その仕訳、誰が決めるんですか?
業務フローを整理すると、次に問題になったのは仕訳だった。
情報システム部門の担当者は説明した。
「最近のクラウド会計システムは、AIによる自動仕訳機能があります。
過去の取引や登録ルールをもとに、勘定科目を推測してくれます」
「AIが勝手に仕訳してくれるのですか?」
エルさんが尋ねた。
「ある程度は自動でできます」
「では、税区分や部門、取引の内容が違う場合は?」
「そのあたりは設定で対応します」
「設定するのは誰でしょうか?」
「……経理部門と相談して決めます」
エルさんはうなずいた。
「それなら、最初に仕訳のルールを決める必要がありますね」
彼は、経理部門の担当者や顧問税理士にも参加してもらい、仕訳ルールの整理を進めた。
例えば、同じ取引先から請求書が届いても、購入したものによって勘定科目が異なることがある。
消耗品なのか、備品なのか。
修繕費なのか、資産計上が必要なのか。
課税取引なのか、非課税取引なのか。
AIが過去のデータを参考に候補を提示できても、最終的な判断には会計や税務の知識が必要だった。
「AIは便利ですが、会社の会計方針まで自動的に理解してくれるわけではありません」
エルさんが言うと、顧問税理士がうなずいた。
「その通りです。仕訳ルールは会社の実態に合わせて整備しなければなりません。
税務上の判断が必要なものは、こちらでも確認します」
「では、AIには定型的な取引の候補を出してもらい、判断が必要なものは人が確認する形にしましょう」
さらに、売掛金の情報についても見直しが行われた。
営業部門が管理している売上情報は、会計システムに直接入力するのではなく、既存の販売管理システムやExcelからデータ連携できないか検討することになった。
買掛金についても、請求書の受領から支払承認までの流れを整理した。
経費精算は、申請者が入力した情報をそのまま会計システムへ連携できるようにする。
「会計システムだけを見ていても、経理全体は改善できませんね」
エルさんは、少しずつ理解し始めていた。
会計システムは帳簿を作るだけのソフトではない。
売上、請求、入金、支払、経費精算、承認。会社のお金の流れをつなぐ業務システムなのだ。
彼はノートに書いた。
『システムに業務を合わせるのではなく、業務を整理してからシステムを設計する』




