会計システム、寿命です
エルさんが入社して一年が経過した。
半年前には電話の取次ぎや伝票処理に四苦八苦していた彼も、今では経理部門の主戦力として認められていた。
電話応対、請求書の確認、伝票入力、入金確認、経費精算。月末月初の忙しい時期にも、周囲の状況を見ながら仕事を進められるようになっていた。
経理のベテラン社員からも、
「エルさんに頼んでおけば安心ね」
と言われるようになった。
そんなある日の朝、経理部門に一つの通知が届いた。
件名は、
『会計システム刷新プロジェクト開始のお知らせ』
だった。
会社が創業した頃から使用している会計システムが、ついに寿命を迎えようとしていた。
長年使い続けてきたシステムは、何度か小規模な改修を繰り返してきたものの、メーカーによるバージョンアップはすでに終了。数年後にはサポートも停止する予定だった。
古いシステムは、現行の法令や会計制度への対応にも限界が見え始めていた。
そこで会社は、会計システムを全面的に刷新するとともに、経理業務全体のデジタル化、いわゆる経理DXを進めることにした。
プロジェクトを主導するのは、情報システム部門だった。
その部門は、創業当初から会社を支えてきた副社長が立ち上げた組織である。副社長は技術に明るく、以前から社内システムの整備に力を入れていた。
今回も、情報システム部門が中心となり、会計システムの選定から開発、導入までを進めることになった。
ただし、経理部門には詳しい情報がほとんど流れてこなかった。
「新しい会計システムになるんだって?」
「そうらしいですね」
「便利になるのかしらねえ」
「さあ。情報システム部門がやっているみたいですから」
経理部門では、そんな会話が交わされる程度だった。
エルさんは少し不思議に思った。
「実際に使うのは私たちなのに、どうして詳しい話がないのでしょうか」
ベテラン社員は苦笑した。
「まあ、システムのことはシステム部門に任せておけばいいんじゃない?」
「でも、会計処理の方法は私たちが一番よく知っていると思います」
「そうねえ。でも、まだ何も決まっていないんでしょう」
エルさんは、それ以上何も言わなかった。
しかし、心の中では少し嫌な予感がしていた。
彼は、以前の方眼Excelの騒動を思い出していた。
作る側が便利だと思うものと、使う側が便利だと思うものは、必ずしも一致しない。
そのことを、彼は身をもって知っていた。




