3、私は名前で人を好きになったりしない!
「ええ〜〜!何でそうなるのよ!
ちょっと!あなたっ!
あなたも、何か、言いなさいよ!
痴漢!痴漢したでしょ!
お尻触ったでしょう?
なんかこう、いやらしい感じで…」
なんだ!この女!
私が、イイって言ってるのに…
しつこいなぁ!
触られた本人がイイって、言ってんだよ!
何か、事情が、あるんだな…とか…
そうならないかなぁ
そう思ってくれんかなぁ!
「あっ!だからよ!だから…そう、言えないんだ!
あなた…恥ずかしくて言えないのよね!
だったら、やっぱり、アナタが言いなさいよ!
認めなさいよ!
私が、やりました!って、言いなさいよ!
私が痴漢やりました!
私は痴漢です!って、言いなさいよ!」
何だ!この、押し付けがましい言い方!
無理矢理言わそうとしてる!
焦ってるな。これは!
ここは、もう、言い切るしかない!
無し!で、押し通すしかない!
「いえ!この人は、一切、やってませんしっ!
全然、痴漢でも、ありませっん!」
「ああ〜っ!だからぁ!
あなたは、もう、いいから!
あなたは、恥ずかしくて嫌な、この事を
無かった事にしたいのでしょう?
でも、それが、今後、大きな問題に繋がるのよ!
この人は、今回の、この件に味をしめて
これから何度も痴漢を繰り返すわ!
そのおかげで被害女性がドンドン増えていくのよ!
この事実を無きものにした事によって…
ねっ!
だから、二人共、認めなさい!
あなたは痴漢された。
アナタは痴漢した。
そう言う事でしょ!
ねっ?」
私まで…
私は共犯者か…
私まで事件を起こした側になっとるよ!
これは、絶対、看過できんよ。
「い、い、えっ!」
「なっ、何で、そうなるのよ!
それに、アナタ…
イヤイヤ、もう、アナタなんて呼ばないわよ!
アンタッ!何で、だまってるのよ!
こうして、私達が、言い合ってるのに
一言も喋らないで
対岸の火事じゃないのよ!
アンタが当事者なのよ!
加害者なのよ!
火をつけたのは、アンタなのよ!
やったんでしょ!
触ったんでしょ!
痴漢を…したんでしょっ!」
「……………………………………」
「えーーーっ!
まさか、黙秘権!
そんなの警察の取り調べ官との、やりとりでしょ!
ドラマじゃないのよ!
ちゃんとしてよぉ!もう〜っ!
じゃあ、やっぱり、お姉さん!
ねぇ!もう、お願い!
お願いします。!
ホラッ!もう、周りの視線が冷たくなってるのよ!
なんか、私が、面倒おこしてるみたくなってるから…
私が悪者になってるよ!
折角、あなたを助けようとしたのに…
これじゃあ、私が逆に訴えられちゃうよ!
名誉毀損だー!…とかなんとか…
私の方がピンチなんだけど…
ねえ、助けてよ!
ダメ?
………………………!
わーーーーっ!」
やっと、諦めてくれた。
まぁ、それにしても。良くこの、混雑の中
隣の車両まで行き着いた事。感心するワ…
「ありがとう…
助かったよ…」
「どう致しまして…
でも、もうやめてください。
あっ、私は、良いんですよ。
私なら、存分に触ってくださって…
私は、お兄さんの事、少しイイなって思ってたから
こう言う事になりましたけど…
でも、普通はこうは、いきませんよ!
これに、懲りて、二度としないで下さい。
捕まったら、一生台無しですよ。
痴漢で、捕まるなんて
不名誉、この上ないですからね。」
「そっ、そうだね。もう、しないよ。
肝に銘じておく。」
「じゃあ、私に誓って下さい!
ハイ!指切り!」
「あっ、ああ、いいのかな?
そんな、可愛いい小指に、おじさんの
無骨な、指を絡めたりして…」
「もう、そんな…おじさんなんて…
そんなに、年上じゃないでしょ!
お兄さんですよ!
それに、さっき、お尻を触ったクセに
小指は、躊躇しちゃうんだ!
フフフッ!
おもしろーい!」
「あっ、そっか…
そうだね…
あれは、申し訳なかった。
いや、申し訳ありませんでした。
もう、二度としません!
本当に…」
「じゃあ、ハイ!
せーのぉ!
指切りげんまん♪ 嘘ついたら♪
針、一億本、飲ーーますぅ♪ 」
「ええっ!そんなに飲めないよ!」
「まぁ、飲むつもりでいるんですか?
絶対、飲まない事、限定で言ってるんですよ!
飲むって、話なら、一本も、飲めませんよ!
痛すぎるでしょ!」
「そっ、そうだな。
いや、そうだ!
ハハハッ!
君、おもしろいね。
なんだか、お兄さん!
君の事、好きになりそうだよ!」
「あらっ!未来形ですか?
予想ですか?推測ですか?
私は、もう、とっくに、好きになってますよ!
お兄さんの事!
