第十話 ー王子としての帰還ー
フィンの出生が確定されてしまいます
フィンは辺境伯家に呼び出され、不思議そうな顔をした。
「王子? フィンが??」
三兄がまず声を上げた。
「他人の空似ではないのか?」
長兄が言う。
「しかし、双子なら似ていても不思議ではありません」
四兄が静かに言った。
「どうやって判断すればいいのだ?」
次兄が頭を抱える。
「確かに、フィンのあの魔力は捨て子にしては不自然であった。
この者の言うことが正しいような気がする」
辺境伯が言った。
フィンが呼ばれ、やって来た。
「フィン、皆の前で上着を脱いでもらえないか?
上半身を直接見せてほしい」
辺境伯に言われ、フィンは素直に上半身をさらした。
「間違いありませんね……」
長兄は、知っていたのだが、改めて言った。
彼の右肩に、不思議な形の痣があることを。
使者は、その痣のことを事前に辺境伯へ伝えていた。
「フィン、そなたを手放すのは私としても辛い。
だが、そなたを探していたご両親の気持ちを考えると、いたたまれない。
戻りなさい」
辺境伯はうなだれた。
「どういう事ですか?」
フィンは目を見開く。
「そなたは王子だったのだ。
なぜかはわからぬが、我が国にやって来た。
何らかの手違いがあったのであろう」
「はあ???」
フィンの頭の中に、今までの辺境伯領での思い出が次々と浮かぶ。
そして、セレシアの笑顔。
できることなら、ずっと一緒にいたいと願っていた。
四兄弟達も、実の弟のようにかわいがってくれた。
「ちょっと待ってください。いきなり言われても……。
僕はずっと、この地で暮らしていきたいです。どこにも行きたくありません!」
フィンは叫んだ。
「ダメだ、戻りなさい。
あちらの国が本当にそなたを捨てたのであれば、わしらは何としてもそなたを手放さぬ。守り抜く。
だが、話を聞く限り、そうではなさそうだ……」
一瞬で侍女の腕の中から赤ん坊が消えたという。
それが、長兄が認めるほど強い魔力を持つ赤ん坊。
そして、同じ国から飛ばされてきたという、強い魔力を持つアルビノの伯爵令嬢。
どう考えても、答えは一つしかない。
口には決して出せないが……。
「使者殿。
準備が整い次第、フィン――いや、王子はお返しする。
その旨、国王陛下に知らせてほしい。
そしてできれば、この件は辺境伯領だけの問題として、国を巻き込まぬよう取り計らっていただきたい」
「承知いたしました」
使者はひざまずいた。
「これが私からの親書だ。
遠いところ申し訳ないが、そなたの国の国王陛下へ届けてほしい」
使者は大きな鳥を呼び寄せ、それに飛び乗って飛び去っていった。
「便利そうですね……」
四兄がつぶやく。
「魔力がなくても飛べそうです」
四兄竜が姿を現し、四兄の顔に自分の顔をこすりつけた。
「私も一緒に飛びたいです」
四兄竜が小さくつぶやく。
「フィン――いや、もう王子と呼ばねばならんな。
旅立つ支度をしなさい。
中央へ寄って、セレシアに会って行くといい。
ヴァルド殿、いるのであろう?
出て来てくれぬか……」
辺境伯が椅子に座ったまま呼びかけた。
ヴァルドは申し訳なさそうに姿を現した。
「言い訳のしようがございません。
私のせいです。とんでもない迷惑をかけてしまいました」
ヴァルドはフィンに跪いて謝った。
「いや、私はここで育てられて楽しかった。
本当は行きたくはない」
「僕は? 僕はどうなるの?」
アーチャが姿を現した。
「セレシア様のところへ帰るがいい」
「いやだ!
