表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神殿の守護者 ~灰色の少女~  作者: 斎王暁圭


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/7

第五章 世界崩壊

「死」を連想させる表現があります。

破壊の描写が続きます。



 

 瞬間――

 御使いが、目を見開いた。

 その瞳に、生気が宿った。

 うっすらと笑みを浮かべた顔は、神が創り出した芸術品と呼ぶにふさわしい美しさと、畏ろしさを持っていた。

 皆が見惚れている間に、御使いはふわりと立ち上がり――大きく口を開けた。


『――――』


 音だと思った。

 だが、耳には何も聞こえない。

 ただ――骨が震えた。内臓が震えた。空気そのものが震えた。

 人間には聞こえない、音。いや、音を超えた何かが、世界を揺らした。

 ミリヤは咄嗟に耳を塞いだ。

「ミリヤ!」

 パルマは叫んで、ミリヤに向かって手を伸ばそうとして、倒れた。

 サジェは体を硬直させ、その場に倒れた。

「パルマさん!」

 倒れた二人の体は動かない。

「いや…」

 体を撫でる空気の振動は止まらない。

 天井から、ぱらぱらと白い粉が降ってくる。砂だ。

 見上げると、天井に細い亀裂が走っていた。一本、また一本。縦横無尽に広がっていく。

 ミシリ。

 壁の一部が剥がれ落ち、床に落ちて砕けた。

 それが合図だった。

 ミシミシミシミシ――

 あちこちから軋む音が響き始める。柱が、壁が、天井が。すべてが悲鳴を上げていた。

「やめて…」

 だが、御使いの放つ『音』は止まらない。否、強くなっていく。

 その時――

 ミリヤの内側から、何かが溢れ出した。

 胸の奥から込み上げてくる、熱く、激しい、制御できない力。

「やめてえええええ!」

 ミリヤの絶叫と共に、見えない力が爆発した。


 衝撃波――


 ミリヤを中心に、同心円状に広がる巨大な力の波。それは瞬時に部屋中を満たし、御使いの『音』とぶつかった。

 ――ドォン。

 低く、重い音が響いた。空気そのものが鳴った。

 二つの波動が空中で衝突し、押し合い、ぶつかり合い、空間を歪ませる。

 ピシッ。

 乾いた音が響いた。

 壁に、太い亀裂が走った。床から天井まで、一直線に。

 ピシッ、ピシッ、ピシッ。

 次々と亀裂が増えていく。壁に、柱に、床に。氷が割れるように。

 バキィッ!

 柱の一本が、真ん中から折れた。

 天井を支えていた柱が崩れ落ち、ゴゴゴゴゴ……と不吉な音が響き始めた。

 建物全体が軋んでいる。天井がたわみ、ゆっくりと、しかし確実に――

「逃げ…逃げなきゃ――!」

 そう思うが、ミリヤの足は動かない。

 体から溢れ出す力は止まらない。制御できない。

 御使いの『音』も、止まらない。

 二つの力は、衝突を続ける。

 そして――限界が来た。

 ドゴォォォォォン!

 轟音と共に、天井が崩れ落ちた。

 いや、天井だけではない。壁が崩れ、柱が折れ、床が割れた。

 白い部屋が、砕け散った。

 粉塵が舞い上がり、石の破片が雨のように降り注ぐ。

 だが――ミリヤの周囲で空気が爆ぜる音がした。礫はミリヤを避けて降っていた。

 ミリヤの放つ力の波動が、盾となっていた。

 崩壊は、止まらない。

 ゴゴゴゴゴゴ……

 地響きのような音が聞こえてきた。

 神殿全体が崩れ始めてる。

 隣の建物が崩れる音。さらに隣も。ミリヤたちを中心に、次々と連鎖していく。

 天井だった、あるいは柱だった重い石が地面に落ちる度に、大地が揺れた。

「あああああああ!」

 あちこちから、悲鳴が聞こえている。

 神官たちの声。見習いたちの声。

 逃げ惑う人々の、断末魔。

「やめて…お願い…やめて…!」

 ミリヤは泣きながら叫び続けた。

 だが、力は止まらない。

 御使いも、ミリヤも――

 二つの力は、ぶつかり続け――

 そして――


 世界から音が、消えた。


 突然に。まるで糸が切れたように。

 御使いは、どこかへ消えていた。

 空気が凪いだ。ミリヤの体から溢れていた力も、潮が引くように消えていた。

 静寂。

 耳が痛くなるほどの、静寂。

 粉塵が、ゆっくりと舞い降りてくる。白い粉が世界を覆っていた。

 ミリヤは、ゆっくりと周囲を見回した。

 そこに広がっていたのは――瓦礫だった。

 かつて美しかった白い神殿が、跡形もなく崩れ落ちていた。

 柱は折れ、壁は砕け、天井は落ち、床は割れている。

 建物だった何かが、ただの石の山になっていた。

 そして――人が、いない。

 パルマも。サジェも。アロアも。誰も、いない。

 ただ、崩れた神殿の中に、誰かがいた痕跡だけが残っていた。

「パルマさん…」

 ミリヤは震える手で足下に落ちている布に触れた。まだ温かい。

「私が…私が殺した――」

 涙があふれ出した。止まらない。

 中央神殿が、崩れ落ちた。

 首都ノルが、瓦礫と化した。

 そして――一人の少女だけが、生き残っていた。

 灰色の髪の、奇妙な少女が。

「ごめんなさい…ごめんなさい…」

 ミリヤは、その場に崩れ落ちた。

 涙を流し、呟き続けるしかなかった。



次のエピローグで完結です。

お読みいただきありがとうございました。

最後まで、よろしくお付き合いくださいませ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