現在進行形です。」
「えっ!そうなの?」
「そりゃそうでしょ!」
そうじゃなかったら、お兄さんの事
かばったりしませんよ。
お兄さんの事、イイなって、思ってたから
あんな事したんです。
他の人だったら、私が腕を掴まえてましたよ。
その手を高く掲げて
「この人、痴漢です!」
…て、私が叫んでましたよ。
あの、お節介ねーさんみたいに…
まぁ、彼女には、申し訳なかったですけど…」
「もう、いいですよ!
認めてくれたなら…それで…」
「ええっ!
しつこい姉ーさん!
いつのまに!」
「ホームに降りてから、ずっと、後ろにいましたよ!
それに、「しつこいネーサン」って、そのネーミング
嫌な感じだから、やめてもらえますっ!
私は、ただ、あなたを助けたかっただけですし
真実を明らかにしたかっただけです。」
「そうなんだ!
それは、失礼しました。
でも、実はアレはプレイだったんですよ!」
「プレイ?
嘘つきプレイですか?」
「そこじゃないですよ!
そっちじゃなくて…
私とお兄さん…
痴漢プレイをしてたんです。」
「ちっ、痴漢プレイ!」
「ハイ!
痴漢ごっこです。
痴漢の真似事をして、楽しんでたんです。
そこに、いきなり、あなたが入ってきたから…
せっかく、良いところだったのに…
ビックリしましたよ!」
「そっ、そんなぁ…
じゃあ、私が二人のプレイを邪魔したって事?
ええ〜…
でも、…でも、それだって…やっぱり、人前で…
公共の場所で、やる事では、ないですよね!
間違ってますよ!
絶対、おかしいですよ!」
「それが、プレイ…なんですよ!
決めつけねーさん!」
「まったぁ…もう、また、変なネーミング!
それ、いらないですから…
変な呼び方しないで下さい!」
「しょうがないでしょ!
名前知らないんだから!
それか、今ここで、名前明かす!
個人情報を晒しちゃう?」
「いっ、いや、それは、さすがに…
見ず知らずの人には…」
「見ず知らずの人を本物の痴漢扱いした人が
その言い草ですか?
遊びで、やってた事を大事にした人がっ!
…ですか?」
「そっ、それは、そこまでは、知らなかったから…」
「思いつきで言ったんだ!
何も、調べもせず、聞きませず…勢いで言ったんだ。
自分の気持ちに正直に行動したんだ。
相手の気持ちも考えずに…
自分の正義感に酔いしれて…
あなたの行動で、一人の人間の人生が左右されるって
一片も考えなかったんだ。
その人の人生が終わるかもって…
全然、思わなかったんだ。
それで…あんな事…言ったんだ…」
「そっ、それは…」
「また…逃げる…つもり…」
「いっ、いえ!
逃げません!
今度は逃げ出しません!
だっ、だって、私は、あなたを助けたかった!
その気持ちに偽りは、ありません!
だって、あなた…
あんなに、嫌そうな顔してたじゃないですか!
もしかして、脅されてるんですか?
そう、言えって、命令されてるんじゃないですか?」
「ハハハハッ!
このお兄さんが…
脅す…?
ハハハッ!
ありえんでしょ!
見てよ!今、そんな事、言われて
本人がビックリしてるじゃない!
目ん玉、白黒させて…
ハーーッ、おもしろ!
大丈夫?お兄さん?
それに、嫌な顔って…
そんな顔してた?
ヤダッ!恥ずかしい!
でも、アレは、嫌な顔じゃなくて
苦悶の顔…表情!
凄く気持ちよくて…たまんなかったんだよ!
思わず、声が出そうだったから
堪えてたら、そう、なっちゃったの!
わかる!
歓喜の喘ぎ声を我慢してた顔なの!」
「ウッ、ウッソ〜!
そんなに…そんなに良かったの?
マジでかぁ〜…
で、でも、ああ…!あなた!
さっきから…
ずっと、お兄さんって…
兄妹のお兄ちゃんとは
明らかに違う事は、わかるけど…
もしかしたら…名前も…知らない?」
「ええ!そうよ!
でも、そんな事、問題じゃない!
私は名前で人を好きになったりしない。
名前を知らなくても、好きになる。
そんなの当たり前でしょ!
好きになった後に、その人の名前が
変でも….気に入らない名前でも
その人自体を嫌いになったりしない!
だから、私が、このお兄さんの名前を知らなくても
そんな事は何の問題でもないし、障害でもない。
なんなら、この先、ずっと…
このお兄さんの名前を知らなくても良い!
それでも、私は、このお兄さんが好き!
大好きなの!」
「マ、マジ…
マジ…スゲェ!
あなた…凄いよ!
私…あなたに興味がある!
あなたの事、もっと知りたい!
ねぇ、あなたの事…教えて!もっと、教えて!
ねぇ!」
「わーっ!
なんだ!この女!
怖いよ!
お兄さん!行こう!早く!
ヤバいよ!この娘!」
「いやーーっ!
待ってよーっ!
置いてかないでーっ!」
続く