セレシア様も大事だけど、フィンがいないなんて絶対に嫌だ!」
ヴァルドは肩を落とす。
「まさか、赤ん坊が飛ばされるとは……。
当時の私には考えもつかなかった。
あの頃は瞬間移動が使えず、あちこちに転移陣を作っていた。
年月と共に、その存在をすっかり忘れてしまっていたのだ」
「言っても仕方あるまい」
「王子になっても、我々のことは忘れないでくれ」
長兄が言う。
「達者で暮らせ。そなたなら、王子としてふさわしい」
次兄が言った。
「嫌なら帰ってくればいいさ。
遊びに行くつもりで、とりあえず気軽に行け」
三兄が笑う。
「そうです。嫌だったら戻ってくればいいのです。
その時はヴァルド殿に転移陣を作ってもらえばいい」
四兄が言った。
「何年か前、セレシアが半年行方不明だっただけで、私は毎日胸が張り裂けそうでした。
それが十年以上なんて、どれだけご両親が苦しまれたか、私にはわかります。
帰ってあげてちょうだい」
辺境伯夫人がフィンの手を取った。
「わかりました。
でも、嫌な時は戻ってきていいのですね?」
「もちろんだ!」
全員の声がそろった。
「今までありがとうございました。
行くだけ行ってきます。
合わないと感じたら帰ってきます。
それなら、あちらも納得してくれると思います」
フィンは翌日、中央へ向けて旅立った。
四兄は、何かが引っかかっていた。
それが何なのか、自分でもよくわからない。
毎日、あの匂いの強い薬草を、囲いをした転移陣へ落としていた。
万が一、魔力がある者が踏むと飛ばされるため、用心していたのだ。
草には強い魔力が含まれるため、魔法陣が光り、それを吸い取っていく。
「なあ、竜よ。
魔法陣に直接触れていない、抱かれた赤ん坊が吸い込まれるなど、あり得るのか?」
竜が姿を現した。
「実際に試してみないとわかりませんねえ」
「赤ん坊で試すわけにもいかないし、そもそも、そんなに魔力の強い赤ん坊などおらぬ」
四兄は周囲を見回した。
椅子が置いてある。
それを魔法陣の上へ置く。
椅子に魔力はないため、吸い込まれない。
その上へ草を乗せてみた。
椅子の下へ落ちた草は吸い込まれるが、椅子の上に乗った草は残ったままだ。
「やはり、おかしい。
何かがある気がする」
「竜よ。ヴァルド殿には連絡できないか?
相談したい」
「たぶん中央へ行っているでしょう。不可能かと」
「ヴァルド殿も『抱かれた赤ん坊が飛ぶとは思わなかった』と言っていたよな。
地面に置いたならまだしも、手の中から消えるものなのか……?
気のせいであってほしいのだが……」
胸騒ぎがおさまらない四兄であった。
フィンはアーチャに乗せられ、山々を越え、途中から馬へ乗り換えて中央の辺境伯別邸へ向かう。
「なあ、変身はできそうか?」
フィンがアーチャに聞いた。
「上手くいかないですね。
大きさを変えるのは簡単なのですが……。
あの使者の大型の鳥は便利そうでしたね」
「竜より速そう。
そこら辺にいて、すぐ捕まりそうだし」
そんな話をしているうちに別邸へ到着した。
そこには、立派な身なりをした若い青年が待っていた。
自分の顔はあまり見たことがなかったが、その時初めて二人並んで鏡を見た。
「似ていますね……そっくりです」
これは認めざるを得ない。
「だろう?
これからよろしく頼む。弟よ」
「同じ日に生まれたのに、どうやって兄と弟を決めるのですか?」
侍女が執事に尋ねた。
「先に母親の腹から出た方だ。
地方によっては逆の場合もあるが、我が国では先に生まれた方が兄となる」
「時間差などほとんどないのに、順番が決まってしまうのですね」
「そういうものだ」
「さて、行こうか、弟よ。
あちらで両親が待っておる。
この転移陣は便利だぞ。
すぐに城の中へ着く。
あのヴァルドという男は天才だな。
普通なら、そんな短時間で作れるものではない」
「時間をかければ作れるのですか?」
「まあな。限られた者だけの特技だが……」
王子は時間さえあれば、別邸へ入り浸っていた。
「グレースが言う通り、ここは楽しい。
セレシア殿とフィーユ殿がいるからだろうな。
場が明るくなって、居心地がいいのだ」
今日、二人は卒業試験で留守だった。
アーチャを預けようと思っていたのだが、帰ってくるのは夕方らしい。
「アーチャ、一人で留守番できるか?」
「うん、大丈夫。
屋根裏で変身の練習でもしておくよ」
アーチャは姿を消したまま、屋根裏へ消えていった。
それを見送ったフィンは、兄に連れられ納屋の扉を開ける。
「すごい場所に作っていますね……」
「間違って飛ばされる者がいないようにとの配慮だ。
この転移陣は往復用。いつでもここへ帰って来られる。
安心しなさい。少しずつ慣れていけばいい」
先に兄が転移陣へ乗り、姿を消した。
チャッピーに「アーチャは屋根裏で何をやらかすんですか?」と聞かれました
次の回をお読みいただけますと幸いです




