第十一話 ―束の間の帰国と襲撃―
フィン王子登場です・・・ですが・・・
フィンも転移陣に乗ってみる。
空間が歪んだと思った瞬間、そこは別天地だった。
明るい太陽。
美しい石畳の広間。
そして、その中央には噴水があった。
「ここは王家の居住区だ。そなたの部屋も用意してある」
ヴィルが言う。
「まずは着替えだな。騎士の格好も悪くはないが、王家には王家にふさわしい衣装がある。それに着替えてもらう」
侍女や侍従が呼ばれ、フィンは風呂へ案内された。
「着替えの用意はできているな?」
「はい、そろっております」
辺境伯領にも風呂はあった。
天然の温泉である。
だが、ここの風呂は井戸から水を汲み上げているらしい。
体を洗ってもらい、清潔なタオルで拭かれ、そして王子と揃いの服を着せられた。
侍女が涙を流す。
「やっと、お二人がそろわれたのですね。こんなに嬉しいことはございません」
そして、そのまま両陛下へ挨拶することになった。
「おお……よくぞ帰ってきてくれた。こんなに嬉しいことはない。しかも、立派な騎士になっていたとは……感無量だ」
「本当に、また会えるとは夢のようです。こんな喜びがありましょうか」
両親は涙を流して喜んだ。
「不束者で、慣れないことばかりだと思います。長い目で見ていただけますと幸いです」
フィンは丁寧に挨拶した。
「それと、どうか辺境伯とのお約束をお守りください。我が国の国王陛下には内密に」
「わかっている。事を大げさにしても、何も良いことはない。そなたさえ戻ってくれればよいのだ。少しずつ慣れていってくれ。焦らずともよい」
そこへ、なぜか顔を赤くした小太りの男がやって来た。
「消えた者が戻ってきた? 本物なのか? ただの空似であろう。本物だという証拠を見せてみろ!」
「そなた、無礼であろう。いくら王弟でも、許されることと許されぬことがある」
国王の声に怒りがにじむ。
そして目で合図を送ると、王弟と呼ばれた男はその場から連れて行かれた。
「あれは相手にするな。嫌な奴だ」
ヴィルが小声で言った。
二人は国王と王妃への面会を済ませると、普段着へ着替えた。
「さて、セレシアちゃんとフィーユちゃんの試験結果を聞きに行こう」
ヴィルは妙に乗り気だった。
「そなたは、どちらに好意があるのだ?」
ヴィルがこっそり尋ねる。
フィンはぎょっとした。
好意。
それはどういう意味なのだろう。
「私は、子供の頃からずっとセレシア様と一緒で……フィーユ様と知り合ったのは、本当に最近です」
「じゃあ、フィーユ殿は私が狙ってもよいのだな?」
ヴィルは無邪気に笑った。
「父親と母親も怖いみたいですよ……やめられた方が……」
「いや、あのとんでもない魔力、物怖じしない態度、実に気に入った。ぜひ我が妻に迎えたい」
「はあ……」
ヴァルドの背後には、竜の集団が付いている。
それは口が裂けても言えない。
それに、母親が父親を張り倒すのを趣味としていることも、絶対に黙っていよう。
フィンは心に誓った。
半日で二人が戻ってきたため、執事は驚いていた。
(くつろげる時間がない……!)
という不満は一切顔に出さず、二人に対応する。
「フィン様、お名前は今まで通りでよろしいのですか?」
執事がフィンに尋ねた。
「あ、何も聞きませんでした」
「よいではないか。私はヴィルヘルムというのだが、皆にはヴィルと呼ばれている。フィンとヴィルでよいだろう」
ヴィルはにこにこと笑う。
(グレース様の様子といい、なんだか適当なお国柄なのだろうか)
執事はそう思った。
「ところで、セレシア殿とフィーユ殿はまだ帰って来ないのか?」
ヴィルが尋ねる。
「もうとっくに帰る時間だと思うのですが……」
侍女も首を傾げる。
その時だった。
「大変でございます!」
買い物に出ていた侍女が、いきなり飛び込んできた。
「他国からの奇襲でございます! 空からの攻撃です。大きな鳥が飛び交い、上から爆発する玉を落としております。騎士達も空からでは対応できません!」
侍女は息を切らしながら叫ぶ。
「ここも危険です。早く避難を!」
その時、近くで爆発音が響いた。
「侯爵邸が燃えている!」
外から叫び声が上がる。
侯爵邸は、辺境伯別邸の数軒先だった。
「なんだと!」
ヴィルが叫ぶ。
「ヴィル様、フィン様、お早くお戻りください。ここにも落ちたら、納屋も壊れます。早く!」
ヴィルは立ち上がると、侍女二人を脇に抱え、裏の納屋へ放り込んだ。
さらに執事の腕を引き、同じく中へ放り込む。
そして三人に魔力を通した。
三人の姿が消える。
ヴィルは外へ出ると手を上げた。
