19 ハイオーガの群れの強襲
(最低クリアレベル23、西のダンジョンの中ボス)
ハイオーガは、このゲームでは、この先のレベルの高いダンジョンに登場する中ボスだ。
今回は、その中ボスレベルの怪物が、単体ではなく、群れで現れた。
今回は、付近に街もない。
サシャたちに戦ってほしいなどとお願いするつもりはない。
戦いにおいては完全にお荷物のブランシュは、彼らの指示に従うつもりだ。
「なあ、数多すぎるだろ。これ、逃げた方がいいやつじゃね?」
「賛成です」
「……」
<俺様も、逃げる方に賛成>
サシャ、ケヴィンの言葉に、無言でうなずくユーグ。
ギィも含め、全員の意見が一致する。
けれど、逃げようとして振り返った先には。
──新しい、群れがいた。
ブランシュは、息をのむ。
心臓が、早鐘を打ち、握り締めた手の平には、汗がにじむ。
(どうしよう、どうすれば……)
けれど、絶体絶命の危機に、彼らは冷静だった。
「主へ連絡は?」
「した」
「私は、彼女を連れて守りに集中します。ユーグとサシャは、なるべく数を減らしなさい。私たちに近づく敵を優先的に」
「なあ、ブランシュと一緒に戦った方が」
「先陣に立たせてどうするのです。彼女は、攻撃が掠っただけで死にますよ」
「そだな。じゃ、行ってくる!」
「頑張って」
<頼んだぜ!>
サシャとユーグは、ブランシュに向かって笑いかけると、すぐに敵に向かって走り出す。
携える武器は、いつものアイアンクローと戦斧だ。
「ウィンド・プロテクト」
ケヴィンは、ブランシュに守護の魔法を何重にもかける。
ブランシュの服の袖に隠れるギィも一緒だ。
咆哮と、武器がぶつかり合う音が遠くから聞こえてくる。
ハイオーガたちの元へ、サシャとユーグは到達したのだろう。
「アース・ウォール」
その次には、物理的な岩の壁を周囲に張り巡らせた。
岩の壁に阻まれて、周囲の戦いの音が小さくなった。
「ケヴィン、あの」
「静かになさい」
彼はブランシュに対してのいらだちを隠さない。
ブランシュはケヴィンが何に怒っているかすらわからない。
他にも闇魔法の件など、聞きたいことが山積みだったが、今はそんなことを言っていられる状況でなく、口をつぐんだ。
岩の壁に阻まれているのに、ズンっと大きな地響きがここまで聞こえてきた。
ユーグの戦斧が敵を沈めたのかもしれない。
そんな中、ブランシュの周りを囲む岩壁から、ガンっという音が響いた。
岩壁を、武器で叩く音だ。
立て続けに、周り中から壁を叩く音が響き、反響し、耳が痛くなる。
そのうち、一点にひびが入り、ミシミシという音と共に、岩壁の一部に穴が開く。
穴から、ハイオーガの醜悪な顔がのぞいて、こちらを見た。
「後ろへ」
ケヴィンがブランシュを背後に下がった時だった。
穴に、ガンッとこん棒が撃ち込まれ、割れた岩の破片が、ブランシュたちを襲う。
「ウィンド・ブレイド」
ケヴィンの魔法で破片は全て砕け散る。
再びミシリと音がして、背後の岩壁にも数か所穴が開く。
ケヴィンは、再び、アース・ウォールと唱えて、岩壁を修復した。
そこからは、同じことの繰り返しだった。
ケヴィンが何回壁を作り直したのか、もはやわからない。
破られるたびに、緊張感が増し、壁が作り直されて、一瞬だけ気が緩む。
緊張の強弱が、精神的な疲労を蓄積する。
それでも、外からの戦いの音が徐々に小さくなり、終わりが見えてきたのかと、ブランシュは、少し安心しつつあった。
その時だった。
「遅かったか」
ケヴィンは、焦燥感をにじませた声で、そうつぶやいた。
次の瞬間、破砕音と共に、何かが叩きつけられ守りの岩壁が崩れ去った。
そして、叩きつけられた「何か」が、そのままケヴィンを襲う。
「ウィン……っくそっ」
ケヴィンは魔法を途中でやめ、その「何か」に向けて杖をかざすが、受けきれず、背後の岩壁に叩きつけられた。
ブランシュも巻き込まれ、岩壁にたたきつけられる。
「うっ」
それでも、何重にもかけられたウィンド・プロテクトのおかげで、ブランシュには、さほどダメージはない。
慌てて起き上がると、ケヴィンは頭から血を流して倒れ、その脇には、ぼろ布のようになったサシャの姿があった。
岩壁を破ってたたきつけられたのは、サシャだったのだ。
ブランシュは、急いで、二人に駆け寄る。
「セイクリッド・キュア」
(二人の回復を同時に。急いで)
以前、アルフォンスを直した時よりも無茶をしているような気がするが、おそらく、問題ない。
けれど、癒しのスピードが間に合うのか。
敵は、多分。
ブランシュは唇をかむ。
崩れた岩壁の向こうに立つのは、周りのオーガよりも一回り大きい体躯のオーガだった。
周囲のオーガたちは、一歩下がって、そのオーガの様子をうかがっている。
(なんでこんなとこにいるのよ。オーガ・マスター。ラストダンジョンの10Fに出てくる中ボスキャラじゃない)
「サシャ、ケヴィン、起きて!」
回復をかけながら、ブランシュは二人に声をかけると、ケヴィンだけがおきあがった。
<ミツケタ>
オーガ・マスターがは発したのと同じ言葉を、以前も聞いたような気がする。
その声を聴き、ケヴィンは、ブランシュを憎しみに満ちた目でにらみつける。
そして、そのままブランシュに手を伸ばし、腕をつかんだ。
ブランシュは、痛みに顔をしかめるが、サシャの回復を止めるわけにはいかない。
「お前さえっ!」
その時、だった。
「ガアアアアッ!」
ブランシュの視界の端で、突然、咆哮をあげて、オーガ・マスターが吹き飛んだ。
バキバキと周囲の森林を割り、なぎ倒す音の後、巨体が倒れ込んだのだろう。
ドオオンという衝撃に地面がゆれた。
ブランシュが顔を上げると、崩れかけた、魔法で作られた岩壁の上に、アルフォンスが立っていた。
その手に持つ剣を、血にまみれさせて。
威圧感に満ちて周囲を睥睨するその瞳の色は、──赤、だった。
ブランシュは、そのまま、魅入られたように、アルフォンスの顔をじっと見つめた。
心臓が、強く、脈打つ。
そして、ブランシュは、思い出した。
遠い記憶の中で、その赤い瞳の持ち主を。
彼は──。




