アマリマさんと孤独の冒険者
星々が照らす彼らの帰り道。その星光に当てられて最も綺麗に輝いていたのは、自身の腰まであるアマリマさんの銀色の長髪。また、自分と比べて身長が高く、大体...百九十センチぐらい...?
それに、人から見ても優れた容姿をしているように思う。着ている黒い上下一つの服が身体の線にピッタリと沿っているため、月明かりに照らされて、アマリマさんの体のシルエットを綺麗に映し出す。
人間における白目と黒目が反転しており、その瞳は左が真紅、右が黄金の色を宿している。そして、肌は少し青海がかった灰色で、額から飛び出た黒く艶のある二本角がよく目立つ。
さっきは、一気に色んなことが起こっていて気づかなかったけど、アマリマさん多分というか絶対魔族だ。
【魔族】
その頭部には数本の角が生えており、肌は灰色や青みがかった色が多く、他種族と比べて見分けがつきやすい。
魔族と言うほどに、魔力への適性が高く。魔力の扱い方はエルフ族に匹敵するほどに優れている。また、人間と違い、再生力が高く、長命であり数百年を生きる者も珍しくない。つまり、非常に優れた種族である。
さらに、歴代の魔王達全てがその"魔族"であることも忘れてはならない。
俺達は長くのっぺりとした道のりを辿り、何とか王国まで辿り着いた。時間はもう直ぐ明け方になってしまうぐらいなので、結構歩いた。そして、俺が住んでいる集合仮宿の前まで無事に、戻ってこれたのであった。赤煉瓦の外観に深緑色の屋根が目印だ。
月25プリム。まぁ、お手頃だ。市場や冒険者ギルド、王国に出入りする門からもそう離れていないし。三階建てで、集合仮宿部分は主に二階と三階。
おっといけない。普段住んでいるところのこだわりを説明しないから、ついつい饒舌に語ってしまった。自分がこだわった部分を聞かれると、つい勢いよく話し込んでしまう…。
さらに続けると、ごく稀に一階のパン屋さんが「これ余ったからどうぞー」と売れ残ったパンや作りすぎたパンをお裾分けしてくれる!それが俺がここに住んでいる大きな理由の一つだ。美味しい。
二階の数ある部屋のベランダ部分からは植物が垂れており、赤い煉瓦の壁とのアクセントがいい感じになっている。これも俺好み。
二階へと続く階段は大通りの道と繋がっている。一階にあるパン屋を経由する必要がない。だから、ほぼパン屋とアパートは独立していると言っても過言では無い。そして、二階の広間から各階の部屋まで行けるようになっている。うんうんまさしく理想の家と言ったところ…。
「さっきから何を黙りこくっている」
「——って本当に付いてきてるじゃん!」
不意に横から聞こえた声に思わず、勢いよく顔の向きをその方に変える。
「別に良かろう?何が減るわけでも無い。…あ、それとも何か?貴様程の者にも妻がいるのか?意外だな…パッとしない顔をしているため、その様な者は居ないと思っていたのだが、本当に意外だな」
「二回言わないでください。どうせ俺は一人っ子の独り身ですよ…!」
最も結婚願望等が無いわけでは無いが、冒険者という仕事柄、あんまりそういうのとは縁がない。かと言って、好きな人がいるわけでも無いので、独り身だ。最近は追放されたし、本当の意味で孤独の冒険者になってしまった。
そんな事を言われながら、三階へと続く階段を登り、俺の部屋である「03-24」と刻まれた木造の茶色い扉を開ける。
扉を開けるとまず目に付くのは、床に敷かれた赤い大きな絨毯だ。その絨毯には金色の大きな魔法陣が刻まれている。今は朝日が昇る前なので、絨毯に刻まれた金色がぼんやりと光っているのがよくわかる。他にも部屋中の至る所に観葉植物が吊るされたり、棚に飾られたりと、全体的に緑が多い部屋であることが分かる。
「ほう…。これが人間の部屋か。存外狭い…雑貨屋のような部屋だな。家具が無駄に多い。それに、何故こうも草花を飾るのだ?虫が湧くだろう。」
「人間の部屋はこういうもんなんですよ。部屋が狭いのは僕が稼げない冒険者だからデスケド…まぁ確かに植物は多いんですけど…。こう見えて薬草もあるのでポーション代が浮いてます。そらに虫除けの自作魔法陣を絨毯に刻んでるから、虫は湧きませーん」
装備品やらを片付けながら、アマリマさんの質問にテキパキと答えていく。最後を伸ばしたのがいけなかったのだろうか、アマリマさんは舌を打ち鳴らしている。怖い。「死ネェ」されそう。
やっぱり早く帰ってもらおう。部屋中を見渡しながら、アマリアさんはまるで自分の物かのように、ベランダ近くに置かれた椅子に座り、その長い足を交差させながら話を続ける。
「…自作の魔法陣。———そうだ貴様。」
そう言うと、一拍置いてアマリマさんは話を続ける。
「何故あの魔法陣を解けたのだ?あの魔法陣はそう易々と解けるものではない。あれは腕利きの…いや至高の魔法使いが手掛けたものだ。」
…至高。実際、あの石碑に刻まれていた魔法は本当に大したものだった。魔法研究を生業にしている人でも解くのは難しい…いや絶対に無理だったと思うほどに難解だった。
「あー…それは俺の魔法のせいだと思います」
「ほう?貴様の固有魔法が?」
「はい。俺の固有魔法は、その魔法に使われている魔術式を視れるんですよ。それで、その魔術式に手を加えることができるんです。書き足して強化したり、書かれていたものを消して、魔法そのものを破綻させたりもできます。もちろんこの絨毯みたいに、自分で魔術式を作ることも…!」