立派な大きな鳥が舞い降りてくる。
「フィン、そなたはセレシア殿と我が妻を探して救ってくれ」
「あの二人は大丈夫です。アーチャ、来てくれ!」
アーチャはフィンのそばに現れると、大きな姿に戻った。
「空を飛べるのだな。さすが我が弟。さあ、参ろう」
二人は宙へ舞い上がり、敵へ向かって突っ込んでいく。
フィンは魔力で、鳥に乗っている騎士達を吹き飛ばした。
騎士達は次々と地面へ落下していく。
ヴィルは長い槍を取り出し、それを振り回した。
相手の鳥の首や羽を切り落とす。
鳥ごと墜落していくものもあった。
「撤退だ!!」
残った数騎が、遠くへ消えていく。
眼下には、燃え広がった町が見えていた。
フィンは両手を広げる。
「我が氷の精よ。土地に降り立ち、火を消したまえ」
フィンの手から魔力があふれ、氷の粒が下へ降り注いだ。
間もなく、町の炎は見えなくなった。
「すごいな。魔法には、そういう使い方もあるのか」
ヴィルが目を見開く。
「それよりも、兄上は至急お帰りください。巻き込まれたら大変です」
「そなたもだぞ!」
兄上と呼ばれて、ヴィルはかなり嬉しかった。
だが今は、それどころではない。
二人は地上へ降り立った。
「なんで、こんなことに……」
広がる焼け野原に、二人は茫然とした。
「セレシア様、フィーユ様!」
フィンがはっとしてつぶやく。
ところどころから、助けを呼ぶ声が聞こえた。
城から、騎士達が馬で駆け寄ってくる。
「私は辺境伯の騎士で通ります。兄上は違います。とにかく早くお帰りください。後で必ず報告に行きます」
その言葉に、ヴィルはひとまず辺境伯邸へ戻った。
しかし――
辺境伯邸も、侯爵邸からの火が燃え移ったらしく、燃え落ちていた。
転移陣の上には、燃えかすが山積みになっている。
「おい、あそこに大型の鳥がいるぞ!」
誰かの叫び声が聞こえた。
「まずいな」
ヴィルは鳥へ飛び乗り、空へ舞い上がった。
「いったい、何が起こったのだ……」
「辺境伯領へ行ってみるか。何が起きたのか、さっぱりわからない」
ヴィルは、以前使者が向かったという辺境伯領へ向かった。
その頃、セレシアとフィーユは救護所で回復魔法を駆使していた。
だが、運ばれてくる人数が多すぎる。
魔力は少しずつ心もとなくなってきていた。
他の救護隊員達も、全員疲れ切っている。
「すみません、もう無理です。お許しください」
隊員の一人が悲鳴を上げた。
二人は、試験に同率首位で合格し、合格書を受け取った直後だった。
突然、爆発音が響き、辺りは火の海となった。
セレシアとフィーユ、そして他の者達は鎮火の魔法を使い、救護隊本部だけは何とか守ることができた。
しかし、周囲は惨憺たる有様だった。
魔力を使える騎士や侍女達がいた屋敷は難を逃れたところも多かったが、平民達の家はひとたまりもなかった。
「まさか、いきなり中央部が攻撃されるなんて、今までなかったわ」
「空から来るなんて……」
そこへ、フィンがやって来た。
「大丈夫だと思っていましたが、ご無事で何よりでした」
フィンは二人を見つけると、ほっとしたようにその場へ座り込んだ。
「なんでフィンがここにいるの? 国に帰ったんじゃないの?」
セレシアが小声で尋ねる。
「兄と一緒に、お二人が帰ってくるのを待っていたのです。別邸の執事と侍女二人は、兄が転移陣で母国へ飛ばしてくれました。あちらで保護されていると思います」
セレシアとフィーユは顔を見合わせた。
「じゃあ、そちらの国が攻撃を仕掛けたわけではないのね?」
「それはありません。国王陛下も事を大きくするつもりはないとおっしゃいました。何より、兄である王子も一緒に侵略者と戦ってくれました」
「あのね、実は……」
セレシアは声を潜める。
「落ちて死にかけだった敵兵を回復魔法で蘇らせたのだけど、『我が国の王子を連れ去った復讐である』って叫んでいたの。城に連れて行かれて、国王陛下から取り調べを受けているみたい」
「そんな、馬鹿な!!」
フィンの顔色が一気に青くなった。
「私達は今ここを動けないわ。要救護者が多すぎるの。少し休んで魔力を回復させたら、また回復治療を続けなければならない」
セレシアは真剣な顔で言った。
「フィン、お父様にこのことを知らせてくれる?」
「さすがのお父様も、ここに姿を現すのは無理だと思うわ。無事だと伝えてほしい」
フィーユも言った。
「わかった」
フィンはひとまず、辺境伯別邸跡へ立ち寄った。
転移陣のあった場所に、男が立っていた。
アーチャ、大人しくしていたのに、チャッピーひどいよねー(苦笑)
続きを読んでいただけると幸いです




