしました」


侍女はそう言って、夫人の後ろへ下がった。


「本当にフィンに瓜二つだ。双子というのは本当だったのだな」

「ついでに性格もよさそうだ」

「なんでここに? フィンは?」

「鳥の仕組みを教えてください」


それぞれが一度に話しかける。


「すみません、まずは自己紹介をお願いしてもよろしいですか?」


四兄弟に圧倒されながら、ヴィルは言った。


さらに兄弟達の肩から、細長い生物達が現れる。


その生物達は徐々に大きくなり、ヴィルの鳥の周囲へ集まった。


「ああ、魔力で動かしているのか。この首輪に操縦用の魔力が込められている」

「大型だから速度は出そうだな」

「魔力がないと振り落とされるかもしれない」

「うーん、我々より飛行効率がよい。我々の時代は終わったな」


皆、好き勝手に話している。


ヴィルは目を丸くするしかなかった。


「お話が全然前に進まないから、あなた達、黙ってちょうだい」


夫人がぎろりと四兄弟と竜達を見回す。


その目がとても怖い。


竜達は一斉に元の姿へ戻り、消えていった。


双子でも微妙に違うんですけどねー

(同級生に双子が何組かいました)

まあ、双子って知らなかったら間違える確率上がりますね


ヴァルドを張り倒す専門侍女・・・えっと、ヴァルドは「人外」ですからお見逃しを~~

最近のアニメが「拳骨禁止」ってこの話書き終わった後に知りました


チャッピーもっと早く教えて~~でした。

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