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天才料理人は異世界でも料理を続けるそうです  作者: 巨大林檎
第一章

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王都までの道のり②

 少し近くでリアの寝息を感じ取りながら迅の頭の中に考えがなだれ込む


 目を閉じても、中々眠れなかった。

 迅は仰向けのまま、暗い木々の隙間から覗く星をぼんやりと見ていた。


 整理する。


 今日起きたことを、順番に。


 厨房を出た。倒れた。気づいたら森の中にいた。

 王国。大陸。魔物。魔法。どう考えても、ここは日本ではない。別の世界だ。


 俺は転移した。


 その言葉を頭の中で一度はっきり置いた。

 否定する材料はもうない。ありきたりな確認方法だが、手の甲の痛みは本物だったし、あの魔法の炎も本物だった。夢ではない。

 では、これからどうするか。


 日本に帰る方法を探すか?

 少し考えて、保留にした。

 今考えても答えが出ない話は後回しでいい。今考えるべきことは別にある。


 王都。

 リアの話を思い出した。


 大陸で一番大きな市場があり、そして色んな場所からも食材が集まる。料理が盛んな国。そして料理人も多い。


 異世界の料理か...

 迅は目を閉じたまま、その言葉を転がした。


 今日使った食材を思い出す。じゃがいも、にんじん、 ホーンラビットという名前の兎の肉、見た目は少し違っても、本質は同じだった。


 だがこれだけの食材が集まる国なら、まだ見た事のないものがあるはずだ。


 触ったことのない食感、嗅いだことのない香り、火を入れたときの予測のつかない変化。


 胸の奥で、何かが動いた気がした。


 久しぶりの感覚だった。


 いつからだろうか。


 厨房に立つことが、ただの確認作業のようになったのは。


 完璧な皿を作るたびに、その先にある何かが遠ざかっていく感覚だけが残っていた。

 わくわくするという感情を、いつの間にか忘れていた。


 なのに今、森の地面に寝転がりながら、次の食材のことを考えている。


 ……こんな状況でも俺の考える事は料理か。

 そう思いながらも、口の端が少し上がった。


 まずはリアが言っていた王都だな。


 迅はそう心で呟き目を閉じた。次の瞬間には、眠っていた。



***


 

 目が覚めたのは、空が明るみ始めた頃だった。


 迅は上体を起こし、隣を見た。リアはまだ眠っている。規則正しい寝息を立てながら、丸くなっていた。


「おい、朝だぞ起きろ」


 リアがびくりと体を震わせ、目を開けた。


「……っ、んっ、ジンさんおはようございます。もう起きるんですか?」


「明るくなってからだと遅すぎる。あと川はどこにあるんだ?」


「え、あ、少し歩いたところに——」


「案内してくれ」

 リアは目をこすりながら立ち上がった。


 川は焚き火跡から五分ほどの場所にあった。迅は迷わずしゃがみ込み、顔に水をかけた。冷たい。よく眠れた割に、頭は既に動いていた。


 リアが隣でよろよろと顔を洗っている。


 「ジンさん、クリーンかけましょうか?汚れも落ちますし、服も綺麗になりますよ」


 「ああ、頼む」


 リアがジンの服に手をかざした


 「クリーン」


 ふわりと、何かが肌の上を撫でた感覚があった。見ると、昨夜の汚れが綺麗に消えている。服も含めて。

 迅は自分の手の甲を見た


 「……なるほど。これは確かに便利だな」


 「でしょう?料理人には重宝しますよ」


 「俺でも魔法を使えるようになれるのか?」


 リアが少し考える顔をした。


 「んー、どうでしょう。魔法って生まれつきの素質もあるので一概には言えなくて……でもほとんどの人が使えますよ!軽い生活魔法ですけど、検査したいなら王都に行けばわかりますよ!魔法適性を診てもらえる場所があるので」


「結構簡単に調べられそうだな」


「はい。冒険者ギルドでも診てもらえますし、魔法院という専門の施設もありますよ」

 迅は短く頷いた。王都に着いたら寄ってみるか。


 支度を終えて、二人は森を歩き始めた。朝の空気は冷えていて、足元の草が露で濡れていた。


 しばらく歩いたところで、リアが口を開いた。


 「ジンさんって、朝は毎回こんなに早いんですか?」


 「ああ。厨房に入る前に支度がある。早起きは習慣だ」


 「何時に起きてたんですか?」


 「五時くらいだ」


 「……早すぎます」


 「料理人なんてそんなものだ」


 リアが少し呆れた顔をしながらも、また口を開いた。


 「王都に着いたら、迅さんはどうするつもりですか?」


 迅は少し間を置いた。


 元の世界に戻れる保証はない。今のところ何も分からない。だとすれば、やることは一つだ。


 「店を出す」


 「え、料理のお店ですか?」


 「ああ。料理人を続ける。場所が変わっても、やることは変わらない」


 リアが目を丸くした。


 「でも、いきなり店はさすがに難しくないですか? 王都で店を出すにはお金も必要ですし、身分の証明も色々と——」


 「そうだな、いきなりは無理だ。まず屋台からにしようと思っている」


 「屋台!」


 「小さく始めてこの世界の食材を把握して、客の反応を見る。その方が早い」


 「なるほど……確かにそうですね」


 「それに王都の料理がどのくらいのものなのか見てみたい」


 「それなら私も手伝えますよ! 王都には知り合いもいますし、屋台を始める場所とかも案内できますよ」


 「それは心強いな、助かる。頼めるか」


 「もちろんです!あ、でも一つ条件があります」


 「どうした」


 「料理を教えてほしいんです。昨日のスープみたいなの、私も作れるようになりたいので」


 迅は少し考えてから答えた。


 「教えるのは構わないが、俺に教わるなら覚悟しておけ」


 「わかってます。厳しくしてもらって構いません!」

 迅は前を向いたまま、小さく頷いた。


 「ところで、王都の料理人というのはどのくらいのレベルなんだ」


 「王立料理学校にも色々あって簡単にいうと名門校の中の一番レベルの高い学校を出た人が上手いとされてますね。そこまで名門校ではないですが私も王立料理学校の1年生なんですよ。」


 「その学校ではなにを習ってるんだ?」


 「火入れの仕方、調味料の使い方、食材の組み合わせと……結構しっかりしたカリキュラムで。まだ一年生なので基礎が多いです!クラスの中だと私だってそこそこできる方なんですからね!」


 迅は鼻から小さく息を抜いた。


 「昨日のスープがそれの結果か」


 「うっ......そこを突かれると何も言えません...」


 「だが料理の基礎を習っているなら、修正は早い。」


 「……本当ですか?」


 「ああ。土台があるのとないのとでは違う」


 リアが少し表情を和らげた。


 「じゃあ私、伸びしろありますか?」


 「それはお前次第だな」


 リアはむっとした顔をしかけて、それから小さく笑った

 王都まで、まだ時間がある。


 軽い会話を続けながら歩いているとリアが上を見上げ指を指して声を出した


 「あっ!ジンさんあそこの木の上見てください!」


迅はリアの声に顔を上げた――

 





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