そう言いながら俺は、誰でもわかる様に人差し指で簡単な魔術式を書く。すると、それが空に浮かび上がり、パッと光ったと思えば、また直ぐに消えてしまった。魔術式が消えるまでアマリマさんは興味深そうに見つめていた。
「すごく簡単にいうと、魔法を文字で見れます。そのおかげで魔法を強化したり、魔法を使えなくしたり、自分で魔法を作れます!って感じです。」
一拍置いて俺も続ける。
「———それで、あの魔法陣をパッと見た時に情報がバーって頭の中に流れ込んできて、明らかに鍵穴みたいな魔法陣が一個あったんで、その鍵に当てはまる魔術式を書いて、開けたみ...たいな感じですね。確かにすごい情報量でしたけど、当てはめる魔術式自体は簡単なものでしたよ」
…淡々と当たり前のように説明してはいるが、こいつの魔法相当なものだ。数ある魔法陣の中から欠陥、その鍵に当たるものを見つけ出したのは、固有魔法のおかげ———だとしても。それに当てはまる式を書き足したのは、こいつのこれまでの経験によるものだ。今までに相当数の魔法を視て、その魔術式を読み込んできたのだろう。…リク・ルミノワール、やはりこいつに着いてきて正解だったやもしれんな。アマリマは自身の口元を手で隠しながら、誰にも覚られないように口角を上げる。
「…してリク。九代目は誰が就いたのだ?」
「九代目?…あーーーー魔王のことですか。えーと確か九代目魔王はグラ…グランヴリム?とか言う魔族だった気が、します」
「…グッ——!?」
リクがそう言うとアマリマは一瞬、何かを言いかけ狼狽するが、また直ぐに落ち着きを取り戻そうとしていた。
【九代目魔王 グランヴリム】
現在君臨している魔王の先代にあたる魔王であり、歴代魔王の中でも「最弱」と語られる魔王。
その評価は魔族内でも極めて低く、「何故あれが魔王になれたのか」とまで揶揄されていた。
他の魔王たちが何十代にも渡る勇者との戦いの末に討伐されてきたのに対し、彼は僅か二代の勇者によって討伐されている
グランヴリムだと…!?あの尻の青いアホガキが魔王だと!?…ふざけているな。"ルーヴル"との手合わせで一本も取れんかったあのへっぽこが魔王とはな。…九代目はエリアンだと思っていたのだが。それほどまでに跡形もなく勇者共に一掃されたと言ったところか。
だが、十代目とも言っていたな。グランヴリムは倒されたのだろう。…まぁ当然だろうな、私を封印していた勇者たちがグランヴリムと相対していれば、簡単に倒せていたはずだからな。
「そ、そうか…では、十代目は何と言うのだ?」
「十代目は"フェルト・忘れました"、知らないんですか?…ってそりゃそうですね封印されてましたし」
「あぁ…フェルト」
知らぬ名だな。
先ほどまで、部屋中を歩き回って装備などを片付けていたリクは現在、台所でカチャカチャと音を立て、その片手間に私との会話を続けている。私との会話は片手間か、良い度胸だ。おもしろい。
そして2人分のティーカップと、白色で緑色の縁取りがされた小さいお皿を出している。それを一通り終えると戸棚を開き、何かを取り出そうとしている。
「あ、しまった。」
そうだったそうだった。ちょうど依頼前に最後の一袋を使い切っちゃったんだった。美味しい紅茶でも出せば、満足して帰ってくれるかと思ったんだけどな。でもなんかこの人、紅茶なんか出しても帰る気無さそうだなぁ…。
はぁとため息を吐きながら俯き、どうしようかと考えていると、ふとボロボロの膝当てが目に付いた。
そういえばあの森に迷い込んだせいで、ポーションと装備もボロボロになっちゃったな。あんまり休んでもいられないし、ちょうど良いかな。今日の午前中にでも市場の方に行って買ってくるか。
ただ問題はこの人が俺の言うことを聞いてくれるかどうか——絶っ対に聞いてくれないだろうな。
「あの、大変恐縮なのですが、夜が明けたら外出をしようと思いましてぇ、少し留守を頼めますでしょうかぁ」
にへぇと作りきった笑みを浮かべて、飛んだ不躾な質問を目の前の椅子で寛ぎきっている客人に対してする。
「ん?何用だ。というか、何だその気色の悪い顔は」
「あー…少し市場に行こうと思いましてぇ。」
チラッと自分が今着用しているボロボロになった装備に目配せすると、彼女もその方を見やる。魔物の皮と金属で作られた装備、とは言え冒険者の視点で言えば必要最低限レベル。それがもう、籠手と膝当てはヒビ割れ、皮部分は所々破れている。文字通りズタボロだ。
こんな装備じゃ、いつ魔物にやられても文句は言えない。
早急に新調する必要がある。幸い、前のパーティーメンバーから「今までありがとう代」的な感じで資金は貰えたし。同程度のものは買えるだろう。
「実は、今着ている装備がボロボロで。武器も刃が折れてて使い物になりませんし。早く新しい物を買わないといけない、と言う訳でして…」
もちろん作り笑いは忘れない。万が一俺のこの百点満点笑顔が効く人かも知れないので、これは崩せない。
「フム。確かに随分と薄汚れているな。…良し!なら私も同行しよう」
「ですよねぇ」
口に出さずともそう聞こえるように、作り笑いが崩れると同時にため息を吐く。
二人が話し込んでいると、窓から差し込む朝日が、ちょうど彼女の淡麗な横顔を照らす。眩しかったのか目を細めるが、太陽に照らされる横顔も彫刻のようにとても美しい。
もうすぐ夜が明ける。